私と彼の始り(2)
2話になります。
よろしくお願いします。
ガラガラガラ……。
教室に入った私はすぐさま自分の席に向かった。皆からの視線は、男女関係なく私を一直線に見てはクスクスと笑っている。
(あぁ。気持ち悪い…)
吐き気をなんとか堪えつつ一番後ろの窓側の席に着く。机にの上には、いつものように私へのメッセージが残されている。
“死ね”消えろ“クズ”アホ“ 等々。
しかも消せないようにわざわざご丁寧にマッキーペンで書かれている。
なんとも暇な人たちなのだろうか。
あれから、私に向けてのいじめはどんどんエスカレートしている。
時にはパシリをさせられ、時にはわざとぶつかって来た人もいるし、時には集団で冷やかしや軽い暴行までまれたこともある。そのお陰で、私の体には何ヵ所か軽いアザが出来たりしたものだ。
もちろん最初の頃は「止めてっ!」と言いはしたのだ。でも、次第に私はいじめを受けること事態が当たり前のようになってきてしまっている。そのせいなのか、恐怖で怯えてしまった私は次第に声が出せなくなっていった。
今では屍のように生きている。
クラスの中に私の見方なんて誰一人いないし、1年生の間では私がターゲットになっていることは皆、知っていることだ。
(今日はどんな一日が待っているのだろうか……)
ふと、ガラス越しに見える空を見上げた。
空には澄み渡る青空と白い雲が所々に見る。そしてそこには、一羽のカラスが自由に空を飛んでいる姿が見えた。
(私も……空を飛んだら自由になれるのかな)
鳥は自由に飛ぶことが出来るし、どこにだって行くことが出来る。空を飛べれば、空を飛べればと、日に日にその思いは強くなる一方だ。
でも、何故だかここでいつも家族の顔が浮かんで来てしまう。
優しく笑う母、喜んでいる父、頬を膨らませている妹。他にも様々な記憶が私の脳裏に蘇ってくる。
私は家族に愛されている。それは分かる。
でも、ここで私がいじめられていると知ったら家族はすごく悲しむはずだ。だから、私は今日も笑顔で元気に家を出た。
すると、近くでガヤガヤと騒ぎ声がする。
(何だろう?)
と思っていると、「きゃーっ!今日もカッコいい!」「ほんとだよねー!」
とキャッキャ、キャッキャと花を咲かせているクラスの女子がいる。
(あぁ、なるほど。いつもの彼か)
いじめられている私には全くもって縁が無い人であり、いちいち通りすぎるだけの彼を見ようとも思わない。
キャーキャー騒がれているのは、この学校の人気者であり天才児。今年の入学試験で主席合格を果たした人だ。そして今のところ全てのテストで、1位を取っている。
私は他の女子と比べて、トキメキは覚えなかったが、顔と名前はしっかりと覚えている。何せ彼が通っただけでこの騒ぎだ。嫌でも覚えてしまうというもの。
彼は1年1組の錦城秀明、あだ名は「秀才」。
何故、「秀才」なのかというと理由は簡単だ。彼は頭が良いし、名前に「秀」がついている。だから、秀才だ。よく聞いていれば、名前よりもあだ名で呼ばれている方が多いのかもしれない。
顔はかなりの美形で、短髪の黒髪が恐ろしく似合う。少しだけ癖っ毛なのか、いつも毛先がクルッとしている。
ルックスOK、女子に対する対応もOK、頭もOK。まるで、ホストかよ!とツッコミを入れたくなってしまう。
そして私はなぜだかもう一つ、いつも思ってしまうことがあるのだ。もしも黒髪ではなく、金髪ならどうだろうか…………。いや、それでもかなりモテるだろう。
─女は特にイケメンな顔に弱いからね。
今、いじめられている私と人気者の彼とは何から何まで全くもって正反対だ。
私は高校デビューは出来るだけ頑張って、たくさん友達を作る予定だったのに、所詮それは予定で終わってしまった。入学してからの半年間は兎に角、自分の事を気に入って貰えるように苦手なコミュニケーションを頑張った。
でも、結果は一切実らなかった。逆に私は、いじめの対象としてターゲットにされてしまったのだ。
でも彼は全然違う。高校の入学式前から、かなりの黄色い声援で騒がれていた。しかも、笑った笑顔がどことなく眩しい。
「かっこいいぃ~」「イケメンだわ~」等々。語尾には必ずと言って良いほど、ハートマークが付いていた。
でも、同時に羨ましいとも思ったのだ。
今では私はクラスでの腫れ物扱い。声を出すことでさえままならない。出したくても、無意識に体が拒絶反応を出してしまう。
私はそんなに地味だっただろうか?
私はそんなにいじめやすい人に見えただろうか?
私はそんなにも簡単に精神が壊れやすかっただろうか?
(考えるだけで嫌になる………)
ブンブンとこの思考回路を断ち切る。今はまだ朝だと言うのに、なんとも肩身の狭い思いで生きなくてはならないのだろうか。
(まだ、高校1年生なのに。残りの2年間をどう過ごせば良いのだろうか)
「はぁ」
いつの間にかうつ向いていた私は、皆に見られないようにため息をついた。
もし、見られたらどうなるのか。考えただけでも嫌になる。
─キーンコーンカーンコーン
朝のショートホームの時間だ。皆、慌てて席に着いている。
ガラガラガラ………。
私たちの担任の先生が入ってきた。彼の名前は富中幸治。彼は身長は高めで、サラサラの肩まである少しだけ金髪がかった髪を一つにまとめており前に垂れ流している。26才、独身のまぁまぁなイケメン先生だ。
「はい、ごうれーい」
と教卓に着くやいなや今日もどことなくやるせない雰囲気をかもし出している。
「きりーつ。姿勢。礼」
「「おはようございます」」
いつものように日直の人が号令を下し、私たちは挨拶をする。
そうして今日も学校生活が始まるのだ。
どうだったでしょうか?
また、次回もよろしくお願いします