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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第一章
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空の上

第一章のエピローグみたいな物です。

スィラ・レフレクス。黒狼族。今年二十歳。修行の旅に出て早十年。今、私は虜囚の辱めを受けている。


とは言ったものの、生活環境自体はそう悪い物ではない。今の私は奴隷であるにも関わらず、主は給金を寄越すし、休みもある。午前中は使用人足る物〜といった感じで、同じく使用人をしている猫族の獣人、ミムルと言ったか?の元で作法やら何やら雑多な事を学ぶ。・・・コレが案外難しい。主の位置に対しての自分の立ち位置、立ち方、気の配り方、表情、お茶の入れ方運び方・・・厄介すぎる。過去に東方で戦った矢鱈硬い鉄の魔物を相手にしている時よりも頭を使うかも知れない。


だが、あくまで主人の意向、逆らう訳にはいかない。首輪の事もあるし。


此の主人なら本気で嫌がれば辞めさせてくれるかも知れないが、どうもあの小さな主はこっちの反応を見て面白がっている節がある。辞めたら辞めたで、次は何をやらされるか分かった物ではない。あの見えない何かで捕まえられると、未だどうすれば良いのか分からないのだ。腕力でも何故か敵わない。何なのだあの小娘は。


さて、昨日から始まった此の生活。安泰過ぎて正直拍子抜けしている。もっと辛く、厳しく、飢える生活かと思って居たのだが。其れを言うと真顔で、「・・・其の方が良かったか?」と聞かれるので、二度と言わない。まあ、実際にする気は無かった様だが。・・・そう思いたい。


精神的には疲れるものの、身体的には朝夜の鍛錬も行える位には余裕がある。今もこうして・・・少し走ろうかと思っていたところなのだが・・・。


「・・・ほう?」


此の時間帯、何時もなら"コイツ"は未だ寝ている筈。少なくともあと二刻程は。


「朝から鍛錬か?」


下から見上げられているのに、不思議な事に気分は見下ろされている気分。


「まあ、当然か」


紺色の髪、赤い瞳。異様に整った顔。平坦なメリハリのメの字も無い、発育前の細い身体。


「どんな事をしているんだ?・・・いや、私は黙って見ているからやって見せろ」


其の体躯からは想像もつかない、暴力的な威圧感。


「・・・?どうした?」


偽名エリスこと、本名エリアス・スチャルトナ。主。


「・・・はぁ・・・」


理不尽娘。






コイツは暇なのか、ずっと横に立っている。流石に走りこみには着いてこなかったものの、素振り等、一箇所に留まってする事をしている時は、常に舐める様な視線を浴びせてくる。


「・・・へぇ」


何が面白いのか、時折口元をにやけさせながら・・・いや、此の目線は尻尾を追っていないか?気の所為か?


昨日風呂に無理矢理入れられてからというものの、暇さえあれば何が珍しいのか耳やら尻尾やらを弄くり回し、あまつさえ一緒のベッドで寝よう、等と言い始める。


人間は基本的に私達獣人を蔑視する。そう思っていたし、これ迄もそんな傾向が見られた。


が、この人間はどうも少し変らしい。人間との身体の違いが見たい、等と言って全身を弄って来たり、絡み付いて来たりする。よくもまあ、一度殺し合いをした相手、しかも獣人にここ迄馴れ馴れしく出来たものである。


が、私から手を出す事は叶わない。奴隷である以前に、其の握れば折れそうな細腕には、悪魔的な膂力が秘められていると知っているからだ。


最初に捕まえられた時、体重が人間の倍近い私を軽々片手で抱え、更には私が命の危機を覚える程の力で締め上げられた。身体の中身が飛び出るのではないかと、本気で思った。事実、骨が軋む音が身体の中から聞こえた。


ベッドに引き摺り込まれ、抱き枕にされた時は、寝ぼけて絞め殺される可能性を何より危惧した程だ。まあ、無事この通り朝を迎えられたのではあるが。抜け出すのには苦労した。


で、本当なら此の後主を起こしに行くのが常なのだが、既に其の問題の主は隣に・・・何時の間にか後ろに居る。


どうしても、身体を動かす度に揺れ動く尾が気になる様だ。昨日からずっと。


時折握って来るので油断ならない。いや、別に握られても痛くも痒くも無いのだが、単純に動きづらいし、何か、付け根の筋肉が攣りそうになるので勘弁して貰いたいところだ。本人曰く、ふさふさしている割りに本体は細いのだな、と。当たり前だろう。


さて、今日は学校が休みらしい。・・・まさか一日中付きまとわれるのではないだろうな。


「私もそう暇ではないぞ?午後からは会食だし・・・」


世情には疎いので知らなかったのだが、あの妙に意地の悪そうな碧髪の少女。彼女はなんと隣国の皇族、現最有力次期皇帝候補・・・らしい。言動を見ている限り、全くそうは見えないのだが。で、そのカルセラ嬢が主催する立食会が今日開かれる。


・・・待てよ。ということは午前中は付きまとわれるという事ではないか?


「・・・要はそれまで暇なのだ・・・ですね」


言葉遣いも矯正しようとしている。敬語丁寧語とやら、全く今の今迄発した事は無かった。慣れないので、という事を言うと、本人は、別に良い、というのだが、ミムルは、従者足る者・・・、と言う。どうしろと言うのか。


「まあ、そうとも言う」


ニヤリ、と悪戯っ気のある笑みを浮かべる主。どうも戦っている最中の彼女の氷の様な無表情と、この表情豊かな彼女が結びつかない。調子が狂う。


「安心しろ、見ているだけだ。何時も通りにしていれば良い」


分かってて言っているのだろうか。其れが一番難しいという事を。


「それから」


彼女の視線は身体へ。


「・・・部屋でもその格好をすれば良いのにな」


「断るッ!・・・ります」


ふわふわフリフリの使用人服。














「貴女も中々苦労しますね」


と、やや苦笑気味な調子で笑う赤髪の女。言わずもがな、学校長ケイト・ヴァシリーである。


「・・・しかし、数奇な物だな。あの場限りだと思っていたのだが・・・」


対面するは黒髪金眼の獣人、スィラ・レフレクス。使用人服を身に付けた彼女は、以前酒場で会った時とは全く印象が異なる。こんな服も似合うのだなぁ、とケイトは面白さ気に目を細める。


「全くです。また会えるとは思ってもみませんでしたが」


しかし何で皆さんこうも闘いが好きなのか、と嘆息するケイト。


「・・・そうは言いつつも、だろう?」


あっさり見破られると、ふふっ、と如何にも楽し気に笑う。


「・・・まあ、昔は色々やらかしてましたから・・・しかし、よくご無事でしたね」


やっていた事からすれば、死んでいてもおかしくは無い。今回の大会の生存率はほぼ一割強。


「まあ、其れは・・・当たった相手が良かったのだろうな」


すっ、と未だ灯りも煌々と焚かれている寮の方に流し目をする。何を、いや、誰を指しているのかは明白だ。


「・・・で、そのエリアスさんの事ですが」


現在の主となる者の事、と聞いてスィラも少し気を引き締める。


「・・・大衆の前で正体を曝け出してしまったというのは事実なのですね?」


こくり、と頷いて肯定。確かにあの時、素顔を見た。観客席からでも、目の良い者ならばはっきりと判別出来ただろう。


改めて確認した事で、ケイトは深い、本当に地の底を這う様な溜息を吐く。


「・・・場合によっては一回帰すのも手か・・・収拾がつくまでは・・・問題は・・・」


「真人教、ね」


スィラが口を挟むと、ケイトは苦虫を百も噛み潰した様な顔で、肯定の意を示す。


「・・・彼奴らしつこいからな」


少し思い出す口調のスィラ。彼女も過去に関わり合いが有ったのだろうか。


「見ての通り、だからな」


そう言って、自らの、ピン、と立った耳を指す。が、心無しか後ろに倒れている。この反応は確か・・・不快な気分?だったか?まあ、獣人であれば向こうから突っかかって来るか。


「で、真人教の幹部、しかも・・・枢機卿だろう?確か名前は・・・フェリア・コンクルスだかなんだかか」


フェリア・コンクルス。中央ではそこそこの有名人だ。王都近隣に領地を持つ伯爵の娘で尚且つ、真人教内では実質最高位の枢機卿の地位を頂いていながら、不相応に若い。が、彼女を表すなら一言で済む。


「"神童"ねぇ・・・で、ソレの腕を引っこ抜いて剰え逃げられた、と」


「完全に因縁つけた形だな」


うむ、と半ば他人事といった風情の返事。スィラよ、お前の主の話だ。


「・・・もし、引き渡せだとか言って来たら、もう私としては放り出すくらいしか出来る事は無いですね」


庇ってくれそうなカルセラ嬢も近日中に発ちますし、と今日何度目になるか分からない溜息。


「仕掛けて来るとしたら、間違い無く其れ以降だろうな」


恐らく其れは正しいだろう。当然、此方が嫌なタイミングというのが、彼方のベストタイミングだからだ。


「私は結局大した事は出来ませんがね・・・せめて向こうが何か言って来たのなら伝えますので、用意だけは怠らないでおいて頂けますか?」


「ああ」


神妙な顔で確かに頷くスィラ。が、次の瞬間には戯けた様な笑みを見せる。


「・・・それから、私は今や奴隷身分、敬語はいささかマズイのではないか?」


いえ、とケイトも表情を綻ばせる。


「癖、ですから」


と分かり易い作り笑い。二人とも付き合いは極めて短い。友と言うにも語弊があるだろう。


「まあ、私も敬語を忘れていたな」


が、確かに此処には確かな信頼関係があるのであった。













「で?申し開きはそれだけかしら?」


若い内から青筋を立てて居ては老けるぞ、と思った矢先、鋭い視線が飛んで来た。こわ。


おめかしをしつつも、其れが寧ろ恐ろしさを引き立てている様な怒気を放つツィーア。対するカルセラといえば縮こまり床に正座。いや、普通逆というかなんというか。


「うー・・・不可抗力じゃ「はぁ?」ひっ!?」


と、まあ何にツィーアが激怒なさっているかというと、時はほんの半刻前に遡る・・・。













「ねえねえ、見てよコレ!」


時はパーティ。使用人・・・今回ばかりはスィラでは無く、此処のメイドに着付けて貰ったドレスを身に付け、薄く化粧。殆ど何も付けなかったが。口紅?何か変な味がするなコレ。あ、舐めちゃいけないか。指に付いた奴を取るのが大変だった。


で、髪の色と同じ、空色のふんわりとしたドレスを纏い、頭にティアラを載せたカルセラが指差すのは・・・なんでこんな物がこんなところにあるんだ?


一言で言えば箱。サイズは大体五十センチ四方の。しかし、ただの箱では無い。材質はクローム鍍金に見える黒ずんだ鋼の様な金属。地球の外で産出した素材で名前は・・・いや、既にそれは意味を成さないか。


極めて耐食性が高く、熱、薬品に対する耐性も高い。合金を混ぜたり炭素含有量を調節する事で、其れこそ工具鋼から航宙戦闘艦の装甲殻に迄変幻自在の金属。当時から夢の様な金属と唄われたが、酸化すると、猛毒の金属である、タリウムに似た物質に変化する厄介な側面も持つ。


で、防毒鍍金が施された其れで作られた其の箱の正体は、元はCDS(輸送機等から物資を投下する仕組みの一つ)用の投下容器だ。食料医薬品、弾薬その他を戦地に届ける為の物。


此れは小型、というか最小クラスの物だ。中身は分からない。一般にも頑丈で密閉性のある長期保存が出来る容器として、使用済みの物が出回っていたし、何が入っているか分かった物では無い。回収し損ねた軍需物資かも知れないし、単なる家庭用品、最悪腐った食料が入っている可能性もある。まあ、開けて楽しみ宝箱、という感じか。まあ、九割方嬉しい物が入っている可能性は無いのだが。


で、そんな物が何故残っているか、という事だが、俺達が思っていたよりあの金属は耐食性が高かったのだろう。どれほどの年月を経たのかは知らないが、未だ其の役割を果たしている・・・製作者が喜びそうな話だ。


で、最初に戻るのだが、何故コレがこんなところにあるのだ?


「うん、前々からわたしが持ってたんだけどね・・・使い方分からないから物入れの奥で埃被ってたんだけど、エリィちゃんなら何か分からないかなーって」


ウィンクをしながら言うのも良いが、何故そう思った。


「うーん・・・なんとなく?」


と言う。が、此れは周りで聞き耳を立てる者への理由。


「・・・知ってるでしょ?貴女なら」


瞬く間に、恐ろしい程迄に自然に耳元まで口を近づけるカルセラ。此の突然の豹変には、毎回ぞっとするものだ・・・もし彼女がやろうと思えば、さっくり刺されていても不思議では無かった気がする。


「コレ、何かの入れ物でしょ?開け方、知ってるなら教えて欲しいの」


ま、何が入ってるかは分かんないんだけどさ、と突如元に戻るカルセラ。


で、此の箱か。まあ、開ける手順自体は簡単だ。電子ロックを解除し、カバーを開けてエアロックを開けるだけ。が、問題は他にある。


「(・・・どう見ても電源が死んでいるのだが・・・)」


コンソールを叩けども、うんともすんとも言わない。黙っていれば理論上、二百年は保つと言われたバッテリーが使われていた筈だが、まあ、それ以上経っているのは致しかねない。・・・しかし、電子ロックが開かないのではどうしようも・・・ああ、今ならいけるかも知れないな。


高度数万フィートからの投下にも耐え、最後に投下されてより長い年月を風雨に耐え中身を守り続けて来たARコンテナの外装。タングステンを超える強度、剛性率を誇る金属。其れで出来たカバーを"こじ開ける"。


俺の肉体の出力で対応出来るか、肉体の強度が保つか、ちょっとした挑戦とも言えるだろう。


肉体に魔力を流し、万一、肉体が負けた時に備える。


本体に足を掛け、カバーの突起を掴む。あとは引くだけ。


試しに軽く引く・・・ビクともしない。既に力的には人間であれば胴を千切れる程の力を込めている。が、此の程度で開かないのは想定内、というか当たり前。靴を脱ぎ、裸足になる。此れ以上は靴底や靴下の繊維が潰れて駄目になってしまうからだ。


気を取り直し、徐々に力を込め、段々と腕の引く力、足の押す力を強める。・・・まだ動かない。もう、途轍もない力が掛かっている筈なのだが。


そろそろ、俺が力むレベルになる。少し気合いを入れ、力を入れている、と思える程・・・考えてみれば、此れ程の力を込めたのは初めてだな。


ギギ、と継ぎ目が軋む音がした。あと少しだろうか。


腕の表面に筋と血管が浮き出る程力を入れる。すると、動き始めた。ギギギギ、と耳障り極まりない音を立て、ひしゃげる様に金属板が曲がる。


ある程度、あと少しで外れる域で、力を緩める。もう、中身が見えているからだ。完全に毟る必要は無い。


「おっ?」


カルセラが目にしたのは、円形の取手。此れを引けば此の箱は開く。


「此れで開くだろう」


カルセラに顎で示し、靴下と靴を履き直しながら仕向ける。やはり、開けるのは持ち主がやるべきだろうからな。


「お待たせ。待ったかしら?」


と、其処でツィーアが現れた。若草色のドレス。下手な者が着ると野暮ったくて仕方が無い色合いだが、ツィーアは良く着こなしていた。というか、似合っている。美少女は何を着ても似合う、というのもあるだろうが。


「あ、ツィアちゃん、いいとこ来たね!」


にしし〜、と意味不明の謎の笑い方。


「刮目せよっ!」


ブシュッ、と小気味良い音が響き、コンテナの蓋が開く。中から現れたのは・・・。


「・・・なにコレ」


其の見た目を一言で形容するのならば、筒。円筒形、色は鈍色。長さ約四十センチ、直径約十五センチ程か。中央には継ぎ目があり、円筒の上端にはアダプター、其の反対側には小さな蓋。勿論、俺はコレが何かは知っている。だが、何故此処でコレが出てくる?と頭の中身は疑問符だらけであった。


「?・・・うわ、以外と重たい・・・」


コレは受信機だ。必要時には展開し、アンテナとなる。何を受信するかと言えば、別にテレビやらラジオやら無線の電波を捕まえる訳では無い。


「おっ?ここ開くんじゃない?」


コレが捕まえるのは"電気"だ。つまりは、コレは電源となる。


「うえ!?なんか開いた!?」


此処で俺の時代のエネルギー事情について説明しておこうか。


俺の時代のエネルギー、殆どは電気だ。で、其の発電方法だが、大きく分けて二つ存在する。

一つは核融合炉を主動力に用いた発電法。コレは軍事的用途が殆どだ。小型高出力の核融合炉は軍が独占。其の製造方法と構造はほぼ全ての国で機密中の機密だ。何に使われているかと言えば、基地の電源、艦船群の主機、一部の有人兵器等。ほんの一部、酷く大柄な核融合炉は非常用一般向け電源としてリリースされているのみ。

そして、もう一つ。今回のコレに関係がある物だ。


「何か書いてある・・・ダメね、古代語だわ」


太陽光発電システム。が、ただの太陽光発電システムでは無い。静止衛星軌道上の更に外周。静止衛星軌道上の約三千キロ上方を一周する巨大な宇宙ステーションに設けられた、長大かつ、広大な面積を誇る発電所。其れが世界中の電力供給の殆どを賄っていた。で、どうやって地上から約三万九千キロもの高さにある衛星から電気を送っていたか。何もバッテリーに詰めて降下させていた訳でも無い。

答えは、マイクロウェーブ送電システムの存在にある。簡単に説明すると、太陽光パネルで発電させた電気を、お馴染みのマイクロ波に変換して、地上の受信施設へ送信するというもの。そんな地球を一周する様なそんな施設を作る初期投資等、想像もしたくないが、よくもまあ、そんな物を作ったと思う。出来たのは俺が生まれる約三、四十年前の事。建造には百年以上の時間を要したらしい。

まあ、其のお陰で地球のエネルギー問題の殆どは解決されたというのだから、大した物だ。

で、この円筒は、其れを僅かながら受信する事が出来る。マイクロ波は生物には少々有害だが、コレで受信する限りは然程問題は無いらしい。まあ、使用時には少し離れる事が推奨されているのではあるが。


「で、コレが何か知ってる?エリィちゃん?」


と、其処で話を振られた。さて、どう答えるべきか。そもそも、コレは今使えるのだろうか。コレ自体もそうなのだが、発電所は生きているのだろうか。確か最後の戦争で、半分近くが破壊されたと記憶しているが。


俺は全て吹っ飛ばそうとしたのだが・・・間抜けな事に自分が構築した防衛システムを突破するのに梃子摺り過ぎたのだ。


当たり前の如く、世界中、凡ゆる地域に電力を供給する唯一のシステムだ。何処かの馬の骨かも分からない頭のおかしい破滅論者に壊されては、たまったものではない。電子的、物理的にも完全に独立させた構造となっていた。で、問題は其の物理的防御なのだが・・・あまりに防衛兵器が強力過ぎて、手に負えない状態だったのだ。・・・自分で考えておいてなんてザマだとは思う。いや、本当にアレは何とも言えない気分だった。結果、設備の50%を機能停止に追い込んだだけという半端極まりない結果・・・うん。


・・・言い訳をすると、火力ってやっぱ正義だわ、としか言えない。うむ、正攻法は強いのだ。


「何と言えば良いか・・・」


電気、という概念はこの世界には未だ通じて居ない。電気、エネルギー・・・。


「・・・古代の・・・道具を動かす力を・・・集める道具?」


「なんで疑問形?」


ツィーアに突っ込まれてしまった。説明下手で悪かったな。


「へぇー・・・じゃあ、やっぱ古代の人たちも魔力みたいなのを使ってたのかな」


まあ、発生源は全く異なるエネルギーなのだが。肉体から生まれ出でる魔力と、磁石とコイルより生まれ出でる電力。実際のところ、此の二つは大して変わらないのかも知れない。まあ、今はどうでも良いか。


「まあ、其れを使うと古代の道具の幾つかが使える様になるかも知れないぞ?」


しかし、そうそう生きている電子機器が見つかるとも思えないので、意味は然程無い様に思える。


「おおっ!じゃっ、大事に閉まっとこうかなっ・・・うん?」


よっ、と受信機を持ち上げ、箱に戻そうとした時、カルセラが何か発見した様であった。


「これ・・・なんだろ」


ゴトリ、と受信機を側に置き、再び箱の底に手を伸ばす・・・なんだ、受信機の下にまだ何か入っていたのか?


「・・・コレ銃じゃないかしら?」


現れたのは、小柄な短機関銃。ある一定の人たちから見れば、銃らしくないと言うであろう。


カーキ色の、なんとモナカ構造の短機関銃だ。装弾数二十五発、十ミリHV-AP弾使用。発射速度毎分千百発。反動吸収機構搭載。型番は・・・HPSMGかなんだかだった筈。生産性は極めて高い。しかし、不思議な事に非常に高価なのだ。優秀なスペックを持つ短機関銃なのだが、其の値段が祟り、あまり普及しなかった代物。


「・・・あまり弄ると危ないぞ」


其の正体は、電磁アシストバレル搭載型短機関銃。名前から用意に推測できる様に、装薬で初期加速を掛けられた弾丸を、ローレンツ力で更に加速して、本来此の銃身長と装薬量では出し得ない初速を叩き出す構造を持つ銃身の事だ。


撃ち出すのは小型の、其れこそ他の銃にも互換性がある高速徹甲弾。が、其の初速は同クラスの短機関銃の優に二倍近い。


で、其の加速に使う莫大な電力はどうするか、という話だが、此の銃、フレームの隙間という隙間に大出力バッテリーが詰め込まれているのだ・・・此れが一番其の単価を叩き上げていると思われる。


理論上はフル充電で約千発を発射可能。勿論、環境によって上下するだろうが。


「あ、コレ刺さるんじゃない?」


銃本体に付属する充電コードを発見。先程の受信機に刺した。・・・いや、充電出来るのか?


「おおっ!なんか光った!」


マジか、動いたのか。というか、此処は室内なのだが、良く入ったな。


衛星のビーコンサーチャーも生きていたのか、正確に四万キロ彼方の衛星は、此の受信機が発する微弱な電波を捕まえてくれたらしい。すげえな。いや、元々そういう物なのだが、良く生きていたなと。バッテリーとかバッテリーとか。


「・・・ッ!おいっ!」


久々に口調を取り繕う事も忘れる程慌てた。で、何を見てしまったかというと・・・。


「うん?どしたの?」


カルセラが弄っている銃・・・実はバッテリー其の物がプラズマチャージャー・・・つまりは爆薬になっている。緊急時、大威力の爆弾として使える様になっており、其のスイッチはグリップ底部に隠蔽されている。もしスイッチを入れれば、周囲数メートルが文字通り"消し飛ぶ"。そんな弄ぶにはいささか危なすぎる 物を、カルセラはカチカチと音を立てて何やら弄っているのだ。多分、保護カバーが開閉する音。危なさしか無い。・・・というか、今押さなかったか?


「あっ」


案の定、ピーッ、という作動音。ヤバイでしょ。イカンでしょ。


瞬時にカルセラの手元から銃を奪取。解除方法解除方法・・・長押しだったか?


グリップ底部の赤色のスイッチ。其れを押し込む事五秒。チカチカと点滅していたカウンターが停止した。・・・あと数秒で作動していたな。本当にヤバかった。俺でも此のクラスのプラズマチャージャーの爆発に耐える自信は・・・あまり無いな。目一杯魔力を注ぎ込んで肉体強化術使えばいけるかも知れないが。少なくとも試したいとは思えん。


「おい、あと少しで・・・」


カルセラを訓戒せんと口を開いた俺の言葉を切った光景。


「ほえ?」


俺は未曾有の大惨事を止めた。で、其の銃を奪い取られたカルセラはというと、俺の力で無理矢理気味に奪取した関係で、バランスを崩したらしい。で、バランスを崩した人間が何かに捕まろうとして倒れまいとするのは、ほぼ反射的な物。カルセラは人間の本能に従って、隣に居たツィーア・・・腰当たりに手を伸ばした。ツィーアのドレスの腰当たりを掴む事で、カルセラはどうにかバランスを取り戻す。ツィーアからすれば予期せぬ出来事であったが、加わった力が弱かった事もあり、体勢を崩す事も無かった。・・・問題は、カルセラが掴んだ場所である。腰・・・ドレスと"一緒に掴んだ物"が問題だった。即ち、下着の帯紐が。


「えっ」


ぱさり、と控え目な擦過音。全員が其の発生源へと視線を落とす。


ツィーアの右足首に引っかかる、白い布切れ。レースがあしらわれた染み一つ無い其れ。最初に俺が考えた事といえば、以外とませているなぁ、程度だった。どうでも良いか。


「あっ、ぱんt「きゃああああああ!!!」・・・うぼぁっ!?」


笑おうとしたカルセラに神速のアイアンクローを極めながら、ツィーアが絶叫する。・・・今のアイアンクロー、見切れなかった。


足から引き千切るような勢いで下着を引っ掴み、手の内に丸めて隠す。心無しか内股になっているのは、気の所為では無いだろう。


真っ赤になってカルセラを睨みつけるツィーア。まあ、間接的には俺にも責任がない訳では無いだろうが、直接原因と実行はカルセラが犯人だからな。


「ふんっ!!」


「あうちッ!?」


何故か人知を超えた力でカルセラを放ったツィーアは、スカートがめくれない様に押さえながら、走って廊下に消えて行った。・・・履き直すのか。


因みに、先程からカルセラの立食会に出席する者共の視線は、最初からずっと此方に向けられていた。ご愁傷様である・・・ツィーアに合掌。












で、其のツィーアが肩を怒らせながら戻って来た後、お説教が始まりこの有様、という訳だ。今もカルセラが長い反省の言葉を復唱させられている。つらそう。


「そもそも、普段からの其の振る舞いから・・・」


此処ぞとばかりに最近の不満迄爆発させるツィーア。まあ、仕方ないな。カルセラはしょんぼり。どうせすぐに回復するだろうが。


と、こんなアクシデントが最初に起こったものの、立食会自体は滞り無く始まった。カルセラの元に次々に挨拶に行く子供や大人。学外の者も多いな。場所は寮の食堂なのだが。


「エリィ、はいあーん」


俺たちが常に側に居る訳にもあかないので、少し離れた所から、事務スマイルを浮かべて応対する水色頭を眺める。すっかり機嫌を直したツィーアが、フォークに刺した・・・なんだコレ、芋系か?まあ、大学芋みたいで美味い。及第点。


「ねぇエリィ。夏期休業の間は何か予定あるの?」


夏期休業?夏休みか?要は。そんなのもあるのか。


「一度家に帰ろうとは思っているが・・・其れ以外は特に何も無いな」


顔くらいは出しておかねば、流石に親に対して薄情過ぎるだろう。近況報告は基本だよな。


「エリィの実家って何処なの?」


・・・なんだったか。地名が出てこない・・・ぶ、ぶれー何たら。


「ブレームノじゃない?」


そう、ブレームノだ。忘れていたわ。


「うーん、ブレームノならちょっと迂回するだけね・・・」


ぶつぶつ、と何やら思案している様子。こういう時に弄りたくなるのだよなぁ。脇腹を、つん、と突っついてやると、ひゃん!?と可愛らしい悲鳴を上げる。後で軽く睨まれたが、可愛いので特に問題無し。


「ウチに遊びに来ないかなって思って」


ツィーアの家。貴族。・・・豪邸?少し興味があるな。面白そうだ。


「迷惑でないなら、お願いしようかな」


よしっ!と何故か意気込む彼女。喜んで貰えたなら幸いだ。何より未知の土地だ。見聞を広めるには格好の機会だろう。


「じゃ、一回エリィの家に行ってからね」


ニコニコと更に上機嫌のツィーア。良かった。夏期休業とかいう暇そうな物の予定が埋まった。というか、年間予定表みたいな物は無いのだろうか。後でケイト女史に聞いてみよう。


其れはそうと立食会。食わぬは損だ。多少行儀は悪くとも、腹に物を詰め込む作業を再開した。


「・・・さっきからカルセラ、同じ事しか言ってないね」


「・・・皆迄言うな」


カルセラ、猫は最後迄被るのだぞ。













王都ストラスリオル。真人教本部、【御殿】の一室。調度品の数々が床に散り、垂れ幕がズタズタに引き裂かれた其の部屋には、二人のひとかげ。


「・・・待機って、要は何もするなって事よね」


小さく舌打ちをするのは、此処を出る前に比べ、幾らか痩けた頬が痛々しい、緑髪の女。フェリア・コンクルスだ。彼女の格好は、以前と然程変わらない。・・・左肩を隠すマントの存在を除けば。


「待機命令が出なくても、オレとしてはフェリアさんは休んだ方が良いと思うっすけどね」


返す男、ジェイ・カセトカは、フェリアの豹変ぶりに、再再度驚く。


彼女はあれから変わった。激情。怒気や憎悪も露わ。やさぐれ、明らかに情緒不安定になった。今の舌打ちにしてもそう。以前は絶対にそんな事をしなかった。


この部屋は元から自分達の部屋だ。別に元から荒れていた訳では無い。犯人は目の前の彼女。教皇に報告を行い、待機命令、つまりは大人しくしていろ、と言われた彼女は激昂。無茶苦茶に風魔術をぶちまけた。其れが此の部屋の惨状の原因だ。


「・・・まだ調子も戻ってないでしょうが。早く復帰したいなら、不貞腐れてないで休んでくださいよ」


ちっ、と再び舌打ちし、身を投げ出す様にソファに身を沈めるフェリア。


・・・フェリア・コンクルスは完璧だった。"此れ迄は"。


ジェイとフェリアの付き合いは長い。別に男女の仲という訳では無いが。ジェイとて自分が彼女に圧倒的に釣り合わない事は知っているし、恋心だとかその手の物は抱いていない。が、彼女の事は良く知っている。


コンクルス家、有力な伯爵家だ。フェリア自身は真人教入信の際、ミドルネームを捨てた為、勘違いされやすいが、彼女は大貴族の一人である。幼き日より魔術、学業に秀で、神童と持て囃された。彼女自身も子爵の爵位を持ち、最初は学者として、次に軍人に、そして、真人教の枢機卿に迄上り詰めた。其の道程は正に完璧完全。一点の曇りも無い。


しかし、其れは逆に失敗したことが無い、つまりは挫折を知らぬという事。確か今年で彼女は二十と四歳。其れ迄其の部分が未熟な儘であったのでは無いか?と・・・目の前で再び荒れる彼女を見ながら、自分でも驚く程冷静に思考する。飛んでくる破片やら何やらを魔力障壁で防ぎつつ、傍観する。・・・言って止まるなら言っているし、力で手に終えるのならやっている。非力とは悲しい物だ。


何とか彼女が落ち着いたタイミングを見て、ジェイはそそくさと退出した。巻き込まれてはたまったものでは無いからだ。人として当たり前の判断である。


だが、ジェイは其の判断をすぐに後悔する事になる。





フェリア・コンクルスは其の晩、ストラスリオルより姿を消した・・・。


誤字脱字語句の誤用が見られましたら、お申し付けください。





出てくる短機関銃は架空銃です。実在の銃、TDIクリス・スーパーVのコンセプトでRCアグラム2000サブマシンガンを作った見た目をイメージをしております(妄想広がりんぐ)

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