ホントにおわりだよ
37話 ホントにおわりだよ
「楽しい会議を見させてもらいました」
黒いタキシードに黒マントの醜いワシ鼻オヤジ顔のローグ・ネルが、いつものだみ声で笑いながら言った。
あたしらを完全に見下している。
まあ、あたしらの誰にも気づかずにこの部屋に入ってたんだから、見下されても。
「どうです、私と取引をしませんか」
「誰が、悪魔なんかと。また、読めない契約書でだますんでしょ」
「お嬢さん、だますなどと。私は騙したことなど、一度もありません。そちらが勝手に思い込んでの契約。よく思い出してみて下さい」
「詐欺師のいいわけだね」
「おフランスのご老人。お初にお目にかかる。あなたが、一番先に私と魂の出会いを経験するでしょうな。もう長くないでしょう。取引とは、私は、もうここから出た人間を殺さない。だから、私には、かまわないでいただきたい、私は戦いを好まないもので」
「また、騙す気か。邪悪な者よ。何もしていない久能を殺めておいて、戦いは好まないなどと」
「鹿嶋さん、ぼく死んでませんけど」
「それなら、あの部屋から出て行ってよ。何処か異世界でもいっちゃえば。そうしてくれる」
「クロエ。悪魔の言葉をそのまま受け取ってはいけない」
「クロちゃん、先生の話しを聞いて」
バカのあたしだけ、ヤバそうな雰囲気。
ヤツの言葉よく考えてみよう。「ここから出た人間を殺さない」って、まさか。
「ローグ・ネル、その取り引きのどこに我々のメリットがある?」
「無駄な戦いをやめれば、誰も傷つくまい。私は、今ココで皆さんを殺すコトも出来る」
「あ、なるほど。おまえたちの命はとらないから、オレにかまうなってことね」
「クロエ、言ってもいいか?」
「えつナニ? なんでも好きなこと言って朋ちん」
「皆殺しに出来るって、ならやってみろとプッテが言う」
「その言葉、後悔するなよ」
大丈夫なの、朋。あ、でも今の言葉、フランシーヌじゃない。
ローグ・ネルがマントを両手で広げ。
「地獄のヤイバよ人間どもを切り裂け! ルヤ、イワ・ローノス」
ローグ・ネルの呪文と共にマントから小さな三日月型のモノが無数飛び出しあたしたちを。
その時、赤い光が放たれた。
光が消えると部屋の奥のローグ・ネルの姿が。
奴はボロボロに斬られていた。
その周りには三日月型が散らばっていた。赤い光がアレを跳ね返したの?
「誰の力です?」
ローグ・ネルがボロボロのタキシードとマントを身体からふり飛ばした。
一緒に体毛も飛んだ。
あの三日月型カッターが、ヤツを丸裸にした。
「おお、コレは、惨めなお姿だローグ・ネルどの。皆殺しは、出来ませんでしたね。ところでローグ・ネルなどという偽りの名をやめ。ちゃんと本当の名を教えていただこう」
「どんな、名前だ。人に害ナス者!悪しき魔よ!」
先生の横からアジフが、デカい筆を振り回し叫んだ。
「まあ、他の名を語る悪魔は名前を知られるとひるむんですよアジフさん」
「悪魔は悪魔だ!」
「なんというはずかしめを」
「さて、あなたは何者かな。そのクモのような姿、バールか、妙な紳士的ふるまいメフィラトル?」
ローグ・ネルが一瞬で全身に毛を生やすと、窓ガラスを割り外に飛び出した。
「あら、やだ直したばかりなのに」
ママーネ婆さん、それは、こちらで直すから。
みんなで外に出ると、マンションの壁を人の身体にクモ脚を生やした巨大な生物が、張り付いてる。
「ヤンケンシュタイン、あれは悪魔じゃない。名前を当てても意味がないと、プッテが言う」
「悪魔ではないのならアレは?」
「あのクモ、殺虫剤かけて落とす?」
「クロちゃん、クモはお風呂の洗剤も効くよ」
「師を虫と一緒にしないで下さい」
クモの頭がくるりと回って。
「今日は、あなた方の勝ちにしておきましょう」
「逃げる気だ!」
「飛ばすの。マナ手伝って、プッテをあいつに」
朋が、マナにぬいぐるみを渡した。
「朋さん、飛ばせと言われても」
「あいつが逃げる!」
巨大なクモ人間がマンションの上に登りはじめた。
「マナはできるとフランシーヌが言う」
一度ぬいぐるみに気を込めたマナがクモ人間に投げた。
「飛べプッテ!」
ぬいぐるみが、まっすぐにクモ人間の背に飛んで、くっついた。
〘オマエノ様ナ小物ガ、我ガ同胞ノ名ヲ語ルナド百年早イ、イヤ1億年カナ〙
《おまえはなんだ? 我が同胞。まさか、我より先に》
〘ヒトノ創リシ魔物ノ真似事ナド、オ笑イダッタ。マダ居タノダナ、オマエノ様ナ莫迦ガ〙
《なぜ、人の味方を。ココは、あんたらが支配した星だったろ》
〘人間ッテ面白イダロ。私ハ人間ニ干渉スルノヲヤメタノダ見テルダケデ退屈シナイ〙
《それが、あんたの……何をする》
〘消エテモラウヨ〙
赤い光が、クモ人間をおおってだんだん小さくなって消えた。
「ああっ」
ぬいぐるみが落ちて来た。
朋より背があるあたしがキャッチした。
「おかえりプッテ」
あたしはプッテを朋に渡した。
「朋ちん、ありがとう。最後はあんたが」
「朋じゃないと」
「フランシーヌが言う、でしょ。ありがとうプッテ」
と、ぬいぐるみの頭? だろう。トコをなでた。
「マナ、最後のピッチング、ナイス」
と、アタシはマナに親指を立てた。
「終わったんだよね、クロエちゃん。あとで仕事代、私の高座に振込んで。アジフに現金渡しちゃだめよ。じや」
アジフの奥さんは、アジフと手をつなぎエレベーターホールへ。
「それじゃクロエ」
「あ、鹿島さん。おいくらを払えば?」
「志しでイイ」
一番わからないパターンだ。パパに決めてもらおう。
「久能くんは」
「ぼくは何もしてませんから……あ、入院費だけお願いします」
「朋ちん、学費はまかせてね。また、学校のカフェ来てね、マスターの方が美味しいけど」
「ジジの店、パフェないから行く」
相変わらず無表情で駅への坂道をおりていく。
魔法のドア使わないんだ。
「ホントに気持ちのイイ連中だね」
「ママーネさん、なんかアニメみたいなラストシーンですね」
薬丸岳が、ママーネ婆さんの手を引き部屋に戻った。
「さて、私も。そうだ、クロエ。今度の土曜日の夜、『焼肉定食』のライブがあるんだが、行かないか?」
「ごめんなさい。土曜は他に」
「先生、ふられましたね」
「マナちゃんどうかな。久能君も一緒だ」
「すみません、先生。マナちゃんはボクとネズニーランドに」
「夜なら行けるよ先生」
「マナ、モテモテ。内藤君どうした?」
「内藤君は日曜日」
「クロエ、日曜日はボクとどうです」
「ゴメン、日曜はモリーたちと。あっ、ところでロバートはこれからどうするの?」
「実はボク、不法滞在者なんです。朋さんにたのんで帰ります。あ、またすぐに来ます。しばらくこのマンションで暮らしたいと思ってます。それでは」
ママーネ婆さんんちに居候して弟子にでもなるのかしら。
さて、あたしは大学出たら何処へ住もうかなウチも悪くないけど、メイドと暮らしてもつまんないしなぁ。
仕事も見つけなきゃ。でも、その前に卒業。
もう留年しなくてもいいんだから、頑張らねば。
おわり




