第17話「2次会は清らかな乙女達と②」
「こんばんわ!」
つらつらと、そんな事を考えているうちに、真向かいの女子から声が掛かった。
フルールさんこと……リンちゃんである。
打合せ通り、俺達はさりげなく、初対面を装っていた。
「こんばんわ、フルールさん!」
「こんばんわ、クリスさんって! もしかして貴方、それ愛称?」
「ええ、本名はクリストフ、クリストフ・レーヌ。さっき言った通り魔法鑑定士なんですよ」
「そうなの? この出会いって運命かしら? うふふふふ」
ああ、リンちゃん、ダメよ、ダメ。
いきなり、そんなにフレンドリーじゃ……
凄く、不自然極まりない。
俺達が、『特別な関係』だって、ばれてしまうじゃない。
でも、まあ良いか……ばれたって。
後で、適当にいいわけすれば。
逆に、『恋敵』への牽制になるかもしれぬ。
と、つらつら考えていたら、リンちゃんが元気よく挨拶して来た。
「私、フルール・ボードレール! 宜しく」
「はい、宜しくお願いします」
「うふふ……私、もっとクリスさんの事を知りたいわ」
「俺もさ!」
前世地球の合コン同様……
男女間の会話が盛り上がったところで、次の飲み物を頼むのが、この異世界合コンの常道である。
そして、次の飲み物も、大体決まっている。
この世界の女子は、乾杯したエールより断然、ワインを好むからだ。
当然、事前確認は必須。
「フルールさん、飲み物頼もうか? ワイン?」
「はい! 白ワインが良い! うんと冷やしたの!」
ここで俺は、右側のジェロームさんを見た。
……駄目だ!
無言で、固まっている。
「ええっと! ジェロームさん?」
「ななな、いきなり何だ?」
驚いて、噛みまくるジェロームさん。
あれ?
カルパンティエ家の御曹司なら、騎士として、度胸は抜群の筈なのに。
凄く、緊張している?
まあ、良い。
早速、フォローしなければ。
「ジェロームさんとシュザンヌさんの飲み物も、一緒にオーダーしますよ。シュザンヌさんへ、何が飲みたいのか、聞いてみて下さい」
「はぁ? 何故だ? 彼女の杯には、まだあんなにエールが残っているぞ。勿体ない!」
おいおい、駄目だ!
この人……本当に……
いや、そんな事を言っては、いかん。
この俺が……しっかりフォローするんだった。
よし、ここで新たな作戦だ。
俺は、わざと、おどけた口調で言う。
「じゃあ、シュザンヌさんの残ったエール、俺が貰いますよ」
「わぁ! クリスさんったら! 駄目、浮気しちゃあ」
お!
ここで、いきなり突っ込みが入った。
あれ?
突っ込んだのは、リンちゃん?
ちょっと、怖い目で、俺の事を睨んでいる。
「それって、シュザンヌさんと間接キッスという事になるでしょう? いきなり浮気はダメダメ! 私のエールを飲んでね!」
おう、そう来たか!
普通に駄目なのか、またはリンちゃんも隣を気遣ってくれたのかは不明だ。
しかし、こういうフォローは、とても助かる。
切り返しは、こうだ!
「じゃあ、俺は、フルールさんのエールを飲みます。だから、ジェロームさんもシュザンヌさんのエールを貰って下さい。間接キッスで!」
「やった!」
「うふふ……」
息がばっちり合って、リンちゃんは、ガッツポーズ。
そしてシュザンヌさんも、初めて笑顔を見せた。
どうやらジェロームさんとの会話が、全く弾んでいなかったようだから。
とりあえず作戦は成功だ!
しかし!
裏切者が現れたのだ。
「いや! 俺は、赤の他人が口をつけたエールなど飲めん!」
ああ!
おいおいおい!
ジェロームさんたら、空気読めよ!
盛り下がるじゃあないか!
「…………」
案の定、シュザンヌさんは白けた表情になり、リンちゃんも大袈裟に肩を竦めた。
これは、まずい!
俺は、左横に居るジャンさんを見た。
すると……
は?
もう対面の女の子と、甘い雰囲気に入っている。
素早い!
常人の10倍の速度で、女子を口説いて落とす。
さすが『赤い流星』!!!
「ねぇ、ジャンさん」
俺は、小さな声で呼び掛ける。
しかし!
ジャンさんは完全スルー、完全無視だ。
「ジャンさん」
「……何?」
俺がもう1回呼ぶと、ジャンさんは、俺へ向かって、とても不機嫌そうな顔を向けて来た。
そうか!
やはり、ジャンさんの、今夜の『獲物』はジョルジェットさんなんだ。
ジャンさんがこれ以上怒ったら、とても怖そうだ。
でも、臆しては、いられない。
緊急事態なのだから。
「あの……このままでは……ジェロームさんがまずいです。すべりまくってオミットされちゃいます」
「はぁ? 君が何とかしろよ。先輩は気難しいんだ、だから最初に頼んだろう?」
いや、さすがにそれは……無茶振りだ。
「ジャンさん、俺だってジェロームさんとは初対面だし、無理ですよ。今夜だけは無条件で、俺のいう事を聞いてくれるように頼んで下さい。そうして貰えば、後は上手くやりますから」
俺の辛そうな言葉を聞き、切実な表情を見たジャンさんは、渋々という感じで頷いたのであった。
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