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白銀の残光 -pLatonic Clematis-  作者: BatC
第一章
27/94

血色の暗雲

ようやく投稿できました・・・。


長いかもしれません。文量を操るって難しいですね。

人間という生き物は、基本的に闘い、闘争という物が好きらしい。現来動物としての生存本能がそうさせるのか、其々の発達し過ぎた知性がそうさせるのか。長らく野生で生きた、我々の祖先の名残りなのか。理性というその楔。引き抜く時のなんという心地良さか。時折、何故、自ずから己を縛り苦しめるのか分からなくなる。そうして狂うのだ。力ある其れは必ず世を乱す・・・かつて歴史の中、幾人も存在した偉大なる狂人の様に・・・。












本戦を三日後に控えた週末。俺はメアリーの武具店に、カルセラと共に集まっていた。


「で、瞬殺してきちゃったんだー」


人聞きが悪い。あの二人が生きているか死んでいるかは知らないが。改めて、メアリーに状況を報告・・・と同時に本戦で負けると、の下りの抗議をしていた。


「負けたら奴隷になるんだぞ?何故それを先に言わなかった?」


と言うと、聞かれなかったから、と戯ける様に肩を竦める。コイツ、知ってたな。


「ま、これならエリアスちゃんも本気出すでしょー?」


とまで開き直る始末。・・・手前いつか覚えていろよ。


「本戦も頑張ってね!エリィちゃん!」


ああ・・・ありきたりな言葉ながらも、真っ直ぐに応援してくれるカルセラが眩しい・・・実際心中には、打算を大いに含んでいるとは思うが。


「ふーん・・・真っ黒な手練れの獣人かぁ・・・」


話題は、先日出会った、威勢の良い宣戦布告をしてきた獣人、スィラの事へと移る。


「獣人は基本、魔術は使えないけど、物凄く身体能力が高いんだよ」


博識なメアリーに、その特性について聞く。


「普通の人間じゃあ、まず力や速さじゃ勝てない。まあ、それは大抵の魔族にも言える事なんだけどね・・・でもエリアスちゃんには関係無いか・・・でも、凄く運動能力が高いって事は覚えておいてね」


俺を嵌めた割りには、きちんとアドバイスをしてくれる様だ。ま、結局はメアリーも俺に勝って貰いたいからか。でなければ機関砲も手に入らないし。


「エリィ、相手はソイツだけじゃないよ。他の奴等も警戒しなきゃダメ」


そう言うのはカルセラ。ごもっともである。しかし、他の参加者の情報が無い。・・・予選突破リストの様な物は無いのだろうか。


「あ、闘技場の入り口に貼ってあるらしいよ?予選終わりから」


なんと。二日前ではないか。此れは抜かったな。後で帰りに見てこようか。


「それはそうとだね」


そう、実は今日は、其処其処重要な用事があるらしいのだ。態々人を遣わして呼びに来たのだから、尋常では無い事なのだろうか。


「まず、コレなんだけどね」


カウンターの上に、ゴトリと横たえたのは、黒い突撃銃、AK-107。・・・ばらばらになっているのだが。カルセラも興味深気に覗き込む。


「いやぁ・・・再現は・・・無理だったよ」


燃え尽きた様子で、寧ろ爽やかささえ感じさせる様子で言う。当たり前だろうな。そんな簡単に作れてたまるものか。


「でも、自動装填機構、弾薬カートリッジ・・・だったっけ?其れはなんとか活用してみようと思うよ」


まあ、精々頑張ってくれ。応援しているよ。


「で、もうコレは私の手におえる物じゃない。弾も少ないしね。・・・だからエリアスちゃん、君が持っててくれない?君だったらしっかり管理もしてくれると思うし」


・・・弾の僅かな突撃銃など、貰っても仕方が無いと思うのだが。まあ、どっかに仕舞って置けば良いだろう。いつか、何か使い途があるかも知れないし。


「それからね・・・この間面白い事を思い出したんだよね」


ふっふっふ、と謎の笑い声とともに、勿体ぶった様子で言う。思い出した?何か忘れて居たというのか?


「あのね、エリアスちゃんは魔力量には自信があるんだったよね?」


まあ、他に比べれば多いらしいな。他がどうかは知らんが。


「エリアスちゃんのその短剣、もしかしたら"アレ"が出来るんじゃないかなーって」


アレじゃ分からんだろう。あまりに勿体ぶるので、指で卓を叩いて、さっさと話せ、という意思を伝える。ミシリ、という音と共に少し指先がめり込んだのを見て、カルセラとメアリーが顔を青くしていた。いや、俺も若干驚いてるけどね。卓は木製とはいえ。


「・・・えっと、そう、短剣。実はさ、その短剣って、ちょっと特別な鋼で出来てるんだよね?」


だよね?と言われても分からないのだが。俺が知っている訳が無いだろう。


「で、其のある一定以上の質の鋼って、大量の魔力を流すと、たまーに不思議な能力が宿ったりするらしいんだよ」


変質とは。イマイチ想像がつかない。


「有名なのは神器だね。この国だと短剣レンジャー、ハノヴィアにも確か長剣があったよね?」


と、カルセラに話を振る。カルセラは少し思い出す様に首を傾げると、少し苦々しい表情となった。


「・・・ダーイン・スレイヴの事?アレは・・・」


そうそれ、とメアリーが相槌を打つ。・・・いや、俺にはさっぱりなのだが。


「どんな剣なんだ?」


それはね・・・、とカルセラが言い淀む中、メアリーがすらすると説明してくれた。


「不思議な剣でね・・・見た目は凄く綺麗な、立派な長剣なんだよ」


ただし、と前置く。


「呪われているんだ。使い手の意思を奪い、血を貪欲に求める。そして、持つ者を"最強の剣士"にしてしまうんだ」


最強の剣士、ねぇ・・・。持つだけで強くなれるというのか?


「そ、其れを持ってるだけで、地上で最強、最高の剣士になっちゃうんだ。使い心地は知らないけどさ。昔だけど、ダーインスレイヴを持った、確か・・・十二歳の女の子だったかな?大して鍛えてもいない、其れこそペンと扇子くらいしか持たなかった様な子が、ハノヴィアの皇城の精兵、近衛兵を次々、バッタバッタ斬り殺して、街に出て更に辻斬り・・・最後は矢と魔術の雨を浴びせられて、骨も残らない様な最後を遂げたっていう」


・・・怖ぇわ。しかも其処迄しないと止められないのかよ。


「でも、剣だけは傷一つ無く、ね。鞘を持ってきて納めて、以後どっかで封印されたんだっけ?いや、何処かは知らないけどさ。ハノヴィア皇帝直々に管理する様になったんだよ」


そうだよね?とカルセラに振ると、彼女はこくりと小さく頷く。


「そうね、私は触りたくも無いけど」


でも、とメアリーが続ける。


「鞘から抜くと、そうなっちゃうんだ。だから抜かなきゃ大丈夫だよ」


一度抜けば、血を吸う迄〜とかいう奴か。本当にあるとしたら、迷惑な代物だ。


「この剣を己の意思で振るえたのは、歴史上ただ一人。ハノヴィア帝初代皇帝、クロウヴィス・コウ・エーレン・ベルギアのみ。というか、クロウヴィスさんのせいで、この剣が生まれたって言っても過言じゃないんだけどね」


初代皇帝、ね。カルセラが何やら語りたそうに、ウズウズしている。と思えば、嬉々として曰くを語り始めた。とてもとても長く、一々聞いているのも面倒なので、要約する。





クロウヴィス・コウ・エーレン・ベルギア。旧名クロウヴィス・ブラキカム。彼は北方、現ハノヴィア帝国領最北端。小さな漁村の出身だった。性格は快活豪胆。常にリーダー気質で、僅か十五歳にして漁村の長となる。当時、ハノヴィア帝国の地は、部族、氏族が入り乱れ、国という体裁も無い、原始的な村落地帯だったそうだ。彼はある時、十八の時だ。舟に乗り漁に出た所、時化に遭い遭難してしまう。一人、見知らぬ地に行き着いた彼は、持ち前の身体能力、頭脳をフル活用。数ヶ月、魔物どもと木槍と青銅製のナイフで渡り合い、生き抜く。そうして約三ヶ月。遂に人里を発見するのだった。彼は其処で運命的な出会いをする。後の妻にして、ハノヴィア初代皇妃、イリア・コウ・エーレン・ベルギア。旧姓は伝わっては居ない。しかし、其の姿は見る男須く振り向く程に美しく、凛々しく、そして、誰よりも強かったとされている。当時、武には多大な自信を持っており、三ヶ月ものサバイバル生活で更に鍛え上げられたクロウヴィスも、赤子の手を捻るが如くあしらわれ、彼が其の生涯を終える迄、遂ぞ敵わなかったという。彼は彼女に一目惚れ、その村で暮らしながら、事あるごとに交際を申し込むが、彼女は受けなかった。しかし、転機は訪れる。その村に隣村が攻め込んで来たのだった。この時、イリアは近くの山に狩に出掛けており、村には戦える者はクロウヴィスと、数人の素人の男のみ。隣村の兵は百程。決死の抵抗も虚しく、村は滅ぼされ、クロウヴィスは瀕死の重症を負った。其れでも彼は村の人々を守らんと、戦い続けた。今まさに彼の命が絶たれんとする瞬間、帰って来たイリアが残った敵兵を全て打ち倒し、クロウヴィスを見たこともない、不思議な術・・・魔術ではないかと言われている・・・で治療。一命を取り留める。イリアが彼に好意を抱いたのは、この時であったとされる。彼の気概に感銘を受けた彼女は、彼を受け入れる。そして、彼の夢、国を作るという偉業の手助けをするのだった。其の時、彼はイリアから、ある剣を授けられる。当時青銅製、はたまたは黒曜石製の剣が主な中、極めて珍しい、鋼鉄製の長剣だ。元々、イリアと比べれば情けないものの、常人とは一線を画す武を誇った彼。頭も良く回った。軍を持ち、次々と相手を討ち取り、村が街へ、街が都市国家へ、そして、帝国へ。今から四百年以上前の事、クロウヴィスが三十五歳の時、現在のハノヴィア帝国が建国される。当時、既に存在したアトラクティアに比して、最大領土、最大の国力を持つ大帝国は、瞬く間に其の力を増大させた。が、クロウヴィスは賢かった。必要以上に領域を拡大せず、管理が行き届く範囲に留めたのだった。が、其れを良しとせぬ、欲深い者が居た。重臣の一人であった其の者、ベリアと呼ばれた彼は、同調者と共に皇帝の座を手にせんと、内乱を起こす。当時、近隣の街に視察に出ていたクロウヴィスは、クーデターの報せを聞くと、即座に手勢と共に皇都に突入、クーデター軍を、一騎当千の其の武と鍛えに鍛えた精兵で蹴散らす。クーデター軍は潰走、首謀者は近隣の城塞都市の一つに逃げ込んだ。漸く辿り着いた皇城。妻の安否を確認に、彼女の部屋へ真っ先に向かった。で、この辺りの文献がかなり曖昧らしく、良く分からないのだが、どうやらイリアはこの時、幼い自らの子供を庇って亡くなったらしいのだ。そして此の時が同時に、ダーインスレイヴが生まれた時らしい。クロウヴィスは魔術は使えなかった。そもそも、此の時代は魔術も体系化されておらず、先天的に使える者が少し、点在するのみだったのだ。しかし、クロウヴィスの持つ魔力量は、相当な物だったらしい。四十年以上に渡って蓄えられた、膨大な魔力は、彼の慟哭と憎悪と共に、其の手に持つ抜き身の鋼剣に一気に流れ込んだ。その後暫くすると、尋常ではない様子で、クーデター軍が逃げ込んだ都市へ、馬で飛ぶ様に走って行った。・・・クロウヴィスは、たった一人で、城塞都市に突入、其処で生活していた民、クーデター軍、クーデターの首謀者、はたまたは後を追って来た味方迄、誰彼構わず全て斬り殺したのだった。呪われた剣、ダーインスレイヴの誕生だ。クロウヴィスはその後、何者かに殺害され、剣だけが残ったという。ダーインスレイヴを持った彼を止められる者、という点に大きな疑問が残るものの、兎に角、ハノヴィア帝国のダーインスレイヴは、そうして出来たのだった。ハノヴィアは、クロウヴィスの死後も、忠臣達が彼の生き残った子供を皇帝に据え、血が受け継がれて、今のハノヴィア帝国があるそうだ。で、今も其のダーインスレイヴは、悪戯やら何やらで抜いた者を操る、と。





と、中々興味深い剣の話であったが、本題から思いっきり逸れている気がするのだが。


「で?其れが私の短剣と何の関係があると?」


あまり焦らされると、な。


「あ・・・うん、でね、その・・・魔力を流すとだね、俗に言う、魔剣になるって言われているんだ。で、その短剣は魔剣になる素質があるかも知れないって話」


纏めれば数秒で終わる話だった。・・・まあ、雑学が広がったと考えれば良いか。


「・・・魔剣とやらになったら、どうなるんだ?」


今聞いたダーインスレイヴみたいになったら嫌だぞ。


「わかんない」


・・・。


「わかんない、じゃないだろう」


少し、言葉を失ってしまった。いや、分からんじゃ困るのだが。


「だって、その魔力を込める人によって変わっちゃうもん。其の人の性格とか、其の時の感情とか」


なんと厄介な。シビア過ぎるだろ。


「ま、少なくともより良い武器にはなると思うよ?」


疑問形なのがかなり引っかかるが・・・まあ、やってみても良いか。


「失敗したら、換えの短剣をくれよ?」


保険は掛けておく。メアリーが、むぐぐ、と歯を食いしばっている。ざまぁ。


「・・・全体に魔力を流し込む感じ・・・って言っても、私もやったことは無いんだけどね」


このアマ・・・まあ、仕方ないのか?


「結構、流し込まないといけないらしいよ?其処ら辺の魔術師じゃ一生掛かっても無理らしいし」


おい、そんな難儀な事をやらせようとしたのか。なら、其れなりに頑張らないとならんな。期待も裏切りたくは無いし。


「ふふふ・・・そっかぁ、私の打った剣が魔剣にかぁ・・・刀剣鍛冶屋名利に尽きるね」


腰のベルトから、鞘ごと短剣を外し、抜く。鞘は卓に置き、短剣のグリップに巻かれている革を、言われるが儘に外す。


「そそ、刃だけの状態にしてね。別に鞘とか巻革は其の儘でも出来ない事は無いらしいんだけど、別々にやった方が成功率高いらしいし」


魔剣は、上は神器、下は名剣。魔剣と名がつく時点で其の剣は頂点となるらしい。自分の打った作品がそうなるのは、やはり嬉しいのだろう。メアリーは矢鱈と嬉しそうだ。いや、出来るか分からないのだが。


素の鋼の感触を感じながら、魔力を注ぐ。・・・あれ?何も変化しない。足りないのか?


「もうちょい必要かなぁ?あ、ほら、刀身がちょっと光ってるでしょ!ほらほら!」


カルセラに絡み付く、矢鱈とテンションが高いメアリー。心なしかうざそうなのは、俺の見間違いではあるまい。


もう、面倒なので、込めれる限り込めてみようかな、と思い始めた。普段、絞りに絞って、体内を循環させて減衰させている魔力を、剣を握り締める右腕に。


ぞわり、と途轍もない恍惚感が押し寄せた。


普段、抑えに抑えていた鬱憤を一挙に発散したかの様に。其れこそ、数日ぶりに食事にあり付いた獣の様に。


全身が熱く火照り、筋肉がビクリと痙攣する。あまりに心地良く、其の儘瞼を閉じてしまいそうになった時だった。


ビシリ、と手元から異音。


驚き我に返って視線を落とすと、短剣は明らかに其の形を変えていた。


刃渡り二十七センチ、刃幅四センチ。鈍色、鉄塊色に輝いていた刀身は、美しい、鋼とは思えぬ銀色の光を放つ。鍔から刃先に至る、凡ゆる所に規則的な幾何学的な亀裂が入っており、刀身な僅かに縮み、刃幅は僅かに広がった・・・様な気がする。大体、二センチ縮んで、五ミリ広がった、というところであろうか。


・・・成功なのか?割れている様にも見えるが。と、メアリーに聞こうとしたところ、彼女とカルセラは抱き合い、血の気が引いた顔で此方を見ながら固まっていた。


「おい」


声を掛けても反応が無い。しかし、俺が近づこうとすると、後退る。


「・・・どうしたんだ?」


何も言わないのであれば、分からないではないか。ふと、顔が何かおかしいのかと思い、矢鱈と光を照り返す、手の内の短剣の腹を鏡にして、己の顔を見てみる。


何時もよりかは幾分か緩んでいるものの、眉尻が吊り上がった、真紅の目。淡い浅紅色の唇。ほんのりと紅潮しているものの、其れでも未だ白いと言えるきめ細かい白い肌。・・・何時もとそう変わらなくないか?


「メアリー、カルセラ?」


あまりに態度が不自然過ぎる。理由を探そうと身体を見回して・・・あ、もしかして、この短剣か?


ゴトリ、と卓に短剣を置く。其の上で歩み寄ると、今度は逃げなかった。


ごくり、と無理やり唾を飲む様な仕草をした後、恐る恐る、といった表情で、口を開く。


「ね、ねぇ・・・大丈夫なの・・・?」


はて?何が大丈夫なのだろうか。


「その短剣だよ!明らかにヤバそうな雰囲気放ってるよ!?妖気とかそういう物が纏わり付いているよ!!?」


突如叫び出したメアリー。完全に怯えている様子。カルセラ?未だ停止しているよ?


「・・・そうか?」


パッと見、そんなヤバそうな代物にも見えない。特徴的ではあるが。


「それに!今とんでもない量の魔力出さなかった!?其れでも身体大丈夫なの!?普通の人だったらぶっ倒れているか、死んでるよ!?」


・・・そういえば、少し気力が削られた感覚がある。少し怠さがある程度だが。・・・母が、魔力を消費すると気が抜ける、とか言っていたな。成る程、此れが魔力を消費する感覚。覚えた。というか、初めて知覚出来る程に魔力を消費したかも知れない。今迄、何使っても大して変化無かったしなぁ。


「なら、此れは成功なのか?」


一応、この短剣は魔剣の端くれにはなれたらしい。と、考えた所、突然、カタカタカタカタ、と後ろの卓に置いてあった短剣が、抗議する様に震え始めた。


「!?」


途轍もないオカルト的現象を体験してしまった。短剣は震えるだけでは無く、なんと、ジャキジャキ、と亀裂から広がったりズレたりと、全体を稼働させて、なんと卓の上を這い出した。・・・俺も、流石にコレはヤバイ物だと分かった。


・・・もしかして、魔剣の"端くれ"というのがお気に召さなかったのか?


と、考えると、コクコク、と刃先を頷かせる様に動く。・・・心を読むな。


「とっ、兎に角!其れはヤバイよ!なんとかして!」


何やらジャキジャキと音を立てながら動く短剣に歩み寄り、柄を握ってみる。するとおとなしく、ピタリと止まった。


「・・・お前は何が出来るんだ?」


そう問うと、答える様に、ジャリジャリと耳障りな音を立てて、長剣程の長さに伸びたり、更に伸びてしなったり、其の儘横に広がったりした。・・・大した量では無いが、魔力を吸われている気がする。成る程、魔力を使って形を変える、と。


元のサイズに戻った短剣に、なんとなく、鋸をイメージして、変われと念じてみる。すると、頭の中のイメージを汲んでくれたのか、少々歯が大きいが、鋸の形を作った。まあ、歯が大きいのは、可動範囲がこの幾何学模様の亀裂だからだろう。一片一片はそんなに小さくもないし。


「鞘はどうしようか」


サイズも変わったのだから・・・と思ったら、なんと元のサイズに戻ってくれた。・・・こいつ、出来る。


「・・・鞘は変えた方が良いね」


今の鞘も、素材としては優秀な代物らしいが、其れでは釣り合わない、というか鞘の役割を成さないらしい。


「元の大きさで良いらしいぞ」


何の気なしに、剣の腹を撫でてやると、くすぐったそうに、しかし気持ち良さげに身をよじる短剣。・・・段々可愛く見えてきた。可愛い。なんだこの可愛い生き物(?)。


「えっと・・・エリィ?」


と、カルセラが復活した様だ。恐る恐る、未だ青い顔で話し掛けて来る。


「あっ、それ、えっと」


・・・動揺し過ぎだろう。


「カルセラ」


彼女が反応し得ない速度で、一息に距離を詰める。


「うえっ!?」


本気で怯えた様子で逃げようとしたが、構わず捕まえる。


「ちょっ!?待って!」


何やら抗議して来る。だが、離さぬ。


「ほら」


魔剣と化した、短剣を握らせる。


「いやああああ!!!待って!!お願いだからぁ!!」


そんなに嫌か?慣れて貰おうと思ったのだが。


嫌がるカルセラを、魔剣に慣れさせる為、短剣に暫く触れさせた。・・・最後は精も根も尽き果てた様子で、ぐったりと項垂れていた。こんなに可愛いのに。うねうね動く短剣。


「あ、そういえば名前はどうするの?」


剣の銘か。どうしようか。・・・この短剣も、何やら楽しみそうにガシャガシャと動いている・・・様に見える。


もう既に慣れたらしい、メアリーは、何やら奥から素材を引っ張り出して来て、手元で何やら作業をしている。鞘を作ってくれているのだが。


「折角魔剣になったんだから、固有の名前を付けてあげないと」


成る程な。まあ、妥当な判断だろう。なら。


「うねちゃん」


うねうねジャキジャキ動いてるし。


「ちょっ!?下手したら神器の域に片足突っ込んでるかも知れない剣にそんな名前付けちゃうの!?」


ん?いいじゃないか。うねちゃん。可愛いし。ほら、短剣だって、肯定する様に停止しているではないか。


「いや、それはあまりの名前に衝撃を受けているんじゃないかな・・・」


メアリーに突っ込まれた。むぅ。なら何が良いんだ?うーちゃん?


「先ずその変な擬音から脱却して!!!」


メアリーの渾身の叫びが、表迄響き渡った。














「後歓迎感謝します」


エルク中央部。一際大きな館。この地を管理する貴族の居、そして、政治の中心でもあるその館は、一般的には領主館と呼ばれている。


「いやはや、枢機卿殿が態々こんな国の端の街まで足を運んでくれると聞いてな。歓待せん訳にはいかんだろう!」


はっはっは、と笑う。枢機卿という、この国では有数の権力を誇る相手に対し、自然な、豪胆な態度をとる、この若干肥満気味な男。彼こそが此の地を治める貴族、辺境伯ブルダ・ドワ・アズブレル。強大な権力を持ちながら、しかし軽快な性格の彼は、こう見えて思慮深く、尚且つ人徳も備える。若き頃は魔物の大群に対して、自ら兵の先陣を切った事もあるし、態々領地の問題を抱えた地域へ足を運び、自らの目と手で問題を解決する事もしばしば。農民や市民から高い税を取る事も多く、彼らから恨まれがちな領主貴族にしては珍しく、人民に信頼されており、慕われている。そんな毛色の異なる彼は当然、他の有力貴族からは疎まれ、様々な確執を持ってしまった結果、このエルクという、辺境の、しかも其の学園都市という特性から、面倒事が絶えない、極めて統治が困難な領地に左遷されてしまったという経緯がある。


「で、真人教のそんな大物が此の街に何の用だ?」


ギラリ、と人懐っこい顔に、何処か鋭い光を閃かせながら、直球で聞いて来る。


彼は良く居る愚鈍で、己の権力と自己顕示欲に溺れ、自らより力の無い者を虐げて楽しむ貴族共とは違う。賢く、勇敢で、尚且つ思慮深い、倫理観がしっかりとした優秀な人間なのだ。其の点、彼と対面する妙齢の女性、浅緑色の長髪、翡翠の瞳を持つ女、フェリア・コンクルスは密かに尊敬していた。枢機卿という、極めて強大な権力を持つ自分にも物怖じしないという点も評価する。


「実は、我々が捜索しております、ある人物が此の街に居るとの通報を受けまして」


銀髪赤目の人物、目撃情報、彼女が知っている情報を粗方喋る。隠しても良い事は無いからだ。意味もなく話さず、疑念を持たれるよりも、信頼を獲得する方が得だ。


ブルダ伯は其れを聞くと、数瞬黙した後、目を細め静かに口を開いた。


「・・・其の人物を見つけ、どうする?」


其の質問に首を傾げるフェリア。


「速やかに拘束及び監禁、若しくは殺害します」


其れを聞いて、小さく嘆息するブルダ伯。


「どうしてもか?」


「知っているのですか?」


すると、ブルダ伯は部屋の隅に立っていた使用人に何事かを言いつける。使用人は慌ただしく部屋を出て行き、少しすると戻って来た。


「儂が此の街で知らぬ事は無い」


使用人から受け取った、数枚の羊皮紙。其れを投げる様に渡す。


「エリアス・スチャルトナ。八歳。今年から学校に入学した学生。身長百三十センチ程度。容姿端麗成績優秀、素行も問題無し・・・文句無しの優等生だ」


其れらは全て、此の紙に書かれている事だった。貼り付けられた、似顔絵。カメラなる魔道具で写したらしいそれに写っていたのは、二人の学校の女子生徒。何方も白制服。片方は肩程で揃えられた黒髪と、病的に迄白い肌、赤い瞳が印象的な、不気味さ迄感じさせる程美少女。もう片方は・・・。


「カルセラ・コウ・エーレン・ベルギア?」


水色の髪、蒼色の瞳。活発そうな、しかし何処か意地悪そうな顔付き。可愛い事には可愛いのだが、何処か小悪魔的な印象を与える彼女は、恐らくハノヴィア帝国、帝位継承権第二位其の人だろう。


そう確認すると彼は、頷き肯定する。


「そうだ。そして其の隣の娘が、お前等のお目当ての子だ」


そう言われ、改めて其の娘を見る。


「幼気な、無害な子供だぞ?」


エリアス嬢は穏やかな表情。対して横に並ぶカルセラ嬢は笑顔で、何やらエリアス嬢に話し掛けている。楽しそうな、子供らしい姿だ。だが・・・。


「世の為です。残念には思いますが、仕事ですので」


世の中に修羅を齎されては困るのだ。無害な幼子なら結構。仕事がやり易い。心が痛まない訳では無いが、仕方が無いのだ。・・・あまりカルセラ嬢と関係が深すぎると後に面倒があるかも知れないが、其れはジェイに任せよう。


「では、私はこれで」


もう此処に用は無い。予想以上の収穫はあったが。


礼をし、まさに部屋を出ようとした瞬間であった。


彼女の、そしてブルダ伯の全身に、これ迄に無い程の悪寒が奔った。


「ッ!?」


一瞬で背筋に大量の脂汗が吹き出、その場にしゃがみ込みたくなる程の不快感。が、二人とも優秀な魔術師と元剣士だ。即座に身構え、フェリアは短杖を、ブルダ伯は護身用の短剣を抜く。


「・・・魔力、か?」


ブルダ伯が呟く。其れを聞き、改めて先程の得体の知れない感覚を考察する。


「魔力、ですか?」


額から玉の様な汗を滴らさせながら、強張った顔でブルダ伯が肯定する。


「そうだ・・・何者だ・・・此れ程の魔力・・・成竜でも此れ程は・・・」


魔力。だとすれば、量、質何方を取っても、凄まじい物がある。何処から発されたかは分からないが、魔術師としては、王国正規軍の精鋭の"教官"をこなせる程の自分を圧倒する程の量、そして・・・。


「なんという・・・邪悪な気か・・・ッ!」


邪悪。そう言うに尽きるだろう。今でも嫌な汗が止まらない。動悸が激しくなり、短杖を握る手が脂汗で滑る。


と、其処で漸く回復したらしい、使用人達が慌ただしく動き出す。


「誰かあるか!」


ブルダ伯が使用人を呼び、外を見てくる様に言い付けた。


緊急事態、という事で、部屋の中央に戻り、ソファに再び腰掛ける。


そのうちに使用人が戻った。


聞けば、外は大混乱らしい。本来、魔力を感じる事が出来ない一般人も、先程の気を浴び、混乱、はたまたは気絶したりと、都市機能が麻痺してしまっているらしい。


ブルダ伯は慌ただしく、使用人に支持を飛ばし、危機対応をしている。


そんな中フェリアは、ぞわり、と、先程身体を這った気配を反芻していた。意図せず、腕で身体を抱いてしまう。


「(・・・今回、想像以上に大きな山になるかもしれない)」


窓の外、十時の格子の向こうに見える曇り空。心無しか先程よりも暗く見える。


ぽつぽつと、雨が屋根を叩く音が響いていた。



誤字脱字、言葉の誤用等が御座いましたら、お申し付けください。



※7/8 不自然な言い回しを訂正

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