終わりと始まりの1年(2)
昼食を私の隣で揚々と食べる男。私の他にももう一人だけ、屋上のドアを開けることが出来る人。それが秀才君こと錦城秀明。
容姿はかなり整っており、短髪の黒髪で少しだけ癖っ毛なのか、いつも毛先がクルッとしているのが印象的だ。
彼が話しかけてきた時以来、少しずつだが声もきちんと出せるようになってきており、不本意だが距離も少しずつ縮まってきているような気がする。本当に不本意だが……。なぜ不本意なのかは分からない。こんな感情は初めてだった。
彼は学校イチのイケメンだ。同級生だけにとどまらず、女性の先輩からの人気も凄い。そして、なんとも素晴らしいことに男性受けも非常にいい。男性側からしてみれば、女性の扱いや対応が良くできている模範的な存在だそうだ。ちなみに、いつの間にか彼のことを『師匠』と呼んでいる人は少ないそう…。最初の頃は彼は嫌がっていたが、日が経つにつれ「もういい………勝手にしろ…」とかげながらボヤいていた。
人気者は大変だなっ☆と心の中で思った瞬間でもあったのだ。
そんなこんなでここ数ヵ月で、誰かが思いきってファンクラブを作ったそうだ。そのファンクラブには、1年、2年、3年生と学年問わず、男女問わずの生徒が参加している。全く凄いの一言だ。
そんな人気者の彼を独り占めしている(別に独り占めしている訳ではないが)と考えればなんだか、ファンの人たちに対して悪いような気がする。だから何となく、私としては余り関わり合いを持ちたくない人No.1なのだ。下手をすればファンの人に目をつけられ、今より余計にいじめが酷くなりそうで怖い。なので少しずつでも距離を取ろうとしているのだが、彼は人目を避けては私に構ってくるのだ。
本当は、寂しがり屋さんなのでは?と今では考えてしまっている。それとも今でも私に変な同情をしているのか、それは定かではない。本当に変な人だ。何がしたいのだろう。だけど、彼の本心は全く見えないのでどうしようもできない。
「おいっ。俺がここに居ていいのか悪いのかどっちなんだよ…。嫌そうなのが顔に出てるぞ」
「え?!」
いつの間に私は彼に対して怪訝な顔になっていたのだろう。自分の顔を両手で掴み、モミモミする。
─別に嫌だとは思ってはないのだ。ただ、彼は自分の周りから出てるオーラが凄いから直視出来ないわけで………。って、それは全部言い訳にしか過ぎない。
「お前…。最近、本当にいい性格してるよな。最初はあんなに可愛らしい感じだったのに、今ではなんというか、俺に対して遠慮が無いっていうか」
彼はそういいながら私の隣に腰掛けてくる。手に握っていたのは、食堂の近くで販売されているパンだ。メロンパンにクロワッサン、マフィンにサンドイッチ…一体どれだけ食べるんだろう。男の子って、やっぱり食欲旺盛なのだろか。私は今日はお弁当だが、私がパンを食べるとしたら一つでお腹一杯になりそうだ。
そしてこの屋上には私と彼しかいないので、避けることもなければ場所を作ることもない。自由席である。
っていうか、私ってそんなに変わったかな?確かに最初の頃に比べたら、まぁまぁ心はオープンになっているような気もしなくはないが……。
「……え?そ、そうですかね?」
「ああ。まあ、最初のころに比べたら今の方がいいよ。俺はこっちの方が好きだな」
「!!」
(これは、こくは………って、んな訳ないじゃん!!バカなのーわたし~っ!)
「何やってんだ、お前?」
「…っは!い、いえ、別に何でもありませんよ!アハハっ!」
いつの間にか自分の世界に入っていたらしい。彼が私を現実世界に連れ戻させてくれなければいくら二人きりだと言っても、今頃私は大恥をかいていたのに違いない。
地味に感謝をしなければ……!
「さてと、いただきまーす」
彼は持ってきたパンをがぶり、と食べるのではなくハムッと食べている。なんとも可愛らしい食べ方だ。っていうか、ハムッと食べているくせに食べ方が異常に早いのは私の気のせいだろうか。たくさんあったパンの山が次々と消えていく。
それに対して私は唖然と口を開けて、ただただ見守り状態だ。
(一体どんな胃をしてるんだろう……?)
ジーーー。
「………なぁ、さっきから目線が痛いんだけど。っていうか、すげー食べずらいんだけど」
「ぅえ!あ、ごめんなさい。別に何でもないから気にしないで!!」
両手をブンブン振り回す。彼は「あっそ」とそっぽを向きながら、黙々と食べている。
(あれ?耳がほんのり赤くなってる?)
不意に気づいてしまったことだが、彼の新しい一面発見だ。彼は照れると耳が赤くなるっ!心のノートにメモっておこう。そしていつかは、この(大したこともない)弱点を彼に脅されたときに………。って効果あるかなこれは?
時間差で気づいてしまったがあまり効果はないような気がしてならない。
「おいっ。いつまでボーっとしてるんだよ。早く食べないと昼休みが終わるぞ」
「っあ、そうだった!食べないと」
「そうだった…て。お前って結構変なヤツだな。新たな一面発見だな」
「!」
驚いた。さっき私が思ったことを今度は彼が同じように思っている。お互いに新たな一面を発見をし、それがより深まっていくことで普通だったら友情に発展するのだろう。
中学までの私だったら、そのことに対してはなにも違和感を感じずに受け止めていただろう。でも、今の私には分からない。そのような気持ちはとうに捨ててしまった。友達の作り方も忘れてしまった私はこれからどうしたらいいのだろうか。……そんなことを考えている暇があったら、自分からガンガン前に突き進んでいるに違いない。彼に手助けされなくてもできる自分にならないといけないのに。
全く、情けない話だ。他人にとっては聞いて呆れるに違いない。
「どうした?さっきから、手が動いたり止まったりして。ついでに言えば、顔が明るくなったり暗くなったりしてる。なにか相談があるのなら答えられる範囲ならば答えるけど」
「あ、ううん!大丈夫。ただ、明日は終業式だなあって思っただけだから」
「ま、確かにな。早いものだなぁー。1年あっという間だった」
「うん、そうだね」
今度はちゃんと手を動かし食べる。彼への返答としては嘘まるっぱちだけれど、変に心配させるよりはこれでいい。
隣を見ればもう食べ終えている。私といえば、おかずが後少しだけ残っている状態だ。急いで口に頬張り、一生懸命モグモグする。
それをたまたま見ていた彼はいきなり吹き出し笑いだした。
「ぷっ、あはははっ!!」
「???」
私としては訳が分からない。
「ふっ、あははっ!なんだか、ふっ!………リスみたい。そんなに急いで頬張らなくても、いいのにっ」
「─!」
別に私としてはそんなつもりはなかったのだが………まあ確かに、口にたくさん頬張ってしまったのは事実だが、そこまで笑わなくてもいいのでは~!
途端に恥ずかしさが込み上げてくる。今の私は真っ赤な茹でダコ状態であろう。
「……くっ!ふふふっ!」
(いつまで笑ってるんだこいつ~!)
彼は今まさに爆笑の最中。こっちとしては、たまったもんじゃない。
それからしばらくして、
「ふぅ。笑ったぁ」
「あんまり笑わないで下さいよー!」
「ごめん、ごめん。つい、ね」
イケメンだから許されるセリフだ。全くもぉ。と言いたくなるけれど、まだ私は真っ赤であるだろうか、上手く言葉を喋れない。
私がいつまでも手で仰ぎながら顔に風を当てていると。
「さてと」
と言っては彼が立ち上がった。私がどこに行くのだろうとハテナマークを浮かべていると彼は不思議そうな顔をして言った。
「ん?そろそろ昼休みが終わりそうだから行くよ。っあ、そうだ。今日の放課後教室で待ってて、一緒に帰ろ」
「え!?」
「異論は認めん!じゃあまた後で!」と言っては去っていった。
最後の置き土産が凄すぎて私の頭はショートしそうだった。いや、もうしているかもしれない。彼と一緒に帰るのは今回が初めてである。
(私の心臓もつかなぁ~~……!)
私がいつまでもふにゃふにゃとしていると、掃除のチャイムがなり響いた。
ありがとうございました!
(3)へと続きます(^3^)/