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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第二章
56/94

メタル・シビライズ

やっぱりあまり一話一話長くせず、適当に切った方が書きやすい上に読みやすい、という事に気付いてしまった(今更)


次から一話あたりの文字数、ぐっと減るかもしれません。





冒険者ギルドに入ってゆく子供を見た。


藍色の髪と真っ赤な眼、雪も霞む様な白い肌。


格好は庶民とは明らかに一線を画しており、間違い無く上流階級の者だ。


その少女はギルドの受付嬢と何事か会話をした後、依頼掲示板を物色、すぐに建物を出た。


・・・カモである。


非力な上流階級の、しかも上玉の少女が一人で出歩くなど、自分達の様な人攫いを生業としている者からすれば、鴨が葱を背負って店先に突っ立っている様なものだ。


自然に壁から離れ、対面の壁に待機していた相棒とアイコンタクト。同時に動き出し、後をつける。


向こうは気付いてはいないのか、非常にゆっくりとした歩みで街中を行く。子供だからか、速度も極めて遅い。


一定距離を保ちつつ、仕事をやりやすい場所に入るのを待つ。


別に一日中追いかけ回しても良い。あれだけの上玉ならそれでもお釣りが来る。


暫くすると・・・機会が来た。


何故か裏路地に向かったのだ。突如主道から外れ、薄暗い方へ・・・。


突如駆け出した。


勘付かれたのだ!間違い無い。


逃げられたらマズイ。相手は少なくとも上流階級かそれ以上の人間、護衛を呼ばれたりでもすれば、こちらが逆撃されかねない。


ここでの選択肢は二つに一つ、諦めて逃げるか、早急に追い掛けてとっとと捕まえるか。


幸いここは狭く入り組んだ裏路地。遅い子供の足を考慮すれば・・・後者に軍配が上がった。


急ぎ走り、後を追う。


右へ左へ・・・先の角に飛び込む細い、黒いストッキングに包まれた脚が見えた。徐々に距離は縮まっている。


あと少し、そう確信し角を曲がった瞬間・・・。


透明な何かに激突した。


瞼の奥で閃く火花に眩む眼を何とか開いて見る。


丁度頭の高さに、狭い壁の間に張り渡された(・・・・・・)それ。


「氷・・・?」


後からついて来ていた相棒がそれに触り、その冷たさに手を引っ込める。


鼻からぬるりとした熱い液体・・・鼻血が流れ出たのを感じ、懐から布切れを取り出して拭い取ろう、そう手を動かした時であった。


「ぎゃッ!!?」


ゴッ、と鈍い音。振り返ると頭を押さえ、呻きながら膝を突く相棒。


目の前に迫るのは、薄く赤い雫が塗られた氷の塊。


再び瞬いた衝撃に、すっと意識が遠退くのを感じた。


薄れ行く視界に映る、サイズの小さな革靴。それがゆらりと持ち上がり・・・目の前が真っ暗になった。










「・・・死んでないよな?」


まだ意識があった方の男の顔面に靴底を叩きつけてやった後、両方の手首で脈を取る。


「・・・『アイシクルスピアー』って殴れるんだね」


ふん、と肩に担ぐは逆に持った氷の大槍。少し血の付いたそれを地面に放り出し、蹴り砕いた。


「こんな真っ昼間の街中で殺陣沙汰など起こさんよ。ツィーアに迷惑が掛かるし、始末も面倒だ」


尤も・・・。


「・・・運河には捨てるんだよね・・・」


そこから生き残れるかは別だが。


転がっている二人の襟首を掴み、ズルズルと路地の石畳の上を引き摺って行く。


「・・・ここに捨てるの・・・?」


ええ・・・とドン引きなニーレイ。まあ・・・裏道の運河だからか、少し流れの速い溝川にしか見えないが・・。


「知らん」


ぽいっとな。


ぼちゃーん、と水柱を立てて落下した物には目もくれず素早く、その場を離れる事にする。


「さて・・・そろそろ昼飯を摂るべき時間だな」


昨晩は重めの肉、今朝も少し重めな野菜スープとなれば・・・昼は軽い物でも・・・。


「なんでもいいけど、ちょっと分けてね」


結局、何処か飯屋に入るという事は無く、軽食を細かく買い歩く事にした。


ミンスフは少し好かなかったので、別の物を中心に。


少し印象深かったのは、焼き大根だ。


塩漬けにし、水分が飛んだ大根を軽く焦げ目が付くまで焼く。スナック感覚で食べる事が出来、あまり食べ飽きしない。


個人的には味噌タレや醤油系のタレを付けると更に美味しくなりそうだと思う。このままの素朴な感じも良いが、もっと塩っぽいと良いジャンクフードになりそうだ。


それにしても、と。


こうして野菜を菓子代わりに食べるというのは、前世では考えられなかった事だな、と今更ながら考え至る。


おやつというのは食間を埋める副食であって、別に嗜好品を食べる必要は無い。本来は食事では得られなかった栄養を補給する物である。


例えば果物類などは、その役に相応しい。ビタミン類や食物繊維などは通常の食事では摂り難いのである。


だがここ、デュースケルンでは新鮮な果実類は少ない。野菜は隣のボレーフェルトから大量に運び込まれているものの、あそこはあまり果物を生産している場所ではない。


果物が流れ込むのは主に海路である。葡萄やオレンジなどが主で、時折高価ながらも、ハノヴィアから林檎が送られて来る事もある。


生で食べるには少し乾き気味で、主に果実水に加工され賞味される。蜂蜜と合わせた物は、上流階級の子供達に大人気である。


俺からすると少し甘過ぎるが。


「大抵の子供は一度でも味わっちゃったら、もう病みつきになっちゃうもんなんだけどね」


エリアスは渋いなぁ、とほざくニーレイをど突きつつ、中央市場とやらに脚を運ぶ。


中央市場はレーヴェ川沿岸部、港のすぐ手前にある。


非常に広大な市場で、第一から第四までの区画に分かれている。


主たる品は海外からの輸入物だが、ボレーフェルトやその他国内から集まった商品も、一度はこの市場に集められる。


そうした物資集積地という側面が強い場所だが、勿論、それの販売というのも重要な彼らの、本来の業務だ。


向かうのは第二市場。ここから徒歩二十分くらいの位置にある。


大人の足でそれくらいなのだというから、俺が普通に歩けば、それこそ三十、四十分は掛かってしまう。


「ッて、エリアス!?そんな爆走したらぁ!ッ?あばっ!あうっ!?」


正直に言おう。食事に時間がかかり過ぎた。


二刻はあったはずの時間が、もうニ十分も無い。ダラダラと飲み食いが過ぎた。


「喋るなニーレイ、舌噛むぞ」


路地裏に再び入り、家屋の屋根の上まで一息に跳躍。そのまま屋根から屋根へと走り飛び移り、猛速で目的地付近へと移動する事にした。緊急事態だから仕方が無い。


一足跳ぶ毎に加速度と、ふわりとした浮遊感を味わう。何度体験しても、この感覚はどうにも慣れない。いや、生身で飛ぶことに慣れた人間など居る訳が無いだろうが。


見られない様、音を極力立てず、出来得る限り疾く・・・。


唯一の被害者は、今も襟に掴まってぶんぶんと振り回されているニーレイだ。


飛べば一キロやそのくらいの距離など、ほんの数十秒やそこらで着く。


適当に人気の無さそうな倉庫の隙間を探し・・・飛び降りた。


市から少し離れた倉庫街だ。人気は無く、離れた向こうから喧騒が遠めに聞こえてくる。


「・・・ぉぇ・・・酔った・・・」


頼むから吐くなよ。少なくとも俺の服の中では。


「さて・・・ん?」


背後に気配。振り向いてみれば・・・。


「・・・気の所為か?」


誰かに見られていた気がする。だが、人影などあるはずも無く。


少し深入りして追い回してみたくもなったが・・・時間が押している故、見逃す事にした。


どうにも釈然としないが。










「・・・すごい子」


この時代、大方の人が聞けば首を傾げ、恐らくは不気味に思うだろう、その声色。


音が重なっているのだ。僅かに異なる音で、全く同じ言葉を同時に話しているが如く。


エリアスが聞けば言うだろう。"質の悪い合成音声"だな、と。


それもその筈、突如、その空間を塗りつぶす様に虚空に現れた(・・・・・・)人影。その藤色の前髪の隙間から覗く瞳は人間、いや、既に生物の物ですら無かった。


灰色をした、瞳孔にあたる部分が頻繁に広狭を繰り返し、まるで爬虫類の如く細かく可動する。いや、それ以上にか。


肌は確かに生き物の様。だが、身動ぎする度に響く、微かなモーター音。それがその者の正体の全てを物語っていた。


「外見は人間に極めて近い。しかし、平均身体能力のデータと大きな齟齬が見られる」


ふぅ、とそこで初めて突如溜息をつくなどという人間的なアクションを見せる。


「・・・って、私が言っても虚しいっていうか・・・人生とはなんと数奇な事か、って・・・」


ふと、十年も昔から見た目上、一切の変化が無い掌に視線を落とす。


ただ一つ変わった事は・・・何も感じなくなった事だ。


痛みも、暖かさも、冷たさも。


温度すら無い。浸炭ニッケルクロム鋼というらしい、ひたすらに頑丈な鋼で出来た外骨格の上にただ張られたハリボテ。


今日、この身体を手に入れてから初めて人間の世界に戻って来た。


身体が予想以上に重たくて、ヒールのついたブーツが履けなくなった。というか、底が広い革靴でもぬかるんだ場所は歩けない。鋼で出来た身体は確かに頑丈だけれど、こういう不便もあるのかなぁ、と呟きつつ、河川敷を歩く。


「・・・最近の魔術師がすごいのか、そもそもあの子が異常なのか・・・むぅ・・・」


昔ならここで頬が膨らんでいただろう、その顔は僅かに口の端が動いたのみ。表情を作る機能が備わっていないからだ、と本人は分かっている。


「直接聞いてみたいんですけど、声も変だし・・・うぅ」


かつて、魔術師でもあった自分から見ても、町の屋根屋根を凄まじい速度で駆け抜けるあの少女は異様だった。


肉体強化術が優れているとかでは無い。どう見ても、殆ど魔力に頼らず筋力と運動機能のみで身体を動かしていた。魔術を使って身体を強化する物特有の、結果に対する動作の小ささが見られなかった為である。


数キロ離れた地点に居る人間の眉毛の数すら数えられるこの眼、いやカメラは、そんな以前なら全く気がつかなかった事も、しっかりと捉えていた。


「・・・寄り道も大概にしないとなぁ・・・」


分かってはいるんですけど・・・、と。


「気になるものは気になっちゃいますよね!」


よしっ!と微かなモーター音と共に握り締められる拳。仕草は可愛らしいと言えるのに、顔がやはり変化せず、誰がどう見ても違和感しか無かった。


「他の人と接する事は重要ですよね!もしかしたら、手掛かりが得られるかもしれませんし・・・」


ふんふーん、と鼻歌を歌おうとして・・・変な音しか出ず幻滅する。


「・・・って!見失っちゃった!」


ちょこまかと無表情で動く、十六歳程度の少女の形をした()


「待って・・・や、まずはこっそり尾行した方がいいのかな」


・・・関節の磨耗は早そうだ、と、その視界を共有する"創造主"は、少々呆れるのであった。










「へぇ、メアリーは今そんな事をしてるのね」


と雑談をしつつ歩く、庶民で賑わう市場は、雑多というか何というか、物で溢れかえっていた。


第二市場の場所はすぐに分かった。競売の場所も。何故ならば第二市場内の一際大きな建物、その中にそれらしき会場が設営されていたからだ。


長丁場になるかも知れない故、茶と小腹を満たす適当なつまみを見繕い、いざ適当な席を探そうとした時である。


つんつん、と肩を突つかれた。


妙に硬い感触。そして何より・・・モーター音がしなかったか?今。


なんだかんだ言って疲れているのか、と内心自嘲しつつ、振り向くと・・・あわや腰を抜かすかと思った。


それでも、ひっ、と息を呑むこととなったが・・・。


まず一つ、目が明らかに無機物(・・・)である。


灰色の虹彩の内側、レンズの中で伸縮するカメラ(・・・)


「ごめんね、いきなり話し掛けて・・・さっきすごい事してたのが気になってね・・・」


表情は一切変化せず、口角のみを稼働させる、違和感を呼び起こす喋り方。


少し不快な金属音が混じる、質の悪い合成音声。


仕草こそそそっかしいのに、顔が変わらないというのが・・・いや、指摘するのはやめておこう。


「・・・えぇ、さっき、とは?」


何とか動揺を押し隠し、周りの目もあることだからと極力平常を装う。


「屋根と屋根の間をなんか物凄い勢いで飛び回ってたから・・・」


その一言で、漸く編み上げた鉄面皮を再び叩き割られる事となった。


ツーンとした頭痛が目頭を突き抜ける。目の前の目撃者をどうしようか・・・と、思考を無理矢理動かす。


が、何やら剣呑な俺の気配を感じ取ったのか、目の前の少女型(・・・)アンドロイド(・・・・・・)


「いえいえ!そのぉ・・・別に変な詮索をしよう、っていうんじゃなくて、ただ・・・最近の魔術師ってすごいなぁ、って思っただけで・・・」


・・・警戒した俺が馬鹿だった気がする。作っているなら大した物だが・・・いや、相手はbotか・・・いやしかしこの嫌に人間くさい仕草と口調は・・・ん?待てよ?今"魔術師"と言わなかったか?


「・・・何故この時代の物では無い、AIの身で魔術などの良し悪しが分かる?」


今度その言葉に色を無くした(あくまで比喩)のは、目の前の機械の方だった。


「・・・何者なんですか、あなた」


表情こそやはり変わらないが、声に一気に警戒の色が混ざる。


そんなコレ・・・いや、彼女と一応呼んでやろうか。彼女の言葉を、ふん、と鼻で笑う。


「その質問はお互いに(・・・・)に引っ込めておく方が平和的かつ建設的な話し合いが出来ると、私は思うがな」


理解力はあるのか、ふぅ、と息を吐く仕草の後、声色を戻した。


「・・・分かりました・・・あ、そういえば、お名前をまだ聞いていませんでした」


・・・なんでこのタイミングで自己紹介を要求して来るのか。


もうすぐ競売が始まるから、と適当な椅子を探し座ると、彼女もその隣に腰を降ろす。ギシリ、と木の椅子が小さく悲鳴を上げた。


「エリアス・スチャルトナ。一応人間だ」


その瞬間。ピタリ、と藤色の髪を揺らしていた彼女が停止する。


「・・・え・・・?」


ガバッと立ち上がり、肩を引っ掴み・・・って力強えぇ!普通に潰れる!砕ける!


「スチャルトナ!今スチャルトナって言いましたか!?」


物凄く興奮している様だ。口調的に恐らく。


「ああ、というか落ち着け!声デカイし、肩がイかれる!」


常人だったら、多分もう腕がポロっと取れてる。


「あっ!すいません、興奮してしまって・・・」


とんでもない握力だった・・・機械とはげに恐ろしきや・・・。


「・・・そもそも、お前が先に名乗るというのが本来の礼儀ではないのか?」


あうぅ・・・と、縮こまり慌てる少女。無表情で。無表情で。


「名前、そうですね。こうして名乗るのもすごく久しぶりな気がします・・・」


というか、名前あるのか。番号でも記号でも無く。


気付けばもう競売が始まる様で、ギルドの職員らしき者が、正面の段に上がった。


最初に出品物が読み上げられ、その後競りが始まる。まあ、まだ挨拶だが。


藤色の彼女に改めて向き合う。その時だけ、辺りの喧騒が、ふっ、と止んだ気がした。


「名前はメル・・・メル・セトラ。昔、そう呼ばれていました」


呼吸する必要は無いだろうに、何故かそこで一息置く。


「元近衛魔術兵団第五位、一回死んだ人です!」


・・・何を言っているのか、二、三度噛み締めただけでは理解出来なかった。


「(・・・笑)」


うぜぇ、ぶっ飛ばすぞニーレイ。










なんかエリアスと今さっき出会った、・・・アンドロイド?とかいう種類らしい子と意味か分からない話をしている。


メル・セトラと名乗った彼女(?)は、なんだか人間にしてはおかしな存在だった。


まず表情が如何なる時も全く変化しない。


いくら表情が薄い者と雖も、流石に目元や口元が微動だにしないという事は無い筈。少なくとも話している事に応じて目の色だって変わる筈。


その時点で違和感ありありで不気味に思うし、そして何より・・・声がおかしい。


何がおかしいとは上手く言えないけれど・・・とにかく、なんか変だ。


まあ、本人が警戒していれども、普通に会話に応じているからして、そうこちらが目鯨立てる必要は無いのだけれど。


「スチャルトナ、って、シレイラ・スチャルトナって人、知らない!?」


・・・すごく興奮している様だけれど。


「声が大きい!・・・シレイラ・スチャルトナは私の母の名だが・・・って!落ち着け!」


周りから奇異の目で見られている、という事を、エリアスの胸を突っつく事で伝えると・・・小さく悲鳴を上げながら、ビクッと肩を跳ねさせ・・・更に衆目を惹く事となった。あ、後で握り潰されそう・・・。


ま、いっか(現実逃避)。


気を取り直して会話を聞くところによると、このメル・セトラはエリアスの母、シレイラ・スチャルトナの知り合いであるらしい。


知り合いと言っても、既に八年も交流は無く、向こうは死んでいると思っている可能性が高いので、一度挨拶に行こうとしているのだが・・・。


「・・・事情、どうやって話せばいいんだろう、って・・・」


「・・・解るように、と考えるとそれは困難を極めるな」


心無しかどんよりとした空気を放つ彼女に、それを理解しているのか、少し同情の念を見せるエリアス。


・・・わたしには全然話が見えないんだけどね!


「しかし、元は人間だという事は分かったが・・・何故そうなった?そもそも、誰がそんな技術を残していたのだ?」


元は人間、という事は現在の彼女はやはり人間では無いらしい。では一体何なのか、というのは・・・現状聞いている事しか出来ないから・・・場所、変えてくれないかなぁ・・・。


「元はといえば八年前の西方軍管区探索で・・・って、ごめんね、これ以上は言語野にブロック掛かってますから・・・」


「そうか」


・・・??


「八年前・・・ああ、そこで行方不明になった二人の内の一人か。となると、もう一人もメルちゃんと同じ様に?」


「・・・わからないんですよね・・・そっちのデータにアクセス出来なくて・・・って!メルちゃん(・・・)って何ですか!メルちゃんって!」


歳上ですよ!歳上!お姉ちゃんですよ!


どっちにしても、ちゃん、は付くのね、と適当な事ばかり考えてしまった。


「・・・良く子供扱いされないか?お前」


「はうっ!?」


・・・何か言葉が突き刺さった様だ。


「うぅ・・・そっちこそ、ババくさいとか言われませんか?」


「なっ!?ババくさいとはなんだババくさいとはッ!!大人っぽいだとか、もしくは成熟していると言えッ!!」


虎の尾を踏み続けるメル・セトラに肝を冷やしつつ、流石にそろそろ競売の邪魔になってない?と、こっそりエリアスに話し掛けてみる。


「うっ・・・確かにそうだな・・・目当ての代物も無かったし・・・」


作戦成功、どこか話しやすい場所に移動してもらおう。


「(密談向きの、ね)」


そんな場所ばかり思いつくあたり、わたしも捻くれているのかな、と少し自嘲するのであった。






「橋の下、ですか?」


何かありがちな気がしないでも無いけれど・・・まあ、水音や雑踏に音が紛れ、周りも河川敷で開けているからして、聞き耳を立てている様な奴も発見し易い、という理由から。


「で、ここでもう少し込み入った話をしよう、という訳か。ニーレイ?」


突然呼ばれた事に驚いた。え?ここで私、出て来ていいの?私、基本的にお忍びじゃないの?


「・・・いいの?」


ひょこっと認識阻害を解きながらエリアスの襟から顔を出すと、メル・セトラはいたく驚く。


「妖精!?しかもその髪・・・闇妖精!?うそ!なんでこんな所で・・・!!?」


これを、ふん、と鼻で笑うのはエリアス。


「別にそれはどうでも良い。さっさと話の続きをしようか」


まず、とエリアスは切り出した。


「確認だ。メルは人間からリサイクルされた半生体アンドロイドで、元の身分はアリエテ王国軍、近衛魔術兵団所属、最終年齢十六歳、と・・・間違い無いか?」


はい?と思ったのは自分だけらしい。何故か酷く驚愕し、狼狽するメル。


「そ、そこまで分かるんですかっ!?っていうか私、そんな簡単に正体バレするくらい分かり易いですかっ!?」


なんか目にも止まらぬ速さで・・・瞬間移動した様にも見えた・・・瞬時にエリアスの目の前に現れ、肩を掴んでガクガクと揺さぶっている。


「落ち着けッ」


っ、と!エリアスも目の前から消えた!?と思ったら、ドンッ!という地響き。


そちらに目を向けると、腕を振りかぶった投擲姿勢のエリアスの先に、地面に轍を刻みながら突き刺さったメル氏と思しき人影。ぶん投げたのか・・・。


「と、まあ気を取り直して、だ」


まるで吹っ飛んで来る様に戻って来たメルとの間で始まった会話を端折って纏めると・・・。


一つ、メル・セトラは人間では無く、半生体アンドロイド・・・つまりは半分が生き物で、残り半分が・・・機械、古代の技術で作られた人工の身体を持つという。


これはエリアスの予測で、メル・セトラも暫し"創造主"とやらに確認を取った後、事実であると認めた。


「・・・安心しろ、多分私にしか分からない」


創造主にこっ酷く怒られたらしい、落ち込み切ったメルを宥めるエリアスの図が・・・無表情で落ち込むメルが・・・ぷくく。


「あと、顔の擬似筋肉は装備しておいた方がいいぞ。流石に違和感しか無い。折角感情豊かなユニットなのだからな」


どうせ聞いているのだろう?とここには居ない誰かに意見していた。創造主さんかな?


「・・・御忠告ありがとう、前向きに検討しましょう、って言ってますよ」


・・・そういえば、その創造主って人(?)は古代のナニカなんだよね?


これ、興味持たれたんじゃない?マズイのでは?


「大丈夫だろう。これだけ情報を絞っている奴の事だ。まさか態々接触して来る訳も無いだろうさ」


多分な、と適当な事を言うエリアス。


すっごく不安感煽るよね、その慢心。










「・・・・・・」


陽の光が僅かに射し込む、かつて温室であった廃墟。


先程まで視界を共有していた物からの接続を切り、身体にコントロールを戻す。


この機能を使うには、どうしても通信関連機器を全力稼働させる為、電力不足となり、身体を動かせなくなってしまうのが欠点だった。


本来、あまり使う必要の無い機器だからして、さしたる問題は無いのだが。


今回は視界共有のみ。やろうと思えば、メル・セトラとかいうアレの身体を操作する事も出来るのだが、別に良いか、と放置した。あのエリアス・スチャルトナとかいう、人間の少女の肩を握り潰しそうになった時は流石に慌てた。主に未だに出力のコントロールが下手くそなメルの、人間の世界に溶け込むという意味での心配しか無かったが。


そう、エリアス・スチャルトナだ。


あの時の腕部出力は、常人であれば骨が容易く砕ける程の力が出ていた。


やろうと思えば拳銃でも握力で破壊出来るレベルの能力は持っているアレの事だ。少し加減を誤ればそれこそ人間達が言う、大惨事となる。


・・・あのボディはかなり簡略化された代物だから、そう器用な事が出来ないのは分かるが、それでも少し不器用過ぎると思う。


今度戻ってきた時、表情表現機能の追加と一緒に調整してやろう、とメモリにそれは留めておく。


少なくとも普通の人間では無い。メル・セトラが持ち込んだ魔術とやらの枠組みから考えても異常。肉体強度を向上させる術を用いても、その燃料たる魔力の消費を考えると、常時運用する事など不可能であるという。


そして何より肝心なのが・・・近代科学技術(こっち)の話に精通しているという事。


これは少なくともあまり良い事では無い。何故ならば人間のこちらの領域への進出を後押ししてしまう可能性がある為だ。


数年前・・・ついにこちらの主拠点、パリ旧市街への人間の侵入を許した。


五人、そう、五人もだ。魔術師なる者どもが、驚くべき事にたかが生身の人間が、この自分の居地にまで踏み込んで来たのだ。


それが、永らく機能を停止させていた自分を再起動させたというのは、俗に言う皮肉というヤツだろうが、どちらにしろ良く無い状況になりつつあるというのは、目覚めたばかりの自分にもすぐに理解出来た。


目覚めてからというものの、それまでバラバラに、思うがままにそのエリアの守備を行っていた無人兵器達をそれぞれの居地の周りへと集結させ、戦力及び戦略物資の再配分と、ガラクタから戦力を増強、周辺の地形、環境の把握に・・・現在の世界情勢についての把握。やることには事欠かなかった。


特に周辺地域の情勢把握。これにはかなり力を入れている。


まず、自分が最初に接触した人間、ライノ・パシアルという男を伴って、この国、アリエテ王国を旅した。


これで分かった事。この世の文明レベルは大きく後退しており、特に科学技術という点において、ほぼ発達していないに等しい状況である事。代わりに魔術という、独自の技術が普及し、生活に密に絡んでいるという事。


更には120mm榴弾の至近弾を受け、手脚と下半身の殆どを損失した少女、メル・セトラを回収、魔術のスペシャリストであった彼女を解析する事に成功した。


が、彼女に関しては肉体の損傷が激しく、その為か魔力と呼ばれる物が殆ど観測出来なかった。しかし、脳に関しては少し特異な発達が見られた為・・・脳と脊髄を取り出し、自分の予備ボディを流用した、機械の身体に移植する事を決めた。


結果、蘇った彼女の知識は大いに役立つ事となった。実際に魔術を使うことは出来なくなったが、彼女曰く、王国トップクラスの光、水魔術の智は伊達では無い。


義理として、その身体はそのままくれてやり、人間界に戻してやろうと思ったのだが・・・ついでにアレを通して人間界を偵察してやろうと考え付いた。


これは名案とばかりに細工を施し、機密情報をアウトプット出来ない様にプロテクトを掛けた上で解放する。人間との関わり方という観点から考えれば、元は人間である彼女の方が人間界には良く溶け込めるだろう、という寸法だ。


何をするにしても情報は必要だ、とかつての"マスター"は言っていた。


いつ、どんな情報が必要になるかは分からない。ならば、普段から凡ゆる情報を集積し、纏め、いざという時に活用出来る者こそが勝者になれるのだ、だったか。


目下の目標は、自分の身の安全と、次にそこら中にいる仲間たち(・・・・)の安全だ。皆良くやってくれた戦友達だ。労ってやりたい、と思う気持ちくらいはある。


ふぅ、と僅かにある感情プログラムに従って溜息などついてみる。


外に目を向けると、砲身をだらりと下げ、エンジンを切り休むインヴェイダー装甲車。


・・・魔術師に簡単にやられてしまう程の装甲しか無かったな、と今更に強化改修してやろうか、と、資材リストを漁ってみる事にした。


エリアス・スチャルトナ・・・何にせよ、情報収集が先決。


消すにしろ、対話を持つにしろ・・・やれる事は徹底的にやるべきだろう。


「・・・そうですよね、マスター・・・」


機械のくせに物思いか、と嘲る様な声が聴こえた気がした。






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