表裏一体(3)
「ババ抜きがある程度運に左右されるゲームなのは理解しています。しかしそれを考えでも彼らの勝率はおかしいんです」
思っていたのとは違う方向になり、ソラは急いで頭の中を修正する。
「どのくらいなんですか?」
「四戦四勝」
つまり将棋部は全敗しているというわけか。
「うーん、でもそのくらいの偏りなんて実際そこまで珍しくない気も」
「いやいや。僕たち一戦ごとに部室の十分の一を賭けて戦っているんです」
もともと半分に分けているということは、互いに十分の五ずつ持っているはず。
「つまり五連敗したその瞬間、将棋部の領土は無くなると」
「そうです。今年の三月から初めてストレートで四連勝。いくら何でもタイミングが良すぎます」
しかも勝負を持ちかけてきたのも囲碁部の方。彼らがイカサマを疑う気持ちもようやくソラは理解した。
「でも、本当にイカサマなんですかね?」
ソラは一つの仮説を立てていた。
「どういうことですか、探偵部さん?」
「単純にあなたたち三人がババ抜き強くない、とか」
敗因は敵ではなく自分たちにあるのではないかということである。
「なら、一つやってみますか。この部屋トランプあります?」
ソラの発言に対して、将棋部たちは実演して証明しようと提案する。彼らも勝負の世界に生きる者だ。ソラのような全くのど素人にたとえトランプでも舐められるなどということはプライドが許さないかもしれない。
「分かりました。ちょうどトランプならここにありますので」
探偵部の部室にトランプが入ってきたのは、まさについ先程。夢路が「夏休みだし娯楽の一つでもないとな」との趣旨で買ってきたようである。流石に部費では落ちないだろうが、購買部からタダで仕入れてきたらしい。何か山本と取引でもしたのだろう。
こうして、ソラと将棋部三人の四人によるババ抜きが始まった。まさか初対面の彼らとこうしてトランプゲームに興じることになるとは。ソラは五分前までは思いもしなかった。
『まあ、こんなの半分くらいは運だし。それに私ポーカーフェイスには結構自信あるから、サクッと勝っちゃいそうかも』
部室には、夢路の鼻息とカードが擦れる音だけが響く静かな雰囲気となった。
***
「どうして……」
それから三十分程経過した。この間にババ抜きを五回行なったのだが、ソラの成績は全てビリ。散々な成績である。
「そこそこ強い自信あったのに……」
小さく俯きながらソラは放心状態になる。
「確かに今際さんは表情には全く出さなくてポーカーフェイスは完璧だったよ」
「でもジョーカーが自分のところに来ると右肩に力が入って少し上がってたよ」
「それに呼吸のリズムもちょっと速くなっていた。あれじゃあどこにババがあるかなんて丸わかりだ」
将棋部の面々からの発言にソラは目を見開く。
「何でそんなに私のことを分析してるんですか? もしかして皆さん心理学とか専攻してるのでは?」
ソラは完全にテレビで見たメンタリズムを思い浮かべる。
「いや、そういうわけではないよ。ただ、僕たちも一応将棋という対人ゲームを嗜んでいるからね。
「よく将棋だと盤面のことばかりに注目が行きがちだけど、相手の表情や仕草なんかの盤外の情報も読み筋に取り入れたりもするんだよ」
「だから、僕たちも常に見られていると思って自然と分かりやすい癖なんかは無くすようにしてるんだ」
ソラは初めての話に大きく頷く。確かに彼らとのババ抜きの最中、特にソラはそれらしい弱点などは見つけられなかった。
「なるほど、勝負の世界は色々と奥が深いんですね。待ってください、ということは囲碁部の人たちも?」
「ああ、彼らも僕たちと同じように癖はない。だから実力的にはほとんど差がないはずだ」
「であるならば、五分五分の運ゲーに四連敗だなんていくら何でも都合が良すぎる。ゲームの提案者というのもその疑念を強めている」
将棋部の主張をソラは受け入れることにした。
「トランプはどんなものを使っているんですか?」
「新品未開封のものをお互いが確認して購買部で買って、それを開けて使っています」
まるでカジノのポーカーだな。ということは、トランプそのものへのイカサマは不可能。




