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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第一章
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紅く揺らめく修羅の道

かなり間が空いてしまいまして、申し分けありません。


説明くさく、長いです。ご了承願います。

歩くこと数分、目的地である学校と思われる建物前に到着した。

広大な敷地を囲う、2メートル半程の高さの柵と、その内側に大きな洋館、恐らくは校舎か。柵は鉄格子状になっており、休み時間なのか、広大な芝生の上で談笑する生徒と思われる子供達が、ちらほら見られる。

出入り口である主門には警備の者と思われる、腰に剣を下げた大人が立っており、その横には警備の者の詰所のような建物も見える。こんな街中にある学校ではあるが、そんなにこの街は物騒なのだろうか。いや、先ほども変な者が湧いていたな。

街中だからと言って治安がいいとは限らないということを、改めて頭の片隅に置いておいた方がいいか。

さて、俺は別にこの警備員の方々にお世話になりに来た訳ではないので、さっさと入って寮に入らせてもらおうか。


「其処の子止まりなさい」


っと、やはり声掛けないでそのまま入ろうとするのはマズかったか。


「此処へ入学する予定の者ですが」


端的に返す。

すると俺に声を掛けた警備員は、詰所の方に声を掛けた。

詰所からは、何やら帳簿のような冊子を持った警備員が出てきた。


「お嬢ちゃん、名前は何と言うんだい?」


お、お嬢ちゃんと来たか・・・いや、確かに今の外見はお嬢ちゃんで、事実お嬢ちゃんなのだが・・・自分でも何を考えているのか分からなくなった。兎にも角にも新鮮な呼び方である。


「エリアス・スチャルトナと申します」


内心の地味な動揺は、外面には出さない。つもりだったのだが、少し口の端が引きつった。深くフードを被っているので、上から見下ろす形の警備員らには見えなかった筈だが。


「エリアス・スチャルトナだな。お嬢ちゃんはだけは先ず学校長に会う事になっているよ」


俺だけとな。はて、何の用だろうか。しかし学校長室は何処に・・・


「学校長は学校長室に居る筈だ。学校長室は・・・」


と聞くまでも無く学校長室の位置を教えてくれた。まあ初めて此処に来る筈の入学者に道も教えぬまま放り出すとは思えないが。

と、学校長に会わなければならなかいのだった。何かやらかしたと言えば少し心当たりが無いわけではないのだがはたして。

校長室の場所はすぐ分かった。というか校長室と書いてある。木細工の大きな扉、高そう。

扉をノックする。


「エリアス・スチャルトナです。出頭いたしました」


と声を掛け、扉を開ける。

そこにあったのは校長室というより、イメージ的には大企業の社長室みたいな広い部屋。奥のデスクに座る人影、恐らく女性が一人。


「・・・話には聞いていましたが、随分とませた話し方をしますね」


慇懃丁寧な口調だ。そして良く通る明瞭な声。


「私が本校の学校長を務めている、ケイト・ヴァシリーという者です。貴方の母親から貴方の事については、お話を伺っております」


人影がデスクから立ち上がり、此方にゆったりと歩み寄って来る。

軽くウェーブのかかった燃えるような真紅の髪と、それとは対照的な群青色の眼。前世ではお目にかかったことがない容姿である。


「ああ、ここでは顔を晒しても構いませんよ。此処には私と貴方以外の目はありませんから」


おお、そういばフードを被ったままであった。これは流石に失礼にあたるだろう。


「失礼します」


そう断ってフードを取り去ると、校長、ケイトさんの眉がピクリと動いた気がした。いや、動いた。


「・・・成る程。面倒とはこの事ですか」


間近まで歩み寄ったケイトさんは、俺の姿を眺めるとそう言って、指で形の良い顎を撫でながら、ふと目を閉じた。何事か思案しているのだろうか。


「・・・失礼。銀髪赤眼の子を任せたいと言われた時は、何の冗談かと思ったものですから」


というか母からも矢鱈と心配されたが、この容姿はそんなに宜しくないものなのだろうか。こんな美少女なのに?


「無知を承知でお聞きしますが、この容姿はそんなに問題が有るものなのですか」


自らの容姿に問題があるともなれば、それは死活問題だろう。無知は罪である。何処かの偉い人も言っていた。


「・・・まず貴女はプラフィットという物を知っていますか?」


プラフィット・・・英単語の様な感じの発音。いや少し違うか。


「いえ、聞いたことがありません」


正直に言う。時と場所を弁えて正直であれば、大抵不興を買うことは無い。が、その回答は不正解だったらしい。ケイトさんは見るからに顔を顰めた。


「プラフィットというのは、とある本のことです。王都に存在する王立図書館の最奥に所蔵されており、僅かに限られた人々しか閲覧を許されない本」


本か。しかし何故此処で本が出てくるのか。


「プラフィットはこの世に限りある、神器の一つです。その神器の中でも、特に謎に包まれた存在と言われています」


また知らない用語が出てきた。神器って何ぞや。というか母からは、魔術に関しては馬鹿みたいに叩き込まれたが、何故一般常識を教えなかったのだろうか。外に出すなら先ず、一般常識を教えて欲しかった。お陰様で貨幣価値も分かりません。買い物すら出来ないじゃないか。


「質問宜しいでしょうか」


ケイトさんが、どうぞと許した。


「神器とはなんですか」


ケイトさんの顔が引きつった。はい、罵倒するなら何も教えなかった我が母が謹んで承りますので。

流石にケイトさんは教育者だ。すぐ調子を戻し、軽く咳払いをして


「神器というのは・・・何と言いましょうか、一般的には神がこの世に置いて行った物と言われています。

現代の私達が如何に知恵を絞ろうとも、それがどのような構造で、何を基にして、どのような術式で稼働しているかどうかも解明出来ず、模倣することすら困難な代物の事を指します」


私は神など信じてはいませんが、と付け足して一息。


「現在この世には大小合わせて8つの神器が存在していると言われています。それこそ、短剣一本から、一つの都市そのものが神器とされている規模のものまであります」


此処までは常識ですが、と流し目に此方を見た。いや、知らなかった。重要なのは、無知を知ることだ。そして、今からでも知ることだ。


「私達が現在暮らしているアリエテ王国は、現在この世に八つ存在する神器の内、短剣の神器レンジャー、杯の神器リストレイン、そして先程述べた、本の神器プラフィット、この三つを保有しているとされています」


八つあるのか。というかこの国が保有している神器は、小物しか無いのか。

・・・ふと気づいた。そういえば他の国の事を知らない。この国が、どこにあって、どの国に面しているとか、世界には何ヶ国の国があるとか。

まあ、知らずとも暫くは困りはしないのだが。


「残りは周辺国が保有しているとされています。北の海を渡った先の大陸を領土とする帝国が四つを、西の海を渡った先の島国・・・現在我が国と戦争状態にある国、ヤールーンが残りの一つを保有していると言われています」


と思っていた矢先、国の事がチラリと。三国しか無いのか? 貴重らしい神器を保有している大国と見るに間違いは無いだろうが。


「・・・まあ神器の数さえ知っていれば、一般常識的には問題はありませんよ」


ケイト女史は締めくくる。

しても神器とな。要はオーパーツのことと見て違いないか。


「・・・話を戻します。その本の神器プラフィットには『歴史』が記されています。誰が記すわけでもなく、一人でにこの世界の歴史が記されて行きます。プラフィットが作られた当時から、千年近くもの間、この世の歴史を記し続けているとされています」


歴史書なのか。しかも勝手に出来て行くとかいう便利そうな。歴史家が失業するな。いや、もう既にしているか。それ欲しい。


「プラフィットには歴史が記されているだけでなく、大まかですが、未来の事も、先のページに記されているそうです」


何それスゴイ。それを国が持ってるのか。この国は案外有数の強国なのかもしれない。


「尤も、本当に大まかに、抽象的にではありますが」


解釈に依って頻繁に意味が変わるぐらいに、と。

それ作った奴は絶対に性格悪いと思うな。半端な予測と先入観は途轍もない間違いを誘発するからな。


「そのプラフィットにですね、正に貴女その物の様な容姿の人間のことが綴られているとの話です」


俺の出現は予見されていたということか。


「その何が良くないのですか」


結論を促す。


「プラフィットには、その者がこの世に修羅の時代を齎すと書かれているそうですよ」


修羅と来たか。つまりは俺がこの世に争いを起こすと。俺は平和にこの新たな天寿を全うしたいと思っているのだが、果たしてそれは。


「私はそのような事など考えた事も無いのですが」


少なくとも俺からは何もするつもりは無い。何故わざわざ自分から苦労の道を選ぶ必要があるのか。


「まあ、今までもプラフィットに書かれた未来の誤読はありましたし、私としても貴女の様な子が戦乱の原因になるなど、それこそ外部的な作用が無ければあり得ないの思いますが」


余談が過ぎました、とケイト女史は会話を打ち切る。


「兎に角、先ずこの学校に入学するに当たって、幾つかやっておかねばならないことがあります」


二つ程あるとのこと。


「最初に、貴女には簡単な試験を受けて貰います。貴女の家での勉強の中身は聞いておりますので、筆記は省きますが・・・まあ貴女の母親が嘘をついて居なければ問題無いかと思います」


入試か。何年ぶりに聞く言葉だろうか。

・・・ちょっと待て、なんでうちの母親はそんな大切な事を言わなかったのか。入試って事前に勉強が必要なモノじゃなかったかと。

いや、筆記が免除なのか。それは助かる。二、三年前に一度しかやっていない事など、復習もせずに思い出せる訳がないだろう。


「貴女には実技試験のみを受けて貰います。この試験は今後のクラス分けと、待遇、授業の時間割の参考になりますので、真面目に受けてください。この後、決闘アリーナにて魔術制御試験、体力測定を行います」


この後って、実のところ慣れない馬車移動と先程のゴタゴタで地味に疲れが出て来ているのだが。勿論、それは表には出さない。


「其れから・・・その髪をなんとかします」


この銀ギラの髪をか。染めるのだろうか。


「ちょっとした細工をします。此方に来てもらえますか」


言われた通り、ケイト女史の側まで歩み寄る。

すると前髪を持ち上げられ、額の辺りに小さな髪留めを付けられた。金色の小さなピンタイプの物だ。


「この髪留めを付けている限り大丈夫な筈です。決して人前では外さないでください」


それに高いので失くさないでくださいね、と付け加える。

これで終わりなのか。あまり変わった感じはしなかったが。

怪訝そうな雰囲気が漏れたのか、ケイト女史は後ろのデスクに立ててある鏡を向けてきた。


「まあ、前程ではありませんが、お似合いだと思いますよ」


其処に写っていたのは、藍色の髪を金色の髪留めで纏めた、線の細い女の子だった。いや、俺なのだが。目の色は変わっていないし、顔の線もそのままであった。

少し退廃的な感じは拭えないが、それでもかなり可愛い美少女。自分じゃ無ければ良かったのに。しかしながら、今着ている地味な事極まりない服には、先程よりも似合っていた。まああくまで少しマシというレベルでだが。

まあ兎に角、容姿の問題は解決と。

いや、俺は何もしていないけど。ケイトさん様々である。


「では、アリーナに移動しましょうか」


そう言うと、彼女は音もなく歩き出した。付いて行けば良いのだろうか。というか、まさか校長自ら試験官やるんじゃないだろうな。

そんな疑念を他所に、俺はケイト女史の後を追った。









最初、其れ迄一切連絡も寄越さなかった旧友、シレイラから突然手紙が届いた時は何事かと思った。シレイラとは、もう彼此10年近く会っていない。会ったのは・・・確か突然彼女が軍を退役した時以来か。私もその後軍を辞め、魔術師を養成する学校の教師なんて事をしている。うちの学校は数少ない魔術学校の一つで、その校長ともなれば其れなりに名は知られるようになっている故か、彼女も私が教職に就ている事を知ったようだった。彼女と私は近衛の中では、常にライバル視し合い、私が追い掛け、彼女が副団長の座を守る、そんな関係であったためか、一度口を開けば其処から放たれるのは、皮肉か侮蔑、良くて挑発の言葉だった。其れこそ、まともな話もしたことが無かったような私に彼女は珍しくも、お願いをして来たのだ。


ーうちの娘を学校に入れて欲しいー


結婚していて、子まで居るという事にも驚いたが、其れよりも一体全体どんな心境の変化が有ったのかが気になる。が、詳細を見て更に眉を顰めた。


ー銀髪赤眼の娘であるー


と。一瞬此方をおちょくっているのかと思ったので、なんの冗談かと返事を返してやった。

するとどうやら説明するのも面倒になったらしく、子供を入学させたいのは本気なので、どうか面倒を見て欲しい、と返ってきた。

後は、今迄に何を勉強させたかと、極めて魔力量が多く、また面倒な性質も持っているということが返事には綴られていた。どうやらかなり面倒な娘らしい。疑うなら見てみれば良いとのことなので、まあ良いか、と了承した。


その結果、此処にやってきたのが今私の後ろを歩いている娘である。


校長室で応対した時に見た銀髪は印象的だった。其れに鮮血を思わせる真紅の眼。全体的に骨格は細く華奢で、握れば簡単に折れてしまいそうだ。どうやら自分がどんな存在か聞かされていなかったようなので、軽く教師として解説した。まあ、親としてはそんな何方かというと重い話は、可愛い娘にはしたくなかったのだろう。まあ、それは良いのだ。


圧倒的な魔力量。


かなり魔力量が高いとは聞かされていたが、まさか自分でも計り知れない程の魔力を持っているとは、誰が想像出来ただろう。

しかし、幸いにも彼女の態度は丁寧で、極めて落ち着いている。それこそ歳不相応に。このくらいの年頃の娘と言えば、好奇心の塊のようなものであると思うのだが。それに、最初に軽く皮肉を言ってみたのだが、意味が分からず反応しなかったのではなく、意味を分かった上で流したようだった。かなり精神的には成熟しているらしい。

どうやら面倒事とは一つ二つでは無いらしい。容姿を弄るのは比較的簡単だ。取り敢えずは髪の色を変える魔道具を与えておけば問題は無いだろう。頭も悪くないようなので、突然外したりなど、滅多な事はしない筈だ。



しかし、教師としての私は気づいてしまった。


今迄近衛時代、教師時代を通して様々な人間を観察してきたから気づいてのかもしれない。


その瞳を覗き込んだ時、一瞬だが、思わず自失してしまった。


見る者を飲み込む深淵の色と、その下に抑圧された激情が。



この娘はまるで分厚い仮面を被っているように、その本質を覗かせない。この時点で私はこの娘を学校に入れると決めていた。


こんな怪物を野に放つ訳にはいかないのだから。





制服のデザインをどうするか迷って迷ってどうしよう状態です。

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