Episode007 引っ越し用意
姉さんも加わって、僕らの引っ越しが始まろうと…。
「成往、魅奏楽。引っ越しってどういうこと?」
そうだった。両親という最大の壁があるのを忘れていた…!
「えっと…。まあ、今回の件について、大元の話からさせてもらってもいいですか…?」
「まあ、あなたたちにも事情はあるみたいだし、一応聞いておくわ。」
良かった。聞く耳くらいは持ってくれた。
でも、理由が理由だし、納得してもらうのは難しいかな?
「実は…。この度、僕、夏樹成往には、彼女ができました。」
「あ、そういう理由だったのね…はあ!?」
あ、やっぱりダメかな。
ていうか、父さんは?父さんがいればどうにかなると思うんだけど…。
「そういうことは早く言わないとダメじゃない!」
え?そっち?
引っ越しができないかと思ってもう諦めてたけど、まだその必要はないみたいだね。
「ちなみに、私にも彼氏ができました。」
姉さんも追い打ちをかける。
すると、母さんは急に泣き出した。
訳を聞くに、二人に遂に春が訪れたことがよほど嬉しかったらしい。
今夜は赤飯だと言い出した。
「それで、成往と魅奏楽、あなたたち、それぞれどういう経緯でリア充になったの?」
そして、僕らは今まであった出来事を一気に話した。
恵さんをいじめから救って、ボディーガード兼彼氏になったこと。
一部の界隈で有名なアイドル、ユメミンこと彩華さんと会って、学校に勧誘したこと。
奏真くんを連れてきたら、姉さんと奏真くんが両想いになったこと。
全てのことを包み隠さず、そのままのことを言った。
「それにしても、成往。よく女の子を守ったね。しかも、相手がガラ悪そうな先輩だったにも関わらず、立ち向かう。こんなすごいこと、そうそうできないよ。」
いや、そもそも、そういうシチュエーションすらなかなかないからね?
日常的にあって、そのうえで誰もできないとか分かるよ?
まあ、僕自身、あの娘が好きだからそういうところに繋がったんだけどね。
「ああ、それと、親友の…奏真くん、だったっけ?連れてきてくれてありがとう。ほら、魅奏楽ってば、全く外に出ようとしなかったから、出会いの場なんて誰かが用意しなきゃいけなかったのよ。」
まあ、それもそうだ。姉さんのしばらく…それこそ、あと5年くらいはずっと書き続けるつもりしかなかっただろうし。
にしても、母さんの興奮っぷりがスゴイな。
しかたないか。僕はともかく、姉さんに彼氏ができる見込みなんかなかった訳だし。
「成往、魅奏楽。5人暮らしで何かあったら、母さんや父さんを頼るんだよ。」
「え?つまりは…?」
「5人暮らし、いいわよ。」
こうして、最後にして最大の問題は、あっけなく解決したのだった。
*
「じゃあ、この家の中を確認しようか。」
4月も半ばに差し掛かるであろう頃のとある土曜日。
遂に、この家の中のお披露目となる。
さて、どんなものが残されてるのだろうか。
ドアを開けると、かなり埃っぽかった。
「言ってなかったけど、この家、5年は放置されてたの。」
彩華さんはそう言う。でも、この埃っぽさ、どう考えても5年のものじゃない。
掃除は細かいところまで不可避みたいだな。
「もしかすると、ムカデやゴキブリにも会いそうだな…。」
完全にそれっぽい雰囲気に、奏真くんも思わずそうこぼした。
ただ、女の子たちの前でその発言はいかがなものかと…。
「な、成往くん。ちょっとくっついてもいいかな?」
そう言うと、いきなり恵さんがくっついてきた。
おっと、その大きすぎず小さすぎない果実が、僕の腕に…。
「な、成往くん。私たちのボディーガードなんでしょ。」
張り合うように、彩華さんもくっついてきた。
なんかハーレムみたいだ。
でも、僕の彼女は恵さんだし…。
あ、でも、彩華さんにも、僕がボディーガードっていう既成事実はあるし…。
「成往、なんか見てるこっちが気まずいから、やめてくれないか…?」
「いや、そうは言われても。これが2人の愛の示し方なんだから、何も言わないでほしい。」
僕としてはこのままでもいい。
女の子がああいう系の虫を嫌がって男の子にくっつくとか、普通にあることでしょ。
あれ?そういえば…。
「姉さんはそういう虫って大丈夫なの?」
「小説書いて過ごす生活始めて半年くらいの間は、部屋の中はぐしゃぐしゃだったから、ムカデやゴキブリの1匹や2匹は普通に出たよ。でも、ある日に大切な小説の設定資料をなくしちゃったことがあってから、部屋をきれいにするようにしたの。」
ああ、確かに、そうやってずっと部屋に籠りっぱなしな人って、部屋がとんでもないことになってるイメージはあるよね。ていうか、実際にそうだし。
「もうそろそろ掃除、始めようか。」
そして、ハプニングだらけの掃除は始まる。
僕は、まだ知らない。そのトンデモハプニングを。
*
「それにしても、この家、5年も放置されてたのに、異常はないみたいだな。」
IHも使える。コンセントも使える。風呂もトイレも使える。
ていうか、この家、5年前くらいなら新しいモデルの家じゃん。
この家購入してすぐに亡くなったってことかな?
だったら、なんかカワイソウだな。
「おい、成往!こっち来てくれ!」
奏真くんがそんなに大声で呼ぶってことは、何かすごいものでもあったんだろうか。
それこそ、彩華さんのおじさんの貯金だとか、それとも、何か歴史的な価値のあるもの?
一体、なんだろうか。
「成往、これって…。」
「もしかして…。」
何か手帳のようなものが落ちていたらしく、そこから1枚の写真が出てきた。
その写真を見ると、そこには見覚えのある少女が映っていた。
そう。それは…!
「見ちゃイヤー!」
なんと、彩華さんのおじさんと、親族、更に、小学3年生くらいと思う、彩華さんの映っている写真だった。その頃から既に、彩華さんはいかにもアイドルになりそうな雰囲気を放っていた。
「昔っからかわいさを磨き続けていたのか…。」
「いや、そういうワケじゃないけど。」
今ここで彩華さんの小さいころの姿が見れたからいいけど、まだ恵さんの小さい頃の姿は見たこと無かったなあ。今後見せてもらおう。
「成往くん、ちょっとこっちを手伝ってくれる?」
あ、恵さんが呼んでる。
「うん。すぐ行く。」
あれ?今向こうの方から『バッシャーンッ!』って、バケツをひっくり返しちゃったような音が聞こえたような気がするんだけど、ま、まあ、気のせいだと…。
「成往くん!気を付けて!」
やっぱり?
でも、僕はその程度で転ぶほど…
「うわあっ!」
思った以上に滑った!目の前には恵さんが!
危ない!
「…な、成往くん。近いよ…。」
目を開けると、3cmもない、すぐ目の前に恵さんの顔があった。
息がかかるほどの距離に、もう耐えられない域だ…じゃなくて!
「大丈夫?」
「成往くんが、足と腕を開いて受け身をとってくれたから、何とか大丈夫…。」
いや、これはこれで別の意味でアウトでしょ。
だって、これさあ。何も知らない人が見たら、家の路上でイチャイチャしてるだけにしか見えないよ?
「ねえ、僕の下から、ゆっくりでいいから抜けられる?」
「なにかあったの?」
「受け身をとる時に、足を挫いた。」
しかも、なんか変な痛み方をしているので、無駄に動けない。
あと少ししたら確実にバランスを崩す。
「分かった。すぐ抜けるね。」
そう言って、恵さんはすぐに抜け始めた。
しかし、恵さんの足が、運悪く足に当たってしまった。
「あっ…。」
「えっ…?」
そして、あっけなく僕の体は恵さんに落下する。
すると、胸の辺りにとても柔らかいものを感じた。
まあ、恵さんは僕と背の差はあまりないし、胸のサイズも標準の少し上程度なので、そんなにトンデモ展開には至らずにすんだ。
そう、思い込んでいた。
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