変わらずの芸術(6)
「なるほど、そんなところか」
ソラは一息吐いてから紅茶を飲み干す。
「やっぱり、怪しいところは何もないですよね」
「そうでもないさ。よし、飲み終わったな」
夢路が椅子から立ち上がる。
「先輩、どこ行くんですか?」
「美術準備室。チャチャっと解決して、創作活動再開してもらわないとな」
部室を後にする夢路の後ろを、ソラは慌てて追いかける。
***
「美術部の皆さん、ご機嫌よう」
夢路とソラが美術部の部室を訪れる。
「夢路くんも来てくれたんだね。それで、何か分かった?」
「ああ。お前さんの彫刻がどこにあるのか、がな」
「え?」
その場にいた夢路以外の人間が声を揃える。
「どこにあるんだい?」
「この部屋の中」
再び疑念の声が上がる。
「この部屋って、さっき今際さんが確認してくれたんですよ? 部長の彫刻は六十センチはある大きな作品。それを見落とすほど私たちも節穴じゃないです」
一年生の加納が疑問をぶつける。
「確かに、この部屋に隠し部屋に繋がる入り口なんてものがない限りそんなブツを置いておくのは不可能だろう。そのままの形ならな」
「そのままの形、というのは?」
高木が問いかける。
「例えば、彫刻が板材に化けたなら隠し通すのも簡単じゃないのか?」
加納の作業スペースに視線が集まる。
『そうか、確かにあの机には板材が二枚置かれていた』
「物質を引き延ばしたり好きな形を加工できるが、その際に質量が大きく減少する。お前さんの能力はこんなところかい?」
加納の頬から汗が流れる。
「待って! 私が二枚版木を持っているのは、自分の作品で使うためです。それに、私の能力はそんな力じゃありません。あなたの勝手な妄想で私を犯人にしないでください」
加納が夢路に大声を浴びせる。夢路は顔色一つ変えない。
「桜にのぼす、だったか。版木でよく使われるのは桜なんかの堅い木で、これは細かで繊細な模様を表現するためだ」
「……それが何か?」
「一方、木彫りに使われるのはどんな木材だ?」
「色々あるけど、一番多いのはヒノキかな。木肌が綺麗で比較的柔らかくて加工もしやすい。実際僕もヒノキでつくってたし、少なくとも桜よりは使われやすいと思う」
「では、もう一度版木を見せてもらおう。素人の俺じゃあサッパリ違いが分からんが、生憎ここにはもう一人専門家がいる」
夢路が高木の肩を叩く。そして、加納が膝をつく。
「流石に材質の違う版木二枚を持っているなんてのは不自然だからな。何か理由があるなら聞かせてくれよ。
夢路はここで口を閉じる。加納も黙り込んでいる。
「どうして、高木さんの彫刻を?」
ソラは加納の側による。
「……今日、私部室に一番乗りだったの。せっかくだし、部屋の掃除をしようと思って。でもその時、部長の彫刻にうっかり触っちゃって、机から落ちたらバラバラに。私どうしたらいいか分からなくて、それで咄嗟に能力を使って……」
単なる事故の隠蔽から事件が始まったのである。
「……部長、すいません」
「加納さん、顔を上げて。壊れちゃったものはしょうがないよ。それに、コンクールまで五月と六月の丸々二ヶ月ある。途中で上手くいかなかったからやり直したと思えば何の問題もないよ」
「でも、私……」
「誰にだってミスはある、大丈夫さ。それより、立てる?」
「……はい、ありがとうございます」
加納の声は震え、頬から涙が流れる。
「チビ助、帰るぞ」
夢路とソラは静かに美術部を後にした。




