ラベンダーの残り香
ラベンダーの香りを纏う娘と擦れ違った。
きっと僕はラベンダーの香りをかいでは、あの娘の後ろ姿を思い出すことだろう。
多分、一ヶ月先には忘れているだろうけれど。
お気に入りの香水は、別れた男を思い出す。
あんなに落ち着く香りだったのに、今ではこんなに落ち着かない。
苛つきながら手を伸ばし、慣れない煙草に火をつける。
お土産、と渡された飴と入れ違いに煙草は取り上げられてしまった。
口寂しいなら飴か私にしてよと笑う彼女を引き寄せる。
だって、ラベンダーの飴はまずい。
封すら切らないその選択に、私は心底満ち足りる。
貴方から香る匂いは、揃いのシャンプーだけでいい。
笑いながら受け止めて、煙草の火種を押し消した。
同僚から飴を貰った。
ラベンダーの香りを閉じこめたそれは、何とも微妙な味がした。
どんなに香りが良くたって、それが美味とは限らない。そんなことを彼は言う。
案外いけるし、そうでもないよ。そんなことを僕は言う。
瞼の裏ではあの人の、長い髪が揺れていた。