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4、暴走

どうやら自分は勘違いをしていたようだ、とハルリアナはくるりとレオンハルトから背を向ける。

……オルティシア副大統領は少なくとも、息子の意に反するようなレールを押し付け、自分の為だけに利用する程の狸ではないらしい。

とはいえ。


(それならやっぱり、わたしをここに呼び寄せたのは、レオンハルト様を育てるためなんでしょうが……。

残念ながら、わたしに彼の才能を“正しく”伸ばすことなんて、できません。魔法士ではない副大統領閣下に、わたしの特異な体質についての理解が及んでいる訳がないですし____)


しかしオルティシア家に引き取られた理由が分かってしまった以上、そのうち『元中将』としての力を示せと言われるのは自明。

さてどうしたものか__と、ハルリアナが何気なく訓練場を振り返ったその刹那。

訓練場一体に広がっていた魔法陣が、カッ!!と異常な量の赤の光を発した。


……魔法陣は普通、魔法式発動の直前に、聖素を補う作用故に淡く光るだけなのだ。それなのに、あれほどの強い光を纏っているということは。


(暴走____!)


稀に起こる現象ではあるが、身に余る大きさの魔法陣を発動させようとした場合、それが魔法式を暴発させてしまうことがある。それを軍では『魔法陣の暴走』と呼ぶのだ。

訓練兵はごく偶にこの現象によって命を落とす。魔法陣の暴走によって暴発した魔法式は、制御できないだけに威力が倍増するからだ。……ましてやレオンハルトが発動させようとしているのは上級魔法の爆裂魔法式。あの規模の魔法式が暴発すれば、まず間違いなく屋敷の半分は吹き飛ぶだろう。


「う、わ……!」


レオンハルトもすぐに突然の魔法陣の異変に気がついたのか、形のいい眉を跳ね上げた。そしてその場を飛び退り、即座に魔法式を壊そうとするが、間に合わない。

……しかし、まあ、と。

ハルリアナは静かに目をしばたかせると、訓練場のある方角に右掌を翳した。


(____あの爆裂魔法式“程度”なら、大した労力も必要なしで、事を収められますが)


ぶわり、と。

ハルリアナが翳した掌から、黒銀の靄が溢れ出る。それは渦を巻いて高く上空への舞い上がり、訓練場の魔法陣へと押し寄せていく。

その黒銀の靄__ハルリアナ自身の魔力そのものである邪素の塊__は、滞空したまま一気に膨れ上がると、その奔流によって魔法陣が纏う聖素ごと呑み込むと、魔法式もろとも爆裂魔法陣を一瞬のうちに消し去った。

訓練場の地面をすら食い荒らした黒銀の邪素の塊は、ぎゅるんと再び渦を巻き宙へのぼると、そのままハルリアナの下に降下してくる。 そして、掌に吸い込まれて彼女の体内に取り込まれ、辺りは何事もなかったかのように静寂を取り戻した。


「っは……ウソ、だろ……」


訓練場にへたり込むレオンハルトが、信じられないというように目を見張って、訓練場を見渡しているのがわかる。

やりすぎましたかね、とハルリアナは首を捻った__確かに、魔法陣を壊すためとはいえ、彼のいる地点から半径1mの円以外の場所を、悉く地面ごと削り取ってしまうのは、まずかったか。


(うぅん……2ヶ月も訓練を怠ると、力の制御が難しくなりますね。ましてやわたしの力は【怪魔】たちと同じ邪素を使うもの。人に迷惑をかけることもありますから、人前で使うのはやっぱり控えなくてはならないでしょう)


……それから、美しく整備されていた訓練場の土を掘り返してしまったことを、後から当主であるラッセルに詫びなければ。

弁償を迫られたとしても、まあ、少なくとも聖統一軍の中将だった身だ。極めて高い給料だけでなく、莫大な慰労金と退役金、勲章に付随する褒賞金なども受け取っている。

訓練場の改修程度なら差し支えないだろう。というか余るはずだ、何とかなる。


(……と、いうか、今のところはさっさと立ち去ってしまわなくては。じゃないとレオンハルト様になんと言われるか____)

「おい」


うわぁ、と思った。

……自分の後ろに誰かがいる。いや、誰かはわかっているが振り返りたくない。振り返りたくないが____。


「聞いてるのか、こっち向け」

「……はい」


無視すれば後々更に面倒な事態に発展するだろうと判断して、ハルリアナは渋々後ろから声をかけてきた者__レオンハルトを振り返った。

いくら天才とはいえ、魔法式を暴走させたからか吐く息は荒い。顔色は悪いし汗だくだし、今にも倒れてしまいそうだ。

……しかし、彼。顔には『不審』の二文字をはっきりと浮かべているのである。


流石と言うべきか否か……とまれ、やはり相当嫌われているらしいということを、ハルリアナは改めて確認した。


「今の……オレの魔法式の暴走を抑え込んだ黒い靄の魔法。まさか……お前がやったのか?」

「……ええと、」

「オレの魔法式は未熟だが、あくまでも爆裂魔法だ。お飾りの将官だったはずのお前が、暴走を抑え込むほどの魔法を構成したとは思えないが……靄が来た方向には、お前しかいなかった。

これはどういうことだ?」

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