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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第三章
88/94

王都から

一ヶ月をまた過ぎてしまいました。

時が流れるのが早くて敵わないですね。


それと魚の"ほっけ"って環境依存文字だったんですね、気付かずに載っけてしまい、初めてブラウザから警告貰いました。






王都は他の街と比べて圧倒的に甘味屋が多い。


それは恐らく上流階級向けの地域のみの話ではあるが、それにしてもエルクやデュースケルンでは一軒あれば御の字なレベルの店は通りの両側に見渡す限り存在し、更にその上を行くランクの店も点在していた。


具体的に言えば、保存の効かない菓子を作っている店である。


「おお、ケーキ屋だ」


この手の生菓子は流石に他の街で見る事は無い。冬なら兎も角、夏場は強力な水属性魔術で冷凍庫を作らなければ、売る前に生クリームが溶けるか腐ってしまうからだ。


午前中で流石にお腹は減っていないし、甘くて高カロリーな物を食べたい気分では無いが……。


「お昼ぐらいにまた来ようよ。コレ食べてから帰ろ」


昼飯後だな、なんて甘味を特に好んでいないレズンを無視しつつ、雪の薄っすらと乗った石畳を歩く。


食べ物でない土産は既にニーレイとレズンが謎のミニトーテムポールの様な不気味な事極まりない置物を買って来たので良いとして……。


「市の方に行ってみようか、世界有数の年の台所事情というのが気になる」


もしかしたら何か良さげな食べ物屋も見つかるかも知れないし。


王都の市場は最外周より数えて3枚目の城壁の内側にある。というか、地図を見る限りこの第3城壁と第4城壁の間は殆どが商業区だ。


その内食料品を扱うのは北側、およそ商業区の1/4である。馬鹿げた広さを誇る王都の一区画全てをそれが占めると言えば、その巨大さが分かるだろうか?


この時間は貴族街からも使用人が買い物に訪れ、逆に第3城壁外の庶民もまた食料品の買い出しに訪れている。つまりは何が言いたいかというと……。


「に、人間が多い……」


レズンがグロッキーな状態である。


雪の降り積もる冬であっても地は地肌を見せ、空気はほんのりと熱気を纏っている様に思える。


売り子の声と、主婦の雑談。旅立つ旅人と行商人の取引。


全てがこの市の活気となっている。


「面白い店が多そうだな、じゃあまずは……アレだ」


雑貨屋でアクセサリー漁りだ。


「髪飾りはいいとして、ヘアバンドか。最近また伸びて来たからな」


アリだな、何て言って物色していると、レズンが肩を叩いて来た。


「なんか、おもしろそーなことやってるよー?」


はて、面白い事とは?と表に出て見れば……確かに人垣があるものを囲んでいる様だ。


近づいてみると、内側からは金属を叩く軽やかな音と、また見物人のものだろうか?ひどく興奮した「やれ!」だの、「そこだ!」だのの煽る声も聞こえた。


「何をやっているんだ?こいつらは」


先に偵察していたらしい、ニーレイに聞いてみた。


「何って、騎士と冒険者の決闘だよ」


出たな、この世界共通の言語こと決闘。一体何をかけて斬り合っているのやら。


見ればフルプレートメイル姿の重歩兵と、皮鎧姿の軽装の冒険者が、方や大斧を、方や刃渡のやや詰まったブロードソードを振り回していた。


「罵り合いを聞くところに依れば、そこであわあわしてる女の子がこの騎士さんの妹で、その子に冒険者くんが言い寄ってる所にたまたまお兄ちゃんが……ってやつね」


「死ぬほどどうでも良い話だな」


まあ、確かにどこの馬の骨とも知れぬ男に、自分の可愛い妹が口説かれていたら、仮に俺がその立場にあったとしても腹は立つだろうな。


「まあ、私はどちらかといえばあの騎士君が頑張ってくれると期待していようか」


ちゃらちゃらした人間は好きでない。あの2人であれば、やや堅物の気がありそうでも騎士の方が好ましいと感じる。


人垣を分けて進み、囲いの最前列までやって来た。


「……あの冒険者の方が上手なのか……」


もうそろそろ決着がつきそうだ。


それもその筈、重く、動きをひどく阻害する装甲を纏っている騎士の方は、より軽装で疲労度も低くはやく動ける冒険者の方が、1vs1では有利だ。もし横合いから弓矢が飛んで来るような、野戦であればそれも変わってくるだろうが……。


冒険者のブロードソードが、騎士の斧を絡めて受け流し、体勢(ガード)(ブレイク)した。


そこで剣を突きつけて終了、存外に呆気なかったな。


「下手くその斬り合いなんてそんなもんでしょー?芸がないねー」


辛辣な評価である。彼は改めて冒険者と騎士を見てせせら嗤った。


「こういうの、東の方の言葉で何て言うんだっけー?悪ガキのちゃんばら(・・・・・・・・・)?」


思わず噴き出してしまった俺は悪くない筈だ。


「……それをわざわざこんな音量で言ったのは、お前もそのチャンバラとやらに参加したくなったからか?」


すると彼はニタリと、俺だけに見える角度で笑って、これはねー?と呟く。


教育的指導(・・・・・)だよ、これは。ボクはああいうのを圧し折るのがだーい好きなんだー」


レズンを今にも斬りかかりそうな眼で睨んでいた冒険者は、レズンが腰から何の変哲も無い、安そうな剣を抜いたのを見て、明らかに侮蔑の念の篭った顔になる。


「人を見た目で判断しちゃいけない、ってのがよく分かる例だね」


何かレズンの吐いた台詞に更に憤る要素があったのか、既に冒険者の顔は真っ赤である。


レズンのファイティングスタイルは独特だ。一般的な剣士と比べ、明らかに気が抜けている様に感じられる。


彼曰く脱力こそ、無緊張こそが真理である、という。


事実、彼の動きは尋常では無く素早い上、剣戟の威力もよく体重が載っており、非常に受け辛い攻撃を良く繰り出す。


尤も脱力も動く度にふむと力を入れて急激に動こうとすれば、それは筋肉の緊張というプロセスを踏まなければならない為、最速の動きとはなり得ない。


彼の動きの秘密は絶妙かつ、機械じみた正確性によって行われる体重移動である。


"足の力を抜いて移動する"らしいが、他の者がそんな事をふと考えてやっても体勢が崩れてしまうだけであり、よく分からないところである。


見ている限りでは、本当に隙だらけでしかないのだが……。


レズンが挑発的に剣をひらひらと回すと、そこで堪忍袋の緒が限界を迎えた冒険者がレズンに斬りかかった。


あ、と呟いたのは誰であっただろうか。


ふらりと、レズンの方がよろめいた様に見えた……その一瞬後にはその体躯を剣先が斬り裂いたかの様に思えた。


しかし実際の所は……皆が斬り裂いたと見たのは、網膜に残ったレズンの影の残滓でしかない。


するりするり、と剣をすり抜ける様に、時に脇の下を、時には切っ先が僅かに届かぬ距離へ、時には剣の鍔の先端でコツリと相手の剣の腹を突いて翻弄する。


何時しか周囲の興奮した感性は鳴りを潜め、皆が皆陶然となったかに思える雰囲気の中、ただ軽やかな鋼の当たる音と風切り音のみが響き渡っている。


観客の殆どは気付いていないかも知れないが、何がすごいってレズンはこの間にも冒険者の上着のボタンを一つ一つ下から順に開け、ついにズボンのチャックまで通りすがりに開けていってしまっている所だ。


「見ろよ!あいつ相手の上着脱がしてってるぜ……!」


1人が気付いたのを切っ掛けに、ざわざわと周囲にどよめきが広がり、彼奴は何者なんだ?という興味と好奇心が湧き上がった。


「あ、ベルトまで外した!?」


何とかの窓を開かれ、ベルトまで抜かれた冒険者のズボンはすとんと地面に落ち、白い腰巻が露わになってしまう。


その事実を認識した冒険者は、茹で蛸の様な色であった顔を更に赤くし、斬り合いを止めズボンを抱えて走り去ってしまった。


剣をほぼ使う事無く、相手を退散させたレズンの技量を賞賛せぬ者など、この場には1人も居ないだろう。


歓声を受けたレズンは調子に乗って、指に剣を乗せてクルクルと回し、実に鮮やかな曲芸を見せて納刀した。


「……分かってはいたが……相も変わらず気障な野郎だな」


呆れることに飽きた様な声色が出たのは、自分でも少し驚いた。


「あんなんでもレズンは人間の女の子にはモテるからね、カッコつけでもモテるっていうのは、元が良いからなのかな?」


なんて、観客の女性陣へのサービスを怠らない彼を見て、ニーレイがケッと吐き捨てた。


目立ちたくはないので、片時も此方の様子を見逃さないレズンへとカフスの念話機能を用いて離脱する旨を伝え、人集りからそっと抜け出す。


今日の俺の格好はひたすらに地味だ。


下は何時ものシャツに、珍しくロングパンツなんて物を履いている。その上に足首までのロングコート、マフラーで首元を隠し、地味な色の帽子を被る……何せ寒い。


何時しかの雪中行軍とは比べるまでも無いが、どちらにせよ寒いものは寒い。


顔も殆ど隠した俺は今、市民の注目を引く様な事もない。平和で大変結構な事である。


「アクセサリーは買う。それから何か特別な食べ物があると良いな」


と、食べ物屋を物色する。昼食前の間食兼、土産用である。


干物か菓子類が良いかも知れない。


「菓子は後でケーキ類と一緒にするとして、干物か」


だと決まれば行き先は干物屋である。


「干物を作る文化は、アリエテやハノヴィアには昔無かったんだけどね。この辺りはやっぱり東のヨウ国からの技術なんだよねぇ」


ヨウの国、東方の此処とは異なる文明を持つ文化圏。


「ただ乾かせば良いというものでもないからなぁ」


前世地球での中華圏における文明に相当すると思われる彼の国は、今世においても非常に高いレベルの文明を保持している様だ。


「少なくとも10000km以上の海路を自前の船舶で走破して、交易が出来るレベルの資金力を向こうの高々一貿易会社が持っているぐらいだからね。直接的な接触をしていたら一体どうなっていたかな」


少し歴史の話をしようか。前の世界の歴史だ。


西暦1078年における宋の粗鋼生産量は軽く10万トンを軽く超えていた。


これがどのくらいの量であったかというと、彼の有名な産業革命初期、1788年のイギリスの粗鋼生産量が約78000トン程度に過ぎなかった事を考えると、その工業力の巨大さがよく分かると思う。


当時の徴税記録より推測するところによると、この1078年の宋に於ける粗鋼生産量は126500トン。およそ700年後、世界の頂点に立つ大英帝国の誇る粗鋼生産量は、700年前に東の彼方に存在した帝国の凡そ6割でしか無かったのである。


この生産力は後にチンギス・ハン率いる元帝国のユーラシア統一に大きく寄与した。この大帝国による支配はまた中華圏及びイスラム圏、キリスト教圏にも多大な進歩を齎したのだが、その話は置いておこう。


兎に角は何が言いたいかと言うと、彼のヨウの国は此方側、旧ヨーロッパ圏の文明よりも遥かに進んでいる可能性があるという事だ。


「元帝国の西進は、この世界では起こらなかった様だがな。南東の方では遊牧民が強いのだろう?なんと言ったか……ミスティと言ったか、あの敬虔な商人達は」


この世界でもイスラム圏に似た、アジアとヨーロッパを繋ぐ地域の民は存在する。


独自の宗教を信じ、非常に厳しくその戒律に従って生きる者達だ。反面、異教徒や無宗教の者達への態度は大らかで(勧誘は欠かさないが)、押し付けがましくない所が好印象である。


「あの人達はあの人達で大変なんだよね、あの辺りってほら、宗教対立が酷くて……」


向こうは年がら年中、宗教解釈を巡って常に内戦が絶えないらしい。そんな中でも商人達は逞しくも交易を途絶えさせないのだから、大した物だ。


「どうしてあの辺りの文明は、中々宗教観を纏められないのか……」


肝心の経典の表記がいい加減故の悩みである。


閑話休題。


「海産物でも買って行ってやるか。あまり内陸だと食べる機会など無いからな」


スィラは貝柱が好きみたいな事を、以前言っていた気がする。


後は鯵だとかホッケの開きだとか、そんな物を買い込んで行く。


買うべきものはある程度決まっていたので、買い物はかなりスムーズに進んだ。


「で、昼の話だが」


成敗ショー(・・・・・)から戻って来たレズンと、襟の中に居るニーレイに向き直る。


「彼処に行ってみようと思うのだが、どう思う?」


指差したのは、閑古鳥が鳴いている小さな……雷文で彩られた店。


ヨウ料理店と言う名の、中華料理店であった。











「……独特な匂い……これはー、流行らないわけだねー」


店内は狭く、薄暗く、恐らくはあまり綺麗ではない。


が、この香りは懐かしいというか何というか……ノスタルジックな気持ちになる。


「この雰囲気が個人的には好きなのだがな」


何故かアリエテ人他旧ヨーロッパ側にはウケが良くないらしい。


というか……。


「……目録でさえアリエテ語じゃないのか」


見事に全部漢字らしき複雑な文字で表記されたメニューを見て、はぁ、と溜息を吐いた。これは流行らない訳だ。


「……何て書いてあるの、コレ」


俺も読めない。漢字なら読めるのだが、あまりに達筆すぎて掛け軸の文字でも読んでいるかのような気になる。


「悪いが読めん……で、店員は?」


席を立って店の奥の暖簾を除けると、その奥……寝転けて鼻提灯を膨らます店員と思しき、黄色人種の娘が居た。


「……おい」


ゴツっと彼女の木靴の裏を爪先で蹴ると、ひゃえ!?と奇声と共に彼女は跳ね上がった。


「営業はしているのかね?物を食いにきたのだが、目録が読めないから手伝って欲しいのだが」


すると彼女は何故か突然、うー、あー、と焦り始めた。


「うー、みーにゃ、ざゔーつ、しゅぇ?」


……。


「……あー、そういうこと……」


単純にこっちの言葉が覚束無いだけの様だ。とりあえず、いきなり自己紹介をして来た点から、そう推測した。


「私の名はエリアス、彼はレズン、そっちの小さいのはニーレイだ」


可能な限り丁寧に、珍しくアリエテ語の正しい文法に則ってゆっくりと発音すれば分かってくれるらしい。


酷く冗長な会話したところによると、この娘はこちらの発音でシュエという名で、歳は18。アリエテ来たのは2年前で、その料理の腕を買われてさる料理人に王都へと連れて来られたが、その肝心の保護者が流行病で亡くなってしまい、現在己の得意料理であるヨウ料理で生計を立てているという。


「珍しいねー、あんなに言葉も覚束無いなら売春窟だとかに連れてかれてもおかしくないのにねー」


それが不思議なところだ。


だが、その凡その理由は、周囲に潜む数多の気配から察する事が出来た。


「愛されてるな、あの娘は」


何故か物凄い数の人の気配が、この店からはするのだ……見る限り誰も居ないのに。


「いやいや!?コレってどう考えても危ないタチの《ゴースト》だよね!?


陳腐な言い方をすれば幽霊か、死者の魂か……それが力を持ち、彼女の周囲、具体的に言うところのこの建物に、それらが菓子に集る蟻の様に集まっている様に見える。


何故そんな事が分かるか?さっきから耳元で誰がいるでも無いのに、「……あの娘に危害を加えたら祟り殺すぞ……」と囁いて来るナニかが居るからだ。


まあ、魔物にはきちんと《ゴースト》なる不可視の存在が定義されている。基本的に不可視の存在で、無害な物が多い。何故なら基本的に此方からは接触出来ず、向こうから此方に干渉する事もある例外を除いて出来ない。死霊術師など、死と良く関わりのある者は時として意思疎通が出来る様だ。


例外というのは、その《ゴースト》の発生源となった何かしらの生物が、生前非常に強力な魂?か何かを持っていた場合かつ、その存在が何かを現世において留まることを強く想っている場合。ここの所は極めて曖昧な箇所ではあるが、兎に角そういう事だ。


カンカンと料理道具の鋼が弾ける音が響く。


油の焼ける匂いは何とも逆らいがたい食欲を刺激して来た……。


「うー……本格的にお腹減ってきたー」


注文したのは、店員たる彼女の発音が聞き取れず……何か違う種類の物を適当にとだけ言った。


中華鍋に良く似たそれを振るって何か炒めている所を見ると、中々懐かしい物を見た気になる。此方では料理と言えば専ら煮るか焼くかばかりだからだ。


して、拙い言葉ながら足取り手捌きは鮮やかな彼女が出したのは……。


「担々麺、炒飯、麻婆……これは茄子か?それと水餃子に棒棒鶏……」


多種多様な中華料理……多少何故か担々麺の麺が中華麺でなく、和製ラーメンの黄色の麺だったりなど細かい差異はあるものの、確かに中華料理そのものであった。


まず担々麺、香ばしい胡麻の香りとツンと自己主張する辣油のコンビネーション。


炒飯、米は勿論パラパラ、何より卵がカラッと良い具合に焼け砕けていて、塩胡椒の効き具合が癖になりそうだ。


麻婆茄子、ああ、白くふっくら炊かれた白米の存在がこの上なく恋しい。


久々にこのやや塩っぽく、辛味の効いた味を口にしてしまっては、やはり白米というか、コレはジャパニーズとしてかつて産まれてしまっては求めざるを得ない。


「白米は出しているか?」


炒飯があるならあるだろう?と思ったのだが、蒸したり粥の様に煮る事はあれど、炊くという事はしない様で、困惑されてしまった。


「……変なものを欲しがるねー、炊いたお米って、長耳族(エルフ)の精進料理だよー?ヨウの方でもお米なんて食べてるのは初めて知ったけど、コッチは中々イケるねー、ナガミミ共のアレはすぐ潰れて食べ辛くて味がしなくてねー……」


なんて、炒飯をスプーンで頬張るレズンが何気に聞き逃し難い事を言い始めた。


「エルフは米を食うのか?短粒米を?」


それに応えたのはニーレイである。


「長耳族は独自の文化を堅く守っててね、建築様式も食生活、武器や防具、服も周りとは明らかに違うんだよ。ほら、レズンが来てたあの一枚物の服はエルフの民族衣装だよ」


エルフとやらには会った事は無い。ナガミミナガミミと、レズンもニーレイも呼ぶ事から、やはり耳が細長いのだろうか。


「あー、そーなんだ。昔色んな種族の人の食べ比べをした事があってねー?その時にたまたま見かけた旅人のナガミミが持ってたんだよね、あの服」


分かってはいたが、やっぱり此奴(レズン)は二度と野に放ってはいけない人種だと思う。ほら、ニーレイですら今の話はドン引きしているじゃないか。


「……アレだよね、レズンって常識を分かった上で敢えてコレだからタチ悪いよね」


褒めても何も出ないよー?なんてそれでニコニコ笑っているのが彼である。黙っていれば単なる貴公子に見えるのだがなぁ、致命的に中身が犯罪者なのだよなぁ。


「で、エルフが食っているという米、どこかで食べられないのか?」


うーん、と考え込むニーレイ。


「……そもそも、あのお米って生産量がカツカツらしくて、長耳族の自治領以外には殆ど出回らないんだよね。あの辺りは植林でかなり土地は豊かだけど、それでも一年に一回しか収穫出来ない一年生の植物らしいから……」


まあ、そうか。


俺の感覚から行けば室内栽培で、専用の化学肥料を用いた工場では一年に3度収穫出来る高効率な主食向けの植物という意識だったのだが……俺の時代より何百年も前は確か、一年に一度しか新米が食えないというモノだったと曽祖父に聞いたことがある。


「そうか……エルフの所に行って種籾を手に入れるというのは?」


ラクシアのユキに頼めば、米の生産に関する資料も得られる。それを上手くツィーアに押し売り(・・・・)すれば……。


「……長耳が人間、というか他種族と取引するとは思えないなぁ」


そんな考えを話すと、ニーレイが眉根を苦々しく顰めた。


「そこまで酷いのか?連中の……その……異人種嫌いは」


酷いなんてもんじゃないよ、とはニーレイの弁である。


一つ、自治区内に下手に入ると何処からともなく矢が飛んで来て射殺される。


一つ、村に辿り着いたとして相手にする者は誰1人居らず、単に居ないものとして扱われる。


一つ、仮に何とかコミュニケーションを取り、宿を取ったとしても出てくるのは出涸らしの骨のスープと家畜の餌である。


……などなど。


「こっちもそんな話ばっかりきくからー、つい身構えちゃうんじゃない?ってゆーのも居るけど、実際ボクが捕まえたのも散々黙らせるまで罵詈雑言を吐きまくってたしねー」


「……参考までに、どうやって黙らせたんだ?」


そんなの簡単さ、と彼は穏やかに微笑んで最後の麻婆茄子の一欠片を口に放り込んだ。


「焼けた鉄の()と交尾させてあげた」


控えめに言って惨かった。


「……ま、まあ、レズンは兎も角、こっちも疑って掛かってるからね。そりゃまともにやり取りできる訳ないんだよね」


悪名は留まるところを知らず、その苛烈さは買った敵愾心を燃料に更に燃え上がる、と。


うーん、難しいか。


「まあ、気長に待つさ。それはそうと……」


と、柱の陰からチラチラと此方の様子を伺う店員(兼料理人)の娘に視線を移した。


不安気に様子を伺っているのは、料理の感想が気になるのか、はたまたは見知らぬ客の会話がおかしい……いや、おかしいのはレズンだけの筈だ。そうに違いない、そう信じたい。


「非常に美味だった。代金は弾もう」


レズンとニーレイは銀貨一枚ずつ、俺は銀貨3枚を席に起き、荷を背負った。


相場で言えば一人当たり銅貨3〜4枚も置けば十分であったが、チップとしてかなりの金額を上乗せした……まあ、他にも理由はあるのだが。


「……それから、その霊魂共の手綱は上手く握っておいてくれると助かる」


コクコク、とうなづきながら店員娘はにへー、っと笑った。


「Сесие!Тахаихуицаилао!……アリガト!」


……何を言っているかは分からないが、恐らくは悪い意味では無いだろう。


「機会があればまた来よう」


して店を出ると、背にのしかかる様な思い威圧感と耳元で囁く声は消えた。


「……ボク、ここは二度と来ないと思うなー」


美味しかったけどさー、と頬を掻く。


「ここに来るくらいだったら、ヨウまで行って憑いてない(・・・・・)料理人を探すかな……」


ゴーストを怖がる感覚は、実はアジア人よりも欧州人の方が強いらしい。


日本人は特に"霊"なんて物が好きな様で、生活の中や、あらゆるエンターテイメント、宗教的儀式において、その存在を前提として事を行う節がある。


それはアジア人全般において、霊魂とは主にあらゆる生きとし生ける物がなり得るものであり、祖先の魂として祀る物であるという認識が強いからだ。悪霊とやらは基本的に祖霊が相手してくれる物なのである。


逆に欧州人においては霊魂という物を扱うのをやや嫌う節がある。実体の無い者への恐怖が強く、エンターテイメントの主題とも中々ならない。霊よりもゾンビの方が彼ら的には好みなのだろう。


その辺りの認識はこの世界でも然程変わらないらしく、この2人は霊的なんたらについてはあまり得意で無いらしい。


「黙っていれば悪さなどそうそうされないだろうに」


「黙ってても恨み買い過ぎて首が回らねーから言ってるんだよー!」


それは自業自得だろうが。


「あの中にその手のモノは居なかったのだろう?ならいいじゃないか」


そういう問題じゃなくて〜〜〜〜、とグズるレズンは放って置くことにし、新たに増えたやるべき事について思慮を巡らす。


「エルフ、か……」


ふん、と一つ息を吐いて、土産を買って帰る事にした。


「……案外、面白い事になるやもしれないな」


今後の事に思索を巡らしつつ………。






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