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第一部『合コン』〜7〜

 「ありがとうございました〜」

 食後の板ガムを全員に配り、頭を下げた居酒屋の店員は、一同をチラチラ見ながら仕事に戻って行った。

 「で、なにがどうなったんだい?」

 緒方はガムを口に入れながら立野に問いかけた。

 「いや、俺も訳わからん・・・岡里さんは相川と知り合いなのか?」

 立野が眉に皺を寄せたまま、岡里に顔を向けた。

 「ええ、中学の時からの知り合いなんです。同じ塾だったんですけど、高校行ってからも連絡は取っていて・・・」

 岡里は俯いたまま言った。

 「それで・・・突然連絡が途絶えて・・・心配になって色々心当たりは当たってみたんですけど・・・見つからなくて・・・」

 「諦めかけていたら見つかった・・・と?」

 緒方が岡里の顔を覗き込むと、岡里は鋭い目で翔輝を睨みながら・・・泣いていた。

 「つまり・・・元恋人?」

 黒田がニヤニヤしながら翔輝を小突いた。

 「・・・違う」

 翔輝はそれだけ呟いて、足早に帰ろうとした。

 「また逃げるの?!」

 岡里の怒鳴り声が、翔輝の足を止めた。

 「なんでよ?!あたしがなんかした?!そりゃ・・・色々あったけど、避けられるようなことしたつもりないよ?!なんかあんなら言ってよ・・・謝るから・・・避けないでよぉ・・・」

 堪え切れなかったのか、岡里はしゃくり声を上げながら涙を零して泣き始めた。

 「ごめん、岡里・・・でも、ごめん・・・」

 翔輝はそれだけ言い残して、岡里の方を見向きもせずに歩き始めた。

 「相川・・・くん!待って!」

 笹沼は、ちょっと困ったように岡里をチラリと見たが、黒田に、

「後で連絡するから!亜由美よろしく!」

 と残して、翔輝の後を追った。

 「美樹〜・・・マジかよあいつ〜・・・」

 黒田は頭を掻きながら、咽び泣いている岡里を見下ろした。・・・マジ泣きだった・・・

 「これは・・・どうすればいいんだろうねぇ・・・?」

 緒方が立野の肩に手を乗せてため息をついた。

 「・・・どっか違う店に行くか、とりあえず・・・ほっとけないし・・・」

 立野も同様にため息をついた。


 「ちょ・・・待って!」

 笹沼は翔輝に追いつくと、翔輝の腕を掴んだ。が、それを気にも留めず、翔輝は強引に歩き続けようとする。

 「待ってってば!」

 グイッと、弱い力を振り絞って、腕を引くと、翔輝はやっと立ち止まり振り返った。

 「なんか用?」

 翔輝はため息をつきながら笹沼を見た。何の感情も読み取れない、冷たい表情で。

 が、それを見た笹沼は、鼻で笑った。

 「・・・とりあえず、どっか行きましょ?飲み足りないでしょ?」

 突如態度を変えた笹沼に、少し驚いたように目を見開きながら、翔輝は笑った。

 「猫かぶるのはやめたわけ?」

 見下したような翔輝の視線を正面から受け止めて、笹沼は満面の笑みを浮かべた。満面の・・・悪魔のような・・・笑みを。

 「あんたには意味ないでしょうが。中年がいたから猫かぶってただけよさっきは。で、行くの?行かないの?」

 笹沼は翔輝の腕を抱きかかえた。自分のふっくらとした胸に当たるように。

 「気持ち悪ぃんだよ、そういうの。ただ話すだけなら行ってやる。でも、色仕掛けみてぇなことはやめろ。な?」

 翔輝は笹沼の胸倉を掴んで、ガンを飛ばしながら吐き捨てた。

 「聞きたいことがあるの・・・わかってたんだ?」

 笹沼は翔輝の腕を振り払って、笑みを浮かべた。

 「じゃなきゃお前みたいなのが一人の男にそんな執着しねぇだろ?」

 翔輝は煙草を取り出して、一本咥えた。

 「じゃ、行きましょ。相川くんの好きな店でいいわよ。話聞く代わりにあたしがおごるわ」

 翔輝の腕を掴みながら、笹沼はまた笑みを浮かべた。

 「なら、すぐそこのBARでいい。よく行くんだ。静かだから落ち着く」

 翔輝は駅前のドーナツ屋の上にある、BARを指差した。笹沼は黙って頷き、翔輝の腕を引っ張りながら歩き出した。


 「で、なにが聞きたい?」

 翔輝はウイスキーの入ったグラスを傾けながら、煙草を一口吸った。

 「岡里亜由美は元カノ?」

 「違う」

 カクテルグラスに入った色彩が美しいカクテルと、その中に添えられたチェリーを恋しそうに笹沼は見つめている。

 「じゃぁ、セフレとか?昔の客とか?」

 「お前、さっきの話聞いてなかったのか?」

 翔輝はまた、深いため息と共に、煙を吐き出した。

 「だって、さっきのは明らかにそういう感じでしょ?女が振られて、未練タラタラって感じ。そんで、それをあっさり突き放す遊び人の男!」

 ズバリでしょ?と言いながら笹沼はいやらしく微笑んだ。上着を脱いで、アルコールで頬を赤くしている彼女は、艶やかで色っぽかった。

 「振られたのは俺だよ」

 「えっ?!」

 笹沼は目を見開いて翔輝に詰め寄った。

 「どういうこと?」

 「くっつくな、うっとうしい!」

 翔輝が、笹沼の肩を優しく押して、突き放した。口調は冷たいが、彼の行動には女性に対する優しさがあった。

 「ねぇ、どういうこと?もし亜由美があんたを振ったなら、どうしてあの子があんたを追っかけるのよ?」

 「知らねぇよ」

 翔輝は俯いて、ため息を吐いた。

 「酒」

 「えっ?」

 翔輝がフッと鼻で笑ってから微笑んだ。

 「酒、おごってくれたからな。話してやるよ。なにがあったか」

 可愛さと、優しさが垣間見える中、切なさも同居している、そんな笑顔だった。

 


これにて、第一部は終了です。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。久しぶりに小説を書いたもので、読み返してみると、ひどいな・・・と思いましたワラ

さて、第二部ですが、翔輝の視点で、彼の過去を語ることになります。

冒頭で、なるべく登場人物の心情を描かないと書いた理由がここにあります。

この小説は、過去を語る時のみ、彼らの心情を描き、その後、彼らがどういうストーリーの展開を見せるか、推理小説のように書き進めていきたいと思っていますので。

では、今回はこの辺で失礼させていただきます。

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