Waking Demon
お久しぶりです。
ちまちまとこの一ヶ月間執筆作業はしていたのですが、中々投稿する気にならず・・・取り敢えずは書いていた前半だけでも投稿しよう、と久々に良く寝て頭がスッキリしたので仕上げました。
少し短めになってしまいましたが、次話も半分程既に出来上がっていますので、また一ヶ月だとか掛かる様な事は無いと思います(希望的観測)
核兵器というのは、火薬や装薬などが燃焼という化学反応を経て熱量を得るのでは無い。
質量をエネルギーに変換する、端的に言えばそうして熱量を得る・・・かつてアインシュタインが唱えた、E=mc^2という式はあまりに有名だ。
質量の大きな金属インゴットを用いた核分裂反応が、その一部しか反応する事は出来ないとはいえ・・・それが生み出す破壊力が、一体どれ程の物か・・・これも恐らく知らない者はほぼ居ないだろう。
一度、化学爆薬が炸裂し、中性子発生器が作動すれば、内蔵されたプルトニウム239、ウラン235、ベリリウム、重水素、三重水素、重水素化リチウムその他諸々が、その秘められた暴虐を解き放つ・・・人類の歴史の中でも、有数の凶悪な兵器である。
このW380は戦術核弾頭というジャンルに分類される・・・簡単に言えば、比較的小さい核弾頭、つまりは、艦船や航空機から発射される巡航ミサイルや、投下型爆弾として、よく使われるタイプだ。
元々は射程で分類していた様だが、射程が短い、つまりは巨大な物は自分にまで被害が出る為作る意味が無い、イコール小型の物しか無い、という事で、いつしか意味がすり替わり、その大きさで識別する様になったらしい。
逆に、戦略核は陸上の基地や、移動式大型ランチャーなどから撃ち出される、大威力の大型弾頭を指す・・・多弾頭核ミサイルだとか、皇帝クラスの核爆弾だとか、その辺りの物だ。まずこのご時世でお目にかかることは無い。
そんな大型核兵器の威力は勿論、一般的感性の埒外にある、凄まじい物だ・・・が、小型の戦術核・・・精々重さが100kgにも満たないそれが持つ破壊力とて、決して馬鹿に出来る物では無い。
昔、誰かが言っていた。"第三次世界大戦で使われる兵器は分からないが、第四次は石斧と石剣で争われるだろう"、と。核はそんな力、つまりは・・・文明を完全に破壊する力がある、とその科学者は感じたのだろう。
ただの一撃で一都市を滅ぼし、それは創世記の伝説、ソドムと同じ路を辿る事となる・・・世界を終末へと誘う、破壊の光だ。
「もし、コレが作動すれば・・・ここがどれ位の地下かは分からんが、少なくとも西区は・・・次の瞬間に燃え盛る瓦礫に変わるくらいの被害は出るな」
見た目、70〜90kgクラスの弾頭である・・・その破壊力は押して測るべし・・・それは正しく、ミニ太陽の様な物。
「・・・古代の、へーき?」
そんな事を言われたところで、という様な風で、じろじろと首を伸ばして、人の業の結晶の様なそれを覗き込む。
「そうだな、古代の・・・人間が作った中でも最低の部類に入る兵器だな・・・」
実際、これ程汚らわしい兵器など存在しないだろう・・・ABC兵器の頭のA、撒き散らす破壊は随一、その毒性も然り。
この小さな星の上で使うには・・・些か強過ぎる代物。
「問題は・・・何故、コレを真人教の教皇が欲しているかだが・・・」
「そんなの・・・決まってるでしょー?」
疑問を嘲笑う様に、何を当たり前の事を?と問う様に、口の端を歪める。
「・・・使い途があるから、欲しがってるんでしょー?」
ナバル・ストゥーエ・カルカロフ、か・・・調べるべき事項がまた一つ出来たな。
「ところで、まだ聞いて居なかったのだが・・・ここは何処だ?この様な・・・言うならば神殿の様な施設など、私の知る限り思い当たらんのだが・・・」
先程まであった緊張感はほぼ霧散し、見ればレズンも肩の力を抜いたらしい・・・こんなになで肩なのか、肩幅が狭過ぎないか?
「・・・むしろ、キミは何処から入って来たの・・・こう見えても、急いだって言っても、結構長い距離走って来たんだけどー・・・」
両掌を肩まで挙げ、俗に言うアキレタポーズで半笑いの彼。
「ここは、デュースケルンの地下墓地の下さ・・・そこら中に《スケルトン》やら《ヴィーシェ》だらけでさー・・・」
・・・《ヴィーシェ》というのが何かは分からなかったが、まあ、魔物か何かなのだろう・・・少し、その声色に嫌悪が見られたので、恐らく嫌なヤツ・・・という事は読み取れた。
「進むことはそんなに難しくないんだけどー・・・ほら、脱落者を出さない様に、っていうのがねー?」
そうだ・・・彼は冒険者を連れていた・・・彼自身の戦闘能力は兎も角、普通の人間には・・・肉体的にも、精神的に厳しい場所だったのだろうか。
「勿論、アンデッド共だけじゃなくて・・・罠もあったからねー、ボクも・・・ほら」
そう言って見せて来たのは、袖の一部・・・確かに、一箇所が裂け・・・赤黒く血で汚れていた。
「・・・すぐ治ったけどね」
だが、その下の青白い皮膚には傷一つ見られない・・・再生能力、か。
「あ、コレは邪魔だねー・・・無粋、ポイっと」
そう言うと操って居た(?)、冒険者達は、まさしく操り糸が切れたかの様に・・・床に折り重なって倒れ込む。
「・・・オモチャではないぞ・・・人の身体は・・・」
人形劇に使うアレの方がまだマシな扱いを受けている・・・いや、アレは商売道具だからして、例えるならば幼児に与えた縫いぐるみ・・・いや、子供は破るから・・・上手い例えが見つからず、思考を一度切った。
「ボクからすれば、ご飯であってオモチャみたいなもん・・・あー、食べ物で遊んじゃいけないって話ー?」
いやそうじゃない・・・。
「・・・そもそも、生ある者を弄ぶ事が非道徳的と言っているのだ・・・食事は必要不可欠な事柄だからそれはさて置き、娯楽として生命を弄ぶ物では無い」
気付けば説教じみた門限が口を突いていて・・・案の定、彼がきょとん、と目を開いて驚いた様な顔をする。
「人間とて、蛋白・・・肉を食う為に生き物を殺して食う・・・どちらも、知能を持つ動物を殺し、その糧を得るという点において変わりは無いからな・・・だが、それを必要外苦しめ弄ぶ事はまずしない」
それは無駄で、自分の優越心を増長させるのみの愚かな行為だからだ・・・単に己の"品位"を劣化させる行為でしか無い。
品という物を保つのは非常に難しく、堕とすに非常に容易い物だ。
それはその人物の内面であり、外面であり・・・その人物という個体を構成する形だ。
それは美しい者も居れば、限りなく醜い者も居る・・・多種多様な環境で育った人格が混在する社会では、当たり前の事だろう。
「それを鑑みた上でそれを考えると、お前は自ら己の品位を貶める環境に身を置いているという事だ・・・まあ、私からすれば愚かとしか言えぬし、お前の行動は間違っていると断言出来る・・・あくまで、これは忠告だがな・・・」
思ったよりも、刺々しい言葉が転がり落ちる・・・恐らく憤然としているであろう、彼の顔を横目で見ると・・・次に目を見開く事となったのは俺だった。
以外や以外、儚く、どこか寂し気な笑みを浮かべて苦笑いをする彼の顔を認識してしまったからだ・・・。
「・・・そうやって、善意で何か言われたのは、本当に久しぶりな気がするよ・・・」
何か、過去の記憶を、遠い過去にあるそれを眺める様に・・・酷く虚脱的な眼をする。
「・・・うちにさー・・・昔、400歳くらいの乳母が居たんだ・・・とにかく優しくってさー・・・でも、時々すごくキビシイ事も言う・・・何だか、"正しい親"って感じの吸血鬼でねー・・・ボクが20歳くらいかな?それくらいになるまでお世話になったんだ・・・」
何かと思えば・・・昔話が始まった。もう60年以上前の話か・・・それを遠いと思うのは、定命の者もその点は変わらない様だ・・・。
「・・・逆に父さんと母さんは・・・ボクにあんまり興味は無かったみたいだけどー・・・ボクには彼女だけで十分、いーや・・・彼女じゃなきゃダメだったんだ・・・」
その声には深い慈愛・・・そう、先程までの酷薄な印象のそれとは正反対の感情が感じ取れる・・・そこで漸く、それまでの彼の言葉に込もった意思のあまりの薄っぺらさに驚く。
虚、そう言うに相応しい状態であった彼が、その言葉の端から感情を滲ませている・・・。
「・・・って、そーんな事話してもしょーがないっかー・・・」
自分でも、何か調子がおかしい事に気が付いた様子。はっと我に帰るかの如く目を見開き・・・自嘲する。
「・・・なんかさ、キミになら話してもいい、って気がしたんだよねー・・・なんでだろーね、なんで・・・」
「・・・貴様になど共感せんぞ、私は」
だがそれを、ふん、と俺は鼻で笑う。
「私はお前の心情やら歴史になど興味は無い。重要なのは・・・今お前の目の前に居る"私"という人格に不快感を与えているか否かという事が重要なのだ・・・つまり、相手にストレスを与える行動は慎め、という事だ」
何とも傲岸不遜な言葉だとは思うが、これは事実である。
顔を合わせて話す時、余程親しくなければその者の来歴など知らずとも良い。何故なら・・・それは言わずとも全て、その結果としての造形物が表情と仕草から滲み出ているからだ。
その時に、こちらに不快な印象を与えて来る相手、例えば・・・矢鱈と暗い、否定の言葉から話を切り返して来る、声が小さ過ぎる、口調が嫌味ったらしい、言葉遣いがあまりに汚い・・・など、それこそ、そんな相手の来歴など、地球の反対側の国の田舎に住んでいる婆さんの眉間の皺の本数くらいにどうでも良いと思う。
これはあくまで例えであって、別にその婆さんに恨みが有るわけでは無いが。
そう、所詮人間は相手の表面から、相手の性を推測する事しか出来ない生き物である。つまりは・・・コミュニケーション時の話す内容と態度に気を付けろ、という事。
いきなりどうでも良い事、はっきり言って敵対陣営の者の過去なんぞ語られても困るのである。
これが・・・仮に俺の興味を惹く様な内容ならば別だが。
「何の話であろうが、面白ければ聞いてやる・・・だがな、はっきり言ってそのコロコロと変わる言動は不愉快だな」
お前は俺を何だと思っているのか、黙って話を聞いたふりをする案山子では無いのだぞ、と。
「あ・・・うん・・・そうだよねー・・・迷惑だったね・・・確かに、ウザかった?」
ふむ、と自分を客観視する程度の能は持っているか、と一つ評価を上げる。
「・・・まあ、お前の昔話は機会があれば、その内酒の肴として聞いてやる・・・目下の問題は核弾頭だが・・・」
そう、話が逸れてしまっていたのだが・・・この危険極まりない代物をどう始末するか・・・という事。
海中投棄?海洋汚染など御免だ・・・地中?そんなに深い穴を掘る技術は持ち合わせて居ない。
太陽に突っ込む軌道で宇宙に投棄するのが、最も簡単で安全な手段なのだが、如何せんこんな物体を第二宇宙速度に乗せる技術も無ければ、軌道を計算するコンピュータも持ち合わせていない。
一番良いのは、ラクシアに引き渡してしまう事だろう。上手いこと処理してくれる筈。
「・・・でもさー、ボクもコレを持ち帰らないと・・・今後のアレコレに差し支えがあるんだよねー・・・」
チラチラ、と上目遣いにそんな事を言う・・・。
「やめろ気色悪い・・・反吐が出る」
いくら中性的な美形とはいえ、男がそんな顔をしていると考えると、流石に寒気がするわ、と言うと彼は・・・くひひっ、と矢鱈と下品な笑い声を漏らしていた。実に耳障りな・・・。
さて・・・気を取り直し・・・いや、取り敢えずは不快感を無視して簡単に状況を整理しよう。
まず、ここはデュースケルンの地下墓地の下、随分と立派な意匠が施された神殿らしき場所・・・何故かその祭壇の中には、核弾頭が仕込まれていた。
何故かその場で、この核弾頭を目標としていたらしいレズンと遭遇・・・彼はコレを持って帰りたい。
俺からすれば、その危険性を分かっている立場として、さっさと処理したい。ラクシアに引き渡したい所だ。
妥協点は簡単に見つかりそうだな。
「ならこうしようか・・・お前はそれを持ち帰る、私は今はそのまま帰る」
聞けば彼の仕事は、レグロ氏の所へとそれを持って帰るだけ・・・それ以下でもそれ以上でも無いという。
「・・・その後は・・・どうなろうが、お前の知ったことでは無いのだろう?」
「・・・まー、それはそーなんだけど・・・」
そう、その後で品物がどうなろうと関係ないというのなら・・・。
「安心しろ、どこに持って行ったのか分かるのなら、勝手に持って行くからな」
ふっ、と少し戯けながら、そんな自分でも阿呆だとは思う様な提案をすると、彼は半ば呆れた調子で、眉を顰める。
「・・・そんなことをどーどーと敵陣営の前で言うキミの感性にドン引きだよ・・・」
そういえばそうだ、と、ふと自分の言動を振り返って思う。やけに打ち解けてはいないか?と。
気が付かない内に絆されてしまっていた?彼の取り入り方が上手い?いや・・・彼自身は確かにフレンドリーな方かも知れないが、十分に俺は警戒していた筈・・・。
何か・・・されたか?
「・・・なーに見てるの?」
ニコっと・・・こんな辛気臭い場所には似合わない爽やかな笑み・・・というか、お前は本当に男か。
「・・・いや、なんでもない」
限界まで張り詰められていた、俺の中の警戒心は・・・また何時の間にか解けてしまっていた。
・・・これはマズイな。
「・・・ほら、既に決まった事だ・・・とっととソレを持って帰れ・・・私はもう少し、ここに居る・・・」
このまま去って貰えば、一先ずは考えを纏める時間を作る事が出来る・・・と考え、思考を始めた、その時であった。
「・・・ねぇー?」
・・・肩に、ひたり、とした冷たい感触と共に、耳元で囁かれた言葉・・・。
半ば反射的に、己の手がカルマの柄を握り潰さんばかりに引っ掴み、一息に鞘走らせながら、後方へと振り抜く。
「・・・おーっと」
手応えは・・・特に無い。
「・・・何のつもりだ?」
感知できぬ程の速度で飛び退いたらしい、彼の姿は、あくまで自然体。その行動の名残は、その後方を渦巻いて舞う埃のみ。
「別にー?ただ・・・そろそろボディタッチしてもいいかなーって」
・・・今、噛み付こうとしなかったか?
「・・・ならば、何故吐息が届く程に口を近付ける?」
首筋を撫でた、温く、湿った感触。掌でいくら拭えども・・・不快感が抜け切らない・・・。
「だってー・・・」
唇を尖らせ、拗ねる少女の様に・・・。
「・・・そんなに美味しそうな匂いを出しといてー・・・吸血鬼が我慢出来るわけないじゃん?」
直後、その表情が豹変した。
穏やかな・・・どちらかと言えばカワイイと言えた、微笑を湛える中性的な容貌は・・・。
「・・・それが、お前という存在か・・・」
赤く頬の上まで裂けた口が、唾液の糸を引きながら開かれ、獣牙にも思える犬歯を剥き出し・・・その紫水晶の様な瞳を縁取る眉を、酷く醜悪に歪める。
「・・・そーだよ?幻滅した?」
そんな一言を、俺は、ハッ、と鼻で笑う。
「幻滅も何も・・・お前は初めから・・・私の敵だ・・・ッ!!」
同時に放出された魔力がその形に収束し、俺の周囲に無数の氷の大槍を形作り・・・。
「・・・くひ、ひひひ・・・そーだよ・・・そー来なきゃねッッ!!!!!」
そう金切り声で、金属音の様な不快さを伴う様な笑い声と共に現れた、鏡合わせしたかの様な・・・『アイシクルスピアー』の群。
・・・予定外ではあるが・・・まあ、仕方がなかろう。
この場で・・・コイツは片付けるとしようか。
「・・・時間の無駄だ・・・掛かって来い、害虫」
空を切り裂く槍が・・・激突し、潰し合う破壊的な音波が、地下空間の埃を舞い上げた。
「・・・まだ、この穴がどこに通じているのか分からないのか?」
先程までは薄暗く、陰気で寂しげな雰囲気が漂っていた倉庫内。
「・・・仕方ないわ。予想以上に・・・深すぎる・・・私だって、こんな大掛かりな罠があるなんて、さっき初めて知ったもの」
今や煌々と明かりが灯され、ツィーア、そしてつい先程合流した、ミムル、スィラ、ニーレイが、叩き割られた地面の下にぽっかりと口を開ける穴の淵に立っていた。
「・・・うんにゃ、でも・・・コレってなんか罠って感じしなくない?」
スィラではなくミムルの肩・・・スィラはニーレイが苦手だからだ・・・の上に座った彼女が、ふと思いついた様に口を開く。
「・・・どういう事でしょうか?これだけ深い穴なら・・・確実に侵入者を排除出来ると思うのですが・・・」
大体、この穴の位置もおかしいのだ。
罠ならば部屋の中央や、この宝物庫の扉の目の前に設置する筈である・・・が、何故かこれは扉に向かって左後ろの壁際・・・普通ならば通らない様な場所に設置されていた。
「ううん・・・それだったら・・・もっと浅い穴で、下に槍でも立てておけばいいし、捕まえるにしても・・・こんなに深いんじゃ、死体の回収も出来ないし、それこそ下に檻でも作っておけばいいじゃん・・・少なくとも私だったら、そんな事のために、こんな大掛かりな物は作らせないよ」
この穴は先程エリアスが落下した後に開く事は無かった・・・実際、ツィーアは試しに適当な衛兵に何も言わずに、そこに立たせるという無慈悲な実験をした・・・が、痺れを切らしたスィラが斧槍で仕掛けを叩き壊した結果が、この惨状である。
「・・・つまりは?」
実際のところスィラも近い考えを持っていたのか、その続きを促した。
「・・・ツィーアちゃん、この下に・・・何か昔あった、だとか、そんな話、ない?」
その問いに答えたのは、額に手を当てて唸るツィーアでは無く、ミムルである。
「・・・この街で、唯一の地下施設が近くにあります」
一斉に三人が彼女へと振り向き、その視線が集まってしまった事に少々顔を赤くしながらも・・・オホン、と咳払いを一つして、説明を続ける。
「・・・30年程前に閉鎖された、地下墓地です。閉鎖された理由な・・・もう埋葬スペースが一杯になってしまった事なのですが・・・以前、前領主様が視察なさった時には、荒廃してはいたものの、使えない状態では無かったそうです」
「・・・別に閉鎖の理由がある、ってことかしら?」
ミムルはツィーアに頷いた。
「前領主様・・・ケルス様が入られた時には、最奥部には近付けなかったそうです・・・《スケルトン》と《ヴィーシェ》が溢れてきた様で・・・」
《スケルトン》とは、お馴染みの動く骨・・・大した脅威では無いが、この様な閉鎖空間で撃破すると、足元が骨で埋まり、非常に動き難くなってしまう・・・倒した後が面倒な相手になる。
「・・・地下墓地、か・・・」
《ヴィーシェ》は・・・アンデッド系の魔物の中でも、屈指の強さを誇る。
その特徴は・・・死体をベースに周囲にあるありとあらゆる物で武装した、という物。
ベースとなる死体は、大体の場合人の物で、それはミイラ状態であったり、白骨状態であったりと様々であるが・・・その環境・・・大抵の発生場所は墓地であるが・・・により、大きくその形を変える。
例えば、元の死体を他の死体の骨を組み合わせて補強し、骨を組み合わせて作った大槌や槍を振り回す奴。
例えば、身体の補強の上、更に埋葬品の金属鎧やそこらに転がる石、更に骨を組んで作った防具に身を固め、同じく埋葬品の剣などの武器や、放置された死体防腐処理用の刃物で出来た剣を振り回す奴だとか。
更には・・・元は人間の死体だったらしいのだが、あまりに色々な物と合体し過ぎて、既に原型を留めておらず、一体何になりたかったのか分からないが兎に角大きく、馬鹿みたいなパワーを持つ奴・・・など。
「・・・ここの《ヴィーシェ》は全身鎧に・・・剣や弓、他には古代の・・・銃で武装していたそうです」
そんな頭が痛くなりそうな話をしつつ、辿り着いた・・・閉鎖された地下墓地の入り口。
「・・・壊されているな」
扉を封印する、大型の回転錠。それは大きく歪んでおり・・・破断していた。
「ここは殆ど市民は寄り付きません・・・何せ・・・こんな場所ですから・・・」
辺りを見渡せば・・・建ち並ぶ不気味な墓碑と石像、地下であるからして空気も淀んでおり、湿気っている上にカビ臭い・・・確かに、入りたいと思う場所では無い。
まあ、そもそも入り口は鉄格子が掛けられており、物理的に侵入が困難なのだが・・・そちらも鍵が外されていた。
「・・・何にせよ・・・ここには何かある、って事だよね・・・行く?スィラ?」
ニーレイが宙に浮きながら、その小さな首を巡らせる。
「・・・行く価値はあるだろうが・・・変にヤマを張るのは危険だとも思うがな」
もしかすれば、他にも地下空間があるかも知れない・・・まだ判明していないだけで、もしここへ潜っている間に、そんな物が発見されれば・・・そちらへの対応が難しくなる。
「でも・・・そう悠長に選んでる時間も無いわよ?」
ツィーアが首から提げている懐中時計を、指から小さな魔術の炎を発して照らし見る・・・夕暮れまであと二時間あるかどうかというくらいだ。
「・・・他の可能性については、衛兵を動かしています。探索も・・・スィラさんが行かなければならない理由も、特にはありませんし・・・強いて言えばそれも、最も危険と思われるここになりそうですし」
ふん、と腕組み。
「ならば・・・行くしか無いか・・・お前も来るのか?ニーレイ?」
特に感情を露わにせず・・・しっかり公私の区別はついている様だ・・・傍らに飛ぶニーレイに語りかけるスィラ。
「うん?空振りになった時にさっさと脱出出来た方が効率的じゃない?」
「・・・それもそうか」
一瞬の瞑目・・・よし、と気合を入れ直した。
「行くぞ」
「足手まといにはなら無い様にするよ」
そして・・・扉を潜った。




