変わらずの芸術(3)
「何だか拍子抜けでしたね。ここまで簡単に許可が出るなんて」
化学準備室に戻る途中の二人。
「色々下地を作ったからな。それより、学園生活が云々ってのは何なんだ?」
「私が考えたんです。部活動の目的を書かないといけない欄があったので」
「なるほど、建前にしては中々筋が通ってるな。そして、早速活動開始らしい」
夢路とソラは、化学準備室の前に佇む男子生徒の姿を発見する。探偵部発足から初めてのお客さんだ。
「お前さん、そんなところに突っ立ってないで中に入んなよ」
夢路の声に反応し、男は会釈を返す。三人が部屋に入り、椅子に腰を下ろす。
「で、ウチに何か用か?」
「実は無くし物の相談で来たんだけど、ここで合ってるかな?」
落とし物ではなく無くし物。この辺りの詳しい話を聞こう。
「どんなことでも大丈夫です。私は部長の今際です、よろしくお願いします。」
「僕は三年生の高木って言います、どうぞよろしく。今際さんが部長なんだね。てっきり夢路くんが部長だと思ってよ」
「生憎副部長だ。それでお前さん、無くし物って言ってたが具体的には何を?」
「部活で制作している作品でさ。僕美術部に入っていて、六月のコンクールに出展するために木彫りの彫刻をつくっているんだ。でも、さっき部室に行って続きをやろうと思ったら、どこにもなくて」
「それって、もしかして盗難ってことですか?」
「ウチに値がつくほどの彫刻をつくるやつがいるとは、そいつは初耳だな」
夢路がわざと大袈裟に反応する。高木は照れくさそうに頭をかく。
「僕は一介の高校生だからね。残念ながら未完の作品が盗まれるほどの腕はないよ」
ソラは自分の発言について少し内省する。
「でも、だからこそ困ってるんだ。誰かが移動させたのかと思って部室を探してみたんだけど見つからない。他の部員に聞いても心当たりがないって言うし」
「なるほど、だからウチに来たんですね。うーん」
話を聞いていてソラは頭を悩ます。
「大きさはどのくらいの作品なんですか?」
「六十センチくらいかな。犬をモチーフにしたやつなんだけど」
ソラは頭でクマの木彫りを思い浮かべる。それほどの大きさのものが、誰の目にも触れず忽然と消失する。そんなことが現実にあり得るのだろうか。
「悩んでいても、話聞いてるだけでも仕方ないだろ。一回美術部の部室に行けばいいじゃねえか」
ソラの様子を見て、夢路が提案する。
「いいですね、それ! 高木さん、案内してください」
ソラは勢いよく立ち上がり、声を上げる。
「わ、分かった。じゃあ、僕についてきて」
「うん、頑張れよ」
それだけ告げて夢路はベッドに倒れ込む。
「え、先輩? 一緒に来てほし……もう寝たんですか?」
夢路からの返答は静かな吐息だった。
「夢路くんは一度寝ると梃子でも起きないって有名だからね。それじゃあ、今際さんだけでも案内するよ」
こうして、高木とソラは化学準備室を後にした。
***
「そういえば、高木さんって先輩と知り合いなんですか?」
夢路の名前やその生態について知っていたところからソラはそう推察する。
「いや、多分僕が一方的に知ってるだけだと思う。彼は有名人だからね」
「有名人? 先輩がですか?」
確かにあれほど個性的な人物はそういないだろうが、所詮はいつも寝ているだけの賢しい男。ソラは少し疑問に思った。
「まあ、一年生だとピンと来ないだろうけどね。二年生と三年生で知らない人はいないよ」
つまり、夢路が去年大事をやらかしたということだろう。
『何があったかは、先輩の名誉のために聞かないでおきますね』
「いやー、あの事件は凄かったよ。『一年戦争』は」
「へえ、そうなんですね……」
ずいぶん物騒なネーミングを耳にしたが、ソラは知らんぷりを決める。




