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罪の警鐘  作者: マコト
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依存症者

12月の日曜の夜、この日、福岡市でクラシックのコンサートがあった。モーツァルトの没200年の催しとして。


諸田道夫は、博多駅近くの何処とは知りもしない繁華街を、一人歩いていた。何処かへ行くという気はなく、ただ歩いていた。子供の頃は、死んだ父親とよく従兄弟の所へ遊びに来ていたから、きっと懐かしいはずの街だったに違いない。でも道夫の頭の中には、そんな感情は一切なかった。

『どうしようか?』つぶやいた。あてや予定は無い、どうせあったところでそんな予定や、考えなんか何の役にも立ちやしなかった。目的もありそうで無いようなものだった。

はあ、ふうーっとため息にも似た吐息を漏らすと、少し前の方に、取り敢えず探していたコンビニが、道夫の目に止まった、が、これは目的というより、兼ねてからの前々から、いやいつも起こりうる、途切れることの無い衝動的な依存であった。コンビニに入ると、道夫は酒コーナーに行き、ニッカウイスキーの小瓶を1つ掴むとレジに並んだ。もうすでに酔っていた。呼気からはアルコールの嫌な臭いが、前の客にも届いているにちがいなかった。いつものごとくレジで金を払う時は気になるものだ、それだけでも億劫になる、どうせなら、これも自販機で買えたら、道夫にとってどれだけありがたいことだろう。

店を出ると、買ったばかりウイスキーをふた口ばかり飲んでから、コートの左ポケットに入れると、また来た道を引き返した。

道夫は先ず博多駅へ向かっていた。取り敢えず時刻表を確認するためだ。酷く疲れていた。駅に着くまでにウイスキーをちびちびと口へやった。

(時間なんか見てどうしようって言うんだ、何になるって言うんだ!・・ちくしょう)と不意に立ち止まって、左胸の内ポケットの中をまさぐりながら覗き込むようにすると、方角変え歩き出した。ポケットには、昼間下ろした全財産の残り一万円札二枚と千円札七、八枚が裸のまま入っていた。普段から、かさばる長財布や二つ折りの財布を嫌い、カードが入れられる黒革の小さな小銭入れ意外は持ち歩かなかった。道夫は歩きながら、指の感覚だけで、枚数に間違いがないか確かめながら、コンサートの前に寄ったパチンコ屋に脚を早めた。パチンコ屋すぐそこだった。もう八時半を回っていて、店内はポツリポツリと空席があるだけで、ほぼ満席だった。昼間負けた一万二、三千円を取り戻しさらに勝つには、台を選り好んでいる時間は無かった。こんな遠く離れた他県の初見の店には、道夫にとって何となく眩しく、ミラクルが起きそうな、いや起きてくれ、頼むから起きてくれ、というような一種の祈りに近い感覚をもたらすのに充分な電飾を放っていたし、周囲の、博多の街の雑ざつとした人混みの賑やかな雰囲気にも背中を押すものがあった。しかも十二月だ。何年かぶりのコンサートも聴いた。充実するはずだった。充実出来ない訳がなかった。曲目には、道夫の好きなレクイエムとピアノ協奏曲が入っていた。行きの特急列車では奮発して(これは彼がひとり旅をする時、必ずそうするのだが)指定席でビールやウイスキーを飲みながら、いや嗜みながら車窓から、特別美しくもない景色を眺める。この美しくもないという景色が彼の中にだけ哀愁を誘う。もうこの時、頭の中では既に今日のコンサートのコンチェルトが鳴っている。彼は元来そういう人間だ。

気がつくと、道夫はパチンコ屋の外にいた。左右から流れて来る人の中には、彼にぶつかりそうな人もいた。またウイスキーをぐびりと飲み干して歩き出した。興奮のあまり顔や背中からはあぶら汗がジンワリ出ていた。

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