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救われない世界の中で  作者: 清水 悠燈
Area.0 『出会い』と『始まり』
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『夜叉』の侍

 

「ラアアアアァァァァッ!」


 叫び声と共に放たれた蹴りは相手の腕に直撃し、5メートルほど吹き飛ばした。


「ちっ。やるじゃねぇか。」


 相手は傷1つついていないように見えるがダメージは受けている。

 なぜなら、相手の頭上にあるHPゲージが半分まで削れ、黄色になっているからである。


「ここからは俺のターンだっ!くらいやがれええぇぇ!」


 そう、ここはゲームの世界。

 けれど俺たちはここにいるように感じる。

 VR。

 自分の意思をゲームの中に没入させる技術。

 それは今や医療だけではなく、ゲームにも使われるようになっていた。

 これはそんなVRゲームのある1つのゲームの中で起こる物語。




 俺、蓮月はづきは今流行りのVRゲーム、『オリジン』にはまっていた。

 このゲームはVRゲームで初めてのMMOでオリジンの意味する通り、VRMMOの『起源』だった。

 俺はそのゲームを初期の方から始めているいわゆる古参プレイヤーだ。

 今日もスタート地点である城下町からコロシアムに向かい、対人戦をするつもりだ。

 このゲームの楽しみ方は人それぞれだが、基本的に2つに別れる。

 1つは、仲間とパーティを組んでモンスターと戦う。

 1つは、プレイヤー同士で戦う対人戦。

 俺はどちらも好きだが、主に対人戦をしていた。

 古参故に負ける事は中々無かった。

 相手に勝てることの喜びに俺は魅力され、今に至る。

 その日は、調子の良い日だった。

 はじめの3戦は勝つことができた。

 問題は4戦目だった。

 相手はHINATAという名前の女の子だった。

 VRゲームは性別を偽ることができないので、本当に女の子なのだろう。

 俺は、相手が女の子というだけで、油断していた。

 俺はスピード特化の近接型だ。

 対してヒナタは腰に差した刀に軽量の鎧を装備していた。


「お手柔らかにお願いします。」


「あぁ。よろしく頼む。」


 お互い礼を済ましたところで、スタートのゴングが鳴った。


 俺は地面を思い切り蹴り飛ばし、一瞬でヒナタの懐に潜り込む。

 その瞬間、嫌な予感がしたので、正面の地面を後ろ方向へと全力で蹴った。

 すると、ビュンと音がして、さっきまで自分がいた場所を、目で追えないほどの速度で刀が通過した。


「ほぅ。これを避けるとは。中々やりますね。」


「だ、伊達に古参じゃないからな。」


 俺は内心冷や汗をかきながら、余裕ぶってみせた。


「では、今度はこちらから。」


「あぁ。かかってこい!」


 直後、爆発音。

 ヒナタが地面を蹴った音だと気づいた時には、彼女は俺の目の前で、刀を構えていた。


「シッ!」


 刀が鞘を走り抜け、俺へと迫る。

 回避は不可能。

 できるだけダメージを減らすことに意識を向ける。

 俺は腕に付いた金属性のガントレットで刀を受け、ガントレットの角度を絶妙に変え、受け流した。


「そんなことがっ!?」


 ヒナタの驚愕の顔を横目に、渾身の一撃を鳩尾に放つ。


「『ジャッジメント・クラッシュ』ッ!!!」


「ぐっ・・・!」


 俺の持っている中で1番威力のあるスキルはヒナタをコロシアムの端まで吹き飛ばした。

 HPゲージを見ると、4割ほどしか削れておらず、体を捻ってダメージを最低限に抑えたとわかった。

 こいつはなかなかの手練だ。

 本気で挑まなければ・・・


「今のは効きましたよ。まさか受け流されるとは。でも、次はそうはいきません。」


 突如、ヒナタの周りに黒いオーラが渦巻き始めた。


「ユニーク!『妖鬼夜叉ようきやしゃ』ッ!」


 ここでユニークスキルを使ってきたか・・・

 ユニークスキルとは『オリジン』が人気の理由の1つで、何千人といるプレイヤー全てに与えられるスキルだ。

 ユニークの指す通り、誰1人として同じユニークを持つものはいない。

 だから、基本的には初見のスキルとなる。


「行きます!」


 音も無く俺の目の前に現れたかと思ったら、俺はコロシアムの壁に激突してきた。


「カハッ・・・!」


 自分のHPゲージを見ると、6割ほど削られ、黄色に変わっていた。

 凄まじい威力の一撃。

 古参プレイヤーである俺のHPは他のプレイヤーより多い。

 それを一撃で半分以上削るスキルは凄まじいものだ。


「やるじゃん・・・」


「いえ、それほどでは。ハヅキさんこそ、よくそれほどのダメージで済みましたね。普通なら一撃ですよ。」


「古参を舐めんなっ。今度は俺の番だ!ユニーク!『疾風迅雷しっぷうじんらい』ッ!」


 バチッと俺の周りから電撃が起こり、体が軽くなる。


「くらいやがれッ!ハアアァァァッ!!」


 電撃を纏った俺は、誰にも知覚不可能な程の速度でヒナタの後ろに回り込む。

 ヒナタはそれに反応する。

 とんでもない動体視力だ。

 だが、遅い。


「『ジャッジメント・クラッシュ・ショック』ッ!」


 俺の渾身の一撃はヒナタの背中に直撃。

 瞬間、ヒナタの体に電撃が走り回る。


「ああぁぁぁッ!」


 吹っ飛んだヒナタのHPゲージを確認すると、ほんの1割だけ残っていた。


「くっ・・・!」


「まだ・・・終わりません・・・!行け!夜叉!」


「なにを・・・?」


 俺はヒナタのユニークを忘れていた。

 ただの身体強化と勘違いしていたのだ。

 彼女のユニーク『妖鬼夜叉』は身体強化と合わせ、自分の命令に従う精霊を召喚するスキルだったのだ。

 そうわかった瞬間、俺の目の前には『GAME OVER YOU LOSE』の文字が浮かび上がっていた。




GGぐっどげーむでした。ユニークの内容を知られていたら負けていました。」


 俺はリスポーン地点である教会でヒナタに会った。


「ここで待っていたのか・・・?」


「はい。勝負に礼儀は必要です。」


「なるほど。こっちこそ、GGだったよ。お疲れ様。君ほどの実力者はそうそういないよ。」


「ありがとうございます。私もあそこまで追い詰められたのは初めてです。」


「そうなのか。君は古参か?」


「いえ、つい2週間ほど前に始めました。」


「な・・・!?それでその実力なのか!?」


「これが普通なのではないのですか?」


「ほんとに何も知らないの?」


「はい。良ければ教えていただけませんか?」


 ヒナタは上目遣いでそう言った。

 なかなか可愛いところがある。


「あぁ。構わない。とりあえず、何かクエストでも行くか?」


「はい!是非!!!」


 俺の提案にヒナタは笑顔で頷いた。




「んーっと。俺とヒナタの実力ならこれくらいで丁度いいか。」


 そう言って俺は『レッドリトルドラゴンの討伐』というクエストを選択し、パーティメンバーに自分の名前とヒナタの名前を打つ。

 そして、クエスト決定を押し、受諾を完了した。


「任せっきりで申し訳ありません。レッドリトルドラゴンは強いのですか?ワクワクしてきました!」


 ヒナタは目をキラキラと輝かせて言った。


「まぁ、初心者には手も足も出ない敵だけど、俺と君なら倒せると思ったんだ。」


「なるほど!楽しみですね!がんばりましょう!」




 レッドリトルドラゴンの討伐は呆気ないものとなった。

 発見と同時に俺がユニークを発動し、空中にいるレッドリトルドラゴンを叩き落とし、ヒナタがユニークで召喚した夜叉と共に踊るように切り刻む。

 俺はヒナタの評価を誤っていたと感じた。

 対人戦では俺のようなスピード特化型には回避されることもあるかもしれないが、敵程度ならほとんどの攻撃を凄まじい威力と速度で打ち込んでいた。

 彼女はきっと大物になる。

 そう思ったと同時に、この子ともっと戦いたい。共闘したいと思い出した。




「お疲れ様でした。弱かったですね!手応えなかったです。」


 ヒナタは笑顔でそう言うが、レッドリトルドラゴンはこのゲームでは中間程度の実力を持つ敵なのだ。

 それを弱いと言えるのは、彼女の攻撃力とスピードだろう。


「なぁ、ヒナタ。」


 俺は思い切って聞いてみることにした。


「はい、何でしょう?」


「俺のパートナーになってくれないか?」


「ぱ、ぷぁーとなぁー!?」


「そう。パートナー。ダメかな?」


「いえ、構いませんが!ぱ、パートナーとはなにをするものなのでしょうか?」


「んー、常に一緒に行動する人?かな。」


「『常に』ですか!?そ、そんなぁ。照れてしまいますっ。」


 何を考えたのか、ヒナタは頬を朱に染め頬に手を当てている。

 常にとはクエストの事なのだが・・・


「ま、まぁいいや。なってくれる?」


「はいっ!もちろんです!よろしくお願いしますね。」


 ヒナタは照れたように笑って答えた。




「へぇ。遂にハヅキにもパートナーが出来たかぁ。羨ましいなぁチクショウ。」


 俺とヒナタがパートナーになって1週間、俺とヒナタは2人で様々なクエストを楽々とクリアし、順調に実力を上げていった。

 そんなとき、昔パーティを組んでいたチェインという男に出会った。


「そーだそーだ!今度その子と俺を戦わせてくれよー。」


「ほう。それは楽しそうだ。聞いてみるよ。」


 俺はそー言って、メニューウィンドウを開きメールをタップ。

 そこからヒナタの名前を見つけて、メールを送信した。

 返信はすぐさま返ってきた。


「今からならいいらしいぞ。がんばれ。」


「おー!やるしかないでしょ!」




 少し移動し、コロシアムに着いた頃にはヒナタはもう会場に立っていた。


「俺はチェインって言う。昔こいつとパーティを組んでたんだ。君がハヅキにふさわしいか確かめてあげる。」


「自己紹介ありがとうございます。ヒナタと申します。早速、始めましょうか。」


 チェインの武器は両刃のロングソードと盾。

 どちらも初心者向けだが、チェインの場合だけ、圧倒的な実力を誇る。

 開始のゴングが鳴り響いた。


「行くぞ!ハッ!」


 距離を詰めたチェインの横薙ぎの一閃。

 ヒナタは軽々とそれを刀で受け流す。

 そして、カウンターの一撃。

 だが、チェインも負けじと盾で受け流す。


「やるじゃん。でも、これに耐えられるかな?ユニーク!『千刃乱舞(せんじんらんぶ)』ッ!」


 チェインが高らかにユニークスキルを唱えると、彼の周囲に大量の光の剣が現れた。


「いけ!光の剣たち!」


 無数の光の剣がヒナタを襲う。


「くっ・・・!ユニーク!『妖鬼夜叉』ッ!私を守ってッ!」


 ヒナタの召喚した精霊はヒナタの目の前に現れ、光の剣を『全て』斬り伏せた。


「そ、そんな事が・・・ッ!」


「やああぁぁぁッ!」


 ヒナタの神速の一撃がチェインに襲いかかる。

 普通の人はこれで決着がつくと思っただろう。

 だが、チェインのユニークはこんなものではない。

 ヒナタの刀がチェインの盾に阻まれる。

 突如、盾が輝きヒナタの体を吹き飛ばす。


「・・・ッ!」


 これがチェインのユニーク『千刃乱舞』の力だ。

 周囲に無数の光の剣を召喚し、敵を襲わせ、自らの盾に反射効果を与えるというもの。

 ヒナタのHPゲージは残り2割になり、赤色になっていた。

 対してチェインは残り6割とまだ余裕だ。


「トドメだ!『セイクリッド・ブレード』ッ!」


 チェインの必殺のスキルだ。

 チェインのロングソードが輝き、一閃。

 コロシアムは砂煙に覆われ、何も見えなくなった。


「へっ。どーだ!」


 チェインは勝ち誇ったようにそう言ったが、勝負は終わっていなかった。


「『黒刃こくじん蓮華れんげ』ッ!」


 HPゲージが見えないほどギリギリ残っていたヒナタが最後の抵抗とばかりにスキルを放つ。

『黒刃・蓮華』は自分の残りHPが少なければ少ないほど威力が増す刀専用のスキルだ。


「ま、まじかよ・・・」


 まさかの逆転の一撃をチェインは無抵抗に受け入れた。




「さすがに危なかったです。」


 ヒナタは笑顔で言った。


「まさかチェインが負けるなんてな。こいつ、対人戦の大会の上位の常連だぞ?」


「そうだよ。俺強いんだぜ?どっかの近接型と違ってな。」


 チェインはドヤ顔で俺を見た。


「ちっ。間違ってねぇのが腹立つよ。」


「そーなんですか!また2人の勝負も見てみたいです!」


「俺は構わないぞ。なぁバカ近接型さん。」


「俺もいいぞ。アホ剣士。」


 俺とチェインが睨み合っていると、


「おふたりとも仲がいいのですね。」


「「よくねぇーし!」」


 見事にハモった。

 そんな和やかなやり取りを交わしていると、突然城下町に警報が鳴り響いた。


「おっ!久しぶりの緊急クエストだな。」


「あぁ。楽しみだ。」


 そして、アナウンスはこう告げた。


「プレイヤーの皆様に、お知らせします。ただいまより緊急クエスト『龍王の降臨』を開始いたします。4人1組のパーティを組み、龍王を倒してください。報酬は職業によって変化いたします。それでは皆様、ご健闘をお祈りいたします。」


「もちろん行くよな、ハヅキ。」


「あぁ、当たり前だ。ヒナタも来るか?」


「もちろんです。でも、あと1人はどうしましょう。」


 ヒナタの質問に俺はドヤ顔で答える。


「とっておきのやつがいる。このゲームきっての最強と謳われるヒーラーだよ。」


「それはすごいですね!」


「えぇ、あいつ呼ぶの?あいつ俺に冷たいんだよなぁ。」


 チェインは嫌そうにそう言った。


「来るってさ。チェインがいるのは少し気に食わないらしい。」


「ほら!言ったじゃん!嫌だなぁ。怖いよぉ。」


 チェインは頭を抱えだした。

 そんなに嫌なのか。

 少し笑ってしまう。


「まぁ、頑張ろうよ。今回はヒナタもいるし、負ける気がしない。」


「精一杯がんばりますっ!」


「ちぇっ。やるっきゃないかぁ。よーし!やってやる!」


 俺たち3人は楽しそうにそう言った。

どうも。清水悠燈です。


今回は新しい作品を書いてみました。


ゲームの世界を舞台としています。


私はゲームが好きなので、とても楽しく書けています。


次話もよろしくお願いします。


是非「悲しい空の星々に」の方も読んでみてください。

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