上位貴族の令嬢たち
アリシア
この話はおおよそ彼女の視点。
ライバル令嬢として転生。中の人は都内在住の社会人成人女性
ヴァーシル王子
ゲーム内で最高難易度を誇っていた攻略対象。アリシアの婚約者
あの後、すぐに国王の祝いの言葉があり、公爵令嬢は自身の父と一曲踊ったのち、休憩室へと向かった。踊っていたときはわからなかったが、四曲続けて踊った足はガクガクと震えてきていのだ。
冷たい果実水を飲んでいると、兄の婚約者の女性や学園の友人たちも休憩室にやってきた。彼女たちは口々に彼女のダンスへの称賛を送る。
「ありがとう。でも、相手の力量に助けられましたわ」
「殿下とアルバート様もですが、やはりあの……」
「えぇ。素晴らしいひと時でしたわ。たとえ一曲だけでも、あの瞬間を糧にこれからも精進していきたいものです」
はぁと、感嘆がにじみ出る公爵令嬢の言葉に他の令嬢たちは顔を見合わせてうなずきあう。ルルーナが彼女も少年と踊ってみたかったが、国王のあいさつの後にはいつの間にか姿を消していたようだ。
それからしばらくはおのおのの今後の話などをしていたが、ふと、一人の令嬢がダンスホールの方へと視線を向けると声を上げた。
「あら、セオドア様、サリア様と踊られているわ」
「え? あらあら、ルッツ様はカリーナ様と。まぁまぁ、よろしかったですわねぇ」
おや。と、公爵令嬢は一瞬だけ目を見開く。
セオドアもルッツも乙女ゲームの攻略対象者だったはずだ。サリアとカリーナはそれぞれの婚約者である。ゲームではその存在がはっきりしていなかったが、こちらはゲームではなく現実だ。しっかり婚約者がいる。
セオドアは眼鏡をかけた黒髪の理知的な青年で、ルッツはふわふわの茶色い巻き毛の可愛い系の美少年。あとはもう二人攻略対象がいるのだが、どうやらどちらもヒロインのそばにはいないようだ。
セオドアとルッツはヒロインの取り巻きよろしく学園内ではよく一緒にいるのを見かけたのに。と、公爵令嬢は思いながらも視線で彼女を探す。するとヒロインは所在なさげな様子で壁の花をしているのが見えた。もちろん壁の花をしているのは彼女だけではないのだが、なぜか彼女の周囲だけぽっかりと切り取ったように空間が開いていたのですぐに分かった。
もちろん他の令嬢もそのことに気が付いているのだろうが、誰一人としてそのことは口にすることはなかった。
――貴族令嬢ってマジで怖いわ……。
公爵令嬢は改めてそう認識すると、新しい猫を被るべく気合を入れるのだった。




