第一部『合コン』〜2〜
自己紹介も終わり、他愛ない話が続く中、笹沼が声のトーンを落として、翔輝に話し掛けた。
「相川さん・・・ごめんなさい。理恵・・・前にホストやってた人に騙されて・・・何股もかけられて捨てられたの・・・だから」
翔輝は、少し俯きながら煙草の煙を吐き出した。
「・・・なるほどね。だからか・・・ん、大丈夫。気にしてないし」
それを聞いた笹沼は力無く微笑んだ。
「ねぇ、立野さん。緒方さんまだなの〜?」
突然、黒田が声色を高くした。
「・・・緒方さん?」
翔輝が目の前に座っている笹沼に訊ねると、
「よく知らないんだけど、理恵が働いてる店によく立野さんと来るらしいの。合コンはその人を紹介してもらう代わりに用意したの」
笹沼は少し慣れてきたのか、既に敬語を使わなくなっていた。
「そ!あんたみたいな元ホストと違って優しくてカッコイイ大人の男!!」
黒田が翔輝を睨みながら煙草を吸った。黒田が吸っている煙草は女の子に人気のあるピンク色のパッケージでロングのメンソール煙草だ。
「理恵!いい加減にしなって!相川さんに突っ掛かってどうすんの?!」
笹沼がテーブルを叩いた。
「美樹は黙ってて!元っつったってこういうやつは結局女なんかやるための道具くらいにしか思ってないのよ!違う?!」
黒田がテーブルを叩き返した。
「まぁまぁ。黒田さん、相川はそんなやつじゃないから」
立野が間に入ろうと黒田を宥める。
「女はやるための道具って・・・んなもん逆にお前みたいな女とやるやつのがおかしいと思うけどね」
翔輝が鼻で笑った。
「・・・っだとてめぇ!!!」
黒田が立ち上がる。
「ちょっと理恵!相川さんも!今のは・・・」
笹沼が口を挟もうとしたが立野に手で遮られた。
「女の子に失礼なこと言ったんだ。自分でこの場を抑えてみろ」
立野が翔輝を睨んだ。
「わかってますよ、立野さん。・・・とりあえず座れよ」
翔輝がため息をついてから煙草を手に取った。黒田は息を荒くしていたが、ドカッと勢いよく座り、同じく煙草に手を取った。
「どういうことよ、さっきの」
翔輝は大きく煙草を吸い、煙を吐き出し、話を始めた。
「グダグダ過去を引きずってる女とやりたい男なんかいねぇってこと。俺だったら、自分のことだけ見てくれるやつとじゃなきゃやりたくないし。ってか本気で好きになれない。逆に聞くけど、合コン来て昔の女を引きずって当たり散らしたりため息ばっかついてるやつを狙うか?」
黒田は少し俯いて、煙草の煙を吐き出しながら、
「悪かったわよ」
と小さく言った。
翔輝は顔を崩しながら、
「いや、こっちも失礼なこと言ってごめん」
と頭を下げた。
「で、その緒方さんって人は?」
翔輝が立野の方に顔を向けた。立野は飲み物を焼酎に替えてグラスを手で弄んでいた。
「あぁ、俺の古くからの友人なんだ。こっち来てからのな。もうすぐ来るはずなんだが」
「こっち来てから?」
笹沼が首を傾げた。大きい瞳が目立つ顔は酒のせいか頬が赤くなっている。
「あぁ、俺さ、高校出てからすぐこっちに来て今の会社に就職したんだ。で、そん時に同じアパートに住んでたのが緒方なんだ。年も同じだから気が合ってさ」
立野が酒を口に運びながら説明した。
「・・・じゃあ、人数合ってるし俺が来る必要なかったんじゃ・・・?」
翔輝がまた煙草に火を点けた。
「あ、今日3対3だから。帰っちゃダメよ!」
黒田が翔輝に顔を近付けていった。翔輝はすかさず顔を引いた。
「・・・なんかあの二人、最初の雰囲気どこへやらって感じですね」
笹沼が引きつった笑顔を浮かべた。
「元が気が合うんだろうね?似たもん同士っていうか」
立野も苦笑を浮かべている。
「全然似てないと思うんですけど・・・」
「性格じゃなくて・・・過去が、さ」
立野は言い切ってから追加の注文を頼むために店員を呼んだ。
「過去・・・?・・・騙された?相川くんも?」
笹沼は、隣で言い合っている黒田と翔輝を見ながら呟いた。