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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第三章
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清算すること

段々と寒くなって来ましたね。私は既に風邪気味ですが、皆さんは如何お過ごしでしょうか?


最近PDFを多く扱う様になったため、iPad Proとかいうよく出来た板を購入しましたが、中々コレが執筆作業の方でも使える使える……。


でも、あのApple Pencilと言う名の棒が1万円以上するのは納得いかないですね。








冬が深まるにつれて雪もまた積もりに積もる。


街道は既に腰丈まで積もった雪の壁が左右に列を成し、その足元もまた足首まで人を飲み込まんとする純白の絨毯が、地平線の彼方までも覆っていた。


ブレームノは小さな町だ。前世の単位では町というのも烏滸がましいかもしれない。


商店街に小住宅街がくっ付いている、その表現が精々な大きさである。


住んでいる住民とて、決して多くは無い。精々200名居るか居ないか……これはこの町の管理をするエルク伯の下働きの役人警備兵その他も含めたものだから、実質の民は更に少ない。


そんな町だから、知り合いは多い、というか殆どの人間は顔見知りである。そんな中、学校に行くまでに家から滅多に出してもらえず、その後も数ヶ月に一度しか帰って来ない俺というのは、どうやら珍しいモノの一つに数えられるらしい。


「……あれがスチャルトナさんの娘?えらいべっぴんさんだねぇ」


「なんでもこの間貴族様になったらしいねぇ、この町から貴族が出るなんてなんだか誇らしいわぁ」


というお年を召した方々からのぬるーい視線が半分。


「何だよ、オレより歳下なのに……けっ、出来が違うってやつか!」


「そんな事言わないの、君も戦争とか、魔物の討伐で名を上げればなれるかもしれないんだから……」


などの向上心に溢れた若者まで、皆が皆何かしらの形で興味を持っているようで、居心地悪いというよりもやや落ち着かない。


「そういえば、こうしてまともに昼間ブレームノを歩いたのは初めてか」


エルクに向かう時は朝早くであったし、その他に家に帰る時は大体街中を通らず、一気に丘の上の自宅まで真っ直ぐ向かっていたからだ。


何故今日になって町中を歩いているといえば、特に理由は無い。気分転換に、己が故郷を見て回りたくなっただけのことだ。


町としては……特に特徴がある訳でもない。


産業基盤としては主に農業、林業も行なってはいるが、町の外への売却などは行なっておらず、あくまでこの町で使うためのみの林業であった。


どうなのだろう?貴族になったからには領地とやらは貰えたりするのだろうか?……その辺りの話は何やら"手続き中"らしく、よくわからない。


貰えるとしたらブレームノ伯の地位だろうか?いきなり辺鄙な所に吹っ飛ばされても困るのだが……まあ、何とかなるだろうが。


挨拶してくれた町民には軽く挨拶を返し、家に着いたのは午後であった。


「やっと帰って来たか……待ち草臥れたぞ」


一週間ぶりのスィラである。思わずハグしてしまい、照れられてしまった。


「やはりスィラが居ると安心する」


レズンやニーレイなどと居る気が休まらないというのが正確な所だが。


さて、実はフルメンバーというか、俺の奴隷及び家来(?)が一堂に会するのは、何気に初めての事ではないだろうか?


出て来たスィラ、フェリア、そして連れて来たレズンとニーレイ、使用人見習いのネーナとミレイ……そして門の横の地面から顔を出している《スクウィッド》のすーちゃん。


「「おかえりなさいませ!エリアス様!」」


様付けされると何処か居心地が悪くなるのは、元は庶民故の感情だろうか?


「2人とも変わらない様で何よりだ。こっちでの生活は慣れたか?」


元はと言えば庶民とはいえ、裕福な商人の娘達であるネーナとミレイは、使用人見習いとして我が家の家事を手伝っていたはずだ。


その辺りは母に聞けば良いとして、まずは不満の有無及び、適性を判断しなければならないので……。


「はい!シレイラ様には良くして頂き、感謝しております!」


茶髪で髪が短い方がミレイ、黒くて長い方がネーナ、今喋ったのはミレイの方だ。


「そうか、あ、仕事の途中で止めてしまって悪かったな」


ネーナが燃料の木束を抱えていた事に気付き、仕事に戻る様に促した。ネーナは薪が重たかったのか、腕を震えさせて「し、失礼します……」と呟いて歩いて言った。


「もう、情けないんだから……」


と、ネーナの1.5倍くらいの量の薪束を背負ったミレイが後に続く。


ネーナの力が弱い……というよりは、ミレイが逞しすぎるだけの様だ。


「何か変わった事は?」


話をスィラに戻し、家に入る。


「昨日ブルダ伯から祝いの手紙が来たから、返事を書く必要がある。それから……すーちゃんが敷地内に巣を作った事ぐらいか」


巣?と疑問符が頭に浮かんだ。いや、《スクウィッド》も生き物なのだから巣ぐらい作るだろうが、果たしてどんなものなのか気になる。


「見に行こうか」


聞けばその巣は薪置き場の側にあるという。裏手の薪置き場まで歩くと……一発で分かった。


「まったく、こんな巨大な穴ぼこを……」


直径2.5m程の大きな穴だ。奥は暗く、何も見えない程に深い。


「どこまで続いているんだ?」


「分からない。流石に中に入る蛮勇は持ち合わせていないからな」


スィラがファー付きのコートで覆われた首を竦めた。


「知っているのはアイツだけ、か」


薪置き場の屋根の下で昼寝をするミニスクウィッドのすーちゃん……10mあるが。


こんな寒い中でも、彼等は平気らしい。流石魔物とは頑丈なものだな、と感心する。


「久しぶりだな、ちゃんといい子にしていたか?」


硬く冷たい感触の表皮を撫でてやると、すーちゃんは喜んだのか尻尾をばたばたと暴れさせて背後の薪の山を崩してしまう。


……まあ、久々だから良いか。


「ちょっと獣臭いな、洗うか」


水をこの季節にぶっかけるのもアレなので、火と水の複合魔術で熱湯を作り、水魔術の冷水と空中で混ぜて掛けた。


薪が湿ってしまうので、あくまで小屋の外、屋外で行う。こっちも濡れてしまっては風邪を引きそうだが、この際お湯だからと割り切ろう。


薪の一本から手頃なものを探して、お湯を掛けると共に鱗を擦る。かなり埃と劣化した甲殻の残骸が積層していた様で、お湯は真っ黒だ。


「たまには自分でも……木でも石でもいいから擦り付けて落とすんだぞ」


なんだかんだ30分近く掛かった。その間スィラも手伝ってくれたが、流石に10mもあるトカゲの掃除は骨が折れる。


「すまんなスィラ、こんな事に付き合わせてしまって」


コートがびしゃびしゃになった彼女を見て、ちょっと悪い事をした気になった。


「大したことじゃない。早く着替えて家族と会ったらどうだ?色々と募る話もあるだろう?」


そうだな、と、ブルブルと犬みたいに体を震わせて水滴を飛ばしているすーちゃんを眺めながら返す。


「風邪を引きそうだ、早く入ろう」


スィラを連れ立って、さっさと暖まることにした。












我が家の食卓テーブルは6人掛けである。


家族は3人であり、半分は半ばお客様用の物であった。


俺が居ない間は、そこはフェリアとスィラ、時折ミレイとネーナが座った。


さて、俺が帰ってからというものの、この家には合計9人の人族が居る。当然テーブルに座れるのは両親及び俺、スィラ……ニーレイは席を必要としないので除外するとして、空き席は残り2席……レズン、フェリア、それと使用人見習い2人と、残り4人なのだが……レズンとフェリアを座らせればいい?


俺は気に入らない。レズンは奴隷であるし、社会的な言えば使用人見習いよりも地位は下、フェリアは奴隷では無いが、果たして人間として数えて良いか疑問な状態の生き物だ。


じゃあ見習いを座らせれば良いかというと、それはレズンが巨大な不満を持つ。彼は自分と俺以外の人間の事を殆ど見下しており、それが自分よりも良い待遇にあると見れば、それを屈辱と感じるだろう。


つまり、席が足りないがゆえに発生するちょっとしたジレンマというものだ。それもやや面倒な……人間関係という厄介な題の問題である。


その解決法は簡単だ、席を増やせば良い。と、いうわけで工作の時間だ。


「もう一個、同じ高さのテーブルを足そうか」


末端処理は万能工作機械であるプラスティカーがあるから良い。切断は家にあった両刃鋸を使う。


「こういう木工も久々だな」


生前、というか前世では、稀にこうして木工工作に励んだ事もあった。が、電動工具だとかそういう物が好きだった俺は、この手の手動鋸というのとは久しく関わっていない。


だが、余程不器用で無ければ、しっかり罫書きをして鋸を立てることに注意を払ってさえいれば、切り口がおかしくなる事も滅多にないだろう。


ふぇひは(フェリア)……そこの端材取ってくれ」


釘を咥えたまま喋るのは体裁的にも良くないと思ったので、ぺっと吐き出した。


彼女は謎のアーマーにより、膂力その他の身体的な性能が叩き上がっている。その引き換えに心を失ったが……それはいいとして、この手の単純作業に於いては、うちの面子の中で最も向いていると思う。


手先が器用、というか機械じみて動きが正確なのである。


釘を打つ際に木材を組み合わせた状態で持たせれば、まるでバイス(万力の事)で固定したかの様に微動だにせず、釘を打つのにも手がほぼブレない……本当にまだ有機生命体なのか怪しく思えてしまうくらいである。


そんな訳で、便利な彼女の性質をこうして活かしているという訳だ。


だが彼女とのコミュニケーションは困難を極める。言葉を滅多に発せず、その無口さはネメシア先生の比ではない。


仕方がないので、テーブルに塗った防腐剤が乾くまでの間、ちょっとしたスキンシップを取っている。


全身真っ黒な密着型アーマーを身に纏っている彼女だが、流石に普段はみっともないので上に服を着ている。見た目は黒いスポーツ用のインナー……金属で大重量だが……を着ている様にも見える。


それを撫で回してみたり、動かせてみたりして観察しているのだが、何だか古い映画に出て来る液体金属戦闘兵器みたいな雰囲気がある。


そのくせ触れた感触は硬く冷たい鋼の質感。非常に興味深い存在である。


コレの原理というか性質を一般化出来れば、それこそ前世含めて装甲(アーマー)に関する巨大なブレイクスルーが起こる。主に自らの意思では軟体動物のように蠢き、外界からの衝撃には装甲として働く……コレがあれば、前世で一時期流行った各種歩行型のロボット兵器は未だ現役だっただろう。


……最後の闘いでも、欧州軍は搭乗型の大型ロボット兵器を使って居たな、とふと思い出した。


建物から頭を出した瞬間に戦車のAPFSDSに吹き飛ばされてばかりの存在であった様に思えるが、中には上手いのも居て一機で数十両もの自動操縦型の戦車を撃破する様なエースも居た。結局の所そのパイロットはイギリスで、上から攻撃機に追い立てられて山間部に押し込まれ、その逃げ込んだ谷底に潜んでいた45mm砲を4門積んだ対空戦車に蜂の巣にされて死んだ筈だが……アレはあのパイロットを狙ってやった作戦であったから、順当な死に方である。


……よく話が逸れるのが、俺の悪い癖だな。


兎に角、この変幻自在な装甲材はこの手の兵器の弱点である関節部の防護に適しているだろう。大量に用意できるのなら、その全身の装甲をコレだけで作っても良いかも知れない……。


で、フェリアの全身を覆っている装甲だが、素肌の上に直に纏っており……そのままだとほぼ完全に身体の線が全て事細かに見えてしまう。鎖骨の窪み、胸の先端……は、彼女は引っ込んでいる方だからいいとして、腹筋の一山や臍、更にはその下なんかは更にちょっとどころではなく問題がある。


だからその上から服を着ている訳だが、彼女としては着心地をどう思っているのかが気になる。


「はい、特に不自由はありません」


この鎧のデメリットとして、外す事が出来ないという物がある。


首から上は普段から出ているから良い。頭部アーマーもあるが、それは後ろに跳ね上げておけば……邪魔ではあるが、何とかなる。


この場合心配になるのは身体の衛生状態であるが、特に臭うことも無い。どうも、フェリア本人の魔力の他に、彼女が代謝する有機物を吸収して燃料としている様で、寧ろ彼女からは匂いという物が消えてしまった。


排泄は以前見た通り、流石に垂れ流しはしない様で、一部だけ鎧を開口させる事で出来る……特性から言って、多分そのままでも吸収されそうな気がするが、それはちょっと見ている接しているこっちが嫌だ。


彼女を観察するに当たって、特に注目すべきは、何もしていない時には必ず何か、特定の物を注視している点だ。


例えば何も仕事がない時、彼女は良く観葉植物を見ている。


何の変哲も無い低木を鉢に植えただけの代物だが、中々どうして彼女からすれば面白いらしい。


今は何を見ているのかと思えば、薪置き場の薪の隙間にある蜘蛛か何かの巣の残骸を眺めていたりする。


「面白いか」


「はい」


そうか……と、遺憾ながらコミュニケーション能力に乏しい俺は引き下がらざるを得ない。


「参考までに何が具体的に面白いのか教えてくれると助かるな」


嫌味では無くて、コレは切実に。ひょっとすると新たな趣味に……いや、こっちは普通に嫌味だが。


「……ここに来てから、シレイラ様に言われました」


ゆっくりとだが、彼女は珍しく冗長に話し始めた。


「……停滞は退化、退化は時として罪禍であると」


我が母について、この世界における幼少の頃の自らの体験より言える事は……他人に厳しく、また彼女自身には更に厳しい。


シレイラのストイックさはスィラも認めるところであり、生活は健康そのものといった風だ。


当たり前の様に家事をこなしつつ、その間隙を縫って魔術的、肉体的トレーニングを欠かさない。


まだ彼女は三十代前半に入った程度の歳で若いというのもあるが、それにしても体力の量もさながら、回復自体も下手な十代よりも早いのでは無いだろうか。


事実、シレイラの身体能力は流石にスィラとは種族的な絶対差がある為、比べるのにはやや不適切な比較対象ではあるが、それを鑑みた上でもスィラに追従できるレベルの身体能力は持ち合わせている。剣で打ち合うことは無理があるが、共にトレーニングに走り込んだりするぐらいならば付いていけるぐらいには。


魔術師としての能力とて、現役時代から一歩たりとも後退していないどころか、むしろ進歩しているとは父……ライノの言である。


「私にはわかりません。何を以って進化と、何を以って後退と……停滞は分かります。しかし、何を為すべきかが分からないのです」


だから、と。


「自分以外に目を向ける事にしました。成長するもの、退化するもの、見れば違いが分かると思いまして」


風で今にも壊れそうな蜘蛛の巣に視線を向ける。


あまり意味がある事とは思えないな、というのが率直な感想である。


「何をするにしても、何かしらのアクションを取らなくては何も始まらないだろう?ましてやお前は……」


っと、単なるフェリア・コンクルスであった時のことなどを話しては仕方があるまい。


「そうだな……鍛錬は?」


「時々ライノ様に付けて頂いてます」


なるほどな。それ以外に普段は?


「シレイラ様を手伝うか、観察しているかですね」


抑揚の無い声で彼女は話す。


ここで何か役目を与えてやらせるのは簡単だ。だが、それは安易な結論である……自らの好奇心で事を為すことが出来なければ、後々に問題が起きると思う。


この手の問題は面倒臭い、と溜息が意図せず漏れる。


指程の太さの釘を罫書きの跡に当てがい、槌をふんと下ろせば、机を構成する最後の釘は一発で木材の中に叩き込まれた。


こんな時に役立つ馬鹿力……いや、槌の柄が軋んだ。コレはあまりやらないでおこう。


「少しだけやろうか」


雪がフェリアの脛まで積もって歩き辛い庭まで出て対峙した。


ルールは単純な魔術のみの砲撃戦。


我が家の庭はかなり広い。少なくとも、下級魔術を用いた撃ち合いくらいなら支障をきたさないぐらいには、縦横共にある。


やりあう前に制限を設ける。魔術は下級のみで、魔力乗加(マジックブースト)による威力の極端な上昇も無し。近接攻撃は徒手格闘のみで、当然殺傷は無しだが……お互いに頑丈なので、被弾は基本的に自己申告制である。


「来い」


一見無気力に見えるフェリアだが、戦闘となれば以前と同様に魔術師としての戦闘態勢に入る。


フェリアの属性は風である。闇属性も使うが、基本的に得意なのは風だ。


もともと風属性の下級魔術はあまり攻撃能力に優れていない。


ただ風を起こす、ちょっと頑張れば風に乗せて何かをぶつけられる。更に修練を積めば風によって矢弾を風により誘導させる事が出来る……子供が投げた石でも、習熟した風魔術師なら数百メートル先にまで加速させて届かせる事が可能だ。


フェリアは風属性に限って言えば最上級の魔術まで行使する事が出来た……つまりは、前述した事以上の事も出来るということである。


風で周囲の物を巻き上げ、致命的な運動エネルギーを付与して投射するだとか……。


彼女によって巻き上げられた薪が、まるで弾丸の様に飛来する。


さて、ベクトルの勉強は覚えているだろうか?なんの事はない。単なる図の上で矢印を合成したり、分解したりする……物理学における力学で使われるアレだ。


力学的にいえば、この飛来する直径10cm弱の薪は長大な矢印として表すことが出来る。さて、コレに小さな……横方向の矢印を加えてやろう。


「『ファイアーボール』」


弾体に命中する必要はない。薪のすぐ脇を通る瞬間に小さく破裂させる。


それだけでこの薪の砲弾は脅威を失う。


現在の脅威は取り去った。ならば次は将来の脅威を除去するのみ……即ち第2射以降の妨害である。


新たな薪が風に吹き上げられる……のを、火炎弾を適当な空間に撃ち込んで風を吹き散らす。


下級魔術の『ファイアーボール』と言えども、その正体は数百度の火炎球だ。威力は……推して測るべし。


さて、威力はあまり高くはない……あくまで魔術師基準であり一般人からすれば高い殺傷力を持つ……単なる対魔障壁を使えば軽く防げる程度の火の玉とはいえ、数十発も撃ち込まれては堪らないと、フェリアは跳び退る事を選択した。


だが……分かっているんだよ、その程度の行動は。


「これで詰み、だな」


下級水属性魔術『アイスアロー』がフェリアの喉を貫く寸前で停止する……『魔念力(ヴァリーニェ)』だ。


もし……止めていなければ、彼女の身体は首無しのスプラッタ映画にでも出てきそうな()りになっていただろうなぁ、っと思ったのだが、ふと気づいたのは少ないなりに鍛えられた勝負勘の賜物だろうか?


直上から降ってきた(・・・・・)鉄製のシャベルを頭だけは躱してキャッチした。


「……今のは上手い」


くるくるシャベルを回し、ひょいと元にあったであろう場所である井戸付近の雪山に放り投げる。


油断大敵、フェリアの最後まで勝利を諦めぬ執念を見せて貰い、少しだけ嬉しくなった。


「いえ、いま『アイスアロー』が止められていなければ、もし仮に今の攻撃が当たったという希望的観測を踏まえても相打ちでした……もう一手先を視野に入れた行動が必要ですね」


こんな感情のかの字も無い女ではあるが、闘い方は妙に泥臭い……それは以前のフェリア・コンクルスとも通じるものがあった。


此方の疲労時や食事時を狙った襲撃、目的の為ならば辺り構わず攻撃を躊躇わない戦い方、そして……後から聞いた話だが、俺を追う為に身内の教会まで襲撃して職員を虐殺、情報を掻っ払って行く程の見境無さもあるらしいではないか。


「いえ、この胸中にも悔しさはあります。ただ、それを表現する事に意味を見出せないだけです」


それは方便だろう?と声色からそう判断した。


「悔しくは無いだろう、寧ろ……そうだな、ただ冷静に憤怒している(・・・・・・・・・)か、それはあの頃……そう、エルクの舞踏会でお前の腕を引き千切った時から燃え盛る憤怒だ」


彼女の本質を忘れてはならない。一時の事も忘れぬ、貴族も真っ青なプライドを持った復讐鬼だ……目的の為には手段を選ばないタイプの。


事実、フェリアというモノが壊れてからも、彼女の瞳は決して死んでなどいない……寧ろ、煌々と殺意と憎悪に燃え盛り、濁ってはいるが光を失ってはいない。


「そう……ですかね」


だが、その思いは自覚せぬ物であったのか、はっとした直後、その翡翠色の炎はチロチロと下火になった。


確かに殆どの感情は死んでいる。だが、怒りだけは忘れられない。


「事実、今にもお前は私に飛び掛かってきたくてうずうずしているではないか」


その姿はまるでおちょくられた獣の様である。装甲に包まれていても分かる程に張り詰めた筋肉と、牙を剥き出しにして荒々しく吐息を漏らす口……どこからどう見ても興奮状態である。


「かかって来い。満足するまで相手してやるぞ」


その言葉にふとフェリアの身体から力が抜け落ちた。


失った?違う……解放した(・・・・)のだ。


「あぁ……もう戻れませんね……」


俯いた彼女からは猛烈な殺気を感じる。


数瞬の時を置いて上がった顔に取り憑いた悪鬼。


ああ、懐かしい。たった数ヶ月前の事なのにも関わらず、俺ははそう感じた。


やはり彼女はこうでなくてはなるまい。とても人間社会にいてはならないタチの人種……もしかすると、俺はそんなインモラルな人種が好きなのかも知れない。


「それでこそ、フェリア・コンクルスだな」


爆風が俺の身体を、その先の塀を、降り積もった雪を吹き飛ばす。


闇属性の灼熱を伴った暴風、邪悪な大嵐(イビルデ・ゲイル)


雪に包まれすっかり枯れた草が焼け爛れる臭いも、待つ土埃も、全てが彼女の勘に障る。激情を加速させ……突風に乗って屋敷裏の平原に飛び退さる主人に、フェリアは更なる憤怒を抱く。


最早喉から迸るのは意味も成さぬ獣の咆哮だ。


身体から噴き出た魔力は気炎となり、彼女の周囲に嵐を齎す。


爆風をロケット噴射の様にして、屋敷外の辺りの被害をあまり気にしなくても良さそうな場所に逃げた俺を追いかけて来たフェリアを見て、気を良くした。


「……一回全部吐き出した方が楽だろう?」


ぽつりと呟いた企みは誰の耳にも入る事は無く……単なる大工仕事から派生(・・)したお遊びが無事に始まった事に安堵し、俺も悪い奴になったなぁ、と己に呆れる。


「まあ……後で母上に何と言おうか考えておかねばな……」


方や他属性であれば最上級魔術に匹敵する程に凶悪な威力の闇属性上級攻撃魔術を連発するフェリアを見据えつつ、嘆息できるくらいに肝が太くなってしまった自分。


方や完全に人が形作ってはいけない表情で、魔力消費も己の身体への反動も凄まじい闇属性魔術をぶっ放しながら、また人を外れた身体能力でそれを追い立てるフェリア。


あいつも人外、こっちも人外。俺の周りは人外だらけ。


だがそんな世界が素晴らしく輝いて見える。


何故か?此処では皆が生き生きとして前に進まんとするエネルギーが満ち溢れているからだ。


誰もが摩耗し、惰性で生き、殺しあったあの世界ではない……尤も、摩耗していたのは俺も同じ話だが。


自嘲の念と共に仄暗い笑みが口元に張り付くのは仕方がない事だろう。


いいじゃないか、元々イかれているんだ。この世界に来てから外れた箍など気にする程のものか。


こうして噛み付いてくる飼犬を蹴り飛ばして悦楽に浸って何が悪い?


……おかしな思考に耽って当初の目的を忘れがちなのは、昔からの悪い癖だ。さっさと済むものでも無いが、自ら敷いた条件くらいは守らねばなるまい。


して俺は魔力を操る……フェリアの清算の為に。

唐突に始まるバトル……わたしの様な凡夫にはエリアスの考えている事など予想出来ませんね(すっとぼけ)

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