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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第三章
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前座

いつもこの調子で投稿できれば良いのですが、いかんせん私は頭に脳みそが詰まってる時と、かに味噌が詰まってる時が顕著ですので、中々文が進みませんね・・・。


次話くらいから、この章のメインに入りたいと思っています。




緑色の小人じみた醜悪な蛮人……人というのは失礼か、二足歩行の獣というべきだろう……《ゴブリン》と一般に呼称される魔物。


意外にも初歩的な文明を保持しているらしく、簡素な服……というには烏滸がましいが、毛皮で作ったと思われる衣類を纏い、木を削って作った棍棒や、尖った石を棒の先に付けた槍を使っている。


だがいかんせん頭が悪く、彼らの間には言葉らしき物は存在しない。


学習能力も皆無に等しい……と思う。


……でなければこれ程身内の死体が転がっているにも関わらず、ただ単調に突っ込む以外の戦法を取らない理由は無いはずだ。


「良い的である事は否定しないが、退屈に過ぎるな?」


ひらりと掌を振れば刹那、《ゴブリン》と俺の指を繋ぐ光が一筋奔る。


一瞬後には腕が、脚がポロリと取れる、頭や胴に黒焦げた風穴(・・)が空く、一見謎に思える現象。


実はこの魔術、往年の火属性上級攻撃魔術『ブレイズバスター』である。


正確にはその派生系と言えるかもしれない……では何をやっているか。


単純な事で、『ブレイズバスター』の持つ高熱量はそのまま、本来持つ爆発の為の魔力を弾速と熱量に加算したのである。


するとどうなるか……超高温の火の弾丸、"熱粒子ビーム"じみた火炎弾が出来上がった。


更にこの粒子ビームの持つ熱量を収束させ細く仕上げると、超高貫通力を持つ強力な火属性魔術の出来上がり、と。


『ブレイズ・ストレルカ』と名付け、一般化にも成功した。


俺の中ではこの術、『ウィスコ・アイスアロー』……音速の氷の矢の上位互換になり得るモノだと分類している。


何故この術を作ったのかと言えば、先日のデュースケルンにおけるレズンとの戦闘で放った、火属性最上級範囲攻撃魔術『超新星(スヴェルコ・ノーヴァ)』についての反省にその答えはある。


理由は幾つか存在するが、先ず初めにあの術は確かに強力極まる術である事は疑いようも無いが、単純に消費魔力が尋常では無い事である。


今の俺でも、恐らく最も調子が良い時でも5発も撃てば魔力切れでダウンしてしまうだろう。要は継戦能力が度外視された術なのだ。


だが恐ろしい事に、あのクラスの術で無ければ満月時のレズン……魔族トップクラスの種である吸血鬼である事、半ば無尽蔵の魔力を使用可能な事、彼自身の魔術的才能、技術が非常に高い事を鑑みても・・・彼の対魔力障壁を貫通する事は難しかった、というのは非常によろしく無い事だという結論に至った。


かと言って『ブレイズバスター』を乱打するのも効果は薄い。『ウィスコ・アイスアロー』でも、弾速と質量は十分にしろ、所詮弾体は氷だ。貫通力を期待するには少々役不足に思える。


もう一つの理由として……あのフェリア・コンクルスに纏わせた鎧だ。


まさかあんなに高い防御力を持つとは思わなかった。魔力による金属の強化は非常に有効……待てよ?銃も脆い金属で綺麗に作ってから魔力で……いや、それは今は良かろう。


アレと同等の敵が出て来たら?と考えると……場所によっては良いかもしれないが、市街地の様な場所での戦闘を強いられでもしたら、『スヴェルコ・ノーヴァ』の様な強力過ぎる魔術は使い辛い。


そこで小規模でかつ高威力、対魔力障壁に対する貫通力も高く、かつ消費魔力もそれ程は多く無い術があれば良いと考えた訳だ。


威力のクリアは簡単だ。


炎の魔術の破壊力の根源は熱である。ならば温度を限りなく与えてやれば良い……『スヴェルコ・ノーヴァ』の様に、岩が液化する程に。


ただそんなエネルギーを放出すれば、当然必要とされる魔力も途方も無く跳ね上がって行くだろう。


だが今回の魔術は範囲攻撃魔術では無く、ピンポイントで対象を破壊、殺傷する対人魔術である。


爆発は要らない……生き物を殺すのには数箇所の弱点を破壊するだけで十分だ。


兵器に例えるならば、『スヴェルコ・ノーヴァ』は重榴弾砲、『ブレイズ・ストレルカ』は……ちょっと強烈な拳銃みたいな物か。


勿論欠点も多い。


貫通力と殺傷力に特化した所為で射程が極端に短い。


アバウトに見て精々20m程度……その先は炎が霧散して良くて軽い火炎放射程度の威力しか残らない。


必要な火力、つまりは最高レベルの対魔力障壁を貫通する程度のそれを達成する熱量をクリアした結果、燃焼に伴う光が許容範囲を軽く超えてしまっている。


まるで溶接光を見ている様な状態で、射撃時は多大な光で目視による照準が出来ない、射撃後も視界に影が残って視認性やその後のアクションに若干の影響が残る。


"若干の"、という控え目な表現を取ったのは間違いでは無く、俺は戦闘時には既に光学的探知能力は重要視していないからだ。


以前から研究していた、魔力を探査波として対象にぶつけ、その反射波を使って障害物、生命体を探知する。


電波の代わりに魔力を使うレーダー……発想自体は前々からあった事で、ニーレイを見つけるにも使った事はあったが、これ以降は活用する機会は無かった。


以前の使用の仕方は、光学的……つまりは視野と魔力波が探知した物との差異……見えていないのに魔力波には感知する物を手当たり次第に調べるという方式を取り、見事認識阻害魔術を使って隠れていたニーレイを発見する事に成功した。


だが今回は視界に頼る事が出来ない為、魔力波のみでの探知になるが……コレは以前までは無理な相談である。


何故か。


魔術自体の組成は簡単である。魔力波を射出、帰って来たタイミングの差異で反射物の距離や形状を確認、立体ホログラフィックの様に俺の頭の中で組み立てるという魔術は出来た。


が、単純に俺の脳が流入して来る多量の情報量を、頭が処理出来るかという事が最大のネックだった。


ましてや周囲の高速動体……具体的には矢弾や剣戟を正確に、コマ落ち無く把握する為には……最低でも毎秒6000回弱はこの動作をしないと、レズンやスィラ並みの剣撃は……見えない事は無いが、一回ごとに何センチも移動していると、次の瞬間の動きが認識し辛くて仕方が無い為、秒間6000回も頭の中でそのグラフィックを描かねばならないのだ……眼と違ってフレームレートを気にしなければならないというのが厳しい。


計算上、銃弾……秒速1000m程のライフル弾をワンフレームに1cm程移動している様に見るには秒間110000回近い魔力発振が必要となる。


途方も無い数に聞こえるかもしれないが、実際の所何とかなった、なってしまった。


思考加速ラスチェータ・フォルザーン』の効果はそれ程凄まじいという事だ。脳の処理速度は勿論、体感時間すら実質自由自在になり得るこの術を使うと全く負担にすらならない。


ただ、本当にあらゆる物が止まっている様に見える為……戦いが酷くつまらない。やっている側としては死ぬ程退屈になる……これでいいのか?と不安になるくらいには。


ただ思考加速が過ぎると……単純に頭を高速回転させているのでは無いから、それ程疲れたりはしないのだが、時間感覚に凄まじい混乱が生じる事がある。


この間など、ニーレイが「待って」と言った後、体感では5分くらい待ったつもりだったのだが、実際は10秒くらいで「未だか?」と急かしてしまうという事も起こった……コレも、この『ラスチェータ・フォルザーン』使用後の事であった。


あれからであったが、そうした体感時間の変化を正確に把握するため、懐中時計を手に入れようと考えている。


この世界の時計は大抵が置き時計で振り子作動式、もしくは機械式の高価な懐中時計がメジャーである・・・置き時計はエルクにもあるし、大抵の大きな街には大小はあれど、必ず一機は時計塔が存在しているという。


では携帯時計、懐中時計は?と。


時計のムーブメントに必要とされる精巧さはそこらの者に作れる様なレベルでは無い。メアリーや我らが魔術工学科の教師、ネメシア・リィ・クロチャトフの様な器用な者達を以ってしても、時計は無理、と言わしめるのがあの利器である。


では誰が作っているのか?


答えから言うならば、ヤールーンの小人(ドワーフ)族の里、ハノヴィア帝国帝立技術工廠、そしてアリエテ王国王立工芸組合が主な製造主である。品質的には挙げた順通りのまま。


狙い目は勿論、ドワーフ族謹製の品の新品……値段帯は1000〜2000万オルド……貴重極まる金貨10〜20枚分と、鬼の様に高い。


第一それ以前に流通量が少な過ぎて、金があっても手に入らない。況してやプレミアが着いて値段は倍近くに跳ね上がる事もザラだという……現在アリエテではヤールーンとの国交は半ば途絶中であるそうだし、この国に居る限り手に入る望みは低い。


だが奥の手、俺たちにはニーレイというヤールーン人がいるのだ。彼女にその内ヤールーンに連れて行って貰い、直接ドワーフ族の街に出向いて取引しても良いかもしれない。


まあ、今は時間も金も足り無いのでお預けだが。


話が逸れた……いや、本当に暇なんだ。ひたすらスローモションの世界で《ゴブリン》の身体を蒸発させるのは結構面白く無い。退屈過ぎて欠伸が出る……体感的には超長時間やっている気がするんだ……。


「まだ半刻も経ってないよ?あ、あと120匹ね」


折り返し地点は過ぎた、と。


今回の依頼の内容は増え過ぎた《ゴブリン》の駆除・・・大したことが無いと思えるだろうが、《ゴブリン》は曲がりなりにも《オーク》と同クラス、魔物のランクで言うところのC-と位置づけされた、害獣として扱われる魔物である……Cの中ではほぼ最下位だが。


理由は幾つかあるが、先ずこの魔物の特徴を挙げよう。


身の丈は大体120〜150cm、体重40〜60kg、体格に見合った筋力を持ち、初歩的ではあるが文明的な社会を作り、地下に村落を作る。


獣の死体から剥ぎ取った皮で衣服やベッドを作り、木々から取った野菜や果物、動物、虫の肉を食べる・・・火を使う事は基本的には無い。


恐らくは単純な意思疎通能力はあると思われるが、言葉らしき物は存在せず、主に鳴き声(人にはそう聞こえるだけかも知れないが)でコミュニケーションを取る、と。


性質的にはドワーフ族との共通点が若干存在するが、彼らは魔物ごときと一緒にするなと憤る程度には毛嫌いしているらしいが。


繁殖力は高い……だが不思議な事に、この《ゴブリン》が増える、つまりは繁殖するメカニズムはよく分かっていない。


何せ雌雄が存在しない、少なくともしている様には思えないのだ。


気付けば巣、村落の中で勝手に増えている。


地下や洞窟の村落をひっくり返して見ても、どう考えても並べて捌いて見ても、雌は見当たらない。というか、全ての《ゴブリン》は生殖器官らしき物を持っていない。


では捕まえて延々と監視すればわかるのでは?と思うと絶対に増えない。


目を離せばいつの間にか増える……首をひねらざるを得ない。


討伐が必要な理由というのは繁殖力が高く、定期的に間引きが必要、というのは事実なので、一先ずは狩っているというのが現状だ。


実際にこいつらが増え過ぎると、突如人里まで現れて農作物を荒らし、人を殺して食う事もままある事で、故に害獣とされているというのは、納得出来る事だろう。


では彼らの戦闘能力はどうなのか?と。


単体では非常に弱い。


先にも言ったがこいつらは頭が非常に悪く、持っている武器もお粗末な物だ。極論を言えば一般的な成人男性の農家が適当な農具を持って戦えば、十中八九人が勝てる。平均的な戦闘結果から推察するに、そこら男に武器を持たせて戦わせれば、大体4匹くらいならば一人で打ち勝てると言われているくらいに弱い。


だがそれが5匹、6匹と増えたら?と。


いくら弱い魔物とはいえ、それこそ囲まれて棒で殴られれば大抵の人はなす術も無くなる。


《ゴブリン》共は特に戦法も何も持たない戦い方しか出来ない生き物ではあるが、数という非常に強力な武器を持ち得る可能性がある。


ならばこそ、そんな武器(モノ)を保持する前に妨害するのが筋だろう、という事になる。恐らくはコレが最も大きな理由だ。


そんな面倒な事をするなら、《ゴブリン》など殲滅して終えば良い?残念ながら魔の森の食物連鎖の下層に位置する彼等が絶滅すると……森の奥からでもっと面倒な奴(・・・・)が餌を求めて出てくる可能性がある……分かりきった事だな。


適当に数を減らす……だから狩った数を記録しなければならない。


これは報酬の量にも関係しており、証拠に削ぎ落とした耳を持ち帰るのだが、指定された数は最低200匹……これはあくまで最低限の数である。


アズブレル公が依頼して来た期待値は……。


「これで900……あと100だな……一度耳を荷車に送るか」


1000匹の討伐、耳を持ち帰るにも1000匹分の耳という事で重さは中々暴力的な物になりつつある。


「でも、そのお陰で大分『ブレイズ・ストレルカ』の精度は上がったんじゃない?最初はボディカウントがやっとだったのに」


……まあな。


最初は胴体の何処かに当てる事がやっとで、ワンショットキルは稀だった。


100匹を超えた頃から胴体でも致命傷を与える事が出来るようになり、300を超えた頃から心臓を破壊して即死させる事が出来るようになった。


600を超えると動きが多い頭や手足の付け根、首に命中させる事が容易になり、800台からは激しく動く手足の先にもバシバシ命中させられる様になり、殺さずに戦闘能力を奪う事が出来るまでになれた。


試しに一匹の《ゴブリン》の手足を付け根から全て吹き飛ばし、芋虫にしてやった上で生きたまま耳を削ぎ落としてやったが、難なく成功した。勿論、そのまま放置する程俺は残酷では無いので、頭を蹴り潰して介錯してやる事も忘れない。


『ブレイズ・ストレルカ』は超高温の炎であるから、命中した箇所は溶融、蒸発し、その熱で弾体の直径以上の範囲の組織を溶かし、炭化させて破壊する。


傷口が瞬時に炭化するので、出血はほぼ無い……便利な所でもあり、不便な所でもあるな。


「ニーレイ、ほら」


耳が300匹分入った血も滴る麻袋を放ると、ニーレイがそれを森の外の荷車まで転送してくれる……いやはや便利な事極まりないな。


「もう一つ巣を見つければ終わるか……逃したあの餓鬼の《ゴブリン》が逃げた方か?」


実は先程一匹のやや幼い《ゴブリン》を、腕を吹き飛ばしたのみで逃げさせている。


いくら頭は悪くとも恐怖心を感じる感情はある様で、流石に考え無しに突っ込んで来た彼等でも、突如手足を、仲間を蒸発させられれば流石に恐れを感じる様だ。


これは年齢が若い個体程顕著な様で、年長者は積極的に攻撃に参加し、若い個体はやや後ろで様子を見ている事があると気付いた……戦いの勉強だろうか?それともこの先が比較的長い個体を温存する為だろうか?


標的の若い《ゴブリン》が逃げていった方へと駆ける……速度は多分人間界最速なのでは無いだろうかと自負する速度……すぐに緑色の片腕が欠けた背中が見えた。


そこからは一定の距離を保って追う……途中でずっ転けたりするものだから、追い付きそうになって困る。


追う事数分、鉱山の入り口の様に木片で補強された穴が見えた。


「案内ご苦労」


過たず先導(・・)を射殺、入り口に立つ守衛(?)を一匹を残して即死させ、残りは腕を飛ばす。


腕を飛ばされた個体は穴の中に逃げ込み、襲撃を群れに伝えてくれる……すると迎撃態勢を整えて、勝手に出て来てくれるという訳だ……態々巣の中という不利な環境での戦闘アドバンテージを捨ててくれる。


「……耳の回収さえなければ、穴ごと燃やしてやる物を……」


面倒な仕事ではあるが……40000オルド、銀貨4枚が掛かった大仕事、おまけに収集した耳の数によって報酬が上がる条件も良い案件である。


一つ溜め息を吐き、意識を切り替える。


早めに終わらせなければ……諸事情により全身びしょ濡れで気持ちが悪いというのもある。


理由はまず『ブレイズ・ストレルカ』の発射時の放熱によって衣類が燃える事を防ぐ為。


もう一つは……。


「……エリアスも無駄に表情筋が発達したねぇ……私には魔力放出が気持ち良いなんて感覚は分からないんだけど」


……連続した魔力放出は性的快感に近しい、いやほぼ等しい物を与えて来る。


『スヴェルコ・ノーヴァ』を撃ったくらいからなのだが……中身は兎も角、精神的には振り回され難くなったと思う。


少なくとも魔術を使う度にだらしない表情を晒す事を良しとしなかった俺は、積極的に魔術、ひいては大量の魔力放出に耐える訓練を始めた。


幾度と無くはしたない事にも腰が抜け、下着を駄目にし、脚を産まれたての小鹿の様にしてレズンやニーレイに爆笑されながらも、俺は遂に……無駄に無表情かつ無反応で達する事が出来るスキルを手に入れてしまったという事実に、酷く虚しい感情が沸き起こった事は良く覚えている。


勿論、上は取り繕えども下の方の生理的反応はどうしようも無い。つまり……その……端的に言えば反応は抑えられない。


だが、全身びしょ濡れなら気付かれないだろう?快適では無いにしろ、体裁を取り繕う上では十分な隠蔽である……ニーレイに「おもらし(・・・・)してやんの〜!」などと揶揄われた日には……いや、コレはもう掘り返さないでおこう。


だが思い出して腹が立った事は事実である。


幸いな事に、苛立ちをぶつける相手には事欠かない状況にある……ならば、と。


「ニーレイ、今日は遅くなるぞ……目標は1500に変更だ」


翌日の朝一発目の授業に遅刻したというのは完全なる余談だろう。











エリアス・スチャルトナという人間はあまりに異質、というのはちょっと違うかもしれない。


異常、多分これが一番近い形容だと思う。


吸血鬼は人間よりも強い。


それがこの世界の理であり、例外は無い、いや無かった真実だ。


無論、人間でも吸血鬼を殺す事はある……それはあくまで複数人、数十人単位の魔術師や戦士が命を削ってようやく可能になる事であり、間違っても人間が単体で張り合い、況してや打ち倒す事があるなど・・・あってはならない、そう、あってはならない事なのだ。


……と、クズの兄や父上、その他吸血鬼諸兄は言うのだろうなぁ、なんて無感動に思うボクも十分変なのかもしれない。


ボク自身は……確かに悔しさはあるし、下男の真似事をしてる現状に対して思う所が無いわけでも無い。


でも結局のところ……抜け穴はいくらか無い訳でもないけれど、現状の生活は決して不快では無いから甘んじてしまっている。


血は面倒はあれど安定して確保出来ているし、自由に街を歩いて金を使う時間もある。


別にボク自身は人間に対する偏見だとか、差別だとかはあまり無い方なので、仕事場に人間がうろちょろしている事も特には気にならない……ボクの事を同じ人間だと思って、あまりに気安くして来る奴には、ちょっとだけ怖い思いをして貰ったけど。


殺しちゃいないし、後遺症も無い素晴らしい術だ……ひどい悪夢を見せる特殊な闇魔術で……って、そんな事はどうでもいいんだ。


エリアスがボクに望んでいる役割は裏方仕事……諜報が主だけど、普段からやっているのは内職仕事だったりする。


作っているのは通常の薬品から魔法薬という物など……ボクの母がこの手の薬物の調合を趣味としていたからか、学ぶ環境には恵まれていた。


魔法薬という物について一応説明しておこうかな。


魔法薬とは通常の薬物とは異なり、とある特殊な溶媒に各種特別な回復、加害魔術を刻み込んだ物で、魔術師にしか作れず……自分で言うのも何だけど、製造にはかなり高い技術と専門的知識、魔術、薬物への深い理解を必要とする。


主に用途は急速な疾病、外傷の治癒を目的とした物や、武器に塗る毒薬、食べ物に混ぜても色が変わったりしない経口毒、衝撃を与えるだけでも激しい爆発を起こす液体爆薬……などなど。


主には生物に対する薬品を作るのだが、時には金属の表面処理?だとかに使うらしい酸だとか、そういう物も需要に合わせて作ったりする。


この手の魔法薬は結構費用対効果が高い。勿論、原料も高いが、それ以上に流通価格も高い……お陰でボクのポケットマネーは昔から尽きる事は無かった。


魔法薬の効果は魔術的なそれとほぼ同等だと思って貰って構わない。


保ちが悪い事を考えなければ、別に魔術師でなくとも扱う事が出来る非常に有効的な医療手段だ。戦場でも、冒険者が魔物と戦うにもよく使われる。


何で今までエリアスにこの事を黙っていたかと言われれば、それはもちろん今後のボクの身柄に関する交渉材料として取っておくつもりだったのだけれども、ちょっと……そういう訳にもいかなくなった。


何でかって……この間エリアスが付けてる帳簿……お金の収支を記録してる冊子を見てしまってからの事だ。


ここのところ何でエリアスがこんなに休日も無く働いているのかなぁ?と思った矢先の出来事だったのだけれど……見事常時赤字だったんだよね、特にニーレイとボクが一緒に行動するようになってから。


冷静に考えてみよう。


主人とはいえ、9歳の女の(エリアス)に曲がりなりにも養ってもらってる92(ボク)と335(ニーレイ)と20(スィラ)っていう構図。


控えめに言って、地獄絵図の上の世も末だと思うんだよ、ボクは。


流石にプライドが許さないし、この状況に甘んじるのは単なる馬鹿だ……つまりニーレイは馬鹿だ、間違いない。


スィラは前々から合間を縫って色々な仕事を見つけて来て稼いではいたらしい……少なくとも、エリアスから給金として貰っている金は全て保管しており、装備品の維持整備費用なんかは自前で賄っているというから驚きだ。


それを聞いては黙っていられない。ボクは逆にエリアスを養うくらいの所まで行くぞー、という意気込みでこの仕事を再開した。


お陰で現在の収入は過去最高なんじゃないかってくらい稼いでる。多分、今が人生で一番真面目に生きてると思う。


多分今ならエリアスその他を一人で養える……けど、まだ黙っている事にしてる。


だって……手はそれこそ落っこちる寸前に差し伸べられた方が、有り難みが増すでしょ?


……まあ、適当に機会を見て、かな。


エリアスの話に戻ろっか。


彼女はどうも敵が多いみたいで、学校内を彷徨いているだけでも結構な悪評、悪口……主に妬みと僻みが主だけれども。


一番の原因は連んでいる友人……アイク・ベル・イオリアの関係だろうか。


この国の最高権力者であるイオリア王家の次男であり、王位継承権第二位の王子様(・・・)……それと仲良くしているどころか、アイク王子から積極的にエリアスに関わろうとしている普段の遣り取りを見る限り、関係は良好……実際のところはエリアスが面倒臭そうにあしらっているだけなのだけれど、その様子も絵になるあたり、美男美女は何をしてもよく見えるというのは強ち間違いじゃないのかも知れない。


エリアスに関しては人外級の美少女だけど。


これも原因の一つ、容姿が際立ち過ぎている事だろう。


男からは羨望を、女からは嫉妬を、更に加えて何とか足を引っ張ろうとする悪意を、ただひたすらに視線に乗せてぶつけられているというのが現状だ……一定数熱烈な信奉者が居るけれど、こちらはかなりの少数派で、何というか神様とでも思っているんじゃないかと思う様な態度を取るから、エリアス自身も辟易して仕方がないとこの間溢していた。


敵、そうここまで挙げた者どもは取るに足らない。精々エリアスに自分がどれくらい嫌われているか教えて反応を楽しむくらいにしか使えない。


前日、領主館からの帰り道に捕まえた追跡者……分かりきっている事ではあったが、真人教の手の者……っぽかった。


ぽかった、というのは証拠が無いからだ。


持ち物、衣服、そして本人の記憶(・・・・・)からさえも、確定的な真人教の関与の証拠は見られなかった。


……どうやって記憶まで調べたかって?


ボクは吸血鬼だよ?そんなのさっさとお友達(・・・)にして、根刮ぎ喋らせたに決まってるでしょ?


そして久々に……エリアスから好きなだけ食べても良い、っていう許可が下りたから……女じゃないのは残念だったけど、そこそこ若くてまだ血が汚らしくない若者だったから、美味しく、全部(・・)、文字通り骨の髄までちゅるんと頂いた。


エリアスはすごく嫌な顔をしてたけど。


当面のボクが取り組むべき問題は、真人教の手の者が此方に近付いて瞬間、少なくとも存在と数を把握し切る事になりそうだ。エリアスも対処すべき直近の問題であると認識している事も確認済み……心置きなく注力出来るという物だ。


「レズン、ここから向こうまでの掃除も頼む」


……ま、今すべき事は部屋の掃除なんだけどね。


「はーいよ」


水魔術で薄く床板に水を張り、その上を雑巾を踏んですーっとスケートみたいに滑る……遊んでる様に見える?ちゃんと汚れは落ちてるし早いんだよ?……実際遊んでるけど。


その後の水気は水をしっかり操って窓の外にざばーっと。


みんな腰曲げて床に這いながら雑巾で汚れを拭いてて大変だなぁ、って思う。


もう少しなんかかれか工夫して、雑巾掛けが楽になればいいのにね。


「なんか、平和だなぁー……」


でも何故か・・・コレから大変な事が起こる前触れみたいな感じがして……。


「……まーいっか」


やっぱり考える事はエリアスかニーレイに任せる事にするのであった。


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