始まり
昔々、そして今でもヒトは争いをやめなかった。やめられなかった。互いを傷つけ周りを傷つけ。肉体も精神も環境も疲弊していた。
だからだろうか、神が怒ったのだろうか、私が生まれる数年前のことだったらしい。
ヒト―――子供たちは動物の姿になった。生まれた時から動物、ケモノだった。ヒトから動物へ姿が変わった。姿が退化した。
みゃあ、変わったのは一部の外見だけでヒトっぽい体格や体長を残しているため、二足歩行もできるし、一部を除いた内臓器官は変わっていないけども。(だから私がカレーライスを食べてもタマネギ中毒にはならないし、バレンタインデーが命日にもならない…)
当然脳も変わらなかった。だから結局容姿が変わっても考えは変わらず、今日でも争いは終わらない。
こんな奇病、いや病気ではないかもしれないこの現象に対して大人は何もできなかった。考えるのを放棄した。そして、許容した。
さて場面は変わる。ここは2年3組。
今日もケモノ達が吠える。犇めく。轟く。
さあ、始めようか、野性を。淘汰を。
「とは言っても眠いねぇ」
私は、ミイ。今日から高校2年生。
最近地球温暖化のせいで朝でもぬくぬくしていて睡魔に襲われてしまう。
「ふかぁ〜」
「新学期から眠そうだね。」
そんな私に声が掛けられる。
というか私のアクビ顔見られた!?
本人の性格同様、逞しく、優しそうな声の持ち主は宗像君である。彼は陸上最大にして色々凄い哺乳類であるゾウの姿。相変わらず大きな体で強そうだ。
「また授業が始まると思うと眠気も加速するよ」
ほんと、何か転校生でも来ないかなぁ。イケメンの。例えばジャガーとか。
彼と私は昨年同じクラス。彼の象柄、もとい、人柄で仲良くなれたと自分では思う。彼は数少ない私の友達の中で、真の友達である。
「これからもよろしく、宗像君」
教室を見渡すと彼女がいた。いや『いた』というには彼女は目立ちすぎている。
キリンの明石さん。スタイル抜群、成績優秀、運動神経抜群、それが彼女だ。本人は気にしているが首、特にうなじが綺麗で男子から人気が高い。完璧過ぎて抱いて欲しいくらいだ。
そんな彼女の唯一の欠点と言えるものは短気であるということだ。キリンは首が長いため高血圧。だからなのか、それとも生まれついての性格か、彼女はキレやすい。
先日こんなことがあった。
クラスの男子達が明石さんのスカートを覗いてしまった。その後キレた彼女によってネッキングでボコボコにされた。あ、ネッキングというのは首でブン殴るやつね。幸いにも怪我だけで済んだらしい。
「あら、ミイさんおはよう。」
どうやら見ていたことに気づいたらしい。そりゃそうか、目良いし。
「おはよ、今朝も元気そうだね!」
こうして朝は過ぎていく。私の縄張りは平和に保たれていく。
朝のホームルームで自己紹介(クラス替えのため)した後はいよいよ待ちに待たない授業だ。
果たして、そうはならなかった。転校生が来るらしい。教室もざわつく。
入ってきたのはヒトだった。