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-出会いの始まり-

虹の始まりを目指そう。


そう決めたオレは、とりあえず虹の見える方に自転車を必死に漕いだ。


どれくらい漕いだだろうか。


結果から言えば、虹の始まりには辿りつけなかった。


子供の頃は『虹の端っこ行ってみようぜー』とか言って、友達と自転車を走らせたもんだ。


その度に虹の端になんか辿りつけた試しが無かった。


『そりゃ…辿りつけねーよ…ゼェハァ…』


『今までだって…ゼェ…辿りつけた事何か…ハァハァ…無いんだから…』


子供の頃に出来なかった事も、大人になりゃ割とアッサリ出来るかなと思ったけど、どうやらそうじゃないらしい…。


坂の上から見た虹は割と近くに感じたのに、漕いでも漕いでも距離がなかなか縮まらない…。


んで、気付けば消えてたって話しだ。


子供の頃は雨と晴れの境界線には何回か立った事はあったが、アレより難易度高いらしい。


まぁ仕方ねぇな。


旅をしてれば、また虹を見る機会もあるかもしれないし、またその時頑張ろう。


虹の始まりを探す旅。


うん。悪くない。


いい大人が『虹の始まりを探してます。』何て言ったら『はぁ?』って言われそうではあるが…。


とりあえず気を取り直して、爺さんの田舎迄行こう。


ペダルに足をかけゆっくりと進み始める。


……………………………………………………………


どれくらい進んだだろうか。


周りの景色は都会の街並みから、田んぼや畑ばかりの田園風景に様変わりしてきた。


小さめの山の麓に小さな公園がある。


自転車を止め、公園に入る。


夕方をちょっと過ぎた位の時間なのに人気は無く、1つだけ設置されたブランコが寂しげに風に煽られ微かに揺れている。


山を少し登れば閑静な住宅街のようだが、公園はホントに静かだ。


公園の前を通る道路にも車は殆ど走らず、この空間だけが切り取られたように静寂を湛えている。


『あまりに静かで少し薄気味悪いな。』


とは言え、今日はこの辺で一旦休息かね。


太ももに微かな痛みを感じ、普段の不摂生を思いつつ、公園のベンチに座る。


学生の頃は特に部活とかはやってなかったけど、筋トレやジョギングはしてたのになぁ、いつの間にか止めてしまってダラダラ過ごしてたなぁ…。


こんな事なら普段からやってりゃよかった。


何て思ってやってりゃ『後悔先に立たず』何て言葉は産まれてない。


そもそも、先人達もそうだったからこそ産まれた言葉なのである。


そもそも、ことわざって何なの?


上手いこと言って周りの人間が『あ〜それあるある!!お前上手いこと言うな~』って流行った昔の流行語みたいなもんじゃないの?


『こいつ上手いこと言ったから、皆も使っていこーぜ!!』的な?


って、何を下らないどうでもいい事を考えてんだオレは。


ことわざ何てどうでもいいんだよ。


つまりオレが何を言いたいかと言うとだ。


オレも多くの先人達とかわらない。


先人達も怠け者ばっかりだったんだから、取り分けオレがダメな人間では無い。と言う事だ。


うん。そうだ。オレ普通普通。


よし、自身を正当化出来たし、今日はこの公園で野営するか。


野宿では無い!!野営である!!


ここで野営と野宿の違いを解説しておきたいが、野営とは平たく言えばキャンプである。


野宿とは酔っ払いがその辺で酔いつぶれて寝てるようなのが野宿だ。


酔っ払いとは格が違うオレが行うのは野営であり、野宿では無いと言う事だけは強く主張しておきたい。


何て事を考えていたら、背後から『クスッ』って声が聞こえた。


-ビクッ-


誰だっ!?


オレは咄嗟に声の聞こえた方を振り返る!!


少し離れたフェンス越しに、この時期にしては色が白過ぎる位に透き通るような女の子が立って居た。


『ヒッ!!』


フェンス越しの女の子は少し怪訝そうな顔をして、口を開いた。


『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーー』


地獄の底から響くようなその声に、オレは足が動かなくなり逃げる事も出来ない。


何て事はある筈も無く。


『お兄さん、人の顔見るなり『ヒッ!!』って酷く無いですか…?』


うん。オレも酷いと思う。


だけど、そりゃ普通のシュチュエーションならだ。


こんな人気の無い公園に、1人で居ると思ったら急に背後から笑い声が聞こえるんだぜ?


しかも何だよ、その白のワンピース。


お化けっぽいんだよ!!!


ばーかばーーか!!


『ああ…ゴメンゴメン。てっきりオレ1人しか居ないと思ってたからさ。』


『1人しか居ないと思ってたって、ならあたしを見て何だと思ったんですか?』


『妖怪』


『喧嘩売ってます?』


『ゴメンナサイ』


『まぁ、いいや。お兄さんこの辺りじゃ見かけない方ですけど、何してるんですか?』


『自分探しの旅を少々。』


おもむろに目の前女の子がスマホを取り出しいじり出した。


『えっと…何してるのかな?』


笑顔で聞いてみる。


『あ、ちょっと面白かったんで、SNSに自分探しの旅てるお兄さんに遭遇したって投稿してます。写真もいいですか?』


『ギャアアアアー!!!ヤメテヤメテー!!!』


『ちょっ!!君さ!!何かオレに恨みでもあんの!?』


『SNSにお兄さんの事を投稿してしまうのは妖怪のせいなのですよ。』


ニコニコしながら言ってくる。


『うっ…』


『だから、さっきのはゴメンってば~』


『本当に反省してますか?』


『してるしてる、海よりも深く。』


『何か、その言い回しが全然反省してる感じしないんだよなぁ…』


『ゴメンゴメン、オレのボキャブラリーがあり過ぎるばっかりに。』


『…………………………』


いかん、相手の顔を直視出来ない…。


『あ、ええと…自己紹介まだだったよね。』


『オレは真柴。真柴桜祀。』


言葉だとオレの名前の難しさは伝わらないな。


桜祀と書いてエイジと言う。


仲のいい友達何かはエッジと呼んでくるが、そこまで話す必要も無いだろう。


『君は?』


『あたしは、そんなにポンポン個人情報教える程危機感無く無いんで。』


クソガキがっ!!


『あ、ああーそうなんだ、そうだよね。女の子だしね。』


『でも、どうしても名前を呼びたいならアリスって呼んで下さい。』


『は?』


『『は?』じゃなくて…。』


『あ、ああ。アリスちゃんね。了解了解。』


危ない危ない、また一瞬不機嫌そうな顔してたよ…。


つか、絶対本名じゃねーだろ!!


何がどうしても名前を呼びたいならだよ。別に呼びたくねーよ!!


イチイチ上から目線だなこのガキ。


とか思ってると、目の前のアリスと名乗る女の子がおもむろにスマホでオレの写真を撮った。


『えーと…何をしてるのかな?アリスちゃん?』


『お兄さん、さっき反省してるって言いましたよね?』


『海よりも深く?』


『う、うん。言ったね…。』


何なんだよ、この女の威圧感は!!


『態度で示して欲しいんですけど。』


『と、言いますと?』


『お兄さん、いつまでここに居るんですか?』


『明日には出てくつもりだけど?』


『ダメ!!』


『え?』


『あたし夏休み何です。』


『は、はぁ…それが何か?』


『あたし、自分で言うのも何ですが、友達居ないんですよね。』


『…で?』


『『で?』て言う?』


ヒッ


殺気を感じた!!殺される!!


『もっと完結に言って頂いてよろしいでしょうか?』


『暇何です。』


『で?』


『喧嘩売ってます?』


『ゴメンナサイ』


『も~察しが悪いですね!!あたしと明日遊んで下さい!!』


『…………………………は?』


『旅してるんですよね、色々観光的な事もしないと損じゃないですか!!』


『この辺りの、えっと…観光案内してくれるって事?』


『そうですっ!!』


『いや、いいです。』


まだ1回目の休憩場所だよ!!


確かに田舎で風景はかなり変わってはいるけど、言う程離れて無いからね!!


『…写真SNSに投稿しますよ。』


脅迫してきただと!?


『ちょっ!!お願い、それだけはヤメテ!!』


『じゃあ、決まりですね!!』


『わかりました。』


はぁ~何だよそれ~。


まだ旅は始まったばかりなのに前途多難だな…。


少し落ち込んでると、アリスと名乗った少女が声をかけてくる。


『真柴さん、夕飯まだだよね?』


『あ、ああ…。変なのに絡まれて野営の準備も飯もまだだな…。』


言ってハッとした!!


『アリスちゃん、今のは…』


言い終わるより先に胸ぐらを掴まれた。


『アリスさん!苦しい苦しい!!』


『真柴さん。変なのって、まさかあたしの事じゃないですよね?』


わぁ~目が全然笑って無いのに凄い笑顔だ~。


『まさか、そんなアリスちゃんな訳ないじゃない!!』


『ここに到着する前にちょっと変なのに絡まれただけ、そいつらの事だよ!!』


そんな奴らは存在しない。


『それにアリスちゃんとの出会いは、むしろオレには喜ばしい事だよ!!』


『ホントに?』


『あ、ああ。君みたいな可愛い子と友達になれるんだから、最高の日だよ!!』


胸ぐらを掴む手の力が緩む。


『ゲホッゲホッ』


咳き込みながらアリスの方を見ると、アレ?少し顔が赤い?


『も~真柴さんったら、何言ってるんですか~』


と言いながら今度は背中を凄い勢いでバンバン叩いてくる。


痛い痛い!!


バカなの!?この女バカなの!?


『ヤメテヤメテ。イタイイタイ。』


『あ、ごめんなさい!!』


『でも、真柴さんが、いきなり可愛いとか言うから~。』


なに身体クネクネさせてんだよ…。


『う、うん。そうだね。僕が悪かったね。』


『あのさ。そろそろ時間も遅くなってきたし、アリスちゃんもそろそろ帰った方がいいよ。』


『遅くなると僕も心配だし。』


『真柴さん。あたしの事好き何ですか?』


『あ~はいはい好き好き。だから早く帰んな。』


『………ぷ~』


何膨れてんだよ!!


会って間もないのに好きとかありえねえだろ!!


『まぁ、けど。真柴さんがそんなにあたしの事が心配だって言うんなら帰ってあげます。』


やっとかよ…。


『じゃ!!』


『はいはいー気を付けてなー』


やっと、帰った。


『疾風怒涛』そんな言葉の似合う女の子だったな…。


遅くなったし、とりあえずサッサとテントだけでも組み立ててしまおう。


そんなに大きくはないテントなのだが、不慣れなせいか1人で組み立てるのには、そこそこの時間を要した。


組み上がったテントの中に大の字で寝転がると、疲れのせいか何もする気が起きない。


あ〜クソ今日は風呂にも入れねーな。


とりあえず、どっかに水道でも無いかな?


頭だけでも水で流したいな。


そう思い、テントを出たら目の前に妖怪…もといアリスが居た。


『え…えっと…何?』


『えっへへ~』


『まだ何かあるの?』


『じゃーん!!』


『ヒッ』


『…………』


目の前の女の子がゴミを見るような目でオレを見ている。


『『ヒッ』じゃなくて!!はい!!差し入れ!!』


『え?』


見ればアリスはお鍋を持って立っていた。


『さっき、夕飯まだだって言ってたでしょ?』


『うん。』


『家そんなに遠くないから、差し入れに肉じゃが持ってきたの!!』


『個人情報がどうとか言って無かった?』


シュッ


『熱っ!!熱い熱い!!』


お玉で肉じゃがの汁をすくって、思いっきりかけてきやがった!!


『真柴さん、何か言いました?』


相変わらずの満面の笑みだ。


『ううん。何も言ってないよ。ありがとう、とても助かるよ。』


『よかったー。えっへへ~。』


『アリスちゃんさ。』


『何?』


『その『えっへへ~』ってのヤメテくれるかな?』


『は?何で?』


『ちょっと可愛い過ぎる。』


ボッ


火でも灯したようにアリスの顔が一気に真っ赤になる。


『ま、真柴さんこそ、そゆ事言うのヤメテ下さい!!』


『はいはい、ゴメンゴメン。』


こいつ可愛いって言われるとすぐオタオタするな。


意外に単純だわ。


『まぁ、疲れて何もやる気になんなかったから、差し入れはホントに助かるよ。ありがとね。』


『う、うん。』


『後ついでにさ、この辺りに水道無いかな?』


『その辺のお家の庭にはあるけど、公共のは無いかなぁ?』


『そっかー了解。』


『お水いるの?』


『ん。風呂入れないから、頭だけでも流しておこうと思っただけだから、無いなら諦めるよ。』


『お水ならペットボトルに入れて持って来てあげるよ?』


『あと、明日は川に行こうか、水浴びも出来るし!!』


『ん。それはアリスちゃんの観光案内に任せるよ。』


『わかったー とりあえずお水持ってくるね!』


と言ったと思ったらアリスは駆け出そうとする。


『ああーーいい、いい。』


『え?何で?』


『ホントにもう夜も遅いから、そのまま帰りな。飲み水位ならあるから平気だし。』


『そう?』


『うんうん。』


『もし、アリスちゃんに何かあったら、一緒に遊ぶ事も出来なくなるだろ?』


『いい子だから、もう帰りな。』


『うん。わかった。肉じゃがのお鍋は明日取りにくるね。』


『うん。ありがと。』


アリスは帰ろうと背を向ける。


『真柴さん。』


『ん?』


『明日楽しみにしてるね!!』


振り返って、アリスが笑顔でそう言う。


その笑顔がとても可愛くて、オレは一瞬言葉も失い立ち尽くす。


どの位の空白があったのかはわからないが、アリスが不思議そうな顔をして、オレの名前を呼びかける。


『真柴さん?』


『え?』


『ボーとしちゃってどうしたの?大丈夫?』


『あ、うん。ごめん。何でもないよ。』


『そう?じゃあ、あたし行くね。』


『うん。』


…………………………


『アリスちゃん。』


『真柴さん。』


ほぼ同時にお互いの名前を呼ぶ。


『何?』


『何?』


また同時。


お互い顔を見合わせて笑ってしまう。


今度はアリスが先に『おやすみなさい。』と言う。


『ああ。おやすみ。』


ようやく、長かった1日が終わりを告げようとしている。


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