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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第一章
28/94

紅と黒の遭遇

ようやく投稿・・・今週は忙しかった・・・来週からはまた通常の生活に戻りますので・・・。

魔力の質は、其の者の本質を表す。人によって其れは異なり、見知った物ならば、大抵見分けがつく。が、偶にだが、大して見知っていなくともわかる程に特徴的な者も居るにはいるもので。其の者は異質。他とは毛色が違う。其れは聖者的だあったり、悪魔的であったり。が、大抵真面な者では無い。聖者であれ、悪鬼であれ、其れは関係無い。













剣に魔力を宿らせる。言うには、そしてやるにしても単純な作業だが、意味がある形でやろうとすれば、其れこそ、この世の理を捻じ曲げる程、其処に"剣"として存在している其れの在り方を書き換えるという、そんなレベルの力が求められる。勿論、其処ら辺の者、其れどころか一角の魔術師でも困難、ひいては英雄級の最高峰の魔術師でも、自らの命と引き換え、もしくは長らく、其れこそ数十年単位で魔力を蓄える等、並々で無い労力を要する。


だから、出来て小さなエンチャント程度、と思っていたメアリーにとっては、まさか刀剣史に残る様な魔剣が生まれるとは思ってもみなかったのだ。


最初、刃に魔力が流れ込み、薄っすらと発光した事に驚き興奮した。予想以上の成果だ。本当に、実用レベルの魔剣が生まれるかも知れない、そして、其の誕生の場に同席出来た事に、更に胸が高鳴った。思わず興奮して、カルセラに鬱陶しがられる位には、気持ちが高まっていた。


が、其の気持ちは冷や水を浴びせられたかの様に、即座に押し流された。


全身を打った冷ややかな、怖気が奔る様な不快な感触。今迄感じた事も無い、全身の毛が逆立ち、身体から力が抜けて行く感覚。隣のカルセラも、尋常では無い気配に色を失っている。気付けば腰が抜け、隣のカルセラを盾にする様に強く抱き締めていた。


それから少しして、自分が浴びた物が、魔力の塊であると気づき、再び驚愕する。


「(魔力量を隠していた事は知っている・・・でも!)」


途中迄は、不快感も無い、ありふれた雰囲気。が、ある一点を境に其れは一瞬で変質した。


普通に魔力を注いで居たエリアスが、少し力んだ様に見えた。其の瞬間、爆発的に魔力が放出され・・・今の状況に至る。


気付けばエリアスに声を掛けられていた。先程のおぞましい気配の欠片も無い、何時ものエリアス。


其の手には、銀鏡の様に光輝く一本の短剣。


僅かに長さが詰まり、幅が拡がった様に見える。刃の全体に亀裂が走り・・・ヤバイ、非常にヤバイ雰囲気、気配、妖気を醸し出している。少なくとも此れ程の魔の武器を、今生百八十六年でお目にかかった事は無い。職人の中には、一目見ただけで、魔の武器とそうでない物を見分ける、という職の者も居るのだが、此れは別にそんな特技も無くともわかる程に、尋常では無い代物だ。


先程、エリアスの放った魔力程では無いものの、目にするだけで湧き上がる不安感、刃向かおうと考える事も許さない其の妖気は、確かに自分とカルセラ、そしてこの空間を支配していたのだった。


そして、更に驚くのは、此れ程のの物を生み出して尚、けろりとしているエリアスだ。常人であれば死亡、達人であっても昏倒で済めば幸運な程の魔力を放出し、其れで全く問題が無い等、一体何の冗談か、と人からコレを聞いたのならば、そう笑うこと間違い無しである。


さて、問題の此の魔剣だ。一度、エリアスが机に置いたのであったが、なんと一人でに動き出したのだった。ギャリギャリと耳障りな事極まりない音を立て、芋虫を思わせる動きで、卓の上を這う。最初、エリアスも驚愕に目を剥いていたものの、直ぐに打ち解け(?)、まるで愛玩動物の様に弄くり回している。・・・短剣、だよね?


此の短剣の能力は、どうやら"変形"らしい。短剣でありながら、長剣の様な長さに伸びたり、大剣の様な幅に拡がったり・・・また、奇怪な形に変形したり、と。


変幻自在の短剣。携行が用意でありながら、様々な用途を持つ武器か。かなり便利な代物の様だ。


そうこう考えている内に、カルセラがエリアスに絡まれ、撃沈しているが、メアリーの意識の殆どは短剣に向けられている。


と、其処迄考えた所で、此の剣の名はどうしようか、と、ふと思った。魔剣になる前、別に特別な名前は無かった。メアリーは一々自分の作品に名を付ける事は無い。面倒だし、ぶっちゃけて言うと、そんな思い入れも無いからだ。が、此れ程の魔剣、無名という訳にはいかないだろう。


が、エリアスに其れを話すと、途方も無く阿呆な名前を付け始めた。擬音、愛玩動物に付けるにしても酷い名前だ。コイツのネーミングセンスは壊滅的なのだな、とメアリーは頭の中のエリアスの人物像にそう書き加える。


仕方が無いので、私が決めてやる事にした。


エリアスの魔力より出でた魔剣。


魔力の質。あれ程の気配、あの若さでは先ずあり得ない。


あり得るとすれば、其れは・・・。


「カルマ」


業深き者。魂の格。そして、記憶。













カルマ。元は古代インド、サンスクリット語の言葉。漢字では業と書き、直訳では、「行為」と意味を持つ。死して尚、その魂が抱き続ける其の性質。悪業であろうと、善業であろうと、其れは己にしがみ付き、仏教で言う、解脱という過程を経る迄、纏わり付き続ける。


俺の業。前世。思い当たる事は山程ある。其れを言い当てたかの如く、突如そう言い放ったメアリーに、俺は久しく、思考が凍りつく感覚を味わった。


「その剣の名前、カルマ、どう?」


メアリーは何事も無かったかの様に、何時もの雰囲気を纏わせ、そう話す。短剣は・・・心無しか嬉しそうだ。はっきりと分かる訳では無いが。


「・・・なら、其れで良い」


・・・別に深く考える必要も無いだろう。無駄だ。逃げと言えば、逃げだが。自己防衛だ。


「じゃ、銘は決まりね。はい、これ」


そうして渡されたのは、此れまた銀色の・・・物凄く目立つ鞘。何処かで見た気がするな。此の少し青みがかかった銀色。


「ミスリル使いまくってるからね?ホントに高いからね?サービスでは・・・いや、ゴメン、ちょっとでもお金出してくれない?じゃないと私の生活がヤバイからさ?」


本気で懇願してくるので、言われるが儘・・・相場の半額以下らしいが・・・持ち合わせていた銀貨を二十枚少し渡す。・・・うぅ、現全財産の約三分の一が・・・。


「ゴメン!助かるよ!」


が、メアリーが本当に助かった様なので、まあ、良しとしようか。まあ、実際真面な金も払わずに物を手に入れている方がおかしいのだが。いくら契約があると言ってもな。


と、そろそろ日も傾いてきた頃合いではなかろうか。寮の門限も、あって無い様なものだが、夕食を逃すのは痛い。


「では、この辺で私達は帰るぞ」


カルセラもメアリーに、じゃあね〜、と、先程迄の顔色の悪い様子の名残も無く、ニコニコとして手を振って居た。


「にしても、魔剣かぁ・・・」


カルセラがしみじみとした様子で呟く。


「エリィはさ、もう元の剣さえあれば、いくらでも魔剣を生み出せるのかな」


先程の程度、ならばいくらでも、とは言わないものの、かなりの数は生産出来るだろう。やる気も無いが。


「出来たとしても、そんな乱造する気は無いぞ」


何故かと言うと・・・言うに如かず。なんでもインフレさせる事は良く無い。中庸、かの古代ギリシャの哲学者も、仏教の創始者も其れが重要だと言っていた。過分も不足も無い方が良いのだ。おまけに、魔剣は純粋に武器。少し不足している方が丁度良い。


「そっか、安心した」


カルセラも其れを懸念していた様だ。まあ、魔剣をぽんぽん作れる、ともなれば、それはそれは良い商売が出来るだろうからな。一応の確認、というやつだろう。


にしても、カルセラは本当に中身がしっかりしているな。ツィーアや、メアリーとの遣り取りを聞く限りは、お茶目(笑)な、人をからかうのが好きな小悪魔ちゃんなのに。倫理観とか、一般教養とか、社会、政治学にも、深い見聞を持っている様なのだ。まあ、この歳から、己が皇帝になる!と豪語して憚らないのだから、一種の天才なのだろうが。自分が八歳の時・・・いや、今では無く、前世だが、あの頃は何も考えず、享楽に身を委ねていた気がする。まったく、此れだから天才という奴は。・・・其れを言うなら、ツィーアも歳不相応過ぎるか。


「ふふっ、わたしの事、もっと敬っていいのよ?」


此れも狙っていると考えると、心底、カルセラが恐ろしく見える。


夕陽に照らされる彼女の横顔が、歳不相応に魅力的だった。














「はぁ・・・いえ、別に学校の外で何をしようと、犯罪行為でなければ勝手なのですが・・・そもそも貴女の立場は・・・」


寮に帰り、夕食後に校長室に呼ばれ、訪れた俺を待っていたのは、ケイト女史のお説教だった。


なんでも昼間、魔剣を生み出した際、其の余波の魔力が街中に流れ出し、大混乱に陥ったらしい。・・・魔力って、そんなただ流れ出しただけでも影響があるのか?


「問題は貴女の魔力の質なのですよ」


質とは。はて、どのような事だろうか。


「言うならば、其の人物の持つ魔力の特徴の様な物です。癖、色、気配、雰囲気、様々に言い表せますし、人によって形容の仕方も様々です」


成る程。とても、とても曖昧な物であるという事は良く分かった。


「貴女の場合・・・非常に特徴的です。いつしか、私と模擬戦をしましたね?」


そういえば、そんな事もあった。入学初日の事。


「あの時は、放たれた魔力の量こそ少量・・・しかし、私は貴女の魔力の質、私の場合は"色"を感じ取りますが・・・貴女の色は他には感じた事がありませんでした。その上はっきりと、識別出来る程に濃い」


分かり易いと。そういう事だろうか。成る程、俺が魔術を使うと、すぐにバレるという事だな。地味に嫌だなそれ。


で、長々と続いたお説教の要点としては、一つに何の為に魔力隠蔽術を教えたんだかわかってるよね?魔力はいいから隠しとけや、と。二つにお前の魔力はほんと質悪いから、そこんところ意識しとけ、と、大体二点に収束する。


「分かりましたかね?あまり騒がれると困るのです。・・・ただでさえ真人教の人間が貴女を探しに来ているのですよ」


なんだと?其れは初耳だ。・・・あ、そうだ。


「・・・大変言い難い事なのですが」


歯切れが悪くなるのは、仕方が無いだろう。


「なんですか?」


突然話出した俺を訝しむケイト女史。もう、開き直るか。


「武闘会、予選突破しました」


其れにきょとん、と見たこともない様な顔をする彼女。嗚呼、申し訳無い。


そうした数瞬の沈黙。・・・本当に長く感じるのだな、此の様な沈黙は。


ケイト女史も漸く言葉の意味を飲み込んだのか、わなわなと、前髪で目元に陰を作って震えている。あ、コレは切れるな、と恰も他人事の様に考えている自分がいた。


「・・・こんのガキィ・・・」


阿修羅の如き表情。眉間に皺を寄せ、三白眼で睨まれ、今生前世でも経験したことがない程に凄まれている。思わずたじろいでしまう。能力的に勝てる勝てないでは無く、人間的に、本能的に怖い。


選択肢、逃げる。


「待ちなさいッ!!!」


三十六計逃げるに如かず、逃げるが勝ち、昔の人は偉かった。


「すいませんでしたァ!!」


そう叫んで、脱兎の如く部屋を飛び出した。


・・・やはり大人は怖いのだ。













「・・・はぁ・・・」


ガシガシと、豪快に其の紅の髪の頭を掻くケイト・ヴァシリー校長。久々に、イラっとした。いや、此れ程頭に来たのは、軍を抜けて以来初かも知れない。・・・あの頃は毎日の様にブチ切れていた様な気もするが。


「・・・ったく、アレは賢いのか馬鹿なのか・・・」


誰かに似て、と言外に付け加える。


思い返せばアレの母親も、此方の堪忍袋の緒を引き千切る達人だった。無駄な共通点を発見し、深く嘆息する。


「・・・はぁ・・・」


何度目かも知れない、深い溜息をつく。やってられん、と言わんばかりに、目の前に注がれた酒精を呷る。


そう、彼女は今街に繰り出し、酒場で流し込む様に、トウモロコシの蒸留酒・・・グレーン・ウイスキーと呼ばれる・・・を傾ける。


ケイトはかなり酒に強い。昔はよくシレイラ・スチャルトナとあと一人・・・其奴等と朝まで飲み明かした。あと一人の男は、あまり強くなかった・・・いや、自分やシレイラと比べれば、というだけで、一般的な観点から見れば、十二分に飲める質なのだが。


どうも自分もシレイラもあまり酔わない。単純に酒精のせいで眠くなるのでもなく、単純に疲れで眠くなるか、酒が無くなる事で飲み会は終わるのだが、どれ程飲もうと、少し良い気持ちになる程度で終わってしまう。少なくとも、泥酔した事は無い。一度完全に酔ってしまう迄飲んでみたいとは思うのではあるが、酒と言う物は基本的に高価、財産が吹き飛ぶ可能性が大どころか、確実なので辞めておく。そのうち、誰かに集ろうと思う。金持ちに。


そういえば、と考える。


「(・・・もう三十路、彼氏が居ない・・・)」


ヤバイ、売れ残る。あのムカつく友人ですら、既に八歳の同じく厄介な娘が居る。


「・・・はぁ・・・」


もう、気分はどん底。泣き上戸という訳では無いが、飲んだ暮れて泣きたい気分だった。しかし、体質的に酔えない。つらい。


そんなダウナーな、落ち込んでいる時だった。


「・・・溜息ばかりついていても、良い事は無いぞ?」


女にしては低めなハスキーヴォイス。横に視線を向けると、其処に居たのは"黒"。


まさしく黒というべき、黒尽くめの服装。髪迄もがまるで光を吸い込んでいるかの様に黒い。服装とは対照的な、杯を握る白い手は、人間にしては爪が長く、鋭く、手首には深い黒い毛が生えている。形の良い顎と目鼻立ち。人間とは異なる瞳孔の形を持つ、月の様な金色の瞳。頭の上にピンと立つ、三角の獣耳。獣人だ。彼女はエキゾチックに微笑しながら、此方に顔を向けて居た。


「貴女は?」


ケイトの獣人に対する意識は、他の一般人と比べ、かなり異なる。軍時代、特務として様々な地域を渡り歩いたケイトは、現地協力員として、かなりの数の獣人、魔族と接して来て居る。其の経験からか、彼女は人を見る時、偏見を捨てて接する事の重要さを学んだ。獣人にも、魔族にも、人間にも下衆は居る。逆に其れらにも善人は居り、其々皆異なる。当たり前の事ではあるが、自らの足と目で其れを学んだ彼女は、其れを深く理解したのであった。


「ああ、すまん、未だ名乗っていなかったな。私の名はスィラ・レフレクスという。お見知り置きを」


ニヤリと口の端を釣り上げ、少々好戦的な印象を与える笑みを形作る。


「ケイト・ヴァシリー。宜しく」


アルコールが回ってきたせいか、本来の、敬語が抜けた彼女。此方はニコリと、余所行きの人当たりの良い笑みを浮かべて応える。


「何か悩みでもあるのか?話すだけでも楽になる物だぞ?」


優しく微笑して話す彼女。良い奴の様だ。酔いが回って、何時もよりか軽くなったケイトの口からは、もう、普段からの愚痴やら何やら、スラスラと、自分でも驚く程流暢に、とめど無く流れ出て行く。


「くっくっ、其れは大変だな」


「わかりますか、ったく、あの女は、誰だか知らないですけど、自分だけちゃっかり男見つけて・・・」


聞けば此の獣人・・・黒狼族らしい・・・は自分よりも年下らしい。其の割りには落ち着いた物腰と、何処か達観した視線が、ケイトの凍った心を溶かすのだった。


が、同時に此の黒狼族の女、只者では無いと、ケイトの人物眼が見抜く。


良く見なければ分からないのだが、其の手には、悍ましい数の剣胼胝の痕、そして其れが潰れた痕。袖口から覗く白い腕も細かい切り傷だらけ。顔こそは綺麗なものの、此の様子だと、全身古傷だらけだろう。が、最近負った物には見えない。古い、数年以上前の物に見える。そして、何よりだ。


「(・・・気配が完全に堅気の者ではないですね)」


間違い無く、此の者は強者。己に絶対の自信を持ち、他者を見下す。昔、近衛魔術兵団で見た者共と比べても、恐らくは最上位クラスに食い込む程の戦士だろう。


が、此の者が自分を見る目は、どう卑屈に見ても、此方を見下す目では無い。不思議に思っていると彼女は、ふっ、と笑う。


「・・・私は強い者が好きだ」


つっと口の端を釣り上げ、愉快そうに話す。


「そもそも、私は強者を求めて此の街を訪れた」


彼女の笑みが、徐々に深くなる。


「武闘会、分かるだろう?貴女も出るのでは無いが?」


武闘会、其れを聞いて嫌な事を一挙に思い出した。内心で舌打ちするが、其れは表には出さない。あくまで苦笑した様な表情を作り、言葉を返す。


「私は引退した身ですよ・・・昔なら力試しに、と出たかも知れませんが」


とてもとても、と謙遜するケイト。すると其れを見たスィラの表情に気遣う様な色が浮かんだ。


「・・・まだ嫌な事でもあるのか?」


何故分かるのだろうか。心でも読んでいるのだろうか。


「目尻と口の端と眉間の皮膚が少し動いた。其の動き方は人が何か思い出して苛ついた時の反応だ」


と、ネタばらしをしてくれたが、さっぱり分からない。スィラ特有の物なのだろう。少なくとも、自分には出来ないと思う。生きている内には。


「けっ、あのクソガキが。・・・ああ、さっきの友人の子供なんですがね・・・」


エリアス・スチャルトナ。彼女の事を、そして彼女がやらかした事を、本当に重要な点と、身元を伏せつつ、愚痴を垂れる。


「・・・で、本来隠れて生きなければならぬ子が、態々武闘会に、か」


此処でケイトは違和感を覚える。此れ迄、此方の愚痴を聞くと笑い飛ばし、ニコニコしていたスィラが、何やら神妙そうな顔、何やら思案している様な顔付きをしているのだ。暫く訝しげな視線を当てていると、ぐいっ、と残っていた酒を飲み干し、自分の分の代金を卓に置く。


「ありがとう、中々有意義な話だった」


「いえ、此方こそ愚痴に付き合って頂きありがとうございました」


どうやら帰るらしい。少し不思議に思ったが、まあ、急用でも思い出したのだろう、と、自分の杯も一息に空にし、代金を払う。


「さて、さっさと帰って寝ますか・・・」


背伸びをして、酒場を後にする。


・・・出来れば一緒に寝てくれる彼が欲しかった。実際には安売りする気も無いが。


「・・・はぁ・・・」


良くなった気分が台無しであった。













「・・・成る程な、此処の学生だったか」


エリスと名乗ったあの小柄な娘(?)の事。背景は何と無く分かった。


何せ、今大会に出場する女児は一人を除いて他に居ない。昼間、大会本部に"お邪魔して"名簿を見た所、其れらしき年齢層の人物は二人、片方は男で、代理人を立てていた。予選突破順位的にも、自分の上。間違いは無かった。


しかし、どうやら予想以上に手強い様だ。


初見時、エリスは格闘で予選を突破していた。身体能力は非常に高い。少なくとも自分に迫る勢いだろう。其の上、魔術の扱いにも長けているらしいのだ。此れを厄介と言わずして何と言うか。


「ただの子供ではない、か」


先程迄話していた女、ケイト・ヴァシリーだったか。彼女も強者の雰囲気を持っていた。てっきり武闘会に出場する者であるかと思ったのだが、引退、と来た。嘘言え、未だ未だ現役だろうに。


そして、昼間の凄まじい魔力波動。あの魔力からは、彼のエリスと同じ匂いがした。此の分では、かなり勝利は厳しいかも知れない、と己の理性が語る。


「くっくっくっ・・・面白いじゃないか」


が、彼女の本質は闘争本能の塊。強者に会い、闘い、下す。其れに全てを賭けた武芸者。


「・・・強大な敵に打ち勝ってこそ・・・」


頭上、朧月が照らす地。天を仰ぎ咆哮する。


「・・・燃えるのだッ!!!!」




其の叫びは正しく、大狼の遠吠えに似たり・・・。

誤字脱字、日本語の誤用等が御座いましたらお申し付けください。

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