ヴァンピール・ダンス
半分くらいは既に出来ていた筈なのに、半月以上かかる遅筆マンがいるらしい(自虐)。
やっと書き上がりました・・・次の話はまだ3行くらいしか書いていないので・・・善処します。
『アイシクルスピアー』の撃ち合いなどという、単調なそれで決着が付く訳も無く・・・かと言ってこんな閉所で火属性の魔術は危ないからして、そう多用する事は出来ず・・・と、なると、闘いの形は自ずと決まって来る。
「・・・驚いたね・・・見えるんだ」
音も無く、ただその場が揺らいだ様にしか見えない程に素早く彼が振り下ろしたのは・・・剣ではあるが・・・普通の代物では無い。
「ふん・・・無駄口を叩いている暇があるなら、次の手を出すべきではないか!」
エリアスが握るはカルマ・・・刃渡80cm程のミドルソード程度の物。だがその刃は分厚く、しなりの一つも無い、見た目以上の重量と強度を持つ形態である。
「ふーん?お喋りは嫌いなのー?・・・楽しまないと・・・損じゃん?」
対し彼が振る剣・・・刃渡刃幅不明・・・というのも真面に見えないからである。恐らくはエリアスの握る剣と同等かそれ以上のリーチはある様だが、刀身は恐らく黒塗りの艶消しにするなど隠蔽され・・・松明の僅かな灯しか無いこの場では非常に見難い。
また独特な半身で後方に利き手を引く構え方により普段は刃を身体で隠し、振る速度も・・・精々振り始めの肘の動きで起動を予測する事でしか対処出来ない程に速い。
「お喋り自体が嫌いという訳では無いがな・・・どちらかと言えば、お前自体が不快だな」
右手に中剣、左手に・・・不可視な圧縮空気のブレード。風属性魔術『スライサー』の応用である、それを展開し、隙あらば刃をレズンの身体に潜り込ませようと試みつつ、第一に・・・と切り出す。
「何故、この場でこの様な無茶苦茶な行動をする?お前は決して馬鹿では無いと思っていたのだがな」
そんな不可視の刃も見えているかの如く、身を捻りながら避け・・・その捻りを使い斬り返す。
「確かに、さっきの話はやればせーこーしたんじゃないかな?・・・でもボクはね・・・安直な方が好きなんだよッ!!」
再び神速とも形容でき得る程の速度で、尚且つ連続して宙を裂く刃・・・重さもそれなりに、しっかり受け流さなければ押されてしまう程度には高威力だ。
「・・・いや」
エリアスは彼のそんな一言を否定する。
「・・・お前はそれ程短絡的な思考をする様な者では無い」
大体・・・速度が速いというのは、単に剣が振られる速度が速いという訳では無く、振り終わりから次の振り始めまでの間隔も・・・恐ろしく速い。
「・・・へぇ?そう言われるのは嬉しいけど」
これが意味するのは、とんでもなく思考速度が速いという事だ。戦い慣れているという事でもある。
「馬鹿か・・・小賢しい性格をしている、と言っているのだ」
この手の斬り合い殴り合いを・・・身も蓋も無く言えば喧嘩をした事が無い、駆け引きをした事の経験が無い、もしくは少ない者がやろうとする時の特徴がある。
ひたすら無防備に突っ込んで来る、もしくは・・・ビビって体の入っていない、逃げ腰な単発攻撃をひたすら繰り返すか、だ。
前述したものは相手を舐めている場合に多く、後述したものは相手が自分と同等かそれ以上に見える場合に多く見られる・・・がどちらにしろ褒められた事ではないというのは、相対すれば分かる。
何をしたら良いか考えられないからして、その様な極端な前屈みか後傾的なアクションを取ってしまう・・・まあ、それも仕方がない。
理詰めに高速で思考し、有効な動きを瞬時に身体へと反映させる事が出来る神経を持っている、もしくは、経験則でこういう時はどうすれば良い〜と反射的に動ける人間は少ないのだ・・・いや、寧ろ最初からそんなセンスがある者の方がおかしいだろう。
「チッ!」
はっきり言おう。斬り合いは向こうの方が上手らしい・・・パワーは流石に此方が上・・・だが、いくら力があれど、攻撃動作が出来なければ大して役立たない。
俺の能力では、彼の剣に追い付く事は出来ない・・・ならば・・・。
「・・・私からすると、正々堂々という言葉は、弱者の言い訳にしか聞こえないのでな」
左手の『スライサー』を変形・・・周囲から空気を収束し・・・放射。
「うぇっ!!?」
風属性中級通常魔術『ヴォルダナグ』・・・圧縮空気で指向性の爆風を起こし、対象を吹っ飛ばす単純な・・・あまり戦闘において実用的ではない術。
何が実用的では無いかというと、まず凄まじい爆発音がするので・・・使用者の耳までイカれる可能性がある事。
もう一つ、そんなド派手な音とは裏腹に、単に風で吹っ飛ばすだけ、という術なので、それほど威力も無いという悲しみも背負っているという事。
おまけに魔力消費量も、中級通常魔術のくせに下手な上級攻撃魔術よりも高い・・・これを使うくらいならば、大人しく『ウールワインド』でも使うべき、と学校では習う・・・習った。
では何故こんな術があるのか、という話だが、戦闘では実用的では無いと態言った理由もある。
低出力で使うと、日常生活において物を退かさず、家具の隙間でもなんでも手が届かない場所の埃を吹き飛ばすのに便利なのである。つまりはお掃除魔術だ。
低出力ならば音も小さく・・・消費魔力はそれでも高めではあるが、埃取り要らずの使用人御用達魔術。魔術が使えない獣人向けに、魔法陣が描かれたスクロールも日用品店に置いてある。
が、俺の場合魔力をケチる必要など無い。吸血鬼掃除の為に鱈腹魔力を注ぎ込み・・・レズンを向こうの壁まで吹き飛ばす程の威力を出しても大して問題は・・・お掃除魔術の名の通り、この空間の埃も一緒に巻き上げて視界が悪化した事以外は問題は無い・・・。
「流石にびっくりした、よッ!!」
高所の壁面まで吹き飛ばされた彼であったが、なんとそのまま壁を蹴り、軸線をずらしながら再接近して来る・・・そのまま突っ込んで来たのなら、『ヴォルダナグ』で吹き飛ばし続けてハメてやったものを。
「流石にハメられはしないか」
そんな独白を耳聡く聞き取り・・・が一瞬意味が分からなかったのか、彼は心なしかキョトンとした顔で・・・しかしすぐに顔を真っ赤に紅潮させながら斬り掛かって来る。
「・・・はめ・・・ハメ!?」
「・・・多分、お前の考えている意味とは違うと思うぞ・・・」
・・・見た目通り思春期な少年な所もあるのだろうか、と混乱していた脳が妙に冷えた感想を思い浮かべていた。
「・・・じゃー、もっと深い意味が・・・ッ!?」
「・・・死ねばいい」
エロガキかお前は。
しかも見た目も前世後世両方足した実年齢も見た目の年齢も下の人間、しかも見た目少女な俺に普通聞くか?と。
流石に地下では・・・と封印していた火属性魔術を躊躇無く行使・・・若干苛ついた内心が、自制心の紐を緩めてしまったらしい。
酸欠になったら、その時はその時・・・いや、待てよ?・・・通気口が有れば良いのではないだろうか?
それは極めて簡単かつ、悪魔的な破壊衝動を満たす、魅力的な考えに思えた・・・そうだ、俺の常日頃から抑圧されているそれらが、そうするべきだと囁いている。
「ブレイズ・・・いや・・・こっちの方が良いか?」
『ドラゴンブレス』・・・火炎放射の要領で前方に炎を吐き出す術。
だがそれでは火力も攻撃範囲も足りない。予想以上に素早い彼を捉えるには・・・もっと広範囲を焼ける術が必要である。
上級攻撃魔術『ドラゴンブレス』の更に上・・・最上級クラスの魔術というのは・・・実は体系化はされていない。
何故なら一般的で無いから、である。
最上級魔術という言葉はしっかりと定義されている物では無いが、基本的には"上級魔術よりも制御、出力が困難かつ、消費魔力量、発生効果が一般常識の範疇を大きく超える術"というニュアンスで使われる。
例えばニーレイ等闇妖精族が行使する闇属性転移魔術『転移』。
これは以前に述べた通り、脳の処理能力の問題や、必要魔力量の関係、必要とされる知識、インスピレーションの膨大さから、最上級魔術に分類されている。一般的に"使用困難"と広く知られた魔術の一つだ。
過去にある魔術では、300年程前、一度だけ歴史の表舞台に現れた、ヤールーンの魔王・・・彼か彼女かは分からないが、それが使ったとされる地を焼き尽くす圧倒的な攻撃魔術・・・それも最上級魔術とされているが、伝承としてしか、文章としてしか話が残っていないモノなので、その真相は定かでは無い。
まあ、ここ数百年の間、魔王は姿を現していないので・・・大体は誇張された話では無いだろうか?というのが一般論ではあるが。
話が逸れた・・・そう、あの無駄に素早い吸血鬼を仕留めるには、その位の火力と攻撃範囲を持つ魔術・・・最上級クラスの魔術が必要ではないか?と思うのだ。
そして・・・多分、俺は最上級クラスの魔術を行使できる下地、つまり身体的スペックは持っている筈。
そう単純な破壊力を考えて魔術を行使した事は無かった・・・『ウィスコ・アイスアロー』があったか?いや、アレの破壊力などたかが知れているだろう。
そうと決まれば実行だ。まず確保するべきは・・・この場で壊れては困るモノ、つまり、核弾頭。
もう一発、特大の『ヴォルダナグ』を食らわせ、台座の方に飛び出す。
「・・・抜け駆けはー・・・させないよッ!!」
撃ち出される『アイシクルスピアー』、更に台座周辺に転がっていた・・・少し戦闘の余波で埃まみれになった、吸血鬼の傀儡達が、クロスボウを構えた。
ここまで来れば、慈悲など要らんだろう。
「・・・邪魔だ・・・ッ!」
ミドルソード状態のカルマを非利き手側の肩まで引き、脇を締め・・・間合いに来ると、腰と肘先の動きを意識して、まず手前の男の冒険者の革鎧に包まれた胴を水平に一閃。
剣でもなんでもそうだが、武器を下手に体から離してはならない。
人間は自分の体の中心に近ければ近い程、効率的にパワーを発揮出来る様に作られているのだ。
まあ・・・この身体の出鱈目な出力ならば、適当に振っても問題は無いだろうが・・・この手の事で効率化を惜しんではならないだろう。技術を持っているに越した事は無い。
そうして正しく効率的なフォームで振られた剣は・・・少し刃が寝ていた所為か、少々の抵抗感があったものの、深くその骨肉を斬り裂き、遅れて・・・弾ける様に鮮血が宙に剣先の軌跡を描く。
二人目、彼女は金属製のプレートメイルを装備していた。これに斬撃は・・・まあ、通す事は可能だろうが、あまり効率的にでは無い。
此方に向いたボウガンを、先の斬撃の回転運動に載せた左脚で蹴り飛ばし、ここで地に付いている軸足をぐっと踏ん張り剣を返す。
左手で剣の柄を引っ張る様に、右手で剣を押し上げる様に・・・そこに屈曲させた膝の弾力と、腰の回転を載せての斬り上げ・・・このまま斬りはしない。
この斬撃は相手の顎に入る。その側面から鋒が入り、彼女の口の中心辺りで一度止め・・・柄頭を殴り付ける様に、刺突。
刃は根元、鍔がその肉に痣を付ける程激突するまで突き進んだ。が、そこで止まってはならない・・・隙は可能な限り省略すべき。
頭に剣が突き刺さった彼女の胸部を蹴り付け、剣を刃の方向に押し込む・・・ゴリゴリと硬い物が砕ける感触と共に、脳漿に濡れた刃が頭頂方面に抜け、フリーになる。
ここで側方から飛来する『アイシクルスピアー』と、正面から飛来するクロスボウのボルト・・・矢。
剣でボルトを弾く様な、曲芸じみた剣技は生憎持ち合わせて居ない。氷の大槍についても同様・・・しっかりと直撃コースだ・・・レズンは射撃のセンスも俺以上には持っているらしい。
ボルトについては大した運動エネルギーも持っていない様に見えるから・・・そのまま物理障壁で弾く。
『アイシクルスピアー』については、そのまま受けると、衝撃で吹き飛ばされる可能性がある。重大なタイムロスになるからして、物理障壁その他で弾くのは無し。
だとすれば・・・迎撃するのが最善だろう。
此方も『ウィスコ・アイスアロー』を発動・・・が、正しく、そう高速で飛んでくる同サイズの氷の大槍を精確に狙い当てる自信は無いので・・・数で勝負する。実弾タイプの近接防御火器システムと同じだ。
質量は違えど、速度の違いは大きい。運動エネルギーはその速度の二乗で跳ね上がってゆくからして・・・。
「嘘!?」
数発氷の矢が掠めた大槍は、またたくまに減速し、墜落した・・・どころか、逆に流れ弾の氷の矢を、彼が避けなければならない、という始末である・・・思ったよりも効果的な攻撃だったな。
残りの3人・・・いや、三匹の冒険者だったモノの対処を考える。
もっと頭の回転が速ければ、二手三手とスマートかつ無理の無い攻略法を次々と思い付くのだろうが・・・残念ながら・・・。
「・・・正面突破、か」
彼らが次のボルトを装填し終わる前に片付けよう。
思考能力は残っているのか・・・クロスボウを捨てて剣を抜く者が二人、クロスボウの弓の巻き取りを続けるのが一人・・・しっかりフロントとバックアップの組に別れて対処しようとしている。
だが・・・その動作はあまりに遅い上、そのフロントは俺を止めるにしては脆すぎる。
「ふん!」
床を蹴り、全身の筋肉を引き絞る様に、縮こまる様に体勢を低く、小さく・・・疾走は飛ぶ様に、斬る時は・・・地に根を張る様に、身体を安定させる。
身体全体で運動はするが、身体全体を打ち込む様な事はしない。
一撃必殺である必要は無いのだ、如何に素早く、隙無く、連続して打てるか・・・その点、レズンは強い。俺の遥か上の領域にある剣技を持ち合わせていた。
逆にスィラの場合、得物が大きいからして、どうしても動きは大振りになる。一撃一撃が重くなりがちだが・・・彼女は非常に繊細に重斧槍を扱う。
斧の部分、鉤の部分、槍の部分、柄の部分、刃の腹、柄頭・・・全ての部位を余す事無く活用する。
柄で剣戟を弾き、斧の峰で相手の武器を引っ掛け、鉤で金属鎧を叩き割り、穂先で柔肌を斬り裂く。
刃の腹で矢を弾き、斧で敵の脚を薙ぎ払い、柄頭で頭蓋を砕く・・・全ての動作が次の攻撃、防御、崩し・・・その長大な武器をシビアにコントロールする・・・その領域に到達するまでに、どれ程の研鑽が必要だろうか?
確かに大柄な武器の見栄えが派手なのは事実だ。が、そこには少し見た程度では見切れない・・・技術と力、思考と計算が含まれているのである・・・力任せの技などまず無い。
「はぁッ!!」
存分に全身の筋肉の弾性を活用した斬り上げ・・・受けようとした剣を歪ませ、その手から叩き飛ばし・・・腹部から進入した刃は、3人目の正中に一筋の亀裂を入れ・・・顎をかち割り、鼻の頂点に小さな切り傷を残して振り抜けた。
サイドステップで残骸を回避、次へ。
横移動の勢いを殺す必要も無い。ならば次は横方向の斬撃を放つべきだろう。
それを相手も警戒している。向かってくる此方の剣を迎撃せんと、横方向へ刃を振って来る・・・が、そう馬鹿正直に当ててはやらない。
刃の軌跡を変える。少し下方に捻り、また少し戻す・・・少し、相手の刃からすると斜め方向、つまり相手の刃は寝た状態でぶち当たる様に調節する。
これで何が起こるかと言うと・・・当たった瞬間、相手の刃が弾かれ、相手はこちらの剣を腹で、こちらは刃で腹を打つ、という状態が出来る。
腹で相手の剣を受けた得物の末路は・・・ほぼ確実に破損する。
折れるか曲がるか、はたまたは両方か・・・今回の相手の剣は嫌に粘っこかったらしく、くの字・・・いや、不等記号(<)かそれ以上に曲がってしまった。
その癖に折れず・・・切れもしない。刃の周りに纏わり付いてしまった・・・少し威力を流し過ぎたな。
だが、俺は魔術師である・・・そもそも剣は本来の得物では無い。
『アイスアロー』の矢を手先に生成・・・発射はせず、尾部を掌底で押し込む様に保持し、そのまま、腕ごと敵の腹部へ叩き込む。
剣とは、カルマとは違い、氷の矢の先端は然程鋭くも無い。
当然抵抗感も強く・・・最初は穂先は皮を破らず、凹ませるだけ・・・だが更に押し込めば・・・ぷつん、と弾力に富んだ茹で卵に楊枝を刺した様な振動・・・その後ぬるりとのめり込む・・・酷く官能的で・・・どこか性的興奮すら覚える程に生々しい、粘着質な感触。
手首から先が生暖かい、ぬめぬめと・・・粘着質なシリコンオイル、そう、粘着質な潤滑油と形容するに相応しい液体に包まれた気がした。
もう一発・・・至近距離からの『ウィスコ・アイスアロー』。狙いは頭部。
発射と同時に両腕を引き戻して相手の剣を振り飛ばし・・・その方向は、また態勢を整えようとするレズンの居る方向・・・一つ一つの行動にしっかり意味を載せてこそ、戦いだと思う・・・炸裂したかの如く頭部の構成素材が撒き散らされ、その下を掻い潜る様に、最後のターゲットへと接近する。
『ウィスコ・アイスアロー』・・・相手がクロスボウの照準器を覗き込んだ瞬間に短連射。
こちらの牽制射撃が飛んで来る事は分かっていたのだろう。瞬時に身を台座の陰に隠し、射線から逃れた・・・外れた音速で飛翔する氷の矢が、背後の壁と激突し、小さく鱗粉の様に砕け、煌めいた。
「・・・ニーレイの様には成れん、か」
彼女の様に、幻惑系の闇魔術を織り交ぜる事が出来れば、こうも攻撃を多重に組み合わせる必要も無いのだろうな、と一人小さく溜息を吐く。
『ネヴェディ・レノーカ』だったか?根本的に俺は闇魔術とやらが苦手であるからして・・・かなりの修練、いや、思考のブレイクスルーが必要になるかも知れない。
今後の課題だな。
「『ヴァリーニェ』ッ!!」
核弾頭の重さは、俺の体重の優に三倍近いものがある。普通に俺が横からかっ攫おうとした所で、重さに負けてその場で停止・・・と非常に格好悪い事になる上、そこで一つ動きに区切りが出来てしまう。
しかし、これならば・・・重さは然程問題に成らず、まず宙に浮かせるというプロセスを踏む事により、すっと滑らかに、最後の冒険者を始末する動きにコレをキャッチする動きを組み込む事が出来る様になる訳だ。
左手で核弾頭を抱え込み・・・少しこの身体には大き過ぎるが・・・右手のカルマに魔力を叩き込み変形・・・ジャキリ、と音を立て、蛇腹の様な鎖剣に。
振られたそれは冒険者の軽装鎧の表面に蛇の如く巻き付く・・・その瞬間、カルマはその身体に喰らい付く。
悲鳴を上げる暇も無い。一息で放たれた、その渦の中心への締め付けの力は・・・文字通り、その骨を砕き、肉を挽き、血潮をまるで万力で果実を搾るかの様に捻り出した。
残り滓となり、すっかり軽くなったゴミを放り投げ、改めてレズンと対峙・・・直ちに目的達成の為、魔力を収束させる。
構築するは中距離広範囲攻撃魔術、その骨子は炎、それを彩るは・・・星の力が放つ蒼が良い、理想的だ。
普段は・・・身体から滲み出た僅かな魔力で、俺は魔術を行使している。ほぼ自分から絞り出そう、とはしていない。
例外としては『ヴァリーニェ』だろうか・・・あの魔力消費量を補うには、それなりの意識の力が必要であるからだ。
それ以上に強く、体内の・・・腹の底から湧き上がる莫大な力の根源・・・魔力が渦巻く坩堝へと意識を集中・・・具体的に言うと下腹部辺りか?・・・そこからザラリとした媒質が混ざった物が流れる様な感触をイメージする。
直後・・・堰を切ったかの如く、体内、いや、体外まで溢れ出すエネルギーの流れ・・・魔力だ。
ケイト女史に魔力量の隠蔽、つまりはその放出量の抑制を常に意識する事を続けてより、既に数ヶ月・・・抑圧され切ったその魔力は、正しく歓喜に湧き上がると言うに相応しく躍り狂い、それは俺自身にまで・・・何かを超越してしまったかの様な全能感を与えて来る。
その快感はどこか麻薬めいて・・・引っ切り無しに身体のどこかがむず痒くなり、そしてそれが即座に解消されてゆく様な快感が体表を奔り回り、身体の奥底では情欲の炎にも似た支配欲が熱を放ち・・・焦らすかの如く、徐々にそれが解きほぐされる様な甘美で、それでも物足りなく、切なく癖になり、心の全てを濡れ溺れさせるかと思う程の快楽が、どす黒く官能で濁った激流の様に押し寄せて来て・・・だが、ここで意識を飛ばしてはならない。
目的を達成してこそ、制御し切ってこその力である・・・この快感に呑み込まれた時が最後、と、俺の本能が頭の片隅で警鐘を鳴らして来る・・・。
「何と名付けるが良いか・・・」
既に俺の周囲は、俺の揺らぐイメージに従って魔力が自然と燃え上がり・・・別の事を考えている所為か、好き勝手に、統一性の何も無く燃え、石床を焼き、この空間を青白く照らし出す・・・。
当然、以前の反省から服の表面にまで対魔、対物理障壁を展開・・・服が焼け落ちて素っ裸、なんて事にはならないようには気を遣っているが。
「・・・遠慮無いねー・・・ホント・・・ッ!」
飛来する『アイシクルスピアー』は・・・俺に到達する前に、白熱、いや、青熱する炎の熱で溶け切り・・・ジュヮ、と須らく蒸発した。
核弾頭を納めていた岩の台座の表面が白く輝き、それが・・・まるで崩れ落ちる溶けたバターの様に、重力に従い、ぬらりと溶け落ちる。
魔術には名前が必要だ・・・新たに生み出されたそれに名前が無ければ、それっきりの魔術、つまりは・・・魔術の使い捨てとなり、以降全く同じ物を再現する事は難しくなる。
名前と術を結び付ける事により、それは本当の意味で世に生まれ出でた、と呼べるだろう。
「・・・そうだな・・・」
目の前で、そこら中に散らばって燃えていた獄炎が、肌の上を這う蛭の如く蠢き、一つの青白く輝く・・・何もかもを自然と発火させ、物質を次々に融解・・・というよりも、電離させプラズマへと変えてしまう程の熱を放つ、太陽の様な、それこそ・・・。
「・・・『超新星』なんてどうだ?」
対魔、対物理障壁を展開し、熱から身体を守るレズンの頬が引き攣るのを最後に・・・光が膨張し、視界が閉ざされた。
「ふふふ・・・焼きヴァンパイアか・・・精々、消炭にならない様に努力するがいい」
焼き大根屋台のグリルの隅に落ちている燃え滓の様に・・・。
創り出した火球は、一方向にそのエネルギーを向けるものでは無い。全周・・・大凡三次元座標で表現される全方向へと、その内包された・・・俺がこの思考時間の間で、安全に精神状態を維持しつつ、放出出来得る魔力の全て、保有する全魔力量に於ける凡そ2割を捻じ込んだ。
・・・あまり短時間に大量の魔力を放出すると・・・その・・・気持ちが良過ぎて、意識を保って居られるか、かなり・・・いや、まず我を忘れて溺れてしまいそうな気がする。実際、今でもかなり・・・尾骶骨の方から、ゾゾゾッ、と、非常にマズイ感触と共に、相当量のぬるりと肌を滑らせる汗が全身から噴き出し・・・少し気を許せば、理性だとか、自制心だとか・・・色々と飛んでしまいそうで、これ以上は無理がある様な気がする・・・。
「放射!!」
満を持して内包されたエネルギーに点火・・・今か今かとのたうつ力の手綱を投げ出した。
直後、我が意に従い、解き放たれた獄炎は爆発的に、空間を蒼く染め上げ・・・。
・・・急激に加熱された空気は猛烈な勢いで膨張する。
温度にして・・・色温度から推測するに、1000℃台後半から2000℃を超えている・・・程の熱で加熱された空気が、この空間だけで止まる事が出来るわけもあらず。
「ッ!?・・・流石にやり過ぎたか・・・?」
炎の向こうから、ゴゴゴッ、と、重量物が擦れ合い、割れ・・・端的に言えば、崩れ落ちる音が、轟音の向こうから響き渡る。
・・・何が崩れたか、という事を態々口に出すのは・・・野暮だろう。
さて、生き埋めは流石に御免だ。悠長に何か策を講じる暇もない・・・とすれば。
「・・・もう一発、か」
何故その発想が出て来るのか、後から考えてみればよく分からないのだが、この時はコレが最善だと考えていた。
もう一度、『スヴェルコ・ノーヴァ』だ・・・時間が無いので、長々と時間を掛けて魔力を放出する訳にもいかないので・・・爆発させる様に、一気に魔力を放出する。
だが、そうすると・・・。
「・・・ぁ・・・ひぁっ・・・クソッ!!!」
・・・軽く登り詰めてしまうからして、自分の太腿の肉を引き千切らんばかりに抓り上げ、痛みで何とか誤魔化しを利かした。
・・・少し怖いのは、コレを多用するとその内に痛みまで快楽になってしまって・・・というパターン。身体が"痛い"="気持ち良い"と覚えてしまわない様、気を遣わなければならない。
まあ、それは冗談として・・・。
「『スヴェルコ・ノーヴァ』ッ!!!」
次は炸裂方向を上方へ限定し、収束完了と同時に撃発。
滴り落ちて来る溶けた岩を消し飛ばし、真っ白に燃える岩を消滅させ・・・。
赤熱する岩に縁取られた、漆黒の夜空が顔を覗かせた・・・その先。
「・・・予想外、予想外だよ・・・エリアス・スチャルトナ・・・く、ひ、くひひひひひひひひ!!!そう、誤算、嬉しい誤算だよ!!!これでボクも・・・我慢しなくても良さそーだ」
彼は赤い縦穴・・・その中央に浮いていた。いや、正確には飛んでいた。
背中より突き出した、宵闇よりも深い、暗黒色、鉤爪の付いた翼。
服は焼け落ち・・・酷く青白い、その肌は全て晒け出され、満月の恐ろしく明るい光を、まるで反射するかの如く煌めき。
その瞳はこれ以上に無い、という程に紅く、赤く、光の尾を宙に引き、頬の半ばまで裂けた真っ赤な唇の奥には・・・人ならざる者の象徴とも言える、長く、太い牙が覗く。
爪先は全てがそれぞれ剣の如く伸び・・・一度それが振るわれれば、肉という肉を瞬く間に薄切りにしてしまうだろう。
そして最も奇異な点。
「・・・女・・・?いや、違う・・・?」
男であれば、その身体に持ち合わせている筈の器官・・・それが存在していない。
況してや女の象徴たる器官も存在せず・・・そう、あるべき物が無いのだ・・・ただ、落ち窪んだ尿道らしき物が見られるだけで・・・。
「どっちでも無いよ、ボクは・・・そう産まれて来た・・・出来損ないなんだから」
出来損ない。そう己を卑下しつつも・・・彼、いや彼女?・・・は更に、ニタァ、と笑みを深くした。
「でも救われるべきは・・・」
バサァッ、と、己の身の丈を遥かに超える・・・蝙蝠の様な、羽根と毛で構成されるのでは無く、筋と翼膜で構成された、長大な翼を羽ばたかせた。
「・・・この身体には、力がある」
放たれる魔力・・・いや、これは違う。
単なる"覇気"、気だ。
「さあ・・・闘い狂おう、そして・・・犯し合おう!!!」
川が近かったのか、淵から流れ込んで来ていた水が・・・落下した、そのままの形で凍り付く。
空中で凍結した水滴が、まるで雪の様に舞い散り、周囲の赤熱していた岩は瞬く間に黒く冷え切り・・・俺の足元ですら、床に薄く霜が張り付く程・・・寒い。
「・・・まだ、終わりとはいえ夏なのだがな」
・・・面白い。
俺もこの身体の出力を試す良い機会だろう・・・母が炎魔術師ならば、子もまた然り。
負けじと放出した魔力を燃やして再び周囲の地を赤熱させ・・・凍り付いた滝が再び轟音を轟かせ始めた。
髪が、熱による上昇気流に乗せられ、ぶわりと舞い踊る・・・。
・・・核弾頭、どこに捨てて来ようか・・・。
目の前で盛り上がる場面とは裏腹に・・・腕の中でその存在を激しく自己主張するそれの始末の事を考えると、著しくテンションが下がる俺の内心があった。




