表裏一体(4)
「ということは、互いにサインを送り合ったりとか?」
「一応開始時は交互に座っていますから、そこまで効果的ではないかもしれません」
「それに、中途半端な暗号なんかは僕たちに逆手に取られる危険性もあります。出来てもせいぜい、ババを今持っているかどうかくらいでしょう」
「流石にマークや数字までは送受信させません」
本人たちも強い自信を持っている。何より先程のゲームを振り返ればソラもそこには疑問を持たなくていいだろう。
「であれば、他にどういう可能性がありますかね?」
お手上げとばかりに依頼者に尋ねる探偵部部長。
「それを相談しに来たんですよ! 僕たちも文殊とまではいかないまでも色々知恵を出し合いました。でも、奴らの尻尾は掴めない。だから探偵部さんならと思って今日ここに……」
「実は七月の勝負がこの後すぐあるんです。最後の蜘蛛の糸だったのに……」
「これじゃあ、部室が無くなって将棋部は廃部になってしまう……」
将棋部の三人から少し暗い雰囲気が漂う。これはまずい、と思いソラは頭の中でもう一度整理を始めようとする。
「ずいぶんと大勢だな、今日の客は」
ベッドの方に目を向けると、夢路が瞼を開いていた。
「先輩! 起きてたんですか?」
「いいや。何やら陰気臭い雰囲気がして起きた」
「どんなにおいですかそれ」
「お通夜みたいな線香のにおい」
夢路は立ち上がり、応接セットのソラの隣に腰掛ける。
「早速トランプで戯れてるな。山本からもらっておいて正解だった。で、お前さんたちは一体何の相談をしに来てたんだ?」
夢路は目の前の三人から、先程までの話を聞く。
「なるほど、部室を賭けた勝負ねえ」
夢路は顔に笑みを浮かべながら、最後まで聞き終わる。
「実際に勝負してみた感じ、どんな印象だった?」
夢路は次にソラに話を振る。
「普通に強かったです。三人とも特にこれと言った違和感もなかったですし」
「実のところ、どうなんだい? お前さんたちはイカサマしてるのか?」
「いいえ。僕たちは真っ当に戦っています。でなければ勝負になりません。将棋も囲碁も正々堂々、フェアプレーは第一条件ですから」
夢路は軽く頷く。
「完全情報ゲームの性ってわけね」
「何ですか、それ?」
「サイコロのようなランダムな要素が存在せず、全ての情報が自分にも相手にも公開されてるゲームのことだ」
「もっと正確に言うと、将棋や囲碁は二人零和有限確定完全情報ゲームって分類ですね」
夢路と将棋部の加藤から説明が入る。ソラはそれを頷いて聞く。
「さて、一つ賢くなったところで出かけるか」
夢路は机の上のトランプを箱にしまってポケットに入れると、椅子から立ち上がる。
「どこへ行くんですか?」
「もちろん、鉄火場だ。今月の勝負もうすぐなんだろ?」
「は、はい。でも、囲碁部のイカサマとかそれに応じた作戦とかは?」
「まだ何も聞いてないですよ」
ソラと将棋部の三人は慌て出す。
「策はちゃんとある。とりあえず俺とチビ助が同席することを向こうに飲ませる。三人はいつものようにババ抜きを楽しめばいい」
『廃部がかかった状況でそんな気持ちになれるのは先輩くらいですよ』
「でもそれじゃあいつもと同じように……」
「大丈夫! シナリオはバッチリ用意してある。お前さんたちは何も気にしなくていい」
満遍の笑みでそう答える夢路。その顔を見て三人は安心したようだが、ソラは逆に疑ってしまう。
『一体何を企んでるんだ?』
「ありがとうございます、夢路さん! 探偵部に頼んで本当に良かった」
「おいおい、まだ何も解決してないぜ。本番はこれからだろ?」
夢路の言葉に三人は笑って応える。ちょっと前まで萎れていた人間とは思えないくらい元気な彼らを見て、ソラは少し安心する。
『でも、私じゃこの表情を引き出せなかった。せっかく頼ってもらったのに』
それとは別に心の中に一つ、感情が突き刺さる。




