シビトと呪術師
14話 シビトと呪術師
ドアが開いた。おかっぱ頭の色の白い女性が顔を出した。
目が細くちょっとキツネ目だが、嫌味がなく、優しさもある不思議な顔の人だ。
シビトと聞いていたので青白い陰気な人かと。
「あたし7階の緑川クロエ・フォックスといいます。こっちの子は隣に住んでる」
「椎名真奈です。はじめまして」
「そうかしら……。あなたとは何度か会った気がする」
「そうですか? ごめんなさい。わたしはぜんぜん記憶にないんですけど」
「こっちは巫女音朋。あたしの友人」
「こんにちは。そのぬいぐるみには、なにが入ってるのかしら。気になるわ。あなたもね」
と、鹿嶋世泉が、人差し指で朋の鼻をちょんとついた。
「あんたは何? 魂しか見えない」
「あら言うはね。お互いないしょにしときましょ。あ、ごめんなさい。呪いとか言ってたわね」
「知ってますか?」
「なんだろう? 私に関係ないことはあまり」
「このマンションから転居すると死んでしまうか不幸になるという。原因は突き止めました。でも、それを解決するにはあたしたちだけでは」
「なるほど。それであのおばあちゃんが私を。わかったわ。とりあえず、コレを」
彼女はあたしに名刺をくれた。
「後にケータイの番号あるから、じゃまたね。お料理中なの」
と、ドアを閉めた。
名刺には平仮名で真ん中に「かしま よみ」と、しなやかな筆文字で、その横には活字で「心霊体験・霊能力相談」と書いてある。
おもいっきり心霊アピールしている。これで食ってるのか? やっぱり。
「え〜と次は3階だ」
「302ね。利根川由香里さんです。でも、旦那さんが東南アジアの呪術師だって」
ピンポーン
「ハイ、どなた?」
「あの7階の緑川というものです、ご主人にお会いしたいんですけど」
「主人は留守なんですが、なにか?」
多分この人が利根川由香里ね。
「はあ、それならまた後で」
「あんた、なんで若い娘が、たずねて来るの?」
「オレ、知らない。ナナカイのミドリムシなんて知り合い居ない」
「あっ! 聞いた? マナ」
「うん、旦那さん居る!」
ピンポーン ピンポーン ピンポーン
「な~に忘れ物?」
「旦那さん、居ますよね」
ドアが開いた。モジャモジャ頭の大きな女の人が、オニみたいな顔で出てきた。
「あんたら、主人とどういう関係?!」
数分後。
「ゴメンナサイねぇ。あたしの早とちりで」
「いえ、こっちが突然押しかけたから。そちらにビックリさせてしまい。すみません」
こういう場面はマナがいて助かる。
体だけじゃない。あたしより大人だ。
「悪魔、タニシするのか。でもドーグない」
奥さんは日本人だが、東南アジアの孤島出身という旦那さんは日本語はあまり上手くないようだ。
「このマンションに悪魔が居て悪さをねぇ。さっきの話しホント?!」
「はい」
「困るわぁそれ。あたしたち、ようやくお金たまって来年にはもっと都心に近いトコに引越そうと考えてたの。知らないで越したら不幸に……」
奥さんは指で首を斬る様をした。
「多分……。死ななかったとしても旦那さんの会社倒産して借金地獄かも」
「やだわぁそんなの。アジフなんとかしてぇ」
「ナントカ? スルが、もう呪術ヤメたからココには……。まてよ。アレ、日本にキセルと言ってた。オンナ、悪魔ハライチば、イクラ出す」
「ハライチはイクラは出しません」
「あ、違うの、この人、日本語がまだまだで発音がね。報酬はいくらか、というコトよ」
「ああ、必要経費分も出します」
成功すればパパならいくらでも出すよ多分。
「成功したら、これくらい」
と、あたしは両手をひろげた。
「五十五万……」
あ、そう見たのね。いっぱいのつもりだったんだけど。
東南アジアの悪魔祓いの相場っていくらなんだろ。
つづく




