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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第二章
55/94

スネアー・タウン

時々自分の書いた物を見直さないと、プロットが存在しないので何を書いているか分からなくなってしまいますね(ぉぃ)






再びアルタニク家の屋敷で迎えた朝。


敷き詰められていた縫いぐるみはほぼ撤去され、部屋の隅で布を掛けられて安置されている。お陰で昨日は安心して寝付く事が出来た。


外を見ればまだ薄暗い。かなり早い時間に起きてしまったか。


そこはかとなく外の空気を吸いたくなった。下着を履き、上着のシャツを羽織ってテラスに出る。


未だ夜の残滓が漂う早朝の空気は冷え込んでおり、己の意識が急速に覚醒してゆくのを感じる。


「・・・起きていたのか」


背後から流れた声に振り返ると、使用人用の小部屋から、たった今出て来たらしいスィラが、斧槍を担いで不思議そうな顔をしていた。


「今から鍛錬か?」


ああ、という肯定とは反対に、彼女は俺の側へと寄って来た。


デュースケルンの目覚めは早い。


既に遠くの市場では灯が灯り、早朝から漁に出ていた船が、運河を行き交っているだろう。


街で料理屋を営む者どもが仕入れに出掛け、入港管理局が仕事を始め、大型船舶が港を出入りする。


朝からこの街は活気に溢れている。


「スィラ」


生真面目な表情を向ける彼女の横顔に朝日が射し、きめ細かい肌がそれを照り返すと、何だか彼女が神聖不可侵なモノに見えて来た。全く馬鹿らしい事だが。


「偶には一緒にやろうか」


「・・・ニーレイは・・・」


未だベッドの中ですやすやと寝息を立てる彼女を見やる。


「・・・寝かせておいても良いだろう」


動きやすいタンクトップとショートパンツに着替え、少し身体を動かす為庭に出た。


昨日の夕食の時の事。ツィーアが漏らした言葉。


彼女には親戚が何人、いや二桁単位で居る。貴族の男とは基本的に本妻の他にも色々と手を付ける訳で、異母兄弟は沢山居るのだ。


それが鼠算式に増えるのだから、血という観点で親戚を数えればそれこそキリが無い。


彼女は親の前領主と母親が死亡した際、勘当という形でかなりの親戚縁者を始末したと聞く。少なくとも既にアルタニク家の相続権を持つ者は、ツィーアが死亡した場合を除いて存在しないという。


だが、あくまで殺した訳でも社会的に貶めた訳でも無い。ただアルタニク家の敷居を跨ぐ事を禁じただけで、散り散りになったのみ。


という事は・・・仮にその者が再起し、王都で文官になり、そして・・・特定の領への派遣文官としてやって来る可能性はゼロでは無いのだ・・・。


「で、ソイツが色々と手を回してツィーア嬢を追い出そうとしている・・・ッと!」


ギィギャリリ、と鋼が擦れる耳障りな金属音が響く。


鈍色の脚甲が地面に食い込み、一瞬の後に脹脛まで埋まりながら地面に轍を刻む。


「・・・それで良く身体が持つな」


『魔念力』で己の位置を固定して、長剣モードにした【カルマ】を振り下ろした。


それに対しスィラは、その斬撃を斧槍の柄で受け止める。振り下ろす速度も重さも尋常では無かったとは思うが、よくもまあ、こんな一撃を受けれたな、と思う。


「・・・生憎、誰かさんの扱きに耐え続けて来た実績があるのでな」


あまりの重量と威力に震える手脚。つっと顎を伝う汗が、彼女の限界を伝えて来る。


平然と立っている遥かに年下の少女に、その如何にも軽そうに見える斬撃を必死の形相で受ける獣人。傍目から見れば何の冗談かと思うだろう。


技量は未だスィラの方が上だ。


だが、そこに俺が力技を持ち込むと立場が一変する。


『魔念力』による身体の安定化と、原来から持ち合わせているどこかおかしい身体能力による一撃は、まさしく一撃必殺となり得る。その威力は筋力をして既に規格外の域にあるスィラともあろう者が、今にも地に膝を着きそうになっている事からも察する事が出来るだろう。


「ぐっ、うっ・・・」


押し込む俺に意地でも対抗する彼女に、少し苦笑する。


最も攻撃を受ける上で良いのは、相手に手応えを与えない事だ。


手応えを与えるという事は、それは相手に有効打を与えさせてしまうという事。


ここで言う有効打というのは、何も直接肉体を刃先で傷付ける物だけでは無い。


例え檄を剣で受けようとも、その衝撃は筋肉を、骨を、髄を、脳を揺さぶり、確実にダメージを与える。


相手方もそれを分かっているが故に、士気を高め勢いに乗り攻める。


士気という物は厄介な物だ。高めればその者は本来の己の限界を超え、低下してしまえばその者は本来の力の何分の一も発揮出来なくなってしまう。


目の前の彼女が最もたる例だろう。


本来ならば力比べではそうそう負けない彼女が押されている現在、彼女は既に勝てないと思い込んでしまっている。


力で勝てぬなら技で戦えば良い、とすぐに切り替えられる程、戦闘中に冷静である事が出来る者は少ないというのは分かっている。


俺でも恐らく、余裕がある今だからこそこんな事を考えられる。俺は戦士では無いのだ。


戦うならば圧倒する。敵わないか、もしくは己の同等の相手ならば逃げるというスタンスを、俺は取っている小心者であるからして、別に偉そうに何かを言う資格は無いが・・・それでも分かっている分、まだマシだと思う。何よりマシかは知らんが。


「ほら、ボサっと押さえているだけでは何も出来んぞ?」


爪先で彼女の腹をつん、と突っついてやる。実戦ならばそのまま蹴り抜くか、顎を蹴り上げてやるのだが、態々訓練でそこまで非情になるのはなぁ、と思い自重する。


「ぅひっ!?」


つっと腹を撫でた爪先だが、力の入った腹筋の表面を触られるのは結構擽ったかったらしい。


力が抜けてしまい、一瞬で押し切れてしまった。そのまま振り下ろしてしまうと、バッサリと彼女の胸を斬り裂く事になってしまう。


慌てて『魔念力』を用いて制動。刃の部分は何故か魔力の束を切り裂いてそのまま進んでしまうので柄を抑える。


「・・・スィラ・・・」


「い、いや、すまない・・・痛みは兎も角、擽ったいのが来るとは思わなくてな」


尻餅を着いたスィラを見下ろす。思えば彼女を見下ろすという光景は新鮮だ・・・下着、今日は黒か。


上から見ると、いつも滲み出ている威圧感を感じない。どこかしおらしく見える。


「どこか痛めたりなどしていないか?」


「・・・少し筋肉からぶちぶちと音がしたが、痛みは無いな」


むぅ、と漏らされた唸り声を聴きつつ、長剣化していた【カルマ】を元の短剣に戻し、鞘に収めた。


「念の為、関節は一通り動かして健は伸ばしておけよ」


言われずとも分かっているとは思うがな、と。


「しかし、あのツィーア嬢がそんな弱音を漏らすとは、主は大層信用されている様だな」


「そうか?」


彼女が弱みを見せて来たのは思えば初めてだ。


俺の抱くツィーアのイメージは、単に強い少女、という物。


僅か齢九歳にして領主と当主という看板を背負い、治政に辛腕を振るう。


幼くして親を失い、それでもめげずに学校で勉強し、同時に領地の仕事をこなす。


あの狭いなで肩にどれ程の物を背負っているのか、今も昔も高々小市民の俺が想像出来るかどうか考える事すら、彼女に対する侮辱だろう。


「当然。ツィーア嬢はどこからどう見てもプライドの塊だ。元の自分は弱々しい幼気な少女、それで態度までも弱々しかったらどれ程の者にナメられるか分かったものではないからな・・・虚飾で飾ってでも、不安と孤独感を押し隠して生きて行かなければならないのさ」


上に立つ者はそういう物だ、という。


「それでも、ツィーアは幼い女の子だよ」


そんな事を言うと、スィラは派手に笑う。


「ははっ、歳下の主に言われてはツィーア嬢も立つ瀬無いな」


手持ち無沙汰なので、短剣を再び抜いて弄くり回してみる。


最近、刃の部分まで真っ黒になってしまった。


短時間ならば溢れ出るヤバそうな魔力を抑える事が出来る様になったのは僥倖だが、黒光りするそれは見た目に関して言えば、更に怪しいというか、危なそうというか・・・呪いが掛かっていそうというか・・・。


そのくせ性能にはほぼ変化が無いのだから、持っているこっちも不気味に感じる。一体何なのだ、これは。


「だが、そういう者が態々弱音を吐いたのだ。分かるだろう?」


「何が言いたい?」


手の中でキリキリと刃が蠢き、亀裂から金属が軋む音が響く。並の人間であれば不快感しか覚えないそれも、俺からすれば別に何てことは無い。既に聞き慣れている。


「要は余程切羽詰まっているという事さ」


重斧槍を分解し、革製のケースに収め、スリングで背負う。片付けが済んだ様だ。


「暗に助けて、などと言っているのではないか?自分ではどうにも出来ないから、と」


・・・まあ、一理あるのか?人の感情の機微というのは不可解な物としか思っていない俺であるが・・・分からんでもないか。


「ならどうする?その・・・レグロ氏だったか?ソイツでも暗殺しに行くか?」


「いやそれは流石に短絡的過ぎないか・・・」


俺は実を言うと短絡思考型だからな。・・・実を言わずとも分かっている?それはすまなかった。


「ツィーア嬢の話し相手になってやるだけで、精神的に楽になるだろうさ」


なるほど。意識に留めて置こう。大事な友人の事だからな。


「・・・分かった。そろそろ朝食の時間だろう。戻ろうか」


足でめくれた芝生を適当に直し、屋敷の方へと歩きながら考える。


レグロ・アルタニク。


ツィーアの親戚の中年男で、アルタニク家からは既に勘当されており、貴族では無い。


アルタニク領を離れ、王都で文官の仕事にありつき生活していたが、本の一月前、派遣文官としてアルタニク領に戻って来た。なんと因果な事か。


良く良く思えば、レグロ氏は疑心暗鬼になったツィーアに、半ば一方的に勘当されたのだよな。不遇と言えば不遇だし、そんな言ってしまえば理不尽な目に遭ったのだから、恨みは・・・当然の如く買っているだろうな。


それに、王都で文官をやるというのは・・・良く分からんが、そこそこ優秀な人間なのではなかろうか。少なくとも全くの無能ということはあるまい。


既に行政府内は固められてしまっている・・・さてどうしたものか、と。


「・・・おいおい考えるか・・・」


一先ずは今日の朝食に思いを馳せる事にしたのだった。










「・・・エリアス様」


朝食後、部屋に一度戻ろうとした俺を引き止める声が後ろから投げ掛けられた。


「ミムルか、何か用か?」


因みに今日の朝食は・・・何か魚のぶつ切りを煮た物。何というかは知らない。味も奇っ怪で、好きにも嫌いにもならなさそうな、微妙な味だった。腹の足しにはなるから掻き込む事には掻き込むが。


「一つ、お願いが御座いまして・・・」


・・・お願いとは珍しい。


そもそも他人の使用人であるからして、そう会話する事も無い相手だ。それがお願いとは、何か重大な事でも起きたのだろうか。


「スィラさんを暫く貸して欲しいのです」


・・・スィラを貸す?別に構わないのだが・・・何をさせたいのか・・・。


「目的は?」


あまり聞いて欲しくなさそうな空気を放っていた彼女であったが、無言で言わなきゃ聞かぬ、という意思を伝えると、ふぅ、と一つ嘆息して言葉を紡ぐ。


「・・・お嬢様は狙われています」


この領地に帰って来てからというものの、ツィーアを狙う刺客の類が激増したという。


その多くは護衛の兵に阻まれ、悉く捕縛されてはいるものの、つい昨日、放たれた矢が彼女の頬を掠めた事もあったという。


・・・なるほど、それもツィーアが参ってしまっている理由か。


「状況は刻一刻と深刻になりつつあります・・・兵を増やそうにも、もし相手に魔術師でも現れれば・・・とても守り切る自信がありません・・・」


それでスィラを使おうと思ったのか。理解した。


「分かった。私からスィラには言っておこう」


「難しいというのは分かっています・・・ですが・・・え?」


深妙な顔から、一気にきょとん、とした間抜け顔へ。まん丸に見開かれた瞳孔の細いエメラルドグリーンの瞳が、何ともコミカルで、少し漏れそうになる笑いを堪える。


「構わんよ。連れて行け。私から言っておくと言ったのだ。一刻後に玄関で良いか?」


「はい・・・しかし、大丈夫でしょうか?」


この場合、俺がどうとかでは無く、スィラ本人が大丈夫かという事である。


「・・・別に私自身に護衛など、本来必要無いからな。ニーレイも居る事だし、必要性を説けば納得するだろう」


なら決まりだ。説き伏せるから後は頼む、と投げてその場を去る。


「・・・さて、今日はどうしたものか・・・」


取り敢えずは部屋に戻ってニーレイと相談しようか。










「・・・新しい護衛って、スィラだったの?」


・・・主に言われた通り、時間通りに玄関に赴いた所に待っていたのは、訝しげな顔のツィーア嬢と、いつもの澄まし顔なミムル、その他、鎧こそ帯びていない軽装であるものの、長剣や短弓で武装した護衛兵達だった。


「ええ、よろしくお願いします」


かく言う私もかなりの軽装。主武装の重斧槍は部屋に置いて来ており、帯びているのは短銃と複数本の短剣のみ。街で歩いていても不思議では無い普段着姿で、防具の類も皆無。


多少防刃性がある革の服を防具と呼ぶならば話は別だが。


何も、自らこの装備で赴くと考えた訳では無い。主に、この装備で十分だ、と命じられたからだ。


「護衛というのはな、別に相手を倒せば良いという訳では無い。重要人物(VIP)を身を呈して守り抜く事が重要なのだ。いざとなればツィーアを連れて安全圏まで逃げ延びる事が必要だ。ならばそう重装備で行くことも無かろう」


とは主の言。理由はまだまだ他にもある。


まずは周囲への配慮という物。今回護衛するのは軍人では無く、移動する場所も街中や文官が闊歩する行政府だ。あまり重装備でうろつかれても、向こうが、市民に威圧感を与えてしまう事をツィーアは嫌うだろう、との事だった。それは確かに分かる。


そして、戦闘環境の事である。予測される戦場は街中、船上、そして屋内。全て長大な長柄武器を取り回すには無理が生じる環境ばかりで、まず重斧槍は使えない。


それならば短剣と短銃、それだけの方が遥かにマシだ。寧ろ交戦距離という観点から考えると、近中距離へと対応した均衡の取れた武装と言えるだろう。例え相手が剣士であろうと、弓兵であろうと対応可能である。


後の荷物は予備弾薬だとか、包帯だとか、何故か保存食を少し。少し心配し過ぎではないだろうか、と思ったが、如何なる状況下に於いても生存することが出来る様に、と嫌に厳しく言いつけられた時の顔が印象的だった。


「・・・お前は要人護衛などは経験が無いのだろう?ならこの機会に学んでおけ。いざという時、出来ないよりは出来た方が良いに決まっているからな」


まあ、別に私は専門家では無いから偉そうな事を言っても仕方ないがな・・・と、ボソっと溢していたのが何とも不安感を煽るのけれども・・・。


兎に角、武装選択の話は私も納得出来たので、従う事にしたのだった。


「・・・ま、スィラが居てくれるなら大分安心出来るかしら」


じゃ、よろしく頼むわね、とヒラヒラと掌を振り、歩き出すツィーア。


元から護衛に着いていた兵からは、微妙に気に入らなさそうな視線を受ける。


「(・・・まあどうでも良いがな)」


ツィーア嬢の手前、主の面子上、変に確執を起こすつもりは無いが・・・本来足元にも及ばない、言うならば雑魚に邪魔される要素があるのは面倒だ。


本来の目的であるツィーア嬢の警護が疎かに、更には脚を引っ張る様なら・・・唯では置かない。


そういう意思を視線に乗せ、軽くぶつけてやると、彼等はビクリ、と肩を跳ねさせ、縮こまる。


睨み付けた程度でコレとは・・・。


度胸すら無いのか、と元々皆無に等しかった評価が更には地に落ちる。


元々実力など期待しては居ないのだから、せめて身体を盾にしてでも、矢や剣先からツィーア嬢を守るくらいの覚悟を持ってもらわなければ何も出来ないだろう。寧ろ邪魔だ。


視線を外すと、背後で気を取り直したのか、僅かに憤る気配。ぼそぼそと陰口も聞こえるな。「なんだあの生意気なアマ」・・・か。


・・・気付いて居ないと思っているのか?


髪を後ろに掻き流し、分かって居ないフリをしてツィーア嬢の後に続く。


早くも、さっさと今日が終わらないか、と嫌気が差し始め、溜息が漏れる。


帰ったら主に慰めて貰おうか。


ニーレイとて毎日主のベッドで寝ているのだ。偶には代わってくれても良いだろう。


暖かくて柔らかい主の感触を夢見つつ、行政府行きの船に乗り込むのだった。










「今日は何するのさ、エリアス」


「決まっているだろう。昨日探し損ねたヤツを調達しに行く」


一人、いや実際は二人か。昨日歩いた中心街をただひたすらに冷やかしつつ歩く。目的地は・・・実はちょっと変わった所だ。


「あー・・・なるほどね?考えたね」


冒険者ギルド。冒険者という名の傭兵共を纏める巨大な国際組織である。


元はといえば過去の戦争中、軍が国を離れている間に猛威を振るう事になった魔物共に対応する為、各々の都市で一般人を訓練し、街を守る為に発足した自警団の様な物が、戦後も残り、それぞれ密にコンタクトを取り合って出来上がった物である。


基本は魔物を討伐したり、盗賊を狩り出したりするのが主な仕事であるが、最近は他の一般庶民や国からの依頼を受け付け、雑事も請け負う何でも屋集団へとなりつつある。


冒険者ギルドはその他にも、所属する傭兵・・・冒険者と呼ばれる・・・が魔物の狩猟や遺跡探索で手に入れた珍しい品物の売買や、身分証の発行、地域開発事業など、多岐に渡って活躍している。


珍しい品物とは、勿論魔物の素材や、古代遺跡から発掘されたお宝(・・)などを指す。冒険者が持ち帰って来たそれを定価で買取、それをオークション形式で販売するのだ。


今回用向きがあるのは、その珍しい品物の売買というヤツ。


「飛龍の腹皮・・・分かってたけど、やっぱ希少品なんだよねぇ・・・」


昨日、一応スィラの手袋にしようと探していた飛龍の皮、ありそうな店をちょくちょく覗いて居たのだが、結果から言うとどこにも置いていなった。


相場も聞いてみた。五十センチ四方で八万オルドとか抜かしやがった。なんだそれは。


値段は良い。別に払えるから。


しかし、そもそも元が無いのだ。その理由というのが・・・。


飛龍(ドラゴン)も、中々表に出て来ない魔物だからね・・・」


飛龍、《ドラゴン》と呼ばれる危険度Aランクの魔物の生態は良く分かっていない。


空を飛び、火を吐く。時折家畜を襲い、どこかへとさっさと飛び去ってしまう。


討伐成功数は限りなく低く、そもそも勝てないか、あと少しという所まで追い詰めたところ向こうが逃げてしまった、などという散々な結果が多々記録に残っている。


強固な鱗と甲殻、柔軟で頑丈な皮で身を包み、体重数百キロの家畜を一撃で切断する程の顎と牙、人間を握り潰す脚に、最大で三十メートルにもなるその巨体で容易く垂直離着陸、滞空、急加速急制動を可能とする強靭な筋肉を持った翼。時にあの《スクウィッド》すら翻弄し、弄ぶ程の高い知能を持つ。


単体で考えるならば、現在知られている中で、まさしく地上最強クラスの生物である。


因みに《スクウィッド》がSランクで、《ドラゴン》がAランクというのは、単に人に対する脅威度の問題である。


時には積極的に人里を襲う事がある《スクウィッド》であるが、一方、《ドラゴン》は人にはあまり興味を示さず、あくまでそれが飼う家畜、反撃を試みた脅威を感じた人間にしか襲い掛からない。関わらない努力をする事で、容易く身を守れる相手だからだ。


「いざという時はエリアスがぶっ飛ばしに行っちゃえばいいんじゃない?」


そうだな、と適当に笑い飛ばしている内に、目的の建物前へと辿り着いた。


「・・・ここか?」


「間違いないと思うよ」


・・・どう見ても酒場にしか見えなかった。事実、酒臭い。


確かに見ると、高々と掲げられた木の看板には、冒険者ギルド・デュースケルン支部、と刻まれている。


だが中に見える光景は・・・確かに武装している者が多いが・・・ジョッキを振り回して酒を流し込むおっさんや若者だらけだった。


男と女は大体四対一くらいで、ナイスミドルなおじさんから若い、多分十代半ばの子まで、年齢層は様々。女は皆若いな。多分若い内にあの男達の誰かにさっさと貰われるからだろうか。


「・・・物の販売はどこだ?」


「受付に聞いてみたら?」


ごもっともである。


意を決して中に入る。あまり臭いを嗅がない様にして。実は先程、酒の臭いと一緒に酷い体臭がしたのだ。どう考えてもこいつらはここ数日は風呂に入っていないだろう。ゴミの臭いがするぞ、おい。


突然入って来た小さな子に対する好奇心か、嫌に全周から視線が突き刺さる。が、一々気にしては仕方が無いとスィラも言っていた。無視し、恐らくは受付と思しきカウンターへと向かう。


カウンターは俺の胸を少し超えるくらいの高さだ。少し高い。というか、俺の背が低い。


地味な風貌の受付嬢は一瞬、俺の姿を認め、眉をピクリと跳ねさせたものの、次の瞬間には見事な営業スマイルを浮かべた。


「こんにちは!本日はどの様なご用件でしょうか?」


ほう、こんな見た目の俺にも丁寧に対応するのか。良く訓練されているのか、はたまたは別の理由か。


「ギルドが運営する競売があると聞きまして、それがどこで行われるのか教えて頂けますか?」


「(・・・良くもまあ、そんな自然に上っ面取り繕えるよね・・・)」


ニーレイの悪口はこの際、後で虐めてやろうと心中に決め込む事にして、カウンターに肘を突き、身体を持ち上げて受付嬢と視線の高さを揃える。


「えー・・・少々お待ちを」


ぶらーん、と浮いた脚がご無沙汰で、バタバタと動かしたくなる衝動に襲われるが、流石に子供臭すぎる、と自制心を働かせ、耐えつつ待つこと数分。


「お待たせしました。えー・・・本日の競売は午後一時半に中央市場の第二区で行われます」


午後一時、と。背後の柱時計に目を遣ると、現在短針は十一を少し過ぎた辺りを指している。大体二時間後か。


「そうですか、ありがとうございます」


ひょい、とカウンターから飛び降り、出口へ・・・と思った所で、ふと壁の一角が目に付いた。


掲示板なのか、沢山の紙が木製のボードにピンで貼り付けられている。その前では数人が熱心にそれに視線を走らせており・・・時折その紙の一枚を引っぺがし、先程俺がぶら下がっていた受付カウンターへと持ってゆく。


「・・・ニーレイ、あれは?」


何やら服の中で、もぞもぞと煩わしく動いていた彼女を服越しに指で弾くと、わきゃっ!?と小さく悲鳴が上がった。・・・何をしていたのやら。


「うぅ・・・ん?あー、依頼だよ依頼。要はお仕事」


あの掲示板に貼られている紙々には様々な依頼が書き綴られているらしい。


その内容は実に多種多様で、例えばペットの《チャウ》・・・毛むくじゃらの四足歩行の愛玩動物だ・・・が行方不明だから探して欲しいだとか、庭の片付けをして欲しい等の雑事から、農地が魔物に荒らされているからその犯人を狩ってくれだとか、商隊をどこそこまで護衛してくれ・・・などの荒事まで。


依頼主は金が払えれば、一般庶民から貴族、国まで色々。国が依頼する場合は大抵、あんな掲示板にでは無く、デカデカと入り口正面だとか、別のスペースに特設されるらしいが。


「・・・興味あるの?」


「・・・少しな」


何の気なしに近づき、ざっと流し読み。なになに・・・ギルドから・・・《ゴブリン》の間引き?それから行政府からは・・・盗賊団拠点の捜索?港湾管理局から荷物の積み込み作業・・・市民からは・・・多過ぎて読む気も失せる。


「・・・依頼はライセンスが無いと受けられないんだよ?」


・・・そうなのか?


「そもそも、このライセンスを取るためにみんなギルドに登録するんだから・・・」


ギルドではそのライセンスとやらを使って、冒険者達を管理するという。


ライセンスに記録されるのは名前、年齢、出身地、登録日に種族・・・そして達成依頼のリスト、などなど。


非常に特殊な魔術が使用されているため偽造はほぼ不可能であり、一人一人、何処か見えないところで差異がつけられており、個人を判別することが出来る。


コレを持つという事は、その人物はギルドという、規模だけで言えば真人教よりも巨大な組織の庇護下にあるという事を意味する。


その恩恵は多岐に渡り、宿泊費や特定の店での商品の割引といった経済的な面から、依頼の審査無しでの請負、国への身分証明、依頼を的確にこなす優秀な者は信頼され、貴族や豪商などの金持ちから名指しで依頼を持ち掛けられる事すらあり、確固たる社会的立場を築く事が可能であるという。


「便利なのだな」


既に見飽きた上、見ていても仕方が無いので、既に歩を外に向けた。


「機会があったら取っても良いと思うよ?まあ・・・まだ年齢的にムリだと思うけどさ」


年齢制限は十二だ。あと三年と半年必要である。


どうでも良い話だが、俺の二回目の誕生日は春の初めである。今は夏の終わり・・・もうすぐ秋だろうか。


こちらの冬は厳しい。北風は恐ろしく冷たく、辺りの小川が全て凍り付く程の寒さがある。


雪はあまり多くないが・・・それでも一メートルくらいは積もる。


「帝国でも通用するから、向こう行った時でも役に立つよ」


・・・帝国か。


そういえばカルセラは元気にやっているだろうか。エルクから帝国には二週間で着くというから、そろそろ到着する頃ではなかろうか。


あの騒がしい性悪根曲皇女が何と無く恋しくなる。居たら居たで騒がしいのだが離れると・・・というヤツだろうか。


「昼飯を何か調達してから市に向かうか」


それから・・・。


「・・・エリアス、気付いてる?」


勿論。


「二人だろう?目的は金かな?それとも身体自体かな?」


「どっちもでしょ」


人攫い、こういう街に限らずそこら中に山程居る。


人間の人身売買はこの国では違法だが、需要があるから闇市でのそれは収まる所を知らない。


娼館、金持ちの肉奴隷、単純な労働力・・・特に俺の様な子供が一人で、しかも女ともあれば引く手数多であろう。


「どうする?選択肢は逃げるか、運河に捨てるかだ」


因みに当たり前だが、運河に捨てるのはバラ(・・)してからだ。


「・・・どうでもいいけど、平和的解決に越した事はないと思うよ・・・」


メインストリートを少し外れ横道・・・狭い裏路地へ。


「では・・・平和的にお還り(・・・)頂こうか」


海に。


掌に集まった魔力が薄く発光した。





誤字ではない(キリ)

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