第10話 表裏一体(1)
「この部屋、暑くないですか?」
窓からの日差しが燦々と入ってくる探偵部部室で、ソラは机に突っ伏してうなだれている。夏休みが始まって最初の部活の光景である。
「日当たりの良いところのデメリットがモロに出てるからな」
夢路は応接セットの椅子に座って日誌を読み返している。
「今更ですけど、何で私たち旧校舎を部室に選んだんですかね」
「冷房はないが、人気もなくて静かでいいだろ? 俺は結構この立地気に入ってるんだよ」
ここは探偵部になる前からすでに夢路が居着いていた場所である。それをなし崩し的に部室にしたという経緯をソラは思い出す。
「そういえば、先輩はいつからこの場所を使っているんですか?」
「去年の秋くらいからだな。元を辿るとここは昔化学部のものだったのさ」
そりゃ、教室名は一応「化学準備室」である。今はもう新校舎の関係でお役御免とはいえ、そうなるのはある種自然の摂理。
「ただ、色々ゴタゴタがあってよ。その結果俺が権利を持つことになった」
ぶん取ったの間違いではないことを祈ろう。
「何か事件でもあったんですか?」
「一言で言えば内部分裂だな。人間関係の悪化で派閥が真っ二つに分かれてちょっと揉めてた」
「それを先輩が仲介した、と」
「まあそうとも言えるかな。その件もあって化学部は本格的に新校舎へ活動を移し、宙ぶらりんだったこの部屋に俺が転がり込んだ」
いくつかの偶然や事件が重なり、運良く夢路はこの部屋を手に入れたようである。
「なるほど。ちなみにベッドだとかこの応接セットだとかは元からあったんですか?」
「いいや。俺がその後持ち込んだ」
相変わらず勝手な男である。というか、だとしたらどっから持ってきたんだ? ソラの頭の中に新たな疑問が浮かぶ。
「しかし、こうして読み返してみるとこの一学期色々やってきたんだな」
夢路は日誌を閉じて机の上に置いた。
「依頼人もたくさん来ましたから。それこそ立ち上げ当初から怒涛の勢いで」
大きいものから小さいものまで、依頼人の多種多様な悩みや事件を解決してきた。少し思い出しただけでもソラの脳裏には鮮明に写し出される。
思えば、探偵部の活動を通して色々な人と縁が出来た。おそらく普通に学生生活を送っていれば関わらないような人物たち。部活も学年も全く違う、同じ背景を持たないつながりというのは、中々不思議なものである。ソラは探偵部の副産物を今はっきりと自覚した。
「俺は寝れれば何でもいいけどな」
依頼人が来ようとも、生半可な起こし方では目覚めない男だ。この一学期の間にその言葉は嘘偽りないことは明らかである。
「とは言っても、先輩を頼ってやって来られる方もたくさんいるんですから。そういう時はちゃんとシャキッとしてくださいね」
「しかしこれから夏休みだからな。そもそも校舎に足を運ぶ生徒も少ないだろうし、一学期よりは忙しくなることもないだろ」
夢路は立ち上がり、自然とベッドにフェードアウトしていく。夏休みでもこれは変わらない様子だ。
「そんな風に寝てるばかりで大丈夫なんですか? 夏休みの宿題だってあるんですから」
「まだ初日の今日だぜ? 今から慌てるのは気が早過ぎる。それにどっかの誰かさんとは違って、俺は補習もないからな。のんびりやるさ」
どうして授業なんてほとんど聞かず、惰眠を貪ってばかりの男が許されて、提出物を忘れた自分は補習に行かなければならないのか。ソラは甚だ疑問である。日頃の行いから鑑みても普通逆だろう。
「生憎、俺は要領がいいからな。チビ助みたいなヘマはしないさ」
「たまたまですよね? そんなに威張らないでください」
「いやいや、例えば俺は現国だけはちゃんと起きて授業聞いてるぜ。岡田のようなタイプは平気で笑顔のまま後ろから刺してくるだろうからな」
担当教員の性格を見抜けなかった。今回ソラと夢路の分水嶺の一つかもしれない。
「ただ人よりも多く寝てるだけじゃないんですね」
「当たり前だ。改めて言っておくが、俺の睡眠は能力の副作用からくるものだ。好きでこんなに長時間寝てるわけじゃない」
ベッドの上から強く主張する夢路。今までの様子から最後の部分はあまり納得できないが、ソラは一応彼の主張を聞き入れる。




