3話、私のとっておきの場所(1)
翌朝。
いつも通りの日常が始まる。
ガラガラガラ………。
ドアを開けて教室に入ると、私の姿を見てはクスクスと笑っている。
そう、いつも通りの日常なんだ。
私はいつもの席に着き、机上のメッセージを見た。
今日は″お前なんか死ねばいい″それのみだった。
(全く、暇な人達だな)
手を頬に付きながら、鉛色の窓を見る。今日は気分も天気も重い。それでも、ふいに昨日のことを思い出す事がある。
いきなり私の前に現れた秀才君こと、錦城秀明。
『あんたさ、今のままでいいのか?自分を変えたいとは思わないのか?』
『それに何故、助けを求めないんだ?』
『ボーっと突っ立てるのが一番ダメだ。少しでも行動にしなければならない。そうすれば、自分自身になにかと自信がつくはすだ』
その言葉が昨日はあれから下校途中も、起きている時も、寝ている時も彼の言葉が私の脳裏にフラッシュバックする。
何度も何度も。
振り切りたくても、振り切る事が出来ない。それくらい、彼の言葉が私の胸に突き刺さった事になる。
それでも彼は、よくそんなことを簡単に言ってくれる。彼は生まれ持った才能や、元から人に好かれるから、そんな事を躊躇無く言えるのだ。
(人の気も知らないで……)
最初から人に物を言えたら苦労なんてしない。
何も気にせず言いたい事が言えたらどんなに楽なのだろうか。
キーンコーンカーンコーン……。
ショートホーム開始のチャイムの音で私の考え事は、カチッと他の事に切り替わった。
「うーしっ!今日も始めるぞー。日直、ごうれーい」
と言いながら、私達の担任である富中先生が入ってきたのだった。
***
「………っーわけだ。以上。ちゃんと1限の準備をしてから休めよー」
ガラガラガラ……。
今日もいつも通りにホームルームを終えては去っていった。
教室中を見渡せば、男女それぞれのグループがいくつか出来ている。それを見るたびに、私もあの輪の中に入りたいと何度思ったことか。
私はいつの間にかいじめのターゲットにされて、助けてくれる人は誰もいない。もしも、私が突然いなくなっても誰も気づきはしないだろう。
─なら、いっそのことこのまま本当に死んでしまおうか?
皆の望み通りにしたら皆の心の中は少しはスッキリするのだろうか?皆の心のモヤモヤを少しは解消出来るのだろうか?
いや、待てよ………。
(そうか、そうだよ!悩んでる暇があるのなら、とっとと死んじゃえばいいんだ!いつまでもこうして惨めに生きて行くんだったら、そうすればいいんだ…)
思い立ったら吉日、即行動。
皆に見えないように下を向き、ニヤッと笑を浮かべては私の死に場所へと向かう。
いじめが始まった当初から私の死に場所はとっくに決めていた。
そこは誰にも見つからない場所であり、尚且つ誰にも邪魔されない。死ぬには持って来いの場所。
授業開始の3分前。
私は一人、教室を出た。
走りはせずに歩いて向かった。
とっておきの場所へと。
***
ビューっ。
カァーカァー。
ここはどこだかお分かりいただけるだろうか?
上を見上げれば灰色の分厚い雲に覆われている。ちなみに午後からは雨が降るのだそうだ。傘を持ってきておいて良かったと思いつつも、その傘も今日でいらなくなるとなれば、なんだか傘が可哀想になってくる。
(今日で主を亡くすことになるなんてね…)
物に感情を持つようになるとは良いことなのだろうが端からみたら可笑しな人だ。
そして、今日は風が一段と強い。これから台風でも来るのでは、と思うほど。
向の校舎のアンテナの方を見ればカラスが先程から「カァーカァー」と鳴いている。しかも一羽とかではない。三、四羽といる。
キーンコーンカーンコーン……。
1限開始のチャイムだ。教室にいるよりもより鮮明に大きく聞こえる。
さて、ここまでくれば誰だって予想はつくだろうか?
そう、私は今屋上にいるのだ。
私達の教室棟とは隣接している特別教室棟だ。4階の階段を上がった先が屋上だ。ここの屋上に上がるための階段は基本的に紐で仕切られており、立ち入り禁止の札があるのだ。
それでも私はそれを避けて屋上に向かった。ちなみに鍵はと言うと、ドアが古びているせいで工夫しないとなかなか開かないようになっている。そのため、先生達は鍵をかけると余計に開かないことを懸念して、立ち入り禁止という名目で鍵をかけていない。
屋上は誰にも見られないし見つからない。自殺をするにはもってこいの場所であるには間違いない。しかも今日は偶然にも気候さえも自殺するシチュエーションにはぴったりなのだ。
(天候さえも私に見方をするとは…恵まれているのか、いないのか)
そんなことはどうでもいいと、頭を振り切る。
よし!と覚悟を決めては、手すりの方に向かう。皆が驚かないようにときちんと場所も決めてあるのだ。
例えばだが、私が窓ガラスの方に落ちたとしよう。どこかのクラスがそれを見たら当然のごとく驚くだろうし、騒ぎにもなる。どこの学校の校舎も長方形のボックス式なので、場所さえ間違わなければ誰にも落ちているところは見られないし、気づかれないのだ。もし、気づいたとしてもお昼頃だろう。でもその時にはもうこの世にはいないと思う。
私は死ぬなら出来るだけ安楽死がいいと思っていたのが、どうやら無理そうだ。
手すりに近づいた私は下を見る。思わず、
「ゴクッ…」と唾を飲み込む。
下には何もなく、固く踏み潰された日陰の地面のみ。正直言って、
(痛そう、そして高い)
それしか思い浮かばない。
まあ、今からそれに私はダイブをするのだが。
ここでふと、あることに思い至った。
(あ、家族に遺書を書いてない)
肝心なことを忘れていたー!やはり勢いだけで来るべきでは無かったと今更ながら後悔する。私にとって遺書を書くのは必要な事だ。なんて言ったて、大好きな家族なのだ。いきなり私が自殺をしては驚くだろうし、悲しむと思う。
「─しまったぁ~」
手すりに捕まりながら座り込む。そしてあることに私は気づいたのだ。
(あっ、声が漏れちゃった。でも誰も聞いていなし、まぁいいかっ)
ウンウンそうだそうだ。
だがここで勝手に自己満足するには早すぎたのだ。なぜなら、
「何がしまったぁなんだ?」
「!?!?!」
ビクッ!!としながら体こど屋上の入口を見てみると、なんとあの男が立っていたのだった。
(只今、授業中なのでは?!)
そう思ったのだか、まず自分自身が授業をサボっていることを自覚するのにコンマ数秒かかってしまった。
私のとっておきの場所(2)は明日の20時に投稿させて頂きます。