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公爵令嬢アリシア 兄

アリシア

 この話はおおよそ彼女の視点。

 ライバル令嬢として転生。中の人は都内在住の社会人成人女性


ヴァーシル王子

 ゲーム内で最高難易度を誇っていた攻略対象。アリシアの婚約者


アルバート

 ゲーム内での攻略キャラ。アリシアの兄。


 さて、公爵令嬢アリシアです。

 スマートフォン向け恋愛シミュレーションゲーム「金の指輪~特別な唯一無二 離れずにそばにいて~」には六人の攻略対処が存在する。

 わんこ系ドエス大商人の三男と、インテリメガネの伯爵嫡男と、熱血騎士系伯爵家嫡男と、天然系子爵家次男、完璧超人ヴァーシル王子、そしてふんわり系公爵家嫡男の六人だ。


 私が攻略したことがあるのは、そのうちヴァーシル王子と公爵家嫡男だけ。というのも公爵家嫡男はヒロインの七つ年上の青年で、ヴァーシル王子の側近をしているからだ。

 それゆえ、ヴァーシル王子との好感度が3以上にならないと登場しない。いわば隠しキャラなのだ。逆にいうとヴァーシル王子を攻略していると、高確率で公爵家嫡男とのエンドになる。


 完璧超人の王子を二人で支えていこう。みたいな終わり方で、各種イベントではヴァーシル王子の登場回数も多い。

 ので、ヴァーシル王子推しの私としてもなかなか美味しい。


 ……まぁ、今は私の兄なんですけどね。


「卒業の式典の後のダンスパーティでは、エスコートはヴァーシル殿下で間違いないか?」

「えぇもちろん」


 公爵令嬢である私をエスコートする相手は他にいない。

 因みに兄も同じく卒業生である婚約者をエスコート予定だそうだ。うん、まぁ、普通に考えて公爵家嫡男に婚約者がいないわけないよなぁ。


 次男だと長男のスペアって扱いだからいないことも多い。長男に何かあったら、長男の婚約者がそのまま次男にスライドってことが多いからだ。

 逆に、三男とかだと今度は逆に売却済みの場合も多い。貴族とのつながりを欲しがる庶民のお金持ちの令嬢とか、娘しかいない貴族とかの婿になるのだ。それもない場合は、学園とかでお相手を見つけるのが普通。

 なので、攻略対象の伯爵家嫡男ズにも婚約者がいるはずだ。


 それより問題なのは卒業式後のダンスパーティである。

 ここで王子からの演説という項目があるのだ。うん。すっごく嫌な予感がするよね?


 とはいっても別にヒロインをいじめていたわけではないしなぁ。それどころか、そうならないように手をまわしてたぐらいだし。


 語りつくされているだろう話ではあるが、身分の低い令嬢が上位貴族の、しかも婚約者がいる男性にベタベタとまとわりつくというのはそれは見事に醜聞である。私をいじめてください。排斥してください。と、大声で叫んでいるようなものだ。

 それを「まぁまぁ皆様」となだめすかせたのはそれなりに大変だった。断罪するどころか感謝してもらいたいわ。


 ――まぁ、結果人間扱いされずにはぶられてたけど。


 物理的手段に訴えようとするのを止めただけでも感謝してほしい。貴族令嬢のいやがらせってマジで笑えないわ。

 実家の男爵家ごとまとめてベシャッとするのだけは避けたので、帰る場所ぐらいは残っているだろう。うん。

 そんでもってゲームではヒロインを事あるごとにチクチクいじめていたライバル令嬢こと私だが、それ以外は特に何もしてない。


 というか、ダンスに教養に、お茶会に、王妃教育でヒロインに関わってる余裕なんぞなかった。

 自分のことだけで手いっぱいで、王子に愛人斡旋とかしている余裕はなかった。


 前世でごく普通の一般市民だった私が、いきなりハイソサエティな生活に馴染めるわけがない。もちろん公爵令嬢の記憶があるとはいえなかなか意識の統合が難しくて、なんだかんだ三年かかってしまったわ。


 それを何とか意識のすり合わせを行い、ヒロインの動向を伺いつつ、周囲の不穏な気配を適当にガス抜きしてやりつつ、与えられた課題やらに追われているうちに、気が付いたら卒業式になっていたというのが正しいわね。

 うん、持ち前の小市民根性が愚直に課題をこなし続けたともいう。どれだけ大きな山であろうとも、少しずつでも切り崩していればそのうちなくなるわ!


 本当にすごいわゲームの公爵令嬢! これだけこなしてヒロインへのいやがらせじみた教育したのかよ!

 心の底から公爵令嬢アリシアに賛辞を贈りたい。


 とはいえ、大変だっただけでもない。言うまでもないが、ヴァーシル王子は私の最推し。非の打ちどころもないようなイケメンだ。

 その顔を見ているだけで辛いダンスの訓練も座学も王妃教育もなんでもない! ……とも言い切れないですが、三割ぐらいは減らす効果があると思います。

 その分、その完璧超人の隣に立たないといけない重圧に、こう、胃がキリキリとするんですけれど。

 アリシアもさー。あれだよね。私こそがヴァーシル王子にふさわしい! みたいに思い込めるような性格だったらよかったんだろうけどさ。


 幼いころから「王家のために」「王子のために」と育てられた彼女は、そのために努力してきたのだろう。努力して、努力して、努力しても、完璧超人は完璧超人だった。王子の足元にも及ばない自分が「王家のために」「王子のために」出来ることは何だろうか?

 考えた彼女が王子が憧れる「特別な存在」を彼に与えようと思ったのは……。そう考えると少し切ないかもなぁ。


 いや、ゲームプレイ中のアリシア嬢はマジでめんどくさくてうざかったけどね。うん。


 あとは単純に、知らないことを知ることは楽しかった。自分の知らない世界の知らない歴史。知らない技術。それらを知ることは何よりの喜びだった。

 もともと攻略本の隅から隅まで読むタイプで、何なら舞台になった時代や国のことまで調べるタイプのオタクだったからなぁ。


 そんなわけで、ヒロインをザマァするために積極的に動けたわけではない。

 卒業式だって婚約者の王子がエスコートに来てくれた。

 ヴァーシル王子は今日も美しく、そつなく公爵令嬢のドレスや髪飾りを誉め、甘い声でもうすぐあなたと家族になれるのですね。と微笑んだ。どこまでも完璧だ。これが作られた笑みだとゲームを知らなければ思いもよらなかっただろう。


 ――ヒロインは別のキャラを選んだんだろうなぁ。


 ひとまず断罪だの婚約破棄だのという事態にはなるまい。そう思っていたのだ。


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