Episode005 嫉妬
「成往、大丈夫だった?」
「あー、大変だったよ。ああいう人たちって意外としぶといからね…。」
追っ手をうまくまいた僕らは、迎えに来た姉さんの車に乗り込んだ。
「それで、ユメミンとはどうだった?」
「ユメミン、いや、彩華さんならここにいるけど?」
「え?ユメミン?どうかしたの?もしかして、成往に恋しちゃった?」
どうやら、姉さんも彩華さんの顔に気持ちが出やすいことを知ってるらしい。
「ねえ、ミソラっち。このことは恵さんも交えて話させて。」
「いいけど。」
*
僕らは帰宅後、すぐに夕飯にすることにした。
恵さんの作った料理は今まで食べた何よりも美味しかった。
「ねえ、恵さん。これからもたまにこうやって、いろいろ作ってくれる?」
「うん、いいよ。それとも、明日から、成往くんのお弁当作ってあげようか?」
「いいの?」
「うん、何作ってほしいかも聞くけど。」
マジか。明日から学校がある日は毎日恵さんの手作り弁当が食べられるの!?
最高だ…!
「恵さん、私から大切な話があります。」
「どうかしましたか?」
いや、何故この盛り上がってるタイミングで…。まあ、本人なりの嫉妬か何かだと思う。
遂に彩華さんがあのことを話すのか。
修羅場ができなければいいんだけど。
「私は、あなたという人がいるのを分かっていて、成往くんに恋をしてしまいました。」
恵さんは、このことをどう思うんだろうか。
さすがに怒るだろうか。
「彩華さん!あなたも、成往くんの素晴らしさが分かるんですね!」
あれ、思ってた反応と違う。
てっきり、僕の奪い合いに発展しかねないことになると思ってたんだけど。
「でも、成往くんは私と両想いなんです。だから、簡単に渡しません!成往くん、あなたは、彼女があなたを好きと言っても、私を愛してくれますか?」
うん、僕はあくまで彩華さんのボディーガードでも、恵さんとはカップルの関係だ。
恵さんを愛すのはもちろんである。
「うん。だって、キミは僕の初恋に人なんだから。」
「成往くん…!」
僕が彩華さんから頼まれたのは、ただのボディーガードを称して一緒にいること。
恵さんの先約がある限り、僕は他の女の子から言い寄られても動じない自信がある。
「あ、あの、それで成往くんに、一緒にいたいって言ったら、僕らの学校に来ないかって言われたので、多分来週くらいにはアイドルを辞めてあなたたちの学校に行く予定なんだけど、私は恵さんと友達でいてもいいのかなって思って。」
どうやら、彩華さんは僕を好きになってしまったことに何か負い目のようなものを感じてるらしい。
別に、抜け駆けするようなことをしなければ、いいと思うんだけど。
「うん、いいよ。友達も多い方がいいし。」
「ありがとう!これからはメグっちってよんでもいい?」
意外と何もなくあっさり終わってよかった…。
でも、ここから三角関係がどう動くかは気を付けないと。
*
「なあ、成往。お前、なんか犯罪まがいのことでもしたのか?」
「え?どういうこと?」
翌朝、奏真くんと合流したら、開口一番にそう言われた。
「んー、したことと言えば、スキャンダルに遭ってたアイドルに救いの手を差し伸べたことくらいかな。」
「あー、まさに間違いない。この記事はそのことを言ってるな。」
え?もしかして…。
「まあ、とりあえず落ち着いてこれを読んでくれ。」
「う、うん。」
『《あの有名アイドル、ユメミンにまさかの男!?その核心に迫る》
昨日16時、(場所は未公開)東京で、アイドル・ユメミンさんが同年齢くらいと思われる少年と密会している場が目撃された。その後、2人は逃げ出して行方不明になって20分後に再度目撃されるも、友人の車に乗って逃走した。今朝未明に報道陣がユメミンさんの事務所を訪ねたところ、反応はあったものの、取材班の質問には応答しませんでした。調査チームは、その男の素性と、今後の関係の変動を見極めるそうです。』
「ええ…。」
「と、いうことで、これからは、しっかりとスキャンダル対策するようにな。」
そんな感じで、僕は彩華さんとの外出は控えなければならないものだと改めて感じたわけだ。
「おはよう。成往くん、佐藤くん。」
「おはよう。」
「お、おはよう…!」
なんだか、奏真くんの恵さんを前にした時のコミュ障が前より酷くなってる気がする。
だんだん好きになってるのかな。
でも、僕は恵さんを誰かに任せるつもりは毛頭ないので、いくら奏真くんといえど、譲りはしない。
「はい、成往くん、お弁当。」
「ありがとう。」
本当に作ってきてくれたんだ。
なんか眠そうだけど。
あんまり無理させないようにしよう。
「な、成往。もしかして、弁当作ってもらったのか?」
「うん。」
どうかしたのかな。なんか生きた心地がしないような顔をしてる。
「成往、お前は幸せ者だな…。」
「ねえ、急にどうしたの!?」
「普通、彼女の手作り弁当って、付き合い始めて1週間のカップルがすることじゃないぜ…。」
もしかして、手作り弁当、羨ましいのかな?
確かに、手作り弁当をこんな早い段階で作ってもらうのって、結構珍しくはあると思うけど。
でも、これが僕らの愛の在り方だから、それでいいんだけどね。
「あ、佐藤くんの分もあるよ。」
「え!?」
予想だにしていなかったのか、とてもビックリしてる。
そりゃそうだ。親友の彼女から手作り弁当を貰えるなんて思う人は、そうそういないだろうからね。
「ああ…、ありがとうございます…!」
「大げさだよ。佐藤くんだけ仲間はずれにできないから。」
さすがは恵さん。この優しさが天使だ。
「あ、あと、奏真くん。さっきの話のユメミン、じゃなくて、夢見彩華さんだけど、来週くらいにはこの学校に来るよ。」
「そうなのか。分かっ…え!?
まあそれが普通の反応だよね。
「い、一体何をしたんだ?」
「僕が僕らの学校に来て、一緒にいないか、って言っただけだよ。」
「マ、マジか…。なんていうか、度胸がヤバいな。」
いや、そんなこと言われても。
僕が心配して、アイドルを少し離れてみたらどう?ってくらいのニュアンスだったんだけどね。
「そういうわけで、来週から仲良くしてあげてね。」
「まあいいけどよ…。毎日がスキャンダルにならないといいんだけどな。」
確かにそれはある。
でも、その為に僕はボディーガード兼友達になったんだけどね。
*
「ねえ、成往くん。彩華さんになんでこの学校に来ないかって誘ったの?」
帰り道、2人きりのその空間で、急に恵さんがそう問ってきた。
「まあ、スキャンダルやレッスンで疲れ切ったその顔が、助けを求めてたの。何だか苦しそうで、見捨てられなかったんだ。」
「そうなんだ。でも、なんで私以外の人のボディーガードなんか引き受けたの?」
あれ?今の反応から察するに、もしかして、嫉妬してる…?
「2人も守れるの?それでどっちかに何かあったら、どうするつもりなの?」
でも、僕だって覚悟はできてる。
「僕は、絶対に守れる自信があるからこそ、彩華さんのボディーガードを引き受けたんだ。」
「でも、それは確実じゃないよね?なら、彩華さんのボディーガードは断ってよ。」
僕は、ちゃんと先を見通して守れると言っている。
だからこそ、それを信じてほしかった。
でも、これ以上はもう何も言いようが…。
「あれ?成往くんにメグミッちじゃん。」
「彩華さん。」
そこに、偶然にも彩華さんが通りかかった。
なので、この話の経緯を全て話した。
「うーん、2人ともを守る方法ねえ…。」
話し終えると、彩華さんも考えてくれた。
すると、彩華さんはとんでもないことを言った。
「じゃあ、3人で一緒に暮らせばいいんじゃない?」
「え!?」
それは、僕が思いつく中で一番難しい方法だった。
その家の費用は誰が払うのか。そこまで考えて言っているのだろうか。
「実は、私の叔父さんが亡くなっちゃって、その所為で叔父さんの家が放置さらてるんだよ。」
「それで、そこに3人で住めばいいってこと?」
「でも、食事はどうするんですか?」
それは親もいないって点で考えると、一番の問題だった。
料理はともかく、食材購入はどうするのか。
3人がバイトしてもギリギリの生活だろう。
「実は、その家のはす向かいに、すごい広大な畑を持ってるオバサンがいて、昔から仲がいいから、頼めば野菜を分けてくれるかも。」
「それならいいんだけど。」
これなら、3人で暮らせそうだな。
「でも、監視役も必要だと思うの。」
確かに、何か間違いが起きないためにも、あと1人は必要かも。
でも、誰かいないかな。
「なら、奏真くんだけ仲間はずれっていうのも気持ち良くないし、奏真くんでいい?」
「うん、いいよ。」
「奏真くんって?」
「ああ、僕の親友だよ。」
「ならいいんじゃない?」
こうして、僕らの4人暮らしの生活は、幕を開けようとしていた。
第1章 完
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