夜明けの追討戦
とりあえず、出会いのエピソードとしてひとくくりにしていこうと思います。
第三章 迷いの森編 終章
「もう、魔物を倒した安心から寝ちゃうなんて・・・・、勇者様が聞いてあきれるわ」
彼女は少しほほを染めながらそう言う。まぁ無理もないだろう。倒れたと思って心配した勇者が疲れて寝込んでいただけなんて、肩透かしもいいとこだ。
しかし・・・・あの時のリリーシアのあの焦った顔は・・・・・はい。めちゃくちゃかわいかったです。ありがとうございます。
俺がそのことを思い出して少しだけニヤけていると、
「あ、ねえライアン。あれは何かしら?」
リリーシアの目線の先にはぼんやりと光る何かが宙に浮いていた。これは・・・・間違いない、森の外で見かけたあの光だ。
なんだ・・・・ついて来いって言っているのか・・・・・・?
「とりあえず、後ろについていくか」
俺はそういい、光の後についていく。
「何かしらあの光は?」
俺の後についてきているリリーシアが不思議そうに尋ねる。
「分からない。でも俺はこの森に迷い込む前にこれにそっくりの光を見たんだ。それで気になって追いかけたら帰り道が分からなくなって・・・」
「迷ってしまったってことね・・・。全く・・・好奇心でこんなところに来ちゃうなんて、まるで子供みたい」
「う、うるさいなあ!そういうリリーシアはなんでこんなところに来てたんだよ。しかも・・・木の上で倒れてたし・・・」
「それは・・・・・」
彼女が答えを言う前に俺らの前に一筋の光が遮る。
そこには開かれた平原と見慣れた轍。やった・・・・ようやく出られたんだ。
「ありがとう。きみがいなかったら俺たちは今頃・・・・あれ・・・?」
振り返ると、もうそこにはあの光はなかった。
「とりあえず、今日はもう日が暮れてるわ。ここで野宿してまた明日出発しましょう」
「え?もう森からは出られたんだぞ。もう一緒にいなくても別に・・・」
「え、あの・・・・・・そう!!魔物よ!!夜は魔物が多くなるわ!あなた、女の子をそんなところに置いていくつもり?」
いささか強引なリリーシアに押されて、近くの木の下で暖をとる。
「ふう、それにしても一時期はどうなるかと思ったよ」
俺は大きめの丸太に腰を掛けながら安堵する。その横にはリリーシアが座っている。
・・・・・改めてみると、リリーシアって凄い奇麗だよな。端正な顔立ちに、長いまつげ、そして長く艶のある銀髪は夜の暗さの中でもひと際輝いている。
・・・・・もう一緒にいることもないんだな・・・・・。そんな風に考えていると、
「ねえ、ライアン・・・・」
彼女が口を開く。
「さっき私に聞いてきたわよね。なんでこんなところにいたんだって・・・・・」
そう言えばそんなことを聞いたな・・・・・
「実は、私・・・・・家出をしてきたの」
「家出・・・・・?」
「そう、私の故郷はこの大陸のはるか北・・・誰も寄り付かない森の中にうっすらとあるの。他者とのかかわりを一切断っている・・・・・、そんな時代遅れの村よ」
「じゃあなんでそんなところからココまで?」
「私はもっといろいろな世界を知りたい・・・いろいろな人と触れ合いたいの。だから私は・・・」
あの村を出ていくことに決めたの。彼女はそう言った。
「でもおばあさまは家出なんてことは許してくれなかったわ。私はなんとか追っ手を振り切って、でも途中で力尽きて・・・・・あの場所にいたの」
そうか。彼女はずっと独りぼっちだったんだな・・・・・俺と同じじゃないか。
「リリーシア・・・・・」
「さてと、暗い話もこれでおしまい。早く寝ましょ。明日も早いわよ」
煌びやかな日光が顔を照らし出すと、俺はその重たい瞼をようやく開けることができた。ぼやけた視界から垣間見えたのは、昨日とった魚を焼いているリリーシアの姿だ。
「ほら、お寝坊さん。早くご飯にしましょう」
そう言って俺は彼女と一緒にご飯をとる。・・・・・この魚が食い終われば、もう彼女とは一緒にいることはないのか。・・・・少し寂しいな。
最後の魚も食べきり、二人で宿の後始末を終え、いよいよ出発するとき・・・・・
「これでもうお別れだなリリーシア。元気でな」
「ええ、ライアンも・・・・・短い間だったけど・・・・・楽しかったわ」
なんでそんな顔をするんだよ・・・・・せっかく二人無事に森を抜けられたってのに・・・・・なんでそんな悲しそうな顔をするんだよ。
「さようなら・・・・・」
そう言って彼女は振り返り、歩み出そうとした・・・・・
「ちょっと待って!!」
俺はとっさに呼び止める。・・・何となくそうしなければならない気がしたんだ。
「なあ、これから先どうするんだ?行く当てはあるのか?」
「い、いえ、特に決めてないわ。でも大丈夫よ、今までもそうだったし」
「また魔物に襲われたらどうするんだ?食料がなくなったら?村からの追っ手が来たら?」
「そ、それは・・・・・」
彼女は言葉を詰まらせる。
「それならさ・・・・・俺のところに来ないか?」
「・・・・・え・・・」
彼女は想像もしていなかったという風な驚きを隠せないでいる。当然だ、俺も何を言っているのかよくわかっていない。でも、開いた口が止まらないんだ。
「いやまあ、君が良ければのはなしだが・・・・。ほら、魔法使いがパーティーにいると心強いし・・・・君は料理も上手だし・・・・・・俺も・・・・今まで・・・・一人だったし・・・・・」
「・・・・・・!?」
途中から自分が何を言っているのか全く分からなかった。
静寂の中、先に口を開いたのはリリーシアのほうだった。
「そうね。それならもう少しだけお邪魔させてもらおうかな・・・・・」
「っっっ!!ああ、よろしくな」
そうして俺たちは、二人並んで歩きだす。さっきまでの彼女の道とは反対の・・・俺たちの町へと・・・
「あら・・・・?何か落ちたわよ?」
そう言って彼女はそれを拾う。・・・・ってまずい!それを拾われると!
「何かの布みたいね・・・・・。っっっっ!!!これって・・・・・」
彼女がその拾い上げたものが自分の下着であるということが分かるには、全く時間がかからなかった・・・・・。いや・・・違うんですよ。今朝起きたらたまたま近くに落ちていて、渡す機会を逃してしまっただけで。
「へえ・・・なんでこれがあなたから出てくるのかしら?」
「いやあ・・これには深い深い事情がありましてね・・・」
「一体どれくらい深いのかしら。私は一刻も早くあなたを深い深い眠りにつかせたいのだけれど」
瞳に少しだけ涙を浮かべながら、彼女は途切れそうな声で問いただしてくる。
「こ・・・この・・・・・変態!!!」
「ぎゃあああああああああ」
数多の氷塊が目の前に降り注いでいて、俺の意識は途絶えてしまった。
「・・・・・ちょっとだけ、うれしかったのに・・・・」
次回からはライアンの町にて編をしようと思います。