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中途半端は大変です!  作者: 平下駄
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変わらずの芸術(終)

「それにしても、どうして加納さんだって分かったんですか? 版木だって見てもないのに」

 部室に帰る途中で、ソラが尋ねる。


「お前さん、タコが潰れると何になるか知ってるか?」

「え? またそのなぞなぞですか。……健康には悪そうですね」

 夢路は声を上げて大笑いする。


「確かにそうかもな」

「結局答えは何なんです?」

 ソラは少し不機嫌そうに尋ねる。

「さあ、笑い過ぎて忘れちまったよ」


   ***


 部室に帰ると、夢路はベッドに潜り込む。

「しっかし、今日はチビ助に助けられたな」

 目を閉じたまま夢路が話す。

「私は別に、何もしてないですよ」


「お前は俺の代わりに目・耳・足として働いてくれたさ。俺は他人より睡眠を取らないといけない体質でな。いろんなやつに頼らないと生きていけないんだよ」

「……それを言ったら私だって、先輩がいなきゃ今日の相談も解決できなかったですよ」

「そういうこった。人は社会的動物、一人ではどうにもならないことばかりさ」

 ソラは山本の発言を思い出す。今はまだ大いに人を頼ろう。


「そういや、もう一つだけお前さんに頼みたいことがある」

「何ですか?」

「買ってきたノートに日誌をつけてくれ。今日から毎日探偵部の活動記録を残す。客が来ようが来まいが関係なく」


「いいですけど、役に立ちますかね?」

「いずれそれが俺たちの切り札になる。まあ、とりあえず適当にでも書いといてくれ。それが終われば今日は帰っていいぞ」

 窓の外の夕日は傾き始めている。


「了解です。終わったら起こします?」

「客が来たときに起こしてくれ」

 それだけ告げて夢路は静かになる。一方、ソラは新品のノートにタイトルを付け、今日の出来事を記す。『探偵部日誌』、まだどのように使われるのかは分からない。


   ***


「よし、これで完成!」

 十分かからず日誌を書いたソラは時計に目をやる。

『部活終了までまだ時間あるし、宿題でもしよっかな』

 寝息を立てる不真面目な先輩を横目に、ソラは再び机に向かう。


 三十分ほど経った頃、部室の扉が開く。立っていたのは高木だった。

「高木さん、どうしたんですか?」

「君たちに、お礼を言いそびれちゃったから」

「あ、ちょっと待ってください」

 ソラは夢路を起こそうと体を揺する。


「先輩、来客ですよ」

 ゆっくり夢路の瞼が開く。

「……来たか」

 しゃがれた声が返ってくる。


「今日は二人とも、本当にありがとう」

 高木は深々と頭を下げる。

「そんな、大したことはしてませんよ」

「礼もいいが、一つ頼み事がある」


 上体を起こし、夢路が真っ直ぐ見る。

「何だい?」

「『利用者の感想』を募ろうと思ってな。そこの机の上にある単語帳に今日ウチを利用した声を書いてほしい」

「いいよ、お安いご用だ」

 今日の買い物の意味が全て明らかになったが、やはり釈然としないソラ。


「あの一年は大丈夫なのかい?」

「ああ、加納さんなら何とかね。結構まじめな子だから引きずってほしくはないけど、ちゃんと見てあげないとね」

「高木さん、怒らないんですね」

 聖人のような優しい言葉ばかり口にする高木に、ソラはたまらず質問する。


「完成間近でやっぱり作り直すなんてことは、芸術の世界じゃ日常茶飯事だからね。それに、今日の一件でさらに面白いモチーフも浮かんでさ。実は内心テンション上がってるんだ」

 筆を取りながら高木は笑っている。


「それじゃあ、僕はこれで」

「おう、彫刻の方も頑張れよ」

 高木はにこやかに去っていった。


「単語帳、こういう風に使うんですね。こんなに記録を集めてどうするんです?」

「俺たちは部活だからな。一応こういうのも残しとかないと後々困るかもしれない」

 やはり夢路ははっきりとした回答を口にしない。


「大丈夫、そのうち分かるさ」

 それだけ言って再び眠りに落ちた。

『はあ、信頼されてるんだかされてないんだか』

「時間ですし今日はもう帰りますね。先輩、また明日」

 ソラは一礼して部室を後にした。


 ****


「会長、いいんですか? あんな部活認めて」

 副会長が不満そうに発言する。


「規定を満たしている以上、断る理由はありません」

 相変わらず静かに答える。


「しかし、夢路のやつもとうとう動いてきましたか」

「しかも入ってるメンバーもメンバーですね。後藤郁代に、桐生真紀、そして工藤竜也」

「ビッグネーム揃いで、これから厄介そうですね」

 他の生徒会の面々もあまり歓迎はしていない様子である。


「構いません。あちらが正面から来るのなら、こちらも正面から潰せばいいだけの話です」

 会長の自信溢れる言葉に、その場の全員が注目する。

『探偵部が活動できるのは、一体あと何日ですかね』

 不敵に笑う少女は、何を考えるのか。

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