1話
ヒトが来た。ヒトだ。男のヒトだ。中肉中背の。
クラスの様子を伺うとほとんど同じ顔。いや顔は違うが同じ表情だった。
まるで珍獣を見るような、そんな目。
その獣たちの視線に耐えかねたのか、先生の軽い紹介が終わると彼は、その私達とは形の違う口を開いた。にこやかに。
「はじめまして、動物の諸君。僕は入間といいます。どうぞよろしく」
そして付け足すように
「あ、一応完全なヒトです。」
と自己紹介を終えた。そして、空いている席に座った。なんと一番後ろの席である私の隣だった。
そういえばまだ空席があるようだ。
それにしてもやはりヒトか。それも子ども。一体どうしてヒトが来たのだろうか。一体どうしてヒトが生まれたのだろうか。
考えているうちに、休み時間も終わり(自己紹介とかで潰れた)、1時間目の古典が始まる。ガイダンスを終え早速授業が始まる。
平家物語。教科書を開いただけで眠くなる。まぁ、枕代わりにするから開かないけど、いつもなら。
横の少年が気になる。好意ではなく好奇の方の。盗み見すると真面目に授業を受けているようだ。そんなに勉強は楽しいのかね。
うわ恐、なんか笑ってる。
彼の観察で授業は終わり、休み時間だ。案の定、彼の周りには群れができていた。まぁ、私もその一員だが。
「ねぇねぇ、入間君って、なんで人間なの? あ、私一子」
いや、その質問は失礼だし、本人もわかんないでしょ。発言者はバカ犬の一子。みんなからワンコと呼ばれている。
「んー、人間でいたかったからかなぁ」
みゃあ、そんなふうに返すしかないだろうな。
さ、私も自己紹介だ、
「私ミイ。よろしく」
こうして私と彼との物語が始まる。このケダモノしかいないクラスで。