公爵令嬢アリシア ヴァーシル王子
アリシア
この話はおおよそ彼女の視点。
ライバル令嬢として転生。中の人は都内在住の社会人成人女性
ヴァーシル王子。それはスマートフォン向け恋愛シミュレーションゲーム、「金の指輪~特別な唯一無二 離れずにそばにいて~」での最難関攻略キャラ。
「金の指輪」は、ミニゲームで上げたパラメータと選択肢によって相手好感度が上がるシステムだった。もちろん、ゲーム内時間の1日でできる行動回数は決まっていて、ミニゲームばかりに集中していると、ゲーム内時間が経過してしまって好感度を上げるための選択肢やイベント自体が流れて行ってしまうこともある。
それでも一週間、ひと月、半年、一年と、キャラによっては違うけれど再チャレンジの機会はある。この辺りは「暇な時間に楽しむ」事が主流のスマフォゲームならではだっただろう。
で、このヴァーシル王子は六人いる攻略相手の中での超難関相手。必要になるパラメータの高さもさることながら、再チャレンジ周期が一年。グッドエンディングにたどり着くためには再チャレンジを待っている余裕がないキャラだった。
ちなみに好感度は五段階で、初期値はキャラによって違う。一番最初に攻略できるキャラは好感度3からスタートだ。
あ、ちなみに攻略キャラは一週目は全員選べず、ストーリーを進めるごとに順次解禁していく必要がある。ヴァーシル王子は五番目に解禁されるキャラで、そのためにはほかのキャラの好感度を四以上にする必要がある。
そしてヴァーシル王子の初期好感度は何と0。堅物眼鏡キャラですら1はあるのに、驚異の0。全く興味がないどころか視界にすら入っていない状態から這い上がるヒロインはすごい。
そして、私の生前の最推しのキャラだった。だからすごーく、すごーく。苦労した。正直、最初にヴァーシル王子を攻略対象に選んでしまったので、ほかのキャラはあまり覚えてない。いや、ヴァーシル王子を出すためにある程度の好感度の稼ぎ方は覚えているけれどね!
そしてそして、何より重要ななのは、ゲームで唯一婚約者の存在がはっきりしているキャラでもある。その婚約者こそが、公爵令嬢、アリシアその人なのだ。
「突然すまなかったね。体調はどうかな?」
「ご心配をおかけいたしましたわ。もうすっかり」
部屋着の上にカーディガンを着込み、ササッとメイドが髪を整えてくれたところで王子様はやってきた。見舞いだという美しいバラの花束を受け取り短く礼を言う。
綺麗でいい匂いだなぁ。花の品種改良ってどうなってるんだろうなぁ。と、現実逃避に考えながらもなんとか会話を続ける。公爵令嬢アリシアによる言語の自動変換機能ありがとう。
花をメイドに渡して部屋に飾ってもらおう。すごいなー。それだけで部屋が華やぐわ。
それにしても王子様ですよ。ヴァーシル王子ですよ。私の最推しですよ。
ヴァーシル王子はこの国の第一王子で、王位継承権第一でもあり、なんならすでに立太子も済ませている。銀髪に青い瞳の超絶イケメンでだ。アリシアが金髪に緑の瞳なので、二人並ぶと目が痛かった。無駄にキラキラしてた。
ちなみに主人公は明るい茶髪に緑の瞳の可愛い感じの美少女だったはず。アリシアは美人系と言えばいいのか、ちょっときつい印象を受ける。
それで、ヴァーシル王子と言えば、右側の前髪だけが長く、後ろは肩より下ぐらいの長さの髪を、細く後ろで一本で結んでいる。顔立ちはどちらかと言えば甘さが少なく、冬の冴えた白い月を彷彿とさせる。……作中でアリシアがそう言ってた。
なるほど。月と言うと儚い印象があるが、実際にこうして対面してみると「冬の」と季節を限定したのもわかる気がするわ。と言うか細かいことを言わなくてもイケメンです。間違いなくイケメンです。
しかもこの人あれですよ。学園の三年間、一度も主席を譲らず、武術も得意。話術も巧みなこともさることながら、ダンスの名手としても国内外で有名とのことだ。
なんだそれ、完璧超人か! そんなの婚約者が自分とか、マジでおなか痛い。
アリシアとヴァーシル王子の婚約は、それはもうどこをどう切っても政略結婚だ。何しろ生まれる前から決まっていた話だ。王家と公爵家が、お互いの子供が同じ年回りになるようにと時期を選んで種付けしたというぐらい初めから決まってた話だ。
性別が一緒だったらどうしてたんだろうな。その時は公爵家の方が性別を偽って婚約。その間に公爵家で第二子を仕込むと。大人って汚い! いやぁ、そうならなくてよかったわぁ。
まぁそれでもこの完璧王子の婚約者って公爵令嬢アリシアにとっても重責だったようだ。
「それではまた学園で」
「えぇ、学園で」
見舞いに訪れた王子が帰り。思わずほっと息をつく。完璧超人の婚約者は大変だ。
いや、アリシアも頑張ってきた。でも頑張っても相手が完璧すぎて若干卑屈になっていたのも確かだ。
王子の婚約者と言うことは、未来の王妃であり、国母だ。将来この国を担う相手を支えるのが役目となる。
うん、普通に無理。
正直、ヴァーシル王子が誰かに弱みを見せるとか、全然想像がつかなかった。
思えばゲームでもヴァーシル王子は甘い言葉をかけてはくれていたけど、弱みとか、そういうのは一切見せなかった。
そういうキャラなんだ~。で、ゲームはすむけれど、現実世界であるここでは違うだろう。……違ってほしい。もし本当に弱音とかそういうのがない人だと、正直どう付き合っていけばいいかわからない。
だって共感できないもの。明日仕事行きたくなーい。みたいな愚痴すらも理路整然と諭されそう。そういう事じゃないんだよ!
……ないんだろうなぁ。弱音。少なくとも公爵令嬢アリシアの記憶にはない。胃が、胃がキリキリする。ヒロインとやらがいるならば、何としてでもあの完璧超人をヒトにしてやってほしい。
ひょっとして、ゲームの公爵令嬢もそう思っていたのだろうか。だからこそ、あのエンディングなのか?




