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第10話 女子高生剣客vs山猫の呪術師

剣とは、人間と戦うことを前提にした武器である。より古い歴史を持つ槍や弓矢との違いであり、この武器の特異さでもあった。それは、人間より低姿勢の四足歩行生物。獣の類を相手にする事が想定されていない。ということだ。

故に涼子わたしは、攻めあぐねていた。眼前の敵。猫を象った、巨大四足歩行兵器に対して。

思案する。

敵手の方が大柄だが、恐らく質量では大幅に下回るはず。さもなくばあれほど軽快に動けるはずがない。おまけに操縦者は、装甲に守られていない。格闘戦に持ち込めば有利なのはこちらだ。近接戦闘では体重がものを言う。相手が飛び込んでくれば、組討ち(・・・)で片づけてくれよう。

過ちであった。

音もなく走り出す15メートルの巨体。それはたちまちトップスピードとなると、跳躍する。横手の壁目掛けて(・・・・・・・・)

驚くほどにしなやかな動きで壁を蹴った巨体はさらに反対側の壁へ跳躍。三角飛びからの攻撃は、上空から来た。

剣を盾とするので精一杯だった。ぶつかった猫の爪と刃が火花を散らす。飛び越えていく敵手。相手を追って振り返ろうとして。

「―――!?」

強烈な衝撃。わたし(・・・)が転倒しなかったのは、幸運だったとしか言いようがない。

姿勢を立て直したわたしは、見た。後方まで駆け抜け、そして振り返った猫の尻尾を。ゆらゆらと揺れる、長大なそれがわたし(・・・)を打ち据えていったに違いない。まるで鞭のように。

複雑な紋様を全身に刻み、奇怪な装飾を身に着けた呪術師シャーマンは、口を開いた。

「ほう。今のをしのぐとは。やはり素晴らしい腕前をお持ちだ」

光差さぬ操縦槽の中。額を、一筋の汗が流れ落ちていった。


  ◇


―――なかなかに手強い。

アリヤーバタは思案する。

敵はもう逃げられない。背を向ければやられると分かった筈である。もちろん直進速度はこちらが上だ。

足元より伝わる心肺器の振動は落ち着いている。この、祖霊を降ろした巨大な山猫の御神体は甲冑同様鋳造された骨格によって支えられ、はずみ車で動くふいごと濾過器からなる心肺器を備えている。基本的な構造は同じなのだ。されど、金属の筋肉筒も、外骨格を兼ねる装甲もない。伸縮性の植物を絡めて模倣した仮初めの血肉がその役割を果たしているのだった。軽量化と柔軟性を両立したこの構造はしかし、力強さや強靭さを犠牲にして得られたものである。今の一戦で敵手の力量は分かった。組み付かれれば勝ち目はないから、真っ向勝負は避けたいところだ。

このままにらみ合いを続けてもよい。相手が踏み込めば下がり、下がれば追うだけのこと。時間を稼げば味方が殺到してくるのだ。敵を足止めしたことは十分な手柄となろう。イニシアチブはこちらにある。機動力はすなわち選択肢の多さなのだ。

この呪術師シャーマンの策に欠点があったとすれば、ただひとつ。敵の予備兵力の存在に気が付いていなかった、という点であろう。

上空より襲い掛かったミミズク。その姿に変じた密偵の爪は、アリヤーバタの頭部に鋭い傷跡を残した。一瞬の隙。

この猛禽を追い払った時にはすでに、手遅れだった。恐るべき質量で突進してくる敵の巨体は速い。振り上げられた剣を回避する術もない。

アリヤーバタが身を投げるのと、剣が振り下ろされたのは同時。

大地に転がり衝撃を吸収した呪術師シャーマンの眼前で、御神体はいともたやすく切断される。

「―――無念」

アリヤーバタは遁走した。


  ◇


アリヤーバタと名乗った敵手の逃走を見届ける間もなく、涼子わたしは身を翻した。肩口・・に舞い降りたのは白いミミズク姿のネズミ。

「あいたたたた……あいつ、思いっきりぶったたきやがった」

「だが、おかげで助かった。よくやった」

「ま、この程度ならお安い御用ですぜ。さ。急ぎませんと」

うむ。と返し、わたしは走行・・を再開した。余計な時間を取られすぎた。厳しい脱出行となろう。

それにしても。

山猫の民、か。恐るべき敵であった。これからも彼らのような強敵と戦う機会はあるはずだ。心しておかねば。

わたしは、ひたすら甲冑を走らせた。

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