変わらずの芸術(5)
『先輩になんて言おう……。収穫がなかったって言って怒らないかな』
不安で足取りが重くなるソラ。何とか探偵部の部室に帰還すると、珍しく夢路が起きて椅子に座ってコーヒーを飲んでいる。
「おかえり。お前さんも飲むか?」
「いえ、私コーヒー苦手で……」
「そうかい。で、何も見つからなかったのか?」
「え、何で?」
「その顔見れば誰でもそう思う。とりあえず座れよ」
二人の表情は対照的である。
「すいません……」
「おいおい、何を謝ってるんだ? 特段何も怪しいところはなかった、それが分かっただけで重畳さ。大体ミステリーじゃないんだ。そう簡単に手掛かりなんて転がってねえよ」
ソラは下を向いたままである。夢路はコーヒーを一口飲む。
「チビ助、お前さんに一つ『おつかい』を頼んでいいか?」
夢路はあることをソラに伝える。
***
ソラが次に訪れたのは購買部。昨日の今日でも営業はしている。しかし、客も見当たらず人の気配もない。
「すいませんー、誰かいますか?」
「はいよーって、何だ昨日のおチビちゃんか」
購買のカウンターから顔を見せたのは山本だった。
「こんにちは、今日はお一人だけなんですか?」
「まあな。他の部員は全員コンプラ研修中で、俺は店番さ。本来なら俺が講師役になるんだが、安藤の方が適任だろうから任せた」
「相変わらずとても部活では聞くことのないワードが出てきますね。それに早速対応してるし……」
「当たり前だろ、こちとらビジネスでやってんだ。これで購買部のブランドイメージが下がったらやってらんねえからな。ったく、何かこの騒ぎを有耶無耶にできるキャッチーな商品でも考えるか」
どうやら山本は、図太い神経だけでなくただならぬ商魂を持ち合わせているようだ。
「そういや、お前さん。『探偵部』の部長になったらしいな。新聞で見たぜ」
「そうなんですよ。だから、昨日の購買部の話はナシでお願いします」
「別に構わねえよ。それにしても、まさか夢路と組むとは。お前さん、さては大物だな」
「先輩が快く引き受けてくれただけですよ。……私は全然大したことない、普通の人間です」
ソラは声のトーンを落とす。
「今はまだ、だろ? これからお前は夢路に並ぶ、いや夢路を越える探偵になる、そう決めたからお前は部をつくった」
「そこまで尊大なことは……」
「意識的にでも無意識的にでも関係ない。今はまだ途中だ。結果を判断するのはもう少し先さ」
ソラは口を閉ざしたまま、山本の話を聞く。
「何にでも完璧に出来る人間なんていない。俺だってそうだ。『押し花』だって夢路からアイディアをもらってつくったものだし」
「え、先輩が発端なんですか?」
「ああ。アイツが『タコが潰れると何になる?』ってよ。そこがスタートさ」
なぞなぞみたいな問いかけに、ソラは頭をひねる。
「まあ、自分が出来ないことは人に頼るってことさ。人の成長は日進月歩ってわけでもない。それよりも信用できる仲間を増やすってのが夢路流のやり方だ」
『出来ないことは人を頼る、信頼できる仲間を増やす』
ソラは顔を上げ、心の中で復唱した。
「そういや、お前さん。何か用があったんじゃねえのか?」
「あ、そうでした。ノート一冊と、単語帳を一つください」
「なんだ、英語でも勉強するのか?」
「いいえ、先輩が『おつかい』って」
「なるほどね、夢路のねえ。はい、どうぞ」
ソラは山本から品物を受け取る。
「代金はつけとく。今日はいらん」
「ありがとうございます。では」
ソラは頭を下げ、去っていった。
***
「戻りましたー!」
再び部室に戻ったソラ。その足取りは軽い。
「お疲れさん。紅茶淹れたけど飲む?」
「いただきます。それと、買ってきましたよ言われたもの」
二人はそれぞれの品物を交換する。
「ありがとよ。それで、改めて聞かせてくれるか? 美術部での顛末を」
「はい! 喜んで」
二人はそれぞれ椅子に座った。




