小話、俺と彼女
今度は秀才君目線の話になります。
あのとき誰にぶつかってしまったのか、そのときの話が明確になると思いますので、ぜひぜひお楽しみ下さいませ。
改めてまして皆さんこんにちは。
俺の名前は錦城秀明だ。皆からは秀才と呼ばれている。
勉強はもちろん得意であり、スポーツも割りと好きだ。
身長も180㎝はあるので、何度もバレー部やバスケ部の勧誘に誘われたことか。今はもう10月の半ばだと言うのに、諦めず今日も言い寄ってくる。
そして俺の周りには可愛らしい女の子達が常に俺を囲んでいるのだ。「カッコいい」や「ステキ」など。正直言って、すげーウザイ!と言うのが本音である。
俺の好みは香水をプンプン撒き散らしている可愛らしい子ではなく、清楚系な子が好きなのだ。
でも、失礼な態度を取ることは俺の紳士に反するので常日頃、愛想だけは忘れないようにしている。
だが最近気になっている女の子がいるのだ。もちろん恋愛的な意味ではなくて、1年の中でいじめのターゲットにされているという有名な女子。清原美琴だ。
俺がいる1年1組と清原さんがいる1年6組では大部距離は離れているが、それでも知らない人はいないと言う。
正直言っていじめぐらい自分でなんとかしたらいいのに、と強く思っていたほどだ。彼女の間に何があったのかは分からないが、いじめのターゲットにされたくらいだ。よくありがちな、そうとう地味なつで、大人しいのが原因だったのだろうか。
それとも、もっと別な理由があったのだろうか。
(かつての俺がそうだったように……)
嫌な記憶がもやもやと蘇る。今もなお泥沼の中から抜け出せないでいる自分がいるのだ。
(目眩がしそうだ…)
ブンブンブンと心の中でその記憶を振り落とす。
それはそうと、なぜ彼女のことが気になっているかというとそれには理由があるのだ。
─今から3ヶ月前の7月の前半。
俺は夕方に掃除当番をしていた同じクラスの男子に、「秀才く~ん!俺、今日は早く帰らないといけないんだぁ!少しでいいから手伝ってくれない?」と言われたのだ。
でもまぁ断る理由も無かったので「いいよ」と一つ返事で手伝うことにした。
それから10分後……
俺はそろそろ何もすることは無くなったのでふと、廊下にあったゴミ箱に目をくれた。そこには無惨にも程があると言えばいいだろう。ゴミがゴミ箱から溢れていたのだ。
(これは、見事に大惨事だな…)
しかし放っておくことも出来ないので、教室でホウキをしていた当番に声をかけた。
「なぁ!これ、ごみが溜まってるから持って行っていいかー?」
「マジでー?悪い!ありがとぉ!」
こうして俺は溜まりに溜まったごみ袋の口を縛り、ごみ処理場へともっていったのだった。
***
「ふぅ、さてと、戻るかー」
ゴミを置いたあとにひと息ついた俺は教室に帰ることにしたのだ。だが、俺はここで気を付けるべきだったのだ。体育館裏から帰るために左にに曲がった瞬間、
ドンッッ!!!
「きゃっ!」
「うわっ!」
(しまった!誰かにぶつかったっ)
「すっすみ…………」ません、と言えることはなく、
「すみませんでしたっ!では!」
とチラッと顔を見ただけだったが、黒みがかった茶色の髪をおさげにしていた女の子だった。そして、その女の子は急いでごみ処理場へ向かっていったのだった。その女の子の後を追うようにして目を向け、
「っあ!おい、待てよ!!」
と声はかけたが、恐らく相手には届いていないだろうと確信する。
俺は翌朝学校で同じクラスの連中に聞きまくった。最初は「知らない」だの言っていたのだか、徐々に徐々にその子の正体は判明することになるのだった。
─それから1ヶ月が過ぎた。
あの日以来、1年の間ではある噂が広まるようになったのだった。それは、「6組の清原美琴があのターゲットにされている」と言うことだった。
(清原美琴さんって、どんな人だろう─?)
俺は正直「あの」の意味が、その時はまだ分からなかったし知ろうとも思わなかったのだ。
***
─それからもう1ヶ月が過ぎた頃、今度は噂ではなく明確な話になっていたのだった。
それは「6組の清原美琴がいじめのターゲットにされている」という事だった。その話はいつしか大々的に知られるようになり、1年の間では誰も知らない人はいないというほど広まっていた。もしかしたら、2年や3年の間でも広がっているかもしれない。
その話しは当然のこどく俺の耳にも入ってきた。最初は「あの」の意味は分からなかったが、まさかそれが「いじめ」を示しているとは夢にも思わなかったのだ。
それから俺は、彼女がどんな人なのかを探ってみることにした。
「清原さんって、どこの席にいるの?」と興味本意ごとく取り巻きの女子に聞いてみたら、なんとビックリ。
6組の一番後ろの窓側の席。黒みがかった茶色のお下げの女の子だ。しかも、前に一度俺がぶつかった人であり、探していた女子でもある。
(まじかよ……。あの人が、清原美琴─であり探していた女子…)
なんだか拍子抜けしてしまったと言えば失礼に当たるだろうが、そう思ってしまったことは否めない。
それからの俺は彼女のことを見ていた。見ていたと言えばストーカーみたいに聞こえるだろうが、実際はそうではない。たまたまだが、自動販売機が1年のフロアにはちょうど6組の廊下にあるのだ。その自動販売機は今度、別の場所移動するらしいのだが今の俺にはありがたかった。
昼食時間などチラリと見れば、いいようにこき使われているのが目に見える。しかも言われるがまま。
(これじゃあ、一生このままだ)
何も言い返さず、ずっと下ばかり向いている。そういうのって本当に、
(イライラするんだよっ──!)
何か一言いってやりたくなった俺は、10月の半ばになるこの日の夕方にいじめのターゲットとと会うことになるのだった。
***
授業が終わり、部活動生はさっさと教室を出ている。
ちなみに俺はまだ入りたい部活が一つに決まってないので、帰宅部なのだが。
(いい加減決めないとな)
と思いつつも結局は今の生活が気に入っているのだ。
「秀才君!また明日ね!」
「バイバイ!」
下校するためにバックの中に教科書を入れていると、どこからか聞こえる声は俺の取り巻きをしている同じクラスの女子達だ。
「うん、また明日ね」
そういう風に笑顔で答えれば、「キャー!」というふうに黄色い声援を浴びせられる。
正直言って、耳が痛い。でも愛想は大事!
(高校デビューはいろんな意味で間違いだったかも知れない……)
そう心の中で思いつつも、あの頃には戻りたくないとも思ってしまうのだ。
もうあんな思いはしたくないし、あんな風になりたくない。
思い出すのはあの残酷な日々のみ……
(はぁ、ってなに考えてんだ俺は…・・・あ!そうだ清原美琴!)
嫌な過去を振り切り、今何をしなければならないのか思い出す。それは清原美琴に会って話をすることだ。
(しまった!忘れてた。まだ教室にいるかなぁ)
今の時刻は午後16時30分。授業が終わってからもう、35分は経っている。
(さすがにもう居ないよなー)
と思いつつもとりあえずは向かって見ることにしたのだった。
カツ、カツ、カツ……と廊下には靴の音だけが響き渡る。
(チラッと覗いて見て誰も居なさそうだったら帰るか)
うーんと悩みつつも向かっていたら、6組の教室から一人これから部活に行くであろう女子生徒が出てきたのだった。6組に行くのが無駄足になるのは何となく嫌だった俺はとりあえず聞いてみることにした。
「あのさぁ」
「え!っあはい!」
俺の顔を見た女子部活動生は、頬を赤らめ「なんでしょうか」と呟いたのだった。
「君のクラスにさ、まだ清原美琴さんって残っているかな?」
「え?清原さんですか……はい、居ますよ」
俺の質問に対して一瞬怪訝そうな顔をした部活動生の顔は見逃していない。
(なるほどな。まさに、腫れ物扱い…か)
「そっか、教えくれてありがとう」
今までの中の最大級の笑顔を向けると、「はっはひ!」と言っては去っていった。
(さてと、行くか)
彼女には一度会ったことがあるのだが彼女にとっては初めて会うのだ。言動には気を付けないとな。と思いながら歩を進めるのだった。
***
ザッ……。
(ここに居るのか、いじめのターゲットが)
俺は今、6組のドアの近くに居る。教室のドアはスライド式であり今は半分が開いている。
先程会った部活動生の話だと、教室にはターゲット以外誰も居ないそうだ。
(今が、チャンスだな)
清原美琴さんがどんな人かは知らない。どんな性格なのかも分からない。正直どうでもいい。でも、高校というあらたな場所で俺の生活に少しでも支障をきたすヤツは許したくないのだ。
どうしても、あの頃を思い出してしまうから。
断片的にも思い出したくない思い出が、じわりじわりと脳裏に蘇っては、振り消す。
と同時に見たくないとも思ってしまう。だからなのだろうか。
こんなにも、手を差しのばさなければならないと思うのは。
意を決して声をかける。
「ねぇ。あんさぁ、清原美琴さん。…だよね?」
こうして、俺にとってはターゲットととの始まりの出会いだった。
ありがとうございました(*^^*)
次回は3月1日の20時に2話を投稿させて頂きます。