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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第一章
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放たれた堰

「学校・・・ですか」

母から急に切り出されたのは、学校に行って見てはどうかという話だった。この町に学校は無いが、隣の少し大きな街にはそこそこ大きな学校があるらしい。習うのは算術や言語を初めとして魔術や武術などかなり多岐に渡るとのこと。俺は今年で8歳になる。前世、6歳にもなれば小学校に通っていたのだが、この世界で学校に通う資格は8歳以降となっているらしい。まあ6歳の幼児に近いのに剣やら魔術やら教えてどうするの?ということらしいが。

ところで俺はというと、この三年間は母に魔術とはなんたるかを文字通り朝から晩まで、座学から実践まで、散々扱かれた。俺が普通の5〜7歳だったらグレてたね。間違い無い。

なんせ大学受験を思わせる程のペースだったのだ。こんなことをか弱い子供にやらせるなんて、やっぱり母は馬鹿だと思う。しかし母はなんというか・・・俺が魔術について聞いたあの時以来、雰囲気が変わった。真面目?になったというべきか、ともかく俺に魔術を教える時の母は凛々しく、かっこ良かった。

なんで俺の父親はこんないい女を放ったらかしにしているのだろうか。こんな可愛い娘もいるのに。(誰にするわけでもなくウィンクしながら)

自分の容姿であるが、まだ幼さは残るもののそこはかとなく凛々しい母の雰囲気が出てきている感じがある。母は明るくかっこ良い感じで、俺はどちらかというと冷たくてクールな感じなのだが。(なお中身)

身体は線が細く華奢な印象を与えるが、その実相変わらず凄まじい怪力は健在で、寧ろ力は成長と共に強くなってきている感じさえある。まさに凶器の肉体である。二重の意味で。さて、俺は別に学校に行きたくない訳ではないが、一つ不安がある。


それは俺がほぼ外に出たことが無いことである。


うちの庭はそこそこ広くて、動き回ったり、簡単な魔術を撃ったりするには十分な広さがあるのだが、俺はその庭と外の世界を隔てる塀の向こうを見たことが無いのだ。正門はイメージしていた鉄格子の物ではなく、なんと魔力で動く巨大な石扉だったので、外が見えないのだ。隙間を探して見たりはしたものの、そんなものは存在せず、こんなに遊びが無くてこの扉本当に開くの?と思ったのは懐かしい思い出だ。

まさに籠の鳥。

俺の今の状況がそれだった。

一度母にその旨を伝えると、母は困ったように苦笑いを浮かべ、ごめんね、とだけ言った。まあうちにもいろいろと事情があるのだろうと割り切って引き篭り生活をしてきたわけだが。

それから母との魔術の勉強だ。母は実に多彩な魔術を操った。火、水、土、風、光、闇などなど。母は火の魔術が得意らしく、教わる魔術は火の魔術が多かった。そんな魔術の授業の最初、母が、好きに何かやってみて!と仰るので、前世で見た155mm榴弾砲の砲撃をイメージした火炎弾を撃ったら、庭の一角が大変なことになったのは苦い思い出である。そんなこんなで俺の魔術のレベルはかなりの域にあるとのこと。(母談)

算術は当たり前のこと、語学なんかも大半はマスターしてしまっているので、あまり学校に通う必要性は感じないのだが、母が言うことには


「友達を作りなさい!」


とのことだった。確かに友人はこの先の人生で欠かせないものだろう。ましてや幼年期からの付き合いともなれば、取り入り易く、離れ難い。なんとも良いものである。もしかしたら貴族とも仲良くなれるかもしれないのだ。生きるのに大事なのはコネである!

この話をしたところ母にはかなり微妙な顔をされたが、俺は挫けないぞ。

それに学校では武術も教えてくれるというではないか。

剣やら槍やら弓を使う勉強・・・イイ・・。

そんな楽しそうな授業がなんで前世には無かったのかと、若干理不尽な怒りが湧き上がったが、無駄に力が入った手に潰され千切れたスプーンの頭がテーブルに落ちる音で我に返った。いかんいかん、この力を出すのはマズイのだった。ほらテーブルの向こうで母が青筋立ててる。ごめんなさいと謝りスプーンの頭と持手の破損部位を重ねて、無理矢理潰してくっ付ける。鉄が潰れて接着面の原子が無理矢理結合させられているのだが、我ながらとんでもない握力だと思う。この手があれば鋼板プレス技術は要らないのではないか。いや、冗談だけど。この修復法の欠点は、回数を重ねる度にスプーンが短くなることだ。まあ滅多に起きないから構わないのだけども。

話が逸れた。全てこのスプーンが悪い。貧弱なスプーンめ。

学校のことだった。そう武術だ。前世、簡単な格闘技や軍隊格闘なんかを習ったりしたが、剣やら槍やら弓なんかは当然のことながら触ったことも無い。

現在腕力に不足は無いので、どんな武器でも扱える筈である。

そんなこんなで学校での生活に思いを馳せていると、そんな俺に母は


「見た目で何か言われても気にするんじゃないわよ」


とのご忠告を頂いた。うーん心配性なんだろうか。この超絶美少女に食ってかかるなんて嫉妬と憧憬以外考えられないんだが、何の心配があるのだろうか。

・・・考えても仕方が無い。自分で行って、自分の目で確かめることにした。


「わかりました。気をつけて行ってまいります」


と言葉だけは返しながら。


残念ながら、その認識は甘かったと分かるのはすぐだった。






母に連れられ、今生で初めて家の外に出る。

町と言ったが、村に限りなく近い町といった規模だった。ぽつぽつと立ち並ぶ家と一面に広がる耕作地。そして我が家より少し大きいだけの役所と商店。隣町行きの馬車はこの役所前に来るらしい。

今初めて知ったことだが、この俺が生まれて生活してきた町は、ブレームノという名前らしい。そして今から行く隣街は、エルクと呼ばれているとのこと。なんかドイツっぽい。でも人名がドイツっぽくないよ。スラヴっぽいよ。

そんなことは兎も角、馬車が来た様だ。

母が馬車を操る騎手の方に挨拶をしている。

俺の服装は、白っぽいシャツと茶色っぽいズボン、これもまたこげ茶っぽい色のマントである。すーぱーださいスタイルで少し恥ずかしいのだが、どの人も似たり寄ったりの格好をしているので、ここまで来る間に、これが普通なのだ、と納得した。向こうでは制服が受け取れるというので、早く着替えたく思う。マントを頭から被るようにしているので、鼻もとから上は見えにくくなっている。御者台に立つ騎手は、俺に荷台に乗るように言った。大人しく荷台の隅に座ると、馬車はガタゴトと走り始めた。

これから俺の、いや私の新生活が始まるのだ。8歳にして親元を離れて一人生活とはなかなか前世ではあり得ない事象ではあるが。

年甲斐も無くわくわくしている自分がそこには居た。






心配だ。

シレイラはただ心配である。

娘、エリアスは異端である。

他に類を見ない容姿と、途轍もない才能。

そして歳不相応な明晰な頭脳。

どれを取っても異様である。

そんな心配の中、彼女を学校に送り出すことに決めたのは、それもまた彼女の為だった。

これまで私はエリアスを、外界から遠ざけて育てて来た。魔術を教え、言語を教え、私が与えられる学問はこの三年間でしっかりと詰め込んだつもりだ。

しかし、私にも教えることが出来ないことはたくさんある。また与えることが出来ない物も然り。

その一つは社交性だ。彼女はあまり言葉を話すことが得意ではないと感じる。それこそ友達でも作ってくれなくてはどうしようもない。だが、エリアスは友達に苦労するだろう。

子供たちは見た目から受ける先入観が、大人よりも遥かに強い。エリアスの特異な容姿は間違いなく悪目立ちするだろう。だから私はせめてもの応援として、先ほど容姿を気にするなと激励したのだが。

そして本人も言っていたが、友達が出来たらその後、繋がりを作るためである。なんでコネなんて言葉を知っているかは知らないが、兎に角他の人と繋がりを持って欲しいのだ。

エリアスの為であったとしても、なかなか気が進む行為ではない。

どうかエリアスが楽しく暮らせますように・・・。


シレイラはただ祈るしか無かった。






一気に三話ほど投稿しました。


一息に書いたため、後半は疲れていい加減になっているかもしれません。


指摘等があれば、遠慮無く指摘して頂けると幸いです。



※5/28 魔術の属性の「聖」を「光」に修正

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