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軌跡の風  作者: 湯西川川治
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ビジョンを広げて

 新生松風学園アーチェリー同好会の初ミーティングは、関東大会予選翌日の月曜日だった。

同好会には1年生の男子2人、女子3人が入り、美紗を合わせて男子2人、女子4人となった。

 多目的教室でミーティングは行われた。教壇に立つ高槻の前に部員たちが椅子に座っている。

「顧問の高槻孝信です」

 まずは顧問高槻の話で幕を開けた。

「君たちとこうして出会えた事を光栄に思います。これから共に歩んで行きましょう」

 台本のような言葉を柔和にした後に、高槻は政治家の演説のごとく語り始めた。

「君たちにはビジョンを広げて、これからアーチェリーをしていってもらいたいと思います」

 1年生の面々は、緊張した面持ちで話を聞いている。

「噛み砕いて言うと、君たちには頂点を目指してもらいたい――つまり、インターハイ優勝だ」

 その言葉に一同の肩が少し動いた。少なくとも、瞳には疑念と戸惑いが少しばかり浮かんでいるに違いない。高槻はそんな彼らを気にせずに話し始める。

「始めに言っておきますが、この部活は、アーチェリーを競技としてやって行きます。遊びでも、趣味でもなく、競技として。つまり、常に上昇志向を持ってやってもらいたいという事です」

 一番後方に座っていた部長の風早美紗が思わずため息をつく。そしてすかさず目配せをする。――最初から厳しすぎませんか。

 それを無視して高槻は話を続ける。

「それだけではなく、部活と言う団体でやる以上、人間性の向上というものを競技志向以上に目標にしてもらいたい。将来社会に出て通用する人間になってもらいたいからです。例えば、平気で遅刻する人間を、企業は雇いますか? 上司の話の途中にあくびや余所見をしたら、“もう君明日から来なくていいよ”と言われると思いますよ。部活を通して、人間性の向上に努めてもらいたい」

 はい、と一同が返事をする。

 それを確認してから高槻がチョークで黒板に何かを書いた。そして一同に向き直って再び話し始めた。

「その一、挨拶をしっかりする。その二、時間をしっかり守る。その三、人の話をしっかり聞く。その四、感謝の気持ちを忘れない。この四つがアーチェリー部の目標です。特にその四は、アーチェリー部への入部を許してくれた保護者や、これから大会や対外試合でいろいろな人にお世話になったりしますが、そう言う人たちへの感謝の気持ちを常に忘れないでください。僕からは以上です」

 戸惑いの空気が渦巻きながら、遠慮がちな拍手が沸く。

「ということで、美紗、自己紹介大会」

 高槻の言葉を合図に、部長の美紗を筆頭に自己紹介が行われた。

 新入部員は5人。男子は、青海真生(あおみ まこと)桧山登(ひやま のぼる)の2人。女子は、西浦満留にしうら みちる、水池琴音、光原晴乃みつはら はるのの3人。まだ緊張しているようで、ぎこちない自己紹介だった。

 では明日から頑張るように、と言い残して高槻が教室を後にすると、真っ先にため息をついたのは美紗と紀久美だった。

「あー、なにを言い出すか冷や冷やしてたわ」

「失言しなくてよかったね、先生」

 ホントよね、と背伸びしながら美紗が嘆き、教壇に立った。

「じゃあ、つまらないと思うけど、部長の呟きを聞いてね」

 初々しいなと美紗は思いながら一同を見回して、きっぱり言った。

「変に上下関係を気にせずに、部員全員が仲のよい部活を目指して行きたいと思います。肩の力抜いて、ゆっくりと馴染んでね」

 一番肩の力が抜けていないのは、美紗だったが。


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