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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第一章
9/94

嵐の前の静けさ

主人公は、割と乱暴者です。

全く酷い目に遭った。


今日の昼間、偉そうなおっさんと揉めていた気の強そうな少女、ツィーアと言ったか。寮で彼女と再会したのだが、何をどう間違えたのやら、彼女の部屋に連れて行かれ、剥かれた。いや、比喩ではなく。そして、恐ろしく高価そうなドレスを押し付けられた。流石に着るのは気が引けたのだが、彼女は俺が産まれてこの方お目にかかった事が無いような、押しの強い女だったらしい。無理矢理服を剥がされ、着付けられてしまった。しかも、このドレスはくれると言う。何か裏があるのではないかと疑ってしまう。


しかし、随分と色っぽいドレスだな。色もそうだが、足が・・・かなり深くまでスリットが入っていて、歩く度に太腿が露出してしまう。下着も、其れ迄履いていた白っぽい地味なショーツも脱がされ、黒い大人っぽい・・・横が紐で縛ってあるだけの物を履かされてしまった。いや、8歳に履かせる物じゃないだろう、コレは。完全に夜用の物だろう。


因みに履き心地は、先程までの物とは比べ物にならなかった。シルクも格やという様な肌触り。何で出来ているんだろうか、コレ。


ツィーアと食堂への道を歩く。ツィーアは本格的に腹が減っていた所であの行動だったらしく、歩いている途中にくぅ〜と可愛らしい音をお腹から発してしまい、やや赤面していた。かわいい。喋らなければ。


「一丁裸でこっちに来たって言うの!?それはちょっと非常識過ぎない!?」


非常に、非常に元気が良い、ぶっちゃけ騒がしかった。腹が減ってコレなのだから、普段は何れ程なのか。知りたいような、知りたくないような。聞けば彼女は俺の一つ年上らしい。


「・・・要らないと母に言われたのだ」


責任転嫁万歳。母を悪者にしていこう。まあ殆ど母が悪いと思うのだが。俺の責任といえば、自分から確認しなかった事だろうか。少々楽観的過ぎた様だ。以後気をつけよう。


「あんたのお母さんも大概ね・・・」


呆れ果てている様だ。母に。あくまで母に。しかし、一瞬だが、彼女の表情に翳りが見えた。母というものに嫌な思い出でも有るのだろうか。この話題は避けるとしよう。


ところで、俺の口調から敬語が抜けた理由だ。原因は、俺が若干興奮状態にあったときに話し掛けられた為である。口調を取り繕う事を忘れていた。今生生まれて初めて。この世に生まれて初めての、俺の原来持つ価値観が認める芸術に当てられてしまったか。今更直すのも馬鹿らしいので、此の儘通す。此れからは敬語に関しては大人達に使って行けば良いだろう。其れで筋は通る筈。


話を戻そう。この彼女には、俺の貴族観を完全に破壊された感がある。貴族とはこんな気さくで良いのだろうか。しかも、この歳で爵位持ちで領地持ちなどと、俄かに信じ難い事まで話している。いや、嘘か誠かは割とどうでもいいのだが。にしては従者が居ない。昼間怪我をしていた猫耳獣人・・・ミムルだったか。それ以外には居ないのだろうか。


「あー・・・あたしが爵位継いだ時にね・・・」


聞けば彼女の両親は既に亡くなっているという。成る程、其れは先程の言は不謹慎にあたるか。両親が亡くなり、他に血の繋がった親族も居らず、唯一血族であったツィーアが、その地位を継いだという。その際、殆どの家臣であった者共は、露骨に彼女の家の財産を狙い、取り入ろうとしたり、はたまたは彼女を操り人形にしようとしたりなど、火事場泥棒さながらの行動をとった為、叩き出してしまったらしい。中々大胆な事をやるな。家の運営に必要な人材を切るってかなり危うくないか。


すると案の定苦労しているようで。


「圧倒的に人手が足りないのよ〜。領地の維持は人を雇えば良いけど、そいつらを動かす頭が居ないのよね〜」


まあ身体使う奴は幾らでも集まるだろうな。こんな時代って教養ある人間って貴重なのだったか。因みにツィーアも、付け焼き刃の知識では無く、本格的な領地運営を学ぶ為に、この学校に来ているという事だった。なんと殊勝な事か。俺?剣やら槍やら弓やらの扱いしか興味は無いよ?あと交友関係の構築、其れから、この世界の社会については学んでおかねばならないか。そして魔術に関しては、母から座学で殆どの上級クラスの物迄教わってしまった・・・筈。ぶっちゃけ何れが上級なのかは覚えてはいない。其々の概念と詠唱スペルを覚える事で精一杯だった。全く新しい事を習うというのは、恐ろしく頭を使うのだ。既存の知識が役に立たない勉強。数学で言えば、誰もが最初は割り算を難しいと感じるように、魔術も中々頭に入って来ない。はっきり言って、覚えたスペルを唱えるより、自分のイメージを魔力で再現する方が得意だ。一部、防御系の魔術は良く分からないのだが。本来、オリジナルの魔術というのは、効果も低く、発動速度も遅く、消費する魔力も多いらしい。俺的には楽で、無詠唱で使える此方の方が余程優秀に感じる。魔力は多く使う感じも、慣れれば消費量も抑えられるというのは当然の事であり、訓練すれば問題無い。其処で、だ。魔術に関しては、技のバリエーションを増やしたい。後は応用、実戦運用。その辺りか。 ・・・と、話が大きく逸れてしまった。まあ、俺は俺なりに課題は多い。真面目に学んで行こう。


ツィーアと話に花を咲かせていると、食堂に着いてしまった。良い匂いがする。なんとも食欲を誘う匂い。早く入ろう。そして食おう。食堂もまた、部屋と負けず劣らず豪奢だった。其れでいながら雰囲気は良い。落ち着いている。ツィーアと脚が見えない程大きな白いテーブルクロスが掛けられた、かなり大きめの丸テーブル、その一つに座る。メニューは・・・決まっていると言っていたな。使用人、古風なメイド服に身を包んだウェイトレスが、グラスと供に赤い液体の入った瓶・・・まさかワインではないだろうな。葡萄酒?同じだ。・・・ツィーアがあまりに普通に口を付けるので、恐る恐る口を付けてみると、単なる葡萄の果実水だった。杞憂だったか。別にワインが嫌いという訳ではない。然程好きでも無いが、単純にアルコールを幼い内から取る事で起こり得る健康被害を危惧したのだった。直ぐ酔ってしまいそうだし。其れに酔ってしまえば料理の味も分からなくなってしまう。酒は身体が楽しめる様に成ってから飲むべきだと思うのだよ。


出てきた料理は、フランス料理を想わせる見た目重視、お上品な仕様の物だった。別に好き嫌いも無いので、出てくる端から口に運ぶ。見た目的には腹を満たす事は出来なさそうに見えるこの手の料理だが、存外カロリーは高い。ステーキなども一見小さく見えるものの、脂身が多く、すぐ腹に来る。味も中々に素晴らしい。飽きが来ないように、上手く作られている。


其れからテーブルマナーか。別に前世、洋食を食べる時のマナーと変わりないと感じた。向かいに座っているツィーアも、そんな特別な事もしていない。見逃しているだけなのかも知れないが、其処は勘弁してほしい。卑しい平民出ですし。


「平民出ってテーブルマナーも知らないと思ってたわ」


口に手を当ててお上品に笑うツィーア。さっき迄のあの元気な娘は何処に消えた。其れを指摘すると彼女はぶすっと心外そうな顔をした。


「・・・あたしだって食事時と普段の分別はついてるわよ・・・」


単なるマナーの問題だった。食事時は、社交の場的な意味合いも持つらしい。貴族階級の子供達の社交の場でのマナーと作法は、物心つく前から親直々に仕込まれるとのこと。貴族って大変なのな。あと、その不貞腐れ顔可愛い。彼女を弄るのが癖になりそうだ。反応が大振り大袈裟でなんとも微笑ましい。

と、俺達の食卓を訪れる者が一人。


「僕の事忘れてないか」


左後ろ側より此方に歩いて来る男の子。おおう、随分と美形だ。ツィーアの髪と良く似た色の、ライトブラウンの髪。キリッとした翡翠色の眼と鼻。将来有望なイケメンだ。ツィーアと髪の色も眼の色も良く似ている。兄妹なのか?


「兄妹?」


と呟くと、同時に、「「違う(わ!)」」た返ってきた。因みに、男の子の方はただ否定するニュアンスを、ツィーアの方は、誰がこんな奴と、という苛烈な否定のニュアンスを含んでいた。男の方は好意的な感じがするのに。男の子は、俺の顔を見るなり固まってしまった。変な顔だ。折角の美形が台無しだぞ。


彼の硬直は、ツィーアが彼の脛を蹴っ飛ばす事で解除された。脛を抑えて蹲っている。可哀想。この動作を、テーブルの下で、顔色一つ変えずにこなしたツィーアは、中々の大物なのではないだろうか。


「彼女はエリアスよ。今日から此処で暮らすんですって」


紹介されたので、俺も名乗るとしよう。


「エリアス・スチャルトナです」


漸く痛みが収まってきたらしい、彼が顔を上げたタイミングで名乗る。


「っつぅ・・・ツィーア・・・少しは加減しろよな・・・ああ、アイクだ。アイク・ベル・イオリアという。宜しくな」


アイク君というのか。此れも貴族。いやはや、ツィーアとは仲が良さそうだ。微笑ましき事である。


「仲が良いな」


「そう「良くない!!」」


アイクはがっくり項垂れている。彼的にはアタックしているつもりなのか。こんなのでも、ツィーアの一つ上、俺の二歳年上らしい。


まあ、10歳と9歳にそんな大きな違いは無いと思うのは、子供を育てた経験がない故の考えだろうか。


「アイク様?こんなところで何をなさっているのですか?」


と、此処でまた闖入者が表れた。其処には・・・その・・・如何にもという感じの・・・つい先程迄イメージしていた、ステレオタイプの貴族・・・そのお嬢様その物が居た。声も甲高くて、今にも「オホホホホ」とか言いそうだ。


「食後のお茶は如何ですか?御一緒しますわよ?」


腕に絡み付いて上目遣いにそんな事を言ってのける。すげえなそれ。


「あ、あぁ・・・今は「行きましょう!」あぁ・・・ツィーアまたな・・・」


アイク君は彼女に連れて行かれてしまった。その貴族貴族とした風貌のお嬢様は、去り際に此方、主にツィーアを見てニヤリと笑う。


それに対して、ツィーアは鬱陶しい様子で眉をひそめるのみ。彼女はその後、俺の顔を見て、一瞬はっとした顔をしたが、次の瞬間には敵愾心剥き出しの目つきで睨み付けて来た。俺が君に何かしたかね?


「あの子は?」


ツィーアに話を振ってみる。すると彼女はこれでもかという程深い溜息をつき、眉根を寄せて話し出す。若い内からそんな顔をしていては、直ぐ老けるぞ。


「アレ?あぁ、前々からよく突っかかって来るのよね」


名を、カリナ・ヴァン・マリョートカという。中央出身貴族で、取り巻きが多い。プライドが高く、自分善がりな点が目立つ。かなり使える金と権力を持っている。矢鱈とツィーアに張り合ってくる。嫌がらせは陰険な方。あと、本当に「オホホホホ」と笑うそうだ。是非一度お目にかかりたい。関わりたくも無いが。


「まあ、露骨に避けても逆に目付けられるだけでしょうから、それなりにあしらっときなさいな」


心底どうでもよさそうに言う。実際にもどうでも良いのだろうが。


「あたしはそろそろ部屋に戻るわ。明日も早いしね」


学校というと、朝早くから行動するというイメージがある。此処もそうなのであろうか。俺もそろそろ休まないと、明日に差し支えそうだ。


「では私も戻ろう」


そうして席を立つ。ツィーアの部屋は二階の右奥、階も報告も異なる場所にある。彼女とは階段で別れ、俺も自らの部屋に向かう。


階段を上がった所には、展望テラスが存在する。幾つかの席が並び、高価な硝子製のドーム型の窓に覆われ、街の南側を向いており、夜は星空を、昼は日光浴を楽しむことが出来る。其処では、どうやらカリナ嬢のお茶会が開かれている様だ。別に用も皆無なので、さっさと通り過ぎようとする。テラスの入り口付近に差し掛かった時だった。


「うおっ!?」


右側、テラス入り口より飛び出て来る人物。アイクだった。しかし、アイクは此方に真っ直ぐ突っ込んで来る。どうやら、テラスの入り口にある段差につまづいてしまったらしい。躱すことは容易い。少しこの場からずれれば良いのみ。しかし、躱した場合、アイクは俺の後ろにある物・・・植木鉢。それに突っ込む。それも距離的に額あたりから。植木鉢は陶器製に見える。其処に頭から突っ込めば、其れこそ痛いでは済まない。下手をしなくとも大怪我だ。ならば俺の取るべき行動は・・・


「うごッッッ!!!??」


横合いに軽く蹴っ飛ばしてやった。受け止める?御免だ。


「安心しろ。手加減はした」


軽い打撲で済むだろう。其処の床で蹲って震えているが。俺よりも体格の良い男を横に飛ばすのだ。ある程度の威力は許して欲しい。


「きゃあああ!?アイク様!?」


姦しくも、アイクを追ってテラスの方より現れたのは、件のカリナ嬢だった。煩いな。けたたましいとはこの事か。


「なんて事をするのですの!!」


見るからに憤慨した様子で怒鳴る。


「男だ。其の位何とも無いだろう」


俺だって元は男だ。傷が付かないように配慮だってしたのだから。

蹴り飛ばしたと言っても、実際の所脚で勢い良く押した、というレベルだ。衝撃も地面に落ちた瞬間の方が強かっただろう。


「アイク様!!大丈夫ですの!?」


カリナ嬢がアイクに駆け寄る。


「ああ・・・大丈夫だが・・・」


少し背中を打ったらしい。一瞬顔を顰めながら起き上がる。でも床はカーペットだからな。割とフカフカの。甘えるな。


「アイク様にこんな事をなさって!ただでは済みませんことよ!!」


が、何故かカリナ嬢がご立腹だ。短杖まで抜いている。こんなところで何をする気だ。


念の為、半身を引き、俺も気付かれない程度に身構える。俺の場合、別に杖は必要としない。寧ろ、持っているとイメージが壊れる。


「カリナ!辞め・・ぐぅ・・」


急激に立ち上がろうとした為か、アイクがよろめく。足を庇っている様に見える。挫いたか。


その呻きを聞くと、カリナ嬢は更に目を怒らせ、下げていた短杖を此方に向けて来る。この場合・・・俺が悪いのだろうか。植木鉢に激突する未来は避けたのだから、トレードオフにして貰いたい。


が、カリナ嬢の怒りのボルテージは上がるばかりである。更に騒ぎを聞きつけたのか、テラスの方からぞろぞろと、カリナ嬢と同年齢かそれ以下の少女が出てくる。寮の管理をしている使用人も此方を覗いている。そう言えば、寮監の様な教師は居ないのだろうか。少なくとも管理人は居るとは思うのだが。そう思った矢先の事であった。


「双方引けッ!!!」


裂帛の如き声量であった。野次馬の者どもが大人子供関わらず肩を竦める程であるから、余程の声だ。余りの大きさに窓がビリビリと震える。流石のカリナ嬢も怯んだ様である。杖が彼女の足下に転がった。


「公共の生活の場である寮で決闘の真似事とは何事かァ!!そんなに元気が余っているなら今から競技場十周して来いッ!!!」


競技場って、此処に来る途中に有ったあのただっ広いグラウンドの様な所か。アレ一周何れくらいあるんだ?見渡す限り、と言えるような広さがあるんだが。


さて、そう言って登場したのは、筋骨隆々と言うに相応しい、大男であった。くすんだ金髪を刈り上げ、見るからに体育会系。しかし、着ている衣装は拵えの立派な物。立ち振る舞い一つにも気品がある。腰に大振りな剣・・・恐らくクレイモアと呼ばれる物・・・を差している。この人が管理人?いや、警備員だろうか?


「分かったらさっさと部屋に戻れッ!決着が着かないのだったら後日、然るべき時と場所を選べッ!」


ごもっともである。俺としてもさっさと寝たい。少しグラウンド十周には興味が有るのだが、其れはまたの機会に譲ろう。


して、俺も踵を返す。服は・・・まあ外に出てもいないし、此の儘で良いだろう。貰ったし。旅着よりは遥かにマシだ。


「お待ちなさい!」


どうやら硬直から回復したらしいカリナ嬢。開口一番怒鳴る。少し頭に響く。嫌がる俺を怯んだと見たのか、再び驚く程強気になり、宣言する。


「このままで済むと思わない事ですね!!」


そう言い放つと、スタスタと去って行く。捨て台詞を言いたかっただけか。そんな事で呼び止めないで欲しいな。


「見ない顔だな。新入りか?」


筋肉男にも声を掛けられた。鬱陶し・・・ゲフンゲフン。ここでふと周りを見渡すと、先程蹴飛ばしたアイクは何処かへ消えてしまっていた。カリナ嬢の取り巻きらしき女子集団も、影も形も無い。


「本日付けで此処に住む事になりました、エリアスと申します」


口調をコロリと変える。相手は大人だからな。其れに偉そうだし。


「ふん・・・校長の言っていた奴か。礼は成っとるようだな。俺はディメーテル・ミル・ニェイルだ。此処の寮監をしている。此此処に住む限りは、俺の指示に従って貰うぞ」


傲岸不遜とはこの事か。物凄い暴論だった。だが、不思議と不快感は無い。其れだけ、この男の持つ雰囲気が其れを許さない気がするし、間違った事は言わない・・・ような気がする。


「ディメーテル殿ですね、宜しくお願い致します」


初対面は丁寧に、だ。あまり感情も乗せない。・・・ツィーアの時は少し自分をコントロール出来ていなかった。いきなり素を見せてしまうとは、失態である。以後気をつけよう。無駄な気がしないでも無いが。


「エリアスよ、その不相応かつ、無駄に他人行儀な口調を辞めろ。俺に話す時はカリナやアイクと話すのと同じで良い。寧ろ、その丁寧口調は気味が悪い」


・・・。


「ですが・・・「命令だ」・・・」


取り付く島も無い。仕方が無いか。小さく溜息を吐く。


「分かった・・・此れで良いで・・・良いか?」


先程迄の口調に戻す。変わった人間も居るものだ。


「宜しい。では部屋に戻れ」


寮監は思わず敬礼をしてしまいそうな人物だった。












校長室、ケイト・ヴァシリーは漸く今日の分の処理を片付け、背もたれに身体を預けてお茶を飲む。ほっと一息をつく瞬間だった。


其処に無粋にも、扉をノックする音が響く。かなり強めのノックだ。コンコン、というより、ドンドン、という音、こんなノックをする人物など、此の学校には一人しか居ない。


「入りなさい」


そう声を返すと、其処に立っていたのは、金髪を刈り上げた大男、ディメーテル・ミル・ニェイルだった。


「失礼する」


ディメーテルは大股で部屋の中央まで進むと、来客用のソファーにどっかりと腰を落とし、ケイトを一瞥する。


「なんだアレは。本当に8歳のガキか?」


言わずもがな、エリアス・スチャルトナの事であった。


「アイツはどんな教育をしてたんだよ」


アイツ、とはこの場合、エリアスの親、シレイラの事である。ケイトはただ、さあ?、とだけ返す。


実際、どんな育て方をすれば8歳の生娘があんな人間に育つのか、想像もつかないからでもあるが。


「昼間、私も軽く手合わせしてみましたが、軽くあしらわれてしまいましたよ」


ケイトがそう切り出し、昼間、アリーナでの戦闘の事を語ると、ディメーテルは見るからに顔を青くする。


「おいおい・・・あの歳でお前が手も足も出ないなんて、将来は一体どうなっちまうんだ?もし魔王になる!っつっても冗談に聞こえないぞ?」


あんまり関わりたくねぇな、とはポロリと漏れた独り言。因みに、ディメーテルは武術一般の講師をしている。エリアスが興味を持っている科目の教師なのだが、其れを彼が知る由もない。


「別に自分の力を振りかざす様な人格の持ち主ではありませんから、そう過剰に反応する必要も無いでしょう」


「まあ、其れもそうだが」


ふと、先程の揉め事を思い出す。ちと常識外れ過ぎないか?いきなり人を蹴飛ばすのも非常識どころでは無いし、というか普通出来ない。カリナ嬢など、面倒な人間筆頭として知られているような人物に関わるような事も、賢いとは言えない。普通有名貴族であれば、庶民でも知っているし、下手をすれば奴隷でも知っている。教養は深そうだが、一般常識がポッカリと抜けている。そう言い表すのが適当だ。


「まあ、彼女も何やら此処でやりたい事もあるようですし、きっちり手綱を握ってやる事ですね」


圧倒的と言っても子供ですし、と付け加える。


「まあ、此れからですよ、覚悟はしておいてくださいね」


文頭には、振り回される事、が省略されている。


「かぁ〜ッ!!唯でさえアイクやらツィーアやらカリナやら問題児だらけなのに、まだ抱えるのかよぉ!?」


心からの叫びだった。


「頑張ってくださいね」


そう言うケイトも胃が痛かった。




こうしたら良くなるよーっという意見は積極的に取り入れて行きたいと思いますので、宜しくお願い致します。

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