第一話
ある昼下がりの午後のことだった
僕は何の変哲もない日常
何の変哲もない時間を過ごしていた。
何事もなく時間が進み何事もなく朝を迎える、
つまらない、
正直僕はこの何の変哲もない日常に飽き飽きしていた。
「今日は何日だったっけ。」
何事もなく時間が進むせいで日日すらも今日が何曜日だったかも曖昧になっていた。
「眠いな…」
飽き飽きした時間の中でもお腹は空く、眠気だって来る。
僕は何もないなら時間を惰眠に使おうと考えて眠ることにした。
「…。」
あれから何時間眠ってしまったのだろうか、僕はさすがに眠るのも飽きたと思い目を開けようとした
「あれ?」
どうしてかわからないが目が明かない。
次の瞬間まばゆい光に包まれて、もう一度目を開けようとする。
「えっ、どこだここ」
僕は気が付いたときには何の変哲もない、
いや何の変哲もないというのは少しおかしな話だ、
僕は今まで自分のベッドで寝ていたはずだ。それなのにこうして僕は草原の上に立っている。
「どうなっているんだ?」
空を見上げたりあたりを見渡したりしてみる
どうやらここは僕が元居た世界じゃないみたいだ。
「誰か助けて!」
誰かの声が聞こえた。多分女の子の声だと思う
僕は声がしたであろうその場所に目を向けてみた。
どうやら女の子が得体のしれない化け物に追いかけられているようだった。
この時の僕は、なんで柄にもないことをしたんだろうと思った。
気が付いたら震えよりも先に足が動き襲われそうになっている、
女の子の前に自らの足で立っていた
「えっ?」
女の子がそんな僕を見て驚いたのか、どうしてという感じで声を発していた。
それはそうだ、僕は何の変哲もない一般人で力なんてあるはずもないのだから。
「早く逃げて!」
僕がそう声を発した時には怪物は僕の背中をとらえていた。
あぁ、僕はここで死んでしまうのだろうと思った。
でもなぜだろう、自分が死んでしまうことより。
あの女の子は無事に逃げ切れただろうかということのほうが気がかりだ。
「ね…」
誰かの声がする、
「おき…て!」
あぁ、さっきの女の子の声だ、
重たい瞼を頑張って開けてみた。
「起きて!ねえ起きて!」
女の子の顔は恐怖と涙であふれていた
何してるんだよ、見知らぬ僕が勝手に君をかばっただけなんだ、
君がそんな顔する必要はないんだ。
なんだかもう眠いな…。
「ねえ、」
誰かの声が聞こえる、さっきの子の声じゃないようだ。
「うん、僕はさっきの女の子じゃない、僕は君だ、」
僕?何を言ってるんだ、僕は一人しかいない。
「もっと言えばこの世界にいる君だ、ここは無数の世界線の中にある一つの世界、僕はここでの君」
訳が分からない、いきなり自分は僕だといわれて簡単に信じられるわけがない。
「まぁ、そうだろうね、僕でもそんなこといきなり言われたら信じられないよ。でもね」
でも?でも何なのだろうか。
「君はそれを今は信じるしかないんだよ。僕は君で君は僕だということをね。」
信じるしかない。それはそうなのかもしれない。
何の変哲もない日常から
よくわからない化け物が出る
非日常、そして見知らぬ女の子を助けたくて庇って
僕は今死にかけているのだから、
もう一人の自分だという存在が出てきたところでおかしくはないだろう
「どうやら、納得はしてくれたようだね、それで、君に質問なんだけど」
質問?こちらは死にかけているんだ。
そのままゆっくり眠らせてくれ、僕は眠いんだ。
「じゃあ単刀直入に聞くけどさ。君、その君のために泣いてくれている女の子を助けたいかい?」
助けたい?助けられなかったから今僕はこうして死にかけているんだ。
そんなことができたなら僕はこうなっていない。
「答えになっていないよ。僕は君に助けたいかどうかを質問しているんだ、君はどうしたい?」
僕は、助けたい、
「どんな苦難に陥ってもその子を救いたいという覚悟は君にはある?」
正直、覚悟があるかどうかなんて二の次だ、
今すぐには決められない。でも救えるのなら
この状況をどうにかできるんだったら。
決まっている。答えはYesだと。
「ふーん、じゃあ最後の質問、人を、いやこの場合は人だけじゃない、
すべての種族を救えるだけの力を君は望むかい?」
力が欲しい、すべてを守れるだけの力を僕は望む
「いいよ、じゃあ僕が君のすべてを君にあげる、さぁ、契約の呪文を叫んで?
君の頭の中にはもう言葉が浮かんでいるはずだよ」
「僕に力を示せ!守護騎士」
その言葉とともに一本の刃が僕の胸の中心部分から出てくる
これが力?
剣を握り胸から出す
「それが君の武器、君が指示すれば形状は変わる。さぁ、始めようじゃないか、君の物語を!」
僕にどこまでできるかなんてわからない、
でも今僕がやらなければいけないことはこの子を助けることだ。
「来なよ化け物、お前がこの子をどうにかしたいんだったら僕を倒してみろ!」
「グオォォォ」
化け物が襲い掛かってくるが僕は何とか攻撃を弾いていく、
「っ!」
僕は化け物の腕を切り落とす。
「ギャオォォォ」
化け物は唸り声をあげて僕を恐れてしまったのか逃げて行ってしまう
「あっあの…大丈夫…ですか?」
女の子が僕に恐る恐る話しかけてくるそれもそうだよな…
さっきまで深手を負っていた奴が立ち上がって怪物を撃退したのだから。
「僕は大丈夫、君の方こそケガしてない?」
「わっ私は大丈夫です…助けてくださってありがとうございました…。」
「それならよかった、」
「えっと…もしよろしければお名前を聞いてもよろしいですか?」
名前…ここで本名を言ってしまってもいいのだろうか、
僕は多分異世界に飛ばされてしまったのだろうし、
「えっと…僕は風霧…風霧 京也名前が京也だよ」
「キョウヤ様…わっ私はエルリア・リリール・クレイシアです」
「えっえるり…?」
「あっ長いのでエルリアとお呼びください…‼」
「ん~…じゃあエルって呼ぶね、エルはどうしてこんなところに一人でいるの?」
「っ!そうでした!私今から王都に向かわなければいけないんです!」
「王都…?」
「へっ?キョウヤ様王都をご存じないんですか?、それに妙な格好をしてらっしゃいますし」
僕はエルに言われてハッとした、僕の今の格好はなぜか学校の制服だった。
やはり眠っていたのは関係なくこの世界に飛ばされてしまったのだろうということだろう
「あ~…うん、僕は気づいたらここにいて…」
僕は苦笑いでエルにそう伝える、まぁ嘘はついてないから問題はないだろう
「そうだったんですね…。」
「うん…あっ、エルがよかったらさこのまま一緒について行っていいかな?行く当てがなくて…」
「一緒にですか?、私は大丈夫ですよ!」
よかった…というかエルってこんなに小さいのにしっかりしてるよね…出所がいいのかな。
「ありがとう、じゃあ少しの間よろしくね、」
「はいっこちらこそよろしくお願いします!」
「うん、じゃあ行こうか」
僕がそう言ったのを合図にエルは僕の隣について歩き始めた
なんかちょっと兄妹みたいで新鮮だ。
そういえばエルのことちゃんと見てなかったけど、ちょっと観察してみようかな…
耳は普通の綺麗な銀髪…髪は腰くらいまである、
目の色は珍しい、きれいなルビーの色をした目だ、
「あっあの…」
それに肌も白くて、触ってみたく…
「あっあの!、」
「えっあっごめん何かな?」
「その…そんなにじろじろ見られていると恥ずかしいのですが…」
そういいながらエルの顔を少し赤くなっていた。
「あ~…ごめん、綺麗だなぁって思って…」
「えっ?」
エルは明らかにキョトンとした顔をしていた。
「えっと…何か変なこと言ったかな?」
「その…私の髪も目もここでは嫌われていたので…そのいやとかではないんですよ!
少しびっくりしたといいますかその…」
嫌われている?こんなに綺麗な髪なのに?
どういうことなんだろう、これは聞いてみてもいいことなのだろうか。
でも本人はあんまり口に出したくなさそうだし…よしここは。
「言いたくないとかそういうのだったら無理に言わなくても大丈夫だよ?」
「…本当にキョウヤ様は珍しいですね…私に対してそのような態度を取って下さるのは、
家族かおじい様くらいです…」
「そうなんだ…。」
なるほど…この発言を聞いて大体わかった、
多分彼女は、銀髪で赤目そして透き通る肌、
このことを踏まえて考えると、
吸血鬼と同じだと思われていて嫌われている、
この世界にそんなものがいるかどうかなんてわからないけど、
でも多分種族的なことで忌み嫌われているのだろう。
「なんだかごめんなさい…暗くなっちゃいますよね…私なんかといると…」
「そんなことないよ、まだあって少ししかたってないけど、さっきから僕の傷のことが心配で
背中の方ずっと見てくれてたりとか、倒れないようにとか、色々考えてるのかなって思うし
多分だけどエルはすごくいい子なんだろうね。」
その言葉を聞いたエルは驚いていた。
「本当に…不思議なお方ですね…キョウヤ様って…。」
「そうかな?僕は思ったことしか言ってないつもりだけど…」
「ふふっ、そうですよ」
「あっ、やっと笑った、ずっと張り詰めた顔してたから、少しは気が紛れたみたいでよかった」
「…ほんとによく見てますね…私のこと…」
「そうかな?そんなことないと思うけど。」
「そんなことあります!」
エルがふふんと嬉しそうにそう僕に言ってくる。
でも僕は思うエルの年齢をちゃんと知っているわけではないけど。
これくらいの女の子だったらもっと笑ったりとか泣いたりとか
怒ったりとか、そういうことをしてもいいんじゃないかなって、
もう少し感情的に物事を考えてくれた方が分かりやすいだろうし。
「どうかなさいました?」
「ううん、何でもないよ」
僕にこの子のことをどうにかできるのであればそうしてあげたい。
傲慢な考えかもしれないけど、
この子には笑っていてほしい。
笑って過ごせるように何とかしてあげたいと思った。
「?あっ、キョウヤ様つきましたよ!」
「ん?」
エルが門の方を指さして僕にそう伝える
「凄い門だなぁ、」
「王都ですからねっ、」
ここは王都エルメスタというらしい、
エルの名前が入っているのは多分偶然だろう。
商業が盛んな街で、色々な商人でにぎわっているようだ。
「よぉ、兄ちゃんと嬢ちゃん、串焼き美味いよ、食ってくかい?」
「あ~…いや…すいません僕今持ち合わせがなくて…。」
「なんだい、そうなのかならまた持ち合わせができたときにでも買ってってくれ!」
「はい、そうさせてもらいます」
僕が店主に手を振った後エルが話しかけてくる
「キョウヤ様、お金ありませんの?」
「うん、本当によくわからないままあそこに居たからね、正直なんもわかってない…」
「そうなんですね…なら私が色々お教えしますね!」
「ほんと?それは助かるかも」
この世界のお金はやはり円ではなく硬貨らしい、
お金が欲しいときは冒険者ギルドでモンスターと呼ばれるものから出てくる
ドロップアイテムを売ったり、薬草などを採取してきて換金するんだそうだ。
依頼もあるらしく。依頼を受けて達成した報酬でももらえるらしい。
そして気になったのが種族の違いで序列が違うみたいだ、
獣人が一番下に見られていて、エルフが二番目、人魚なんかもいるらしい。
「吸血鬼なんかもいるのか?」
「…はい、います…吸血鬼は恐れられている魔族の一つですね…。」
やっぱりそうなのか、さっき僕が考えたように吸血鬼は忌み嫌われているから。
ないがしろにされているんだ。
だからたぶん、エルは少し話すときに間があったのだろう。
「ごめん…なんか聞いちゃマズかったかな…?」
「いっいえ…大丈夫です…心配かけちゃったみたいでごめんなさい…」
またこの顔だ、どこか寂しげで、誰かに助けてもらいたいのに助けてくれないから
諦めるしかない、そうする方が誰も傷つかなくて済む、
きっとエルはそういうことを考えているのかもしれない。
「ううん、大丈夫、それよりさ、そのおじい様?のところ早く向かおう、」
「はい…そうですね…。」
僕たちはエルのおじいさんがいるといわれている、クレイシア領に向かうことにしたのだった。