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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第三章
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行軍



あの1500匹耐久ゴブリン退治より数日後、久々に入った大型収入にホクホクしていた俺の事情などどうでも良さそうな、恰幅の良い領主、ブルダ伯より再びの呼び出しがかかった。


叱責ではなかろう。《ゴブリン》を殺し過ぎた……というのは若干あるだろうが、この報告を受けた冒険者ギルドの受付がドン引きしつつも感謝していたので、多分大丈夫な筈。


なら新たな依頼か何かだろうか……十分あり得るな。


と、応接間で待っていた俺の元に入って来たのはブルダ伯……それと、一人の若い……明らかに使用人では無い、着飾られた女だ。


「やあやあ!この間の依頼は滞りなく、儂らの予想以上結果を出してくれたそうじゃないか。御苦労であったな!」


「いえいえ、大した事ではありません……報酬に見合った仕事をしただけですので」


敢えて気取る事も重要な事だと思うのだ。


ギリギリな依頼で見栄を張るのは馬鹿だが、この程度の依頼ならば、もう少し上を要求する事も必要だろう・・・金はいくらでも必要だからな。


「はっはっは!それでこそ君という者だな!……で、今日呼び出した要件だが……」


そこで急に神妙な顔をし出した彼は、隣に立っていた。見た目の年齢はスィラと同じ様な……20歳程度だろうか。


「お初お目にかかります。私、アズブレル家が長女、ヨハンナ・ドワ・アズブレルと申します」


言われてみれば、ブルダ伯と同じ茶色の髪と、緑の瞳を持った彼女……あまり似ては居ない、と思いきや鼻はよく似ているかもしれない。そこそこの……何というか、綺麗系の女性であった。


「エリアス・スチャルトナです。学生の身ではありますが、冒険者の真似事をしています」


……だが、この手のお嬢様というのはあまり良い印象が無い。


学校でも嫌がらせをして来るのはこの手の貴族の者が主だしな。


流石に年齢が一回り上であるから、少しは大人である事を期待しようか。


「実はな、君に一つ……我が娘とも関わりがある重大事についての依頼をしようと思ってな」


はて、このヨハンナ嬢とも関わりがある事、とな?


「数日以内に、王都から重要人物が来る。この者の護衛を頼みたいのだが……困った事にな」


そこで大きな溜息……大変面倒そうな匂いがする。


「マデレイネ・ベル・イオリア様……分かりやすく言えば姫様なのですが、彼女は山賊退治に行きたいと仰られておりますの……私と」


……姫様と、このひょろひょろのヨハンナ嬢のお守り、ねぇ?













「……という訳でな、そのお姫様?マデレイネ様とやらがどんな人物か知っておきたくてな」


無論訪れたのはアイクの元。


実の姉の事ならば、多少の人となりくらいは分かっているだろう。


「流石に唐突だと思うんだけど。で、姉さんの事だったっけ?姉さんは……」


今一つアイクは話下手で、中々要領を得ないというのはあるが、この点は年相応な所だろう。逆にカルセラやツィーアが異常なのだから……。


まあ、このやや分かりにくい話を纏めると、マデレイネ姫はどうも……控えめに言っても変わっているらしい。


王都に存在する、この国の最高学府である国王立学院での成績は優秀。


アリエテ人らしく、金に近い茶系の髪と翡翠色の瞳を持つ……見る男全てが振り返る様な美人で、アリエテ王家にしては珍しく、魔術師というよりは騎士寄りの人間である。


魔力による筋力のブースト等の、どちらかと言えばハノヴィア人に近い方向の魔術師で、今年19歳であるが、既に王国正規軍である、宮廷騎士団に所属しているという。


「姉さんは王位継承権がちょっと低いから、多分最初から王族として生活する事は目指してなかったと思う……だったら、軍務に就いて名声を上げて〜、みたいな事を言ってた様な……」


性格はどうなのか、と聞けば一言……元気で苛烈、と返ってきた。


「いつも前向きだけど、人にも自分にも厳しいっていうのかな……」


努力家で自信家、熱血的な所があって、アイクからすればややうざったく思う事もある様だ。


人柄的には明るいが、どうも恋愛事は嫌いらしく……学院生時代は他の告白して来た有力貴族の男どもを千切っては投げ……と。可哀想に。


なお体型も芸術的に豊満なそうで、同性からの羨望も絶えなかったという……しかしながら姉御肌な所もあって、同性からの批判や表向きの嫉みは少なかった様だ……ここは見習うべき所だな。


俺からすればファン共の面倒を見る事など御免だが。


「大体分かった……こんな事を聞くのはアレだが、彼女は獣人に対する耐性はあるか?」


「……多分ダメだと思う。中央暮らしが長いと獣人だとかの事を見た事が無い人の方が多いから……」


逆に敵視している可能性が高い、と。


「ならスィラには会わせん方がいいな。……ああ、もう一人連れて行くならどうするかと思ってな」


「……レズンさん、って人間だよね、だったらあの人でいいと思うけど」


……ああ、そういえば。


レズンは外見上あまり人間と変わらんな。良い考えかも知れない。


「そうさせて貰おう、いや、こんな時間を取ってしまって済まなかったな」


気付けば既に夕食前だ……これ以上話しても迷惑だろう。


「大丈夫だよ。どうせならこのまま夕餉も一緒に……」


おお、自然に誘って来た!と感心しようとした瞬間、戸を叩く音。


「アイク?ここにエリィが来てると聞いたのだけれど」


ずんずん、という効果音が近しい足取りで現れたのは、我らがツィーア・エル・アルタニク伯爵である。


「ああ、ツィア。これから食堂に向かうところだが……一緒に行くか?」


まあ、最近食堂は居辛くて行っていなかったから……たまには良いだろう。


して、悠々と食堂に向かった俺たちであったが……日を置こうが俺からすれば食堂の様な公共の場は視線の針の筵の様でどうも落ち着けないのだよなぁ。


食堂の戸を潜って1分で疲れ始め、5分もすれば帰りたくなってきた。


「エリィ……そんな気にすることも無いでしょう?有象無象に気を遣うのは、精神力の無駄よ」


買った恨みは俺の比では無い彼女が言うと、流石に説得力も貫禄もある。


「生産的な事を考えましょう。そうね……エリィ、王都には行った事は無いのよね?」


勿論、用事が無いからな。見た事も無い。


「王都ストラスリオルは、ハノヴィア帝国の首都、ユルゲンドーラと並ぶ世界最大級の都市よ。是非一度見てみる事をオススメするわ……でね、王都のアレクシス王立学院は殆ど貴族に向けてしか門戸を開いて来なかった訳だけど……今後庶民の教育機関としても開かれる事になったそうよ」


「……それは随分と奮発したな」


アレクシス王立学院……マデレイネ姫が通っていた学院で、貴族……特に伯爵家以上の者でかつ、アリエテ王国議会での権力を保持している者の子が入学を許される学園。この国の最高学府。


それが庶民に門戸を開く?随分と急な事だ。


「そこで話は変わるんだけど……エルクの学園、ここはちょっとした実験をしている学校だった、っていうのには気付いていたかしら?」


……はて、初めて聞いた事だが。


俺がそんな不思議そうな顔をしていると見るや否や、にやり、としてやった顔をする彼女は、どう見ても子供である……と言ったら怒るのだろうなぁ。


「不思議に思った事は無いかしら?……貴族と庶民が、寮こそ違うものの、同じ校舎で、同じ教室で勉強しているという事に」


確かに。言われてみればそうかも知れない。


そもそも庶民と貴族の差異とは何か?


金の有る無しで分けられる程、これは単純な話では無い。金があるだけでは庶民が貴族の仲間になる事は無いのだ。


貴族の扱いは国によって様々である。広義で貴族といえば、君主制の元に特権を認められた社会階級で生活する事を、君主によって認められ、保証された人々の事を言う。


この国での貴族の特権は階位によっては例外はあれど、基本的には"参政権"が最も分かりやすい特権だろうか。


前提としてこの国は王権の強い君主制の国家、王の補弼機関として王国議会が存在するという半ば独裁の国ではあるが、その王国議会とて王権に振り回されるだけの存在では無い。


王が治めているのは王都とその周辺地域、直轄領のみで、基本的にこのアリエテ王国という広大な大王国の大半の土地を治めているのは議会で幅を利かす貴族諸侯である。彼らの協力が無ければ王国を維持する事も難しいし、治められる税が滞れば、強大な戦力を誇る代わりにランニングコストが高い魔術師軍団を維持する事は難しくなる。


勿論、税の軽減や現金の遣り取り、その他領地に対する各々の特権の拡大……などなどの手札を以って議会を黙らす方法も無い訳では無いが、国庫の金貨にしろ領地の特権にしろ数は限られている上……大抵は身銭を切る行為であるからして、基本的には避けるべき選択肢である事に間違いは無い。貴族達の心証も良くないしな。


領地を与えられた者は、その領地を運営し、発展させる義務が発生するにしろ、実質的に小さな国王になった様なものだ。


納税義務こそあるものの、それ以外、王国が要求する以外の金銭作物は私財とする事を認められているし、土地も自らの好きな様な開発しても良い。


領民を顎で使い、規定には領民は領主の所有物であって、給与を発生させる義務は無いとされているが、此処でも同様、領地を維持している本当の役者は領民である・・・という事も分からない人間は遅かれ早かれ、領主館の玄関に首を晒し、土を血で潤す事になるだろう。


他にも細かい差異はあれど、庶民と大きく違う所はこの辺か。


なら、庶民が貴族になる方法というのについて話そうか。数は限られてはいるが、確かにいる事には居る。


そもそも貴族というのは先に言った通り、王によって認められ、任命、保証された身分だ。ならば、庶民でも国王に認められる事があれば貴族になり得るという事。


例えば戦争に於いて多大な武勇を挙げた者……もしくは魔術的研究で並々で無い功績を残した者など。


そんな王の目にも止まる功を成した者は、例え庶民であっても貴族として取り立てられる事がある。


大抵は最低位の騎士爵からではあるが、その時の王の裁量によって、準男爵や下手をすると男爵くらいにはなる可能性がある……まあ、この通り、子爵以下はこんな有象無象の子弟ばかりだからして、元から貴族である者からは庶民と大して変わらぬ扱いをされているらしいが。


で、この貴族達は先に言った通り、規定上領民、つまりは庶民というのは自らの所有物というか……平たく言えば、自分達が右といえば右と言うと人間の集まり、実際にそう扱う事は無くとも、少なくとも最初はそういう認識で接する相手なのだ。


勿論、庶民は自分達の事を彼らがそんな風に見ているという事は、大抵は知らず、知っていたとしても憤ってなにくそと歯向かう……つまりは、まあ、貴族と庶民が同じ高さの土俵に立つとまずトラブルが絶えないという事。


しかし、見ての通りこの学校ではそれが為されている。


「この学校も二年くらい前までは貴族のみが通える学園だったのだけれど……正直な話、貴族の子弟だけだと数が少な過ぎたのよ。ここアズブレル辺境領はどう言い繕っても何もない田舎だから、やっぱり集まる生徒も限られていたの」


そこで、試験的に豪族、商人の子などの比較的礼節を弁えているであろう、者たちにも門戸を開く事で、定員の充足を図った、と。


「ブルダ伯は庶民にも知識階級を作りたいと思っていらしてね、将来的には一般庶民にも自由な教育を施して、領地としての地力を底上げしたいそうよ」


……それで、一般庶民への教育か。


だが……。


「今のままの庶民が半端に知識を持つとろくな事にはならんぞ。何せ、庶民の中にも有識者と無知者が混在する事になる」


知識知能の格差は時として深刻な問題を引き起こす事もある。


かつて数多くの扇動家が無知な庶民を煽り立てた様に。


「貴族と庶民での知識格差は然程問題にはならん。貴族は王国の目が届く範囲にしか居られないし、王国に歯向かう理由は薄いからな……だが、知識を得た庶民、ひいては反体制的な者は厄介だぞ。得た知を悪用して無辜の民を焚きつけ、公人への要求を通そうとする事くらい、その手の人間はやるだろうな」


王政が崩れた最大の原因は、支配階級が独占していた知識を一般庶民が手に入れ始めた事であると個人的には思う。


印刷技術の発達によって、知識の塊足る書物のより広範囲への流通、新聞等の社会の情報を報せる報道機構の出現などによって、庶民は世界の仕組みを、自らの国で起きている事、置かれている状況をより詳しく知る事ととなった。


この世の仕組みを知った彼らは多かれ少なかれ思った。


「何故?」と。


時としてその疑問は、何故こんな物が芸術的と評価されている?と芸術性に言及し、何故こんな数字の羅列だけで世界を語っているのだろう?と眼科に広がった科学の世界に胸を高鳴らせ、隣国のその強さに何故我が国はと憤り……何故我々と比べて貴族連中は遥かに優雅な暮らしに浸っているのか?と。


どれもこれも存在自体を知らなければ(・・・・・・)湧き得ない疑問であり、苦しみであり、考えである。


「だから、やるからには自由で無く義務……逆に全ての庶民に教育を施して仕舞えば良い。支配階級と被支配階級の対立という二極構造でなく、市民同士……人が増えればそこには考えの違いはその数だけ増えるのだから、内輪で揉めさせて上に矛先が向かない様に誘導する……でないと、アリエテもハノヴィアも望まぬ変革を強要される事になるぞ」


もしくは一切、その手の事を民から遠ざけるか、だ。


「……言われてみれば、ね。確かに、この考えは理性的でない(・・・・・・)人間の存在を度外視してる……一定数存在するどうしようもない者への対処が組み込まれてない、って事よね?」


急激に彼女の瞳が鷹の如く鋭くなり……貴族としての一面を見せ始める。


「武力……は駄目ね。パワーゲームは際限がないから、コストが半永久的に嵩んで行く無数の庶民全てから不穏分子を見つけるには長期的な監視が要るけど、それもまた無理な事……」


「……また始まったのかぁ……これは先に帰っておいた方がいいかな?」


好きにしていいぞ、と席を立つアイクに手を振りつつ、ツィーアの思考に割り込む。


「先に言った通り、体制を二極化すると反体制派も敵と味方という概念を簡単に整えられる上、上は下を常に監視し、必要あらば抑えつける必要が出てくる・・・だから、それも庶民、下層の中で横方向に対立構造を作ればいいだろう?例えば……こんな制度があった」


庶民は戸籍上、五人で一グループとして数えられる。


その五人は互いに監視し合い、年貢の納め具合、犯罪の有無、プラス面では相互扶助等・・・密告には褒美を用意し、不祥事は連帯責任とし、グループ内での自浄作用に期待した。


五人組という物だ。


「五人とまでは行かずとも、例えば二人、三人、はたまたは単に反体制的活動の密告を推奨し、それにあたってターゲットを絞り込んで調査、それが真であれば褒賞を与え、虚偽であれば逆に罰を与える……制度的には物騒でかつ、細かい所を煮詰めなければなるまいが、効果は大きいぞ」


まあ、これでも一時凌ぎにしかならないが。


「結局の所これは圧政でしかない……やりすぎれば市民の跳ねっ返りもあるから、長続きはしないだろうがな」


全ての市民が自ら考え、議論し、学ぶ事を覚えれば、体制側の仕事は一先ず終わりだ。


後は勝手に市民同士で、意見の相違(・・・・・)を起こしてひたすら争うだろう。


例えば……右派と左派、高学歴と低学歴、自由主義と共産主義、自然派と人工派……。


「そうなれば国の舵取りは容易い……目を向けて欲しい物は対立化させ、目を逸らして欲しい物がある時は、他の燻っている対立構造に火を点けてやればいい……誰しも火は大きい物に注目する」


「でも、その誘導方法が問題よね。庶民の中に声の大きい誘導役を一定数入れるとしても、結局のところこのシステムが露見した瞬間に効果は薄れるわね……」


まあ、時代が違うからな。この機構が十分に働くには、社会の高度な情報化が必須であって、この世界の様な紙媒体すら高価な社会では、やや実施難易度は高いだろう。


「その為には情報を上から下へ素早く伝達する機構が必要だ……例えば新聞だな。世の中であった事や、政府が伝えたい事、短文学を綴ったペーパーを、希望者、はたまたは全ての国民に有料で配布する」


新聞は初歩的な情報伝達技術だが、それまでに比べれば十分に早い情報伝達手段だ。


「その為には紙自体の値段を下げなければなるまい……少なくとも羊皮紙はダメだ、供給量が限られ過ぎている。理想を言えば植物性の紙の質と生産量の向上だな」


後は印刷技術だろうか。大量の紙に、短時間で大量の文字や絵を打ち込む機械……版画は存在するからして、版を……一々掘っていては時間が勿体無いから、文字版のビットを付け替えて文章を作る方式にすれば良いか。


「そうね……紙の作り方は知らないけど、アルタニク伯爵領(うち)で出来ないかしら?紙も良質なら、作れば作るほど売れそうね……」


「そうだな、最初は単なる製紙から始めても良いだろうな……幸い、エネルギーには事欠かないだろう?利益は莫大だとおもうぞ」


尤も、良質な羊皮紙を超える品質の紙を、それ以下の価格で供給出来ればの話だが。


「……それも追々の話ね。で、エリィ?……マデレイネ第一王女の護衛を頼まれたって、本当?」


辺りを少し気にし、小声で問う彼女。


「……事実だ。アイクと話したのも実はその事でな……人柄が分からん上に、いきなり山賊退治に行きたいなどと……弟の模擬戦大会を観に来るついでにしては、やる事が大き過ぎると思うのだがな」


鯖のクリームソース?……ちょっと辛いな、わさび系の物も入っている?……和えだろうか。個人的に、鯖に関してはただ塩焼きするだとか、酢で締めて頂くようなシンプルな食べ方の方が、鯖特有の味の脂を味わえて好きなのだがなぁ……まあ、これはこれで良いのか……を突っつきながら、正直な感想を垂れてみる。


するとツィーアは嫌に真剣な顔になって、顔を近付けて耳打ちする。


「……マデレイネ様は正義感(・・・)が強い方でね……かつ、極度の亜人差別主義者よ。だから……」


「……ああ、獣人魔族は悪逆の徒、というヤツを素で言っている質か」


真人教の急先鋒みたいな奴らの話だ……あの宗教の教典上は、人間以外に人という存在を認めていないからな。


正確には人間以外の人の事が書かれていないという事らしいが、それは定かでない……読んだ事は無いからな。


まあ、最初からスィラその他は出すつもりは無いから大丈夫……な筈。


フェリアに関して言えば、恐らくは王都の住人には顔が知れ過ぎている可能性があるという観点から、面倒事を避けるという意味でも、選択肢には無い。


やはりレズンを連れて行くという事で確定だろう。黙っておけばちょっと美形の人間に見える筈だ。


「安心しろ……その点は既に織り込み済みだ……で、その山賊とやらはそんなに頻繁に悪さをしているのか?この数ヶ月、そんなに賊の話は聞かなかったが……?」


「箔付けに決まってるでしょう?正直なところ賊は常に居るけど、結局は今の世の中じゃ高々蛮族が庶民に手を出したら逆に叩き潰される事が分かりきってるもの……現状ほぼ無害な存在、たまに食扶持に困って街道を行く旅人や商人を襲う程度よ……構成員に食い詰めた獣人が多い、っていうのはあるけど」


……無駄では無いが、必要性の薄い事である、と……後はまあ、差別的なアレコレの話か。


「迷惑な話だな。こちらとら魔術演舞の練習もあるのに……まあ、金払いは良いがな」


報酬の額は今までの小遣い稼ぎと比べ、軽く一桁違った……別にそれだけで釣られた訳ではないぞ?


「あら?なら私が雇ってあげましょうか?お金には困らせないわよ?」


馬鹿言うな、と笑って流す……何が悲しくて友人の脛をかじらねばならんのか。


……魅力的な誘いである事に変わりは無いが。


「……顔に出ているわよ?」


悪かったな、腹芸は苦手なんだ。













王都から地方を繋ぐ街道は正しく張り巡らされている(・・・・・・・・・)と言うに相応しい。


全て石畳で組まれた街道、更には冬季間でも、限定的ながら除雪を成して輸送能力を確保する……それを可能としている所に、アリエテ王国の強大な国力が現れていると言えるだろう。


王都はエルクから見て南東……逆から見れば北西に位置する。


そこまでは小さな村や町はあれど、それほど大きな都市は無く、隊商宿が並ぶ道がただ続いているのみ……道幅は広く、極めて丁寧に整地された道である事は間違い無いが。


そんな雪に覆われた平坦な道を行く4頭引きの物資輸送用の大型貨物馬車数両と、それに追従するアリエテ王国軍宮廷騎士団の正式装備である重装鎧に身を包んだ騎士を乗せた騎馬が数十騎……ゆったりとした歩みで道をエルク方面へと進んでいた。


「……寒いです姫様……なんで荷物は馬車の中で、僕達が外なんですか……」


「堪えるんだクリストフ。譽れある宮廷騎士団の者がそれでどうするのだ……寒いという事は否定しないが、文句を言っている暇があるなら荷物からマントでも取ってきたらどうだ」


通常の矢弾程度なら軽く弾く、厚く重い鉄板も決して寒さを防いでくれる訳ではない。寧ろ鉄板が冷えてその冷気が中まで伝わって寒い。


「嫌ですよ。速く動いたらまた風で顔が冷たくなるじゃないですか……」


クリストフ・ヘン・シュナイダー。マデレイネ隊の副官であり、本人も19歳という若さにも関わらず、既に本来であれば小隊長クラスに抜擢される程の男である……やや物腰が柔らか過ぎるのが偶に傷だが……得物は長槍。


容姿は生粋のアリエテ人であり、髪は明るい茶系で瞳は青みがかかった緑……こんないじけた様子からは考えられないかもしれないが、アレクシス王立学院の次々席卒業生であり、王国議会にその名を轟かす旧き名家、シュナイダー公爵家の次期当主である。


「しかし、父上も何故わざわざ私の隊を使うのか……本来ならば私も向こうの筈だったのだが」


それは良いとして、と。


「……例のエルク南部の山賊だが、斥候の報告によれば、どうも様子がおかしいらしいな。潜入は無理であったらしいが、報告によると静か過ぎる(・・・・・)そうだ」


尤も現在地と山賊の野営地は、早馬で2日かかる距離にある為、最新の情報をとは言えないが。


「……予定は変えないのです?向こうで合流するアドバイザー(・・・・・)との面談は切り上げ、荷物を置いてそのまま野営地の制圧に向かうという事で?」


当初の予定では、あと1日でエルクに到着し、更に1日掛けて隊員は休憩……それと同時にマデレイネ姫はエルク伯ブルダ・ドワ・アズブレルと対談、今回の山賊の野営地の制圧に当たる上で同道するヨハンナ・ドワ・アズブレルとその護衛兼アドバイザーと打ち合わせ、翌日出発という日程であった。


「当たり前だ。そんな悠長な事をしていて、街道を行く市民の身が危険に晒されたらどうする」


……本気でそう思ってるんだから救われないよなぁ、とクリストフは内心マデレイネ姫を憂う。


実を言えば、クリストフは山賊その他蛮族が、現状然程害を成していないという事を知っている……態々討伐する事に意味は特に無いという事も。


マデレイネ姫自身の提案で実施する事に成ったそれであったが、その実、彼女に入れ知恵したのは……王都のマデレイネ派と呼ばれる一派の貴族の一人。


取るに足らない小者ではあるが、知恵はよく回る様だ……積極的にマデレイネ姫が活躍し、手柄を手にする様に取り計らっている。


正直なところ、マデレイネはやや夢見がちな所がある……だから彼女は正しく、物語の中の正義の騎士(・・・・・)の如く振る舞うし、そうあるべきだと本気で考えているのだから。


「どうしたクリストフ?何か悩みでもあるのか?」


あまり深くは物を考えてはいないのだろう……逆に、真っ直ぐ前しか見ない所が彼女の魅力なのかも知れないが。


「……いえ、少しでもこの寒さをどうにか出来る方法について思慮していました」


何にしろ、クリストフは彼女をサポートするのみだ……それがマデレイネ派の筆頭足る父が息子に命じた役目。


それ以上でも、それ以下でも無いのだから。



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