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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第三章
93/94

\0年間の結果

お久しぶりです。

気づけばGW……4月は何かと立て込んでおりまして、自らの見通しの甘さをまざまざと見せつけられた気分です。

ここ2月3月はロシア及びイタリアに滞在して居たのですが、モスクワでチェブラーシュカの着ぐるみ着た連中に身ぐるみ剥がされかけたり、サンクトペテルブルクでエルミタージュ美術館の翡翠の間に感動しつつも帰った一週間後に地下鉄テロが起きて肝を冷やしたり、またイタリアでは€1000近くのお金をスられたりと散々な旅でしたが、非常に充実した経験を経てきました。

今月から再び通常通り更新できる様に、鋭意努めていきたいと思いますので、よろしくお願い致します。

追伸:ヴェネツィアはダントツで素晴らしい所でした。是非機会などあれば訪れてみる事をお勧めしたいです。










挨拶回りに、ああ疲れたと息を吐く間も無く、翌日はただちに必要物資の買い出しだ。

特にフェリア、レズンに関しては一日中、このエルク市内を駆け回る事になるだろう。

さて、ではそれ以外の俺、スィラ、またミレイとネーナの使用人組はどうするかと言えば……。


「やっ!久しぶり!」


「ああ、元気そうで何よりだ」


場所は我らが武器商人、メアリー・アリソン。本名ヘルガ・コンクァの武器店である。

端的に言って、メアリーの工房で作成しているものは酷く近代的(・・・)な代物だ。

少なくとも時代錯誤も甚だしい。大人しくマスケット銃で我慢しておけという物を、紡錘型の弾丸に回転を与えて射出するライフル銃を、更には反動、ガス圧利用のオートマチックライフルをも作成しようとしているのだから、これを独力で成そうとするのは困難極まるだろう。

かつての天才銃器発明家、ジョン・ブローニング氏がガス圧利用の機関銃を作った時、彼は銃の周囲に吐き出される発射ガスで草が揺らめくのを見て、そのアイデアを考え付いたと言われているが、それは既に反動利用式の機関銃があったから、またそれを撃って注意深く観察出来るほどに弾薬が有り余っていた故に到達した結論であろう。

銃とはその製造元の工業力、ひいては技術力が顕著に出る製品であり、よく出来た銃を製造出来るという事は、その国の製鋼能力、金属を含めた各種素材の加工技術、また工学的知見が特に優れているという事を意味する。


「それで?進捗の方はどうなんだ?」


確か最後に見たのは出来損ないもいいところなボルトアクション・ライフルを組み立てていた筈。


「あ、それはね……」


メアリーがふっと店の奥に流し目をすると、きしりと奥の工房に続く扉のノブが軋んだ。


「メアリー、またシアー削げ落ちたよぅ……いい加減鋳物やめようよぉ……絶対切削のがいいって」


現れたのはやけに小さな人影、いやニーレイ程ではないが、人間で言うところの子供……俺の今の身体と身の丈的には大差ない。


「……今は消耗品として割り切って。ただでさえ工作精度出す為に貴重なNC(・・)で重要部品出してるんだから、そんなのに回してる暇ない……電気も足りないのに」


「えぇ……いや、いくら私が手工作得意だからって、材質が脆かったら……」


このままいくと日が暮れる迄話が終わらぬ気配を察した俺は、一つ咳払いをすると共に、立てかけてあった剣をわざとぶつけ合わせて気を引いた。


「メアリー、こちらの方は?」


ちっちゃい方がひどく迷惑そうに顔を顰めたのはさて置き、メアリーがまず俺の紹介をしてくれた。


「あー、こっちはエリアス・スチャルトナ。()の設計でのアドバイザー兼、アルタニク伯爵領とラクシアとのパイプ役も担ってくれてる」


パイプ役、と聞いたところでこのちっこいのの持つ黒々とした瞳がきろりと光った様に思えたのは、恐らく気のせいではあるまい。


「へぇ!私はレイヴィ!レイヴィ・ミランドラ!種族は小人族(ドワーフ)だよっ!」


背後でスィラが息を呑んだ気配があったが、直ちに理由を質すまでには、その名は俺の興味を引かなかった。


「エリアスだ、してドワーフか……ドワーフ?」


して、彼らの時計が欲しかった俺には渡りに船だと思ったが、それはまた後でよかろうと自制心を働かせた。

さてドワーフ、小人族と呼ばれる彼等の種族について少しばかりおさらいをしよう。

彼等の主たる居住地はヤールーン東側、旧アイルランド地方にあると一般に言われている。

身体の大きさは男女共に12歳程の人間に近く、その背丈を維持したまま歳をとってゆく。

腕力を初めとした身体能力は人間や大半の獣人魔族を優に上回り、単純な力比べで彼等に勝つ事は一般に極めて困難だ。

種の特徴として平均的に手先が器用、かつ非常に知能が高い。

一説によると彼等は最初にこの地上に於いて文明を築いた種の一つであり、また誰よりも早く製鋼を始め、また常に時代の先端を行く技術を開拓し続けているという。

以前に述べた通り、彼等はまだこの旧欧州に於いてまず流通していない鋼鉄をほぼ唯一作る事が出来た(・・・)というのはこちらの技術畑の人間からすれば既知の事実だ。

過去形にしたのは現在アルタニク伯爵領で鋼鉄の生産が本格的に軌道に乗り始めた事を鑑みての事である。

尤もアルタニク伯爵領の鋼鉄にしても、ドワーフの鋼鉄にしても滅多に外に出ない事には変わりない。

アルタニク伯爵領内における鋼鉄の需要はこの上無く高まっているし、ドワーフ側はよく分からないが、断交状態のアリエテは当然ながら、その値段故にハノヴィアが買う以外には対外需要が無いという。

その一部の鋼鉄もハノヴィアでは以前に紹介した高性能兵器等の生産に使われているらしく、そこからさらにどこかに流れる事もまず無かった。


「して、()の様な者が何故ここに?」


彼個人の見た目を一応紹介しておこうか。

一見この小人、どう見ても人間の女子である。

一人称はワタシ、服装こそ鍛冶屋スタイルで色気のいの字も無いが、なかなかどうして顔立ちは可愛らしい。レズンの様なやや歪んだものでなく、何というか……こう言うとレズンは怒るかも知れないが、順当に成長しつつある美男子、と言う感じである。

で、俺も最初はこいつも女かと思ったのだが、最近は視界だけでなくその者が持つ魔力のカタチを並行して観測する様にしていた為……股間にアレが付いていると言うことに気が付いたのだった……服なんて意味はなかった。


「へぇ!初見で()の性別を当てたのはまだ片手の指の数にも届いてない。誇っていいよ」


彼はやや驚いた様な素振りを見せつつも、特にそこは本人にとっても重要な点では無かったようで気配そのものに変化は見られなかった。


「理由だったね、旧友の知り合い(・・・・・・・)が面白い課題に手を出したって聞いてね、ちょっと足を運んだらハマっちゃった、ってだけだよ」


「……ってわけで、住み着かれちゃったの。評判に違わぬ(・・・・・・)腕だし、実質製造の根幹を担ってるのはもう彼……やっぱり本物は違うのよね」


自嘲するかの様に苦笑する彼女は、その実充実した生活を楽しんでいる様に見えた。

何か打ち込む事があると人は輝いて見えるものだ。そう思ったのは彼女がライフルを試射しようとして銃身を爆発させた時の事か。

ひどい失敗で、彼女は眼を潰しかける様な大怪我をした。

幸い水系統の治癒魔術が使える俺が近くに居たからして、失明コースは避けられたが、魔術によって痛みまで忘れられる訳では無い……きっともう嫌になるだろうと思った。

だが、彼女はそれを、やっちゃったー、なんて言ってカラッと笑ったのだ。

何だかは盲目、とはよく言ったものだ。恋も仕事も、趣味にせよ没頭している間、人は矢鱈と狭了になるものである。

それは苦痛についても一緒、少し前の彼女は文字通り寝る間も惜しんで図面を引いて鑢を資材に走らせたものだが、今はある決まった生活リズムを確実に守ってもらっている。

睡眠不足、不健康は良い仕事の敵。そう言ったのは誰であったか……精神学的にも明らかな事実である。


「そうか、で?その部品は確か私の注文には使われないであろうものだな?……今度は何に手を出しているんだ?」


技術畑と技術畑、合間見えたならば共通の話題を話すべきであろう。

我が意を得たりと言わんばかりに頬を引き上げたレイヴィは……何と言うか……その……専門分野を振られたマニアじみて、蛇口を捻った様に言葉を吐き出した。


「よく聞いてくれたね!今作ってるのは古代の銃器でも最も複雑な代物の一つで、機関銃ってもの!この間完成したボルトアクション式ライフルは弾薬の装填、発射、排莢のサイクルを全て手動で行うけど、機関銃はその動作を何かしら他の要因を用いて完結させるんだよ!例えば弾を撃ち出すときに発生する後ろ向きの反動……反作用だっけ?だとか!ボルトキャリアの単純な往復動作の中に弾の装填、薬室の閉鎖、ファイアリングピンの諸動作、薬室の開放、排莢、再装填……諸々の動作を組み込むんだよ!その絡繰……」


……とりあえず、ものを簡潔に話す能力に乏しいと言うことはよくわかった。


「で、語りはいいから作ったものを見せてくれると助かる」


俺もお話は好きな方だが、それはあくまで会話であって聴講では無い。


「おっと、これは失敬……今持ってくるよ」


その間に本来の俺達の用事を済ませておこうか。


「ミレイ、ネーナ、ちょっと来い。……メアリー、例のヤツは?」


「ふーん……その子達が使い手になるの?」


仮にも180年以上生きている魔族の一員の眼光である。高々10を少し過ぎたばかりの少女にとってはかなり来る物であったに違いない。

だが、2人の心境に如何なるものがあったのか、少し怯みはしたものの、すぐに持ち直してキッとメアリーを見返したのだ。

その反応はメアリーにとって面白いものだったらしい。みるみるうちに彼女の口角が吊り上って行った。


「いいね、気骨はありそうだ。扱いは……これから頑張って勉強してね?」


そう言って背後のロッカーから引っ張り出した2丁の無骨なライフル。

アリソン・ライフルと名付けられた近代的な銃弾を用いる、初めて再興した文明内で製作されたライフルが、目の前にあった。

Алисон М1415小銃。

口径8mm 使用弾薬8×57mm(設計上は7.92×57mmモーゼル弾と互換性あり)

全長1140mm 重量5.3kg 銃身長620mm

装弾数5+1発 ライフリング4条右回り

有効射程約500mm程

一般的な木製銃床を持ち、機関部はやや複雑で強いて言えば……イギリス製のEnfieldライフルに酷似している。リアサイトがボルトハンドルのほぼ直上についている点も同じ。ボルトのストロークが短く、連射性に優れたデザインである。

ハンドガードはよくあるスポーツライフルや後世に登場した狙撃銃とは異なり、銃身の殆どを覆い尽くしている。昔ながらのボルトアクション式小銃のスタンダードな形だ。初期の品であり量産品ではないので、手間のかかる彫刻じみた滑り止めが至る所に施してある……えらく無駄な装飾に見えるが、この時代、上等な武器に立派な装飾を施す事は一般的であった。

ストックには当たり前ながらスリングベルトを取り付ける金具が取り付けられている。最初はコレすら言わなければ付けてもらえなかったものだ。

形は反動を上に逃しやすい様にやや下を向いた曲銃床式、後世に現れる自動小銃に適した真っ直ぐな直銃床ではない。ストックエンドは金属製の味気ないプレートではあるが、ここも彫刻による滑り止めが施されている。

ボルトハンドルは邪魔にならない様に、やや下側に曲げてある。アリサカ・ライフルやモシンナガン・ライフルの様に真横に伸ばしてもいいのだが、そこは加工の手間を惜してもやって貰った。

安全装置はトリガーをロックするボタン式、あまり良いものでは無いし、安全性は微妙だが、内部機構がただでさえ懸念持ちなので、そこは妥協してある。

照準器は0mから900mまで100m刻みで照準できる様に調節可能で、左右にも貴重なねじ式の機構で調整可能、形は穴の中にフロントサイトを捉えるピープ型。残念ながらフロントサイトは固定式で動かない。

銃口部には発砲煙を打ち消すフラッシュハイダーなどは無く、初期のマスケット銃じみた地味な物である。

この銃の最大の特徴は、銃剣が固定式で標準装備されている事だろうか。これは古今の銃を掻き集めても、そう多くはない特性だ。

折り畳み式での標準装備はかつての44式騎兵銃や、56式自動小銃などに見られたが、此方に至っては折り畳む事すら出来ない。

刃渡り40cm、刃幅4.8cm、片刃で刀身は銃床先端部に3本のピンで固定されている。取り外しにはハンマーとポンチが必要だ。

この装備はこの時代特有の代物だろう。何せこの世界の主力兵器はなんといっても剣槍で、高性能な連弩を開発しているハノヴィア軍でさえ、その大多数の兵士が装備しているのは槍ないし剣、またそれに準ずる近接武器である。

その思想は勿論作り手であるメアリーも持ち合わせているもので……つまり、この銃は短槍としての役割に重きを置いて設計されているのである。

その証拠として、この銃は銃身の周りを木では無く、鋼鉄製の厚い被筒……コレも後世に伝われば文化遺産になる程の彫刻が施されていた……で装甲化してある……敵の剣戟を受けても銃身がダメージを負わない様に、という配慮だ。

コレが俺としては気に入らない点ではあったが、運用上周囲の敵が装備し得る武器のレベルが、俺の考える銃の要求事項と違い過ぎるという点を考慮し、一先ずはこの形で運用して見ることにした。この世界独特の仕様……そもそも、それ以前のマスケット銃にはそういうものがついている物も多々あるので、仕方がない物だろう。

その関係でこの銃はたかがボルトアクション式照準であるのにも関わらず、初期の自動小銃並みの重さを超えた、非装弾時でも5kg超えという重量級ライフルと化してしまった。


「……やはり、かなりフロントヘビーだな」


銃剣と銃身周りの装甲が銃全体におけるかなりの重さを占めているので、取り回しはかなり悪い。その代わりと言っては何だが、その重さは銃の安定感へと繋がっており、照準時における銃のブレはかなり少なくなりやすい。


「さて、2人はこの銃という武器のプロフェッショナル……専門家になってもらう」


その目にあるのは好奇心と緊張……ウケは悪くないな。この新しい武器に余程興味があると見える。


「この世で初めて、現代人の手によって再現された武器だ。つまり君達は先駆者……言っている意味は分かるな?」


ほいと渡せば軽々持っていた俺の様子とは裏腹に、見た目以上に重く、長い……銃剣を含めれば約150cm、2人の身長よりもやや長いそれに戸惑っている様だった。

だがこの2人は仮にも魔術師の子供、力は前世における人間を基準にするのは間違いだ。見様見真似で構えたその銃口はさして揺らいではいなかった。


「あとで簡単な使い方は教える。本格的な訓練は道中も含めてやるから、心しておくように」


「お待たせ!あら、メアリーの作品を使うのは君達か!大事にしてやってね、と。コレが私の傑作っ!」


レイヴィが奥から抱えてきたのは……おや、何と数奇な事か……レリーフによる装飾が激しいが、俺には少し見覚えがある代物だった。


「ほう、自動拳銃(オートマチック)か」


それは史実におけるもう一つのM1911。後年M1912とバージョンアップされた、オーストリア=ハンガリー二重帝国が生み出した素晴らしい自動拳銃だ。

Steyr M1911/1912 P12 (レイヴィズデッドコピー・モデル)

口径9mm 使用弾薬9×19mm(9mmパラベラム弾と設計上は互換性あり)

全長216mm 重量1310g 銃身長127mm

装弾数9+1発

こいつの大きな特徴は装填にはマガジン交換でなく、ボルトアクション方式の小銃の様に弾薬クリップを使う点だろう。火力の持続性には問題が発生するだろうが、マガジンに使う高品質なスプリングを多数、思うがままに供給出来ないこの世界の技術レベルには、比較的合致している形態の銃の一つだろう。


「これの設計は?まさか一から考えた訳ではあるまい」


そう問うと彼はバツの悪い様な顔をして、抵抗もなく白状した。


「あ、やっぱわかるんだね。そう、それを考えたのは私じゃなくて……」


「『未開人には御誂え向きでしょう?』……はい、私が」


さらりと日本語で暴言を吐くあたり、コレも中々食えない人工知能だと思う……そういう捻くれ根性は嫌いじゃない。


「……ユキ、か」


入り口から入って来たのは、今はラクシアに居るはずの……一見非武装に見える女性型アンドロイドのユキだった。


「あまり悠長にする意味もありませんし、さっさと此方に追いついてもらわなければ困りますから」


幸いな事に、と彼女は無機物然としたメインカメラにレイヴィを映す。


小人族(ドワーフ)なる種は驚く程精密工作に長けている様に思えます。人間では不可能な精度での加工を平然と手作業で行う……まさか原始的な旋盤よりも高精度とは、俄かに信じられませんでしたが」


ヤールーンの種についても情報収集が必要ですね、と。

旋盤よりと精度が出る手工作?何の冗談だ?


「本当ですよ。あくまでサンプルの少ない私の測定ですが、誤差は±10nmに収まっています」


「それが本当だとすると、超精密CNCマシニングセンタ並か……ふざけた話だな」


ここで何の話かわからずポカンとしている連中の為に、一応軽く説明しておこう。

そもそもNC工作機械、正式名称数値(Numerical) 制御(Control)工作機械とはその名の通り、事前に工作機械に必要な作業工程を示す数値を入力し、一度スイッチを入れればその値通りに機械が動作して資材を加工する、高精度な工作機械の総称だ。

要は数値さえ入れれば後は機械がガリガリと金属だろうが何だろうが決まった形に削り出してくれる優れ物。扱いには少し専門的な知識を要する。

CNCとはNCの頭にComputerと文が付いたのみ、つまりは数値入力の過程でコンピュータを介するのだ。コレは多様な工作方法を持つマシニングセンタなどのNCマシンと組み合わせれば、3Dモデルの打ち出しなども可能である。


「必要だと思って入れたフライス盤は、レイヴィ氏には必要なかった様です。尤も、現在はメアリー氏が活用されてはいますが」


そうだ、ここにこんな工作機械を持ち込めるヤツなぞ他に居ないではないか。そもそもこんなもの良くも残っていたものだ……。


「復元は簡単でしたよ。精度が要求される箇所はほぼ無傷でしたので」


そうか……さては?


「まだその手の遺物は残っているのか」


「否定はしませんが、今後の為に肯定もしません」


白々しい奴である。さて……このステアーM1911/1912だが、どうするべきか。


「コレは売るのか?」


「う〜ん、どうしよう」


引き取れるぞという意思を見せると、レイヴィは何事か考え出す。


「実戦データも欲しいのは確かだけど、なんていうか、もう少し研究しときたい様な……」


なら決まりだな。懸念事項がある様だからして……。


「それなら、もう少し机上で研究してみてくれ。そこで穴を潰し尽くしてからでも遅くはない筈だ」


況してや初の自動武器である。耐久試験だとかをしっかりこなしてからでないと、危なくて配下に使わせにくい所である。


「わかった。じゃあコレはもう少しお蔵入りという事で」


そんなこんなでレイヴィは作ったものをあっさりと引っ込めた。


「あと、量産品はこんな装飾は要らんからな。何だこれ……蔦か?博物館に飾るならまだしも……勿体無くて使えないし、掃除も大変だろうからな」


比較的近代的なライフル銃に、どこぞの博物館の収蔵品にある装飾マスケット銃じみた紋様が刻まれているのは、中々に……少なくとも俺からすれば違和感が凄まじい。いや、確かにそんな現代銃もあるだろうが……。


「うーん……じゃあ、今度は彫りを浅くしとくね」


そういう事ではない、と言うのは無駄だろうな……。

兎も角はこの銃が使えれば良い。何とか捻り出した実包500発と共に銃を2人に持たせた。


「ところで……やはりメアリーは此処で店を続けるのか?」


極一般的に考えて、彼女に関しては資材調達の観点からしてもアルタニク伯爵領に移住した方が良い筈だ。

何故ツィーアからの申し出を断ってまで此処で続けるのか。その真意が気になっていた。


「……うーん、言わなきゃ駄目かねぇ」


疑問を抱くのも至極当然か、と折れてくれた様である。じゃあ一つだけ、と彼女は重苦しく口を開いた。


「約束があってね、待ってなきゃいけないんだよ。此処でね」


嘘は言っていないだろう。彼女の目は真っ直ぐで、少なくとも俺にはそう思える……が、少々疑問に思う。


「恋人でも居たのか?」


「うーん、まあ、似た様なものかね」


これは恐らく嘘だ。

今の仕草で確信した。どうやら彼女は然程嘘が得意でないらしい。シレッと嘘を会話に織り交ぜてくるらしいレズンやニーレイを見習うべきだろうな。


「深く詮索する気は無いから、そこまでにしていいぞ……まあ、なんだ。それが満了したらまた考えて貰えればいい」


俺としてもアルタニク伯爵領に彼女らが行ってもらった方が、技術の秘匿などの観点からして安心できる。

……どうしてもという事ならば仕方があるまいとは思うが。


「では、恐らく次に来るのは弾が切れた時か、数ヶ月後だろう。気をつけてな」


相も変わらず重厚過ぎる金属製の扉を閉じて、さて、と本日の問題その2へと向き合わねばならない。


「お前は、一体こんな離れた地で何をしている?」


しゅるりとこの世界風の長衣じみた装いを翻したユキは、メルなどと言った……言うならば、安物の素体とは雲泥の差が見て取れる表情再現機能をフル活用してニコリと笑った。


「さあ?あえて言うならば、出張でしょうか?」


この世界での銃器設計の第一人者は彼女でしょう?と。


「デュースケルンまで来ていただければ、より密な技術提供が出来るのですが……一時期は強制的にでも連行(・・)しようかとも思いましたが、流石にツィーア殿に止められましてね」


至極当然の事であるが、コレを止めてくれたツィーアには感謝しなければなるまい。

その結果の惨状など考えたくもない、と冷や汗が出る感覚であった。


「それにしても、石畳というのは歩きづらい。その内隙間にアスファルトでも敷くか、再舗装すべきでしょうね。アルタニク伯爵領で実験しましょうか……」


その内、アルタニク伯爵領はこいつの所為で味気ない近代都市へと変わって行くのだろう。

効率化というのは文化というか、それまで培われてきた物とは相反する事を基本的に指している。そこを上手い具合に折り合いを付けられればいいのだが。


「景観も気にするのだな。後の世になって誹りを受ける事などお前は気にしないかもしれないが、何にせよ雑な近代化は最小限にすべきだ」


以前に某ブーツの形をした地中海の国の首都……ローマ時代の建物含め、小洒落た景観を持つ街だ。俺が訪れた時、その道の殆どは石畳だった事を思い出す。

しかしその隙間にはアスファルトが詰められ、旅行鞄のキャスターが引っかからない事には感謝したが……それはただの石が混じって荒れ果て質の悪い舗装路でしかないだろうに、と思った記憶がある。

あれ程歪で街の景観を害する道も無いだろう。いくら車が通りやすくとも、だ。


「その手の感性は、生物(ナマモノ)でない私には分かりませんが」


一応は留意しましょう、と。

思い返せば、彼女とこうしてまともに(・・・・)雑談として言葉を交わしたのは初めてかも知れない。

彼女は機械である。骨格は特殊鋼で、内臓は耐熱材と耐蝕繊維で出来ている……生き物ですらない。

歯の一つを取ってもそれは表面を白く処理されたクロムモリブデン鋼だ。カルシウムで出来た骨ではない。

機械は人にとって対等たる存在にはなり得ない。

前世より俺の中で揺らがずに立ち続けてきた価値観だ。

だが今やどうだ?彼女はこんなにも人らしい。永い年月は機械をも成熟させるのだろうか?


「……?何ですか、そんな狐につつまれた様な顔をして」


「……いや、いい」


思考がおかしい。今日は早く休むべきだろう。

ユキの考えている事は分かっている。どうせ俺はバツの悪そうな顔をしているのだろう……。


「主?」


昔の俺ならば、それもくだらぬと切り捨てたのだろうか?

単に人を真似た動きをするのみの筈であるユキの瞳が、どうしても生き物にしか見えなかった。


「さっさと準備を済ませてしまおう」


寮に向かう俺の足はいつになく急いでいた。


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