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第四話 猛攻

 

 朱莉の元へと降り立った俺。

 すぐ近くにはプレイヤーと思わしき女性の姿も。

 だが出血が酷そうだ。意識はあるようだが、動かない。


「唯織……唯織!」

「おう、待たせたな、朱莉……って、はぶぅ!」


 なんか朱莉が思い切り顔を殴ってきた!

 というか、俺、今いかにも強そうな異生物の攻撃抑えてるんだけど! 現在進行形で!


「何が“またせたな”よ! 恰好つけてるかもしれないけど、逆にダサすぎ! 遅い! 遅すぎる!」

「え、えーっ……すんません……」


 なんだか緊張感無くしたが、あそこで倒れてるプレイヤーは不味いな。

 もしかして朱莉を守る為に……あんなになって……。


「悪いが……手加減できそうに無い、恨むなよ……」


 異生物を抑えていた盾。それを一気に押し返し、盾ごと吹き飛ばす。

 そのまま向かいの建物へと激突する巨体。そのスキに俺は倒れているプレイヤーの元へと。


「おい、大丈夫か?」


「……大……丈夫……」


「すまん、全然大丈夫じゃないな。朱莉、これでこの人を応急処置しろ、薬ぶっ掛けて傷口の上から軟膏塗りたくれ」


「え、それでいいの?」


「アバターだからな。あんた、アバターは解除するなよ。生身でその傷はとっくに死んでるからな。というか、あの血はあんたのだったのか」


「……血?」


 その時、唸り声を上げながら、凄まじい地響きと共に異生物が俺達の方へと向かってくる。

 だが狙いは俺だ。確実にその殺気は俺に向けられている。


「頼むぞ朱莉、その人を絶対死なせるなよ」


 俺はレグナントを起動し、空を駆って二人から離れる。

 思った通り、異生物は俺を狙って軌道修正してきた。やはり奴の目には俺しか見えていない。知能はそこまで高くない。


「見た目はオーガの巨大化バージョン……亜種か? ハルオーネでも見た事無いな」


 まずは様子見程度に、先程まで使っていたレグナントを炸裂させる。着弾時に爆発するアレだ。無数の光が一気に異生物へと向かい、そのまま炸裂する。


「……マジか」


 異生物の体には傷一つ付いていない。大抵はあれで一撃なのだが。恐ろしく外皮が硬い。レグナントの攻撃に耐えるとは。


「でも物理も……ダメっぽいな」


 見たところ、先に戦っていたあの人の武器は大剣だ。刀身が粉々に砕かれている。あれでも傷を付けられなかったようだ。物理にもレグナントにも耐性を持つとは……確実に今まで見た事のない異生物だ。


「まあいい、やり方はいくらでも……」


 と、その時、突如として異生物が無数の光を放ってくる。


「っな……!?」


 間一髪で避けるが、その光は俺へと追従し、再び狙ってくる。

 あれは……間違いない、たった今俺が放ったレグナントだ。まさかあの異生物……俺のレグナントをコピーしたのか?


「まさか……レグナントを()()()のか?」


 俺は全く同じレグナントで応戦。異生物が放った光を全て撃ち落とす。

 もし本当にレグナントをコピーされたのなら、迂闊に他のレグナントを使用するわけにもいかない。使うなら……一撃で仕留めれるような物で……


「そんな都合のいい物……あるか? もし効かなかったら……」


 そのレグナントもコピーされてしまう。

 強力な物でないと倒しきれない。だからといって、コピーされてしまえば厄介どころの話ではなくなる。


「くそっ、猫さんさえ居れば……」


 レグナントが駄目なら物理で攻めるしかない。あの大剣でも傷を付けられなかったようだが、猫さんの格闘術は計り知れない破壊力を秘めている。たぶん。


「猫さん……気づいてくれ!」


 俺は上空へと、指先から一発の光線を発射する。ある程度昇った所で、それは信号弾のように光り輝く。


 あとは祈るしかない。猫さんじゃなくてもいい、手練れのランカーが来てくれれば……

 その時、異生物は再び俺へと無数の光を放ってくる。大きく口を開き、そこから勢いよくミサイルのように。


「っく……この野郎……!」


 俺はさらに上空へと逃れながら、同じレグナントで応戦、反撃する。

 このレグナントは既にコピーされている。あまり効果は無さげだったが、ならば数で勝負だ。そっちが十発打ってくるなら……俺は百万発打ってやる!


「消えろ!」


 背中から生えた翼を羽ばたかせ、舞った鱗粉が異生物へと向かう。それを何度も繰り返す。朱莉達まで巻き添えを食わないように、加減しながら。


 無数の光弾が舞い、異生物へと着弾。そのまま炸裂。土埃が沸き上がっても、連続して放ち続ける。


「ど、どうだ……って、しまった……これフラグじゃ……」


 次の瞬間、一発の閃光が土埃の中から放たれた。咄嗟に避けようとするが、光線に翼を貫かれてしまう。


「くそっ! っていうか今のは……さっき俺が打った……」


 あの信号弾だ、あれは奴に直接当ててはいない。にも関わらず打ってきた。つまり奴は見ただけでレグナントをコピーしてしまう。


 地上へと激突寸前、俺は再び翼を構成し、浮力を得て衝撃を殺しながら着地。

 そのまま異生物へと目線を移すと、そこには俺が最初に見せた盾のレグナントを発動させる異生物の姿。


「……当然だわな……」


 しかし盾を出したという事は、奴は俺の放った光弾でダメージを追うと判断したという事だ。しかしどの道、このままではジリ貧。やはり一撃で沈めれる程のレグナントで……


 異生物は盾を構えたまま、俺へと突っ込んでくる。

 あの盾はそこまで強力な防御力を備えているわけじゃない。簡易的な防御手段に過ぎない。

 

 次のレグナントで盾ごと頭を吹き飛ばす。

 俺は自身の取得するレグナントの中でも、瞬間火力では随一の物を繰り出そうと構える。


 だがその時、異生物は突然方向を変え、朱莉の方へと。


「んなっ! ふざけんな! 朱莉! 逃げろ!」

「え?」


 駄目だ、間に合わない。

 もうコピーされても構わない、奴の注意を引ければ……と、俺がレグナントを放とうとしたその時


「にゃーん! 真打登場にゃん!」


 マジでベストなタイミングで猫さんが到着した。

 ビルの上から、まるで流れ星のように飛び蹴りを放つ猫さん。そのまま盾を破壊しながら異生物の顔面へと、その恐ろしい肉球を炸裂させる。


「猫さん!」

「お待たせにゃ! 珍しく骨のあるやつみたいだにゃ?」


 猫さんの飛び蹴りをモロに食らった異生物。流石に効いているか。唸り声を上げながら、生まれたての小鹿のように足を震わせている。


「猫さん! そいつ、レグナントをコピーしやがります! もう盾も光弾もコピーされてる! 気を付けて!」

「ふぅむ。オーガのくせにエルダー系の特技もってるにゃね。任せるにゃ!」


 猫さんは異生物へと突撃。そのまま再び顔面を蹴り上げ、まるでサンドバッグのように連打を食らわせていく。流石猫さんだ。大剣でもレグナントでもビクともしなかった外皮へと、確実にダメージを蓄積させている。


「猫さんさえ来てくれれば……俺の本領発揮だ……」


 俺のレグナントの主な用途は支援。

 単純に運動能力を上昇させたり、空気抵抗を軽減する物など。


 いや、待て、ここでそれを繰り出してアイツにコピーされたら……。


 ただでさえ強力なスペックを持つ異生物。もし支援レグナントなんて取得されれば、もう手が付けられなくなるのでは?


「くそ……下手に手が出せん……」


 奴は俺との相性最悪だ。ここは猫さんに任せるしか……。


「にゃ? うお!」

 

 その時、異生物が見覚えのある構えを取り、猫さんの動きに合わせて“技”を繰り出した。

 まさか……猫さんの格闘術まで……?


 レグナント限定のコピー能力じゃなかったのか?!


「にゃ? にゃ?! ちょ、ちょっと待つにゃ!」


 異生物は猫さんの、いや、それ以上のスピードで猫さんの格闘術を繰り出す。

 猫さんは一気に防戦一方に。


「アイツ……滅茶苦茶だ。レグナントも格闘術も……」


 いや、待て、あり得ない。

 そんな異生物、ハルオーネでも見た事が無い。

 知能の高い異生物なら、形だけ格闘術を真似てくる奴は居た。だがあいつは既に猫さんを圧倒している。数秒、その技を受けて、見ただけで。


「新種の……異生物」


 不味い、このまま俺達が戦い続けたら、奴は技術を吸収する一方だ。俺達はあいつの教育をしているような物じゃないか。


「猫さん! 一端退きましょう! このまま戦ってても……」

「にゃー! 負けん、負けんにゃぁぁぁ!」


 あぁ! 猫さんがバーサク状態に!

 あれはあれで頼もしいが、体力が尽きればそれまでだ。このままでは猫さんが……

 

 ……体力?


 そういえば……奴の、異生物の体力だって無尽蔵じゃないはずだ。ただでさえ使い慣れてないであろうレグナントを連発してる。

 

 いや、それより俺は重要な事を見落としてないか?

 奴は未だ、俺が終始見せ続けた空を飛ぶためのレグナントを使っていない。


 ただ使ってないだけか? それとも……


「猫さん……許せ!」


 俺は再び空へと舞い、先程と同じ光弾を繰り出す。


「行け! 猫さんごと吹き飛ばせ!」


 無数の光弾が異生物と猫さんへと。そのまま着弾し、激しい光を伴いながら炸裂する。


「にゃぁぁぁぁあ!」


 猫の断末魔が聞こえたが気にしない。

 あの人はこの程度では死んだりしない。問題は……


「ガァァァァ!」


 咆哮する異生物。再び俺へと光弾を放とうと大口を開ける。

 だが猫さんがそれをさせない。大口を開けた異生物の下顎へと、回し蹴りを炸裂させる。


 そのまま異生物はいったん猫さんから距離を置き、俺へと視線を移してきた。

 

「……どうした、空を飛んでみろよ……」


 異生物は飛ばない。いや、飛べない。

 やっぱりだ、奴は飛行するレグナントは使えない。理由はデカいからとか当たり前の事が頭に浮かぶが、もっと単純な仕組みだ。


「奴は形と、その動きを模倣してるだけだ。猫さんの格闘術も、俺のレグナントも……」


 俺の飛行するレグナントの翼は、支援魔法を寄せ集めて作った俺の完全オリジナル。翼の見た目には、ぶっちゃけ意味はない。形だけ真似ても飛べるはずが無い。


 猫さんの格闘術にしてもそうだ。奴が猫さんを圧倒したのは最初だけ。それもそのはず、奴は猫さんが見せた技しか使えない。もはや奴の打撃はテレフォンになりつつある。


「猫さん! 支援ありったけ掛ける! 一気に叩きのめせ!」

「にゃぁぁぁ! 待ってましたーっ!」


 奴が真似出来るのは形あるレグナントのみ。当然支援系に形などない。多少翼っぽいのは生えるが、それを模倣した所でただの飾りだ。


 宣言どおり猫さんへ、ありったけの支援を掛ける。

 空気が震えた気がした。来た、来たぞ、戦う猫の……本来の姿が。


「にゃぁぁぁぁ! いくにゃぁー!」


 まあ、姿自体は別に変わりはしないんだが。

 猫さんは一瞬で間合いに入り込み、そのまま防御不能の打撃を連打する。いくら体が岩石のように固くとも、的がデカすぎる。そして何より、今の猫さんの肉球は岩石どころか……


「シャーッ!」


 もうオリハルコンですら削り取ってしまう程に鋭い。

 よし、このまま押し切れる……!


 だがその時、異生物が咆哮した。

 見えない壁が俺にぶつかったと感じる程に。


「ギニャー! 耳、耳ぃ!」


 やばい! 聴力が優れてる猫さんにとって、今のはスタングレネードに等しい!

 なんて奴だ、猫さんのそんな弱点を見抜いて……


 しかし異生物は転げまわる猫さんを襲おうとはしない。

 そのまま蹲り、だんだんと……背中が盛り上がってくる。


「まさか……」


 盛り上がった背中はひび割れ、そのまま……中身、いや、本体が姿を現した。


「脱皮しやっがった!」

「にゃ、にゃんてこった……」


 しかも一回りデカくなってないか?! 一体どんな仕組みだ、滅茶苦茶すぎる!


「で、でも……今の私は無敵にゃー!」

「待って猫さん! そいつたぶんかなり強化されて……」


 遅かった。猫さんはそのまま自らが指南した回し蹴りによって弾き飛ばされてしまう。

 あのデカさでなんて身のこなしだ。完全に物理法則を無視してる。もう奴はあの兵器……ゼルガルド並みにデカい。十メートル……いや、十五メートル? 角まで伸びてるからそれを合わせれば……


 奴が屈んだ。そのまま……跳躍。

 そしてすぐそこ、俺の眼前にまで昇ってくる。


「んなアホな……」


 コイツ、この巨体で楽々俺の位置まで。低いビルの屋上なら、ダイナミック出社出来る程に。


 やばい、俺に近接戦は無理だ。盾も間に合わない。

 狂暴が爪が俺を狙う。あれで貫かれれば、いくらアバターでも……


 目の前に死が迫ってくる。

 完全に油断していた。いや、俺は本気だった。朱莉の顔が浮かんでくる。今日の飯は? 昨日、朱莉と何を話した? 朱莉の手の感触は? 朱莉の……


 朱莉の顔で一杯の走馬灯。

 いやだ、死にたくない。こんなところで死んでたまるか。

 避けろ、避けろ! 当たってもいい、致命傷さえ避ければそれで……!


 時間が再び動き始めた。

 狂暴な爪は俺には届かなかった。その前に新たな巨体が奴へ体当たりしたからだ。


「ゼルガルド……! 軍か!」


 気が付けば辺りに軍人が集ってきていた。朱莉とあの重症のプレイヤーも、軍に保護されている。そして猫さんは……あぁ、無事だ。吹き飛ばされビルに突っ込んだ猫さんが、ヒラヒラと肉球をこちらに降っている。


『おい、そこのプレイヤー! さっさと失せろ!』


 ゼルガルドから響く拡声器の声。恐らくパイロットか。

 おのれ、今まで俺達が戦ってたってのに。獲物を横取りしおって!


 よし、地獄に叩き落してやる。


「ありがとうっ、お兄さん!」


 思い切り可愛く声を発しながら、同時にウィンク。

 ゼルガルドの動きが一瞬止まり、パイロットは『お、おぅ』と照れくさそうな声を出した。


 うはははは! 俺は男だ! そのまま可愛い俺に片思いしてるがいい!

 まあ、命の恩人になんてことをしてるんだと、多少の罪悪感はあるが。


 そのまま俺は猫さんの元へと。

 抱きかかえて連れ出し、朱莉達の元へと向かおうと……


『この……化物め!』


 その時、ゼルガルドのパイロットの声が再び響いた。

 もみ合いになりつつも、ゼルガルドは異生物の腕を引きちぎり、至近距離からチェインガンを腹部に向けて連射。もう勝負はついたと思った、その時……異生物はパイロットが搭乗していると思われる胸部のコクピットの部分を齧りだした。


「なんてしぶとい奴だ……」

「にゃー……ちょっと不味いんじゃにゃい?」


 コクピットがかみ砕かれようとしている。マジか、あのままじゃ……パイロット食われるんじゃ……


「猫さん、まだ元気ありあまってる?」

「もちのろんにゃ。次は私の番にゃ」


 俺は再び猫さんへと支援レグナントを。そして自分にも。


「艦上都市の軍に恩を売って……シオンさんに褒めてもらおう」

「にゃぁ、そうするにゃ」


 俺達は再びビルから飛び、異生物の元へと。

 

 もう……眠れ。お前達の世界に……帰れ。





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