Episode008 ハジメテノ(まあまあ健全(?))
ハ、ハハハハハ…。
これは笑いごとにならないことが起きてしまった。
せめて、時と場所くらいは選ばさせてほしかった。
簡単に言おう。
僕は今、恵さんとのファーストキスを迎えている。
まあ、唇と唇が重なった程度なので、正直なところファーストキスと言うには違うかもしれない。
ま、まあ、早いところ起き上がって、このファーストキスはなかったことに…!
しかし、時すでに遅し。
なんと、恵さんが僕の口に舌を伸ばしてきたのだ。
「ちょっとストップ!恵さん!ファーストキスがこれでいいの!?」
まだ確固たる決意に至ってないのか、空中で舌を泳がせていた恵さんに僕は問う。
ファーストキスがこんな事故みたいなので起きちゃうとか、コメディー漫画とかでしか有り得ちゃいけない。
「私は、もう今しか、ファーストキスをするタイミングがないと思ってるよ。」
「え?」
「だって、誰もいないところで密かにするファーストキスって、一番お互いにいいと思う。」
「それって?」
「私は、誰かにファーストキスを見られるのが、怖かったの。」
なるほど。
恵さんが言いたいことは分かった。でも…。
「ねえ、お願い。ファーストキスは私でも、ハジメテはしないから。」
うん。まず、ハジメテをしないのはそもそものこの引っ越しの条件の一環だったから別として、果たしてファーストキスはOKなんだろうか。
「ねえ、本当に…」
こんなのでいいの?
そう言いかけた時、急に恵さんが僕の頭を抱きしめるようにした後、僕の口に舌を入れてきた!
口の中で、僕と恵さんの舌が絡まる。
思わず飛びのこうとしたけど、恵さんが幸せそうな顔をしていたので、普通にキスをすることにした。
そして、そのままどのくらいの時間が経過しただろうか。
「な、成往くん、メグっち…。」
あ、やばい。
彩華さんに見つかった。
「やっと…、やっと、ファーストキスできたんだね。」
その顔は、怒ってるでもなく、泣いているでもなく、ただ咲っていた。
すると、奏真くんや姉さんも出てきた。
「成往、遂にオトナになる決心が…!」
「いや、成往はそんな度胸も性欲も持ち合わせてないから。」
男泣きしながらそう言う奏真くんと、冷静なツッコミをする姉さん。
でも、姉さんのツッコミはちょっと刺さった。
確かにそうなんだけれども。
「あなたたち、私って存在を気にして、全くキスしようとしてない感じに見えてたから、こっちとしても、なんか申し訳なかったの。」
彩華さんはそう言う。
まあ、そこに引っ掛かりを覚えるのは想像に難くない。
もしかして、逆にストレスを与えてたのかな?
「でも…。こうやって人が話してる時くらいはキスをやめたらどう?」
おっと、それもそうだね。
まだ恵さんがやめたくなさそうにしてたから続けてたけど、あんまりそこまでは考えてなかったな。
「成往くん、どうでしたか?」
「うん、ファーストキスには相応しくない状態ではあったけど、最高だったよ。」
そして、僕らは3時間もキスをし続けた状態でいたことが分かった。
自分たちも全然時間を気にしてなかったから分からなかったけど、そんなに長い間キスしてたのか…。
ていうか、足挫いたことも忘れてたなあ。
「ね、ねえ。奏真くん。私たちも、キス、してみる?」
「ま、まあ、魅奏楽さんが望むなら…。」
2人もキスをしている。
こうやって傍観者になってみると、かなり恥ずかしいな。
するよりも、見てる方が十分に恥ずかしい。
もしかすると、いや、普通にさっきまでの彩華さんや2人もこんな気持ちだったのだろう。
「ねえ、成往くん。私とはしてくれないの?」
「いや、だって、あくまで僕はキミのボディーガード兼友達でしかないんだし…。」
確かに、このままだと彩華さんだけファーストキスがまだなんだよねえ。
だからと言って、恵さんが許してくれるとも思えないし…。
「彩華さん、1回だけならいいよ。」
「え!?メグっち、いいの!?ありがとう!」
え?本当にそれでいいの?
と思ったものの、よく見たら、恵さんの顔に青筋が浮かんでいる。
あ、これ彩華さんとキスしたらオワル系のイベントなんじゃ?
「ごごご、ごめんなさいいいいい!」
あれ?ここって僕が謝るべきシーンだったのかな?
まあいいや。これも穏便にことを済ますためだ。
なんやかんやあって、掃除は終了した。
殆どが3人任せになっちゃってたみたいだけど。
これで、あとは荷物を運び込んで、周りの家に挨拶するだけだな。
こうして、僕のファーストキスは変な感じで終わったのであった。
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