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私と彼の始り(3)

 





 時は放課後。


 校庭側を見れば皆、楽しそうに帰って行ってる。


 私と言えばいつも通りの日常を過ごした。

 皆の影になること、パシリをすること、サウンドバックになること。他にも、足を引っ掛けられたり、ペンや消ゴムを隠されたりした。

 どれも屈辱的ではあったが、今では感覚が随分と麻痺しているせいもあるのだろう。


 このような日常に”なれてしまっている”自分がいるのだ。


 『全くもって下らないし、バカみたい』


 と思っている自分もいれば、


 『これ以上なことが起こりませんように』


 と必死に祈っている自分もいる。


 自分の事なのに、自分自身が分からないでいるのだ。


(はぁ)


 と心の中でため息をこぼしたが、これで今日何度めだろうか。もしかしたら、百を越えているかもしれない。


 だんだん嫌になってきた私は、帰るために自分の席を立った。私たちのクラスは運動部系の部活動生が多いためか、皆早めに教室を出ている。ちなみに私は、なんやかんやしている内に一人になってしまっていた。


(早く帰ろ)


そう思ってドアの方に目を向けると、一人の男子生徒がドアにもたれ掛かりながら腕を組んで立っていた。


(ん?誰だ………)


 顔は夕日の光が当たって見えずらい。背は高いように思われるが、良く分からない。


 とりあえずスルーして帰ろうと思った私は、歩を進めた。だが、少しだけ進んだ先で声を掛けられたので止まった。


「ねぇ。あんさぁ、清原美琴さん。…だよね?」

「……っえ?」


 私の声は小さくて相手には聞こえずらかっただろうけれど、体は少しだけビクリと反応してしまった。

 反応をしてしまった理由は私の名前を呼んでくれたことはなく、呼んでくれた相手に私は驚きを隠せなかったのだ。


 なぜなら、その相手というのが学校一のイケメンかつ天才児の錦城秀明だったらだ。


「ねぇ?どうなの?清原美琴さんで合ってる?」

「……ぇあ。っあ、と………そ、その………」


 彼からの質問に私はおどおどしてしまい、上手く言葉を発することが出来ない。相手とまともに話すのはいつぶりだろうか?話しかけて貰えるのもいつぶりだろうか?………それよりも、相手と話すという行為事態、今の私には難しい。


 その為、視線をいろんな所には泳がせたり、手はモジモジしてしまって上手く対応することが出来ずにいる。


 そんなとき、いつまで経っても反応を示さない私に呆れてしまったのか錦城秀明が教室の中に入ってきてしまった。


 カツッ。カツッ。カツッ。


(えっ!嘘でしょ……何故に入ってくる──!)


 心の中はもう大パニックだ。


 だけど初めて間近で彼を見た私は、緊張しながらも観察していた。身長は180センチくらいあるのだろうか。私よりも背が高い。体付は見ためだけでも、かなり体が鍛え上げられているのが分かる。筋肉ムキムキそうだ。


 ぽけ~っと、私はいつの間にか見とれてしまっていた。そして気づけば私は、無意識の内に壁側の方に自然と寄って行ってしまっている。彼の方は自然と私の方に歩み寄って来ている。


 気づけばこれで一対一が完成した。


 これでもう、私は逃げることは出来ない。


(今日は最後に、秀才君からのいじめで終わるのね。いつのも人達じゃないから、以外と内心は楽かもしれない)


 すでに、私は諦めの目を彼に向けている。


(やりたいなら、お好きにどうぞ)


 そう思う私は実に清々しいではないか。






 カチッ、コチッ………


 教室の中では時計の秒針だけが静かに動いている。


 私は決死の覚悟を決めてたつもりでいたけれど、いつまで経ったも彼は何もしてこない。と言うより、私に近づいてから一言も喋っていなのだ。


 さすがに、いつもと違うこの雰囲気に居たたまれなくなった私は、一言声を掛けてみた。


「っあ、あの。何かご用ですか?」


 うつ向きながらも、緊張しながらも頑張って声をかけたのだ。私としては、第一歩だったと思う。


「・・・・・・・・・」


(あっ、あれ?私、何かおかしかったかな。変なこと言ったっけ?!?!)


 顔には出していないものの、内心ではかなり焦っている。なんせ久しぶりにまともに声を出したのだ。心で思っていることを呟くのと、声に出すとでは大部違うはず。


「あんたさぁ」


 ビクッ!


 今まで黙っていた彼が急に喋り出したということもあり、かなり驚いてしまった。相手にはかなり失礼だと思うが私には精一杯だった。

 そして、これからの彼の発言は、私の予想だにしないことがいろいろと発せられることになるのだ。


「あんたさ、今のままでいいのか?自分を変えたいとは思わないのか?」

「・・・・・・」

「俺はさ、あんたを見ていて分かったことが山ほどあるんだよ」


(この人、、、いきなりなんなんだろ……)


 ちょっとだけ失礼すぎない?と思いつつも、彼がすぅと息を吸う。そしてこれから彼が放つ言葉は少しずつ、私の心臓にグサグサとつき刺さることになる。


「お前をいじめてるやつに少しでも抗議をしたか?やり方はいろいろあるはずだろう?簡単にできる事はたくさんあるはずだ。…そーだなぁ、頭を床に着けて土下座でもすればいいし、なんなら賄賂でも与えてやればいい。あんたを見ていたことが何度かあったが、ボーっと突っ立てるのが一番ダメだ。少しでも行動にしなければならない。そうすれば、自分自身になにかと自信がつくはすだ。」

「・・・・・」


 私が話を聞いているだけで、いつまでも微動だにないでいると、突然「はぁ~」と彼が頭をかきながらまるで呆れたようなため息をつく。いや、実際はもう呆れているのかもしれない。


「いいか?世の中には人が生きやすいすいようにそれぞれ権利っていうものがあるんだ。まぁ、代表的なのは人権だな。人権っていう意味は分かるか?人間が人間として当然に持っている権利のことだ。その中には、表現の自由というものがある。つまり、言葉にだす、発言をすることの自由だ。当然、お前にも持っていることだ。だが、お前はいつも教室にいるときは言葉の発言を何一つしない。」


 彼は言葉を止めることなく私に語り続けてくる。


「それに何故、助けを求めないんだ?」

「・・・・・・・」

「だからホイホイ好き勝手に見方がいない私をいじめて下さってか?少しでも言葉にしてみろ。″私を助けて″や″もう止めてください″って、そうすれば何かは変わるだろう?言葉にしないから相手に何もかも伝わらないんだよ。一度でいい。勇気を出してみろ。いいな?」

「──・・・・・」

「だんまりはお勧めしない。さっきも言ったはずだ。少しでも言葉にしろ。″あー″でも″うー″でもなんでもいい。言葉に出すことが大事だ。分かったな?」

「・・・・・・・・・はい」

「それでいいんだよ。萎縮するな、胸をはれ、前を見るんだ。それだけでもかなり違うんじゃないかと、俺は思ってるよ」


彼は一通り言いたいことを言い終えたのか、言葉の締めに入った。


「後は、お前次第だよ。変わりたいと思うならば行動、発言をすることだ。まぁ、なんだ…。さっきからいきなり偉そうなことばかり言って悪かったな。─じゃあ」

「・・・・・・」


 ガラガラガラ、とドアを締めて颯爽と帰って行ってしまった。正直に言おう、今の私の率直な感想はというと、


(初対面なはずなのに、本当にいきなりなんなんだろう)と言うことだ。


 様々な助言はありがたいが、いきなり過ぎて頭が回らない。


「はぁ~」


 今日一番の深いため息。


 彼に対する緊張か、それとも言われたことに対する言葉の重みか。

 今の私の頭では何もかも追い付かないし、回らない。


(今日はもう帰ろう……)


 内心が疲弊仕切った私は、真っ直ぐ家に帰る事にした。






ありがとうございました。

次回もよろしくお願いします

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